54(静) 声
胡桃にバレー部復帰を打診された、その週末。お昼前に胡桃から電話が掛かってきた。
曰く、南五和高校との合同練習が決まったから、当日放課後の予定を空けておくように。
「ちょ、ちょっと待って。そんな急に」
『カトレアさんにも声を掛けた。他の先輩たちも誘ってみるって』
「そんな……」
『あと、相手のリベロも、乗り気だよ』
「……なんで」
『静が来なかったらあの子大激怒するから、必ず来て』
「ちょ、ちょっと待ってよ。だから、あたしはサーブが」
『関係ない』
「か、勝手なこと言わないでよ……っ!?」
声が裏返ってしまう。私は片手でぎゅっと電話を握りしめながら、片手で髪を梳く。
「……いきなりだよ。いきなりそんな……勝手過ぎるよ」
『二年前の静だって、いきなり部活に来なくなって、勝手に辞めた』
「それは……だって、理由が」
『こっちだって理由なくこんなことはしない』
「でも、私……ほっといてって、言ったはずだよ」
『うん。だから、ほっといたよ、今の今まで』
私はそれ以上言い返すのをやめた。言い合いを続けたくなかったのだ。
「……胡桃って、意外と強引なんだね」
『見た目ほど大人しくはないって自覚はある。上には上がいるけど』
「そ……っか」
『とにかく、当日は必ず来て。嫌だって言っても、逃がさないから、そのつもりで』
そして、胡桃は「じゃあまた学校で」と言って、電話を切った。
私は携帯をベッドに投げ出して、ついでに自分の身体もベッドに投げ出した。
どうしてこんなことに――と瞼を閉じる。二年前のインハイ予選の記憶が、次々に蘇ってくる。
私は目を開けて、身体を起こし、足下に転がっているバレーボールを手に取る。
ボールを両手で包む。そのまま頭の上に掲げて、ひゅっ、と小さくトス。
ボールは天井近くまで上がり、落ちてくる。キャッチ。また、ひゅっ、と小さくトス。
そうしていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
記憶の中にある、声。
バレーの大会。隣接するコート。同時並行で進む激しい試合。
体育館は、いつだって、声で満ちていた。