表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第一章(城上女子) AT城上女子高校
6/374

4(ひかり) 前途多難

 ――同日・放課後・一年一組


「たのもー!!」


宇奈月うなづきさん、うるさいです」


 というわけで、立沢たちさわ胡桃くるみ先輩という私より小さい三年生の策謀により、私と宇奈月さんは一年一組にいるらしいバレー部の部員候補を探しにきました。


「おっ、はっけーん!!」


 宇奈月さんより背が高いという情報しかありませんでしたが、まず一人、一目で部員候補が見つかりました。


「えっ? ふぇえ……?」


 新学期早々、なぜか教室に乗り込んできた別クラスの見ず知らずの女子が、まだ室内には多くの人が残っているにもかかわらず、人波をかき分けて一直線に自分のところに迫ってくるのは、正直、怯えて仕方のないシチュエーションだと思います。


 ただ、あまり似合いません。


 背が低い=リベロの等式でむくれる私がこんなことを言うのは道理に合わないと思いますが。


 それでも、180センチ超、ぼんきゅぼんの恵まれた巨躯を誇る彼女が、顔を真っ青にしてがたがた震えているというのは、どうにもミスマッチな絵です。


「掴まえたー!!」


「ええええー……!?」


 彼女の胴に飛びついて手を回す宇奈月さん。人見知りしなさ過ぎです。


「やあやあキミィ!! 私と一緒にバレーボールしないかい!?」


「えぇぇ……っと……」


「宇奈月さん、初対面でそれは失礼千万オーバーランです」


「えー、でも逃げられる前にぐえっ!?」


 襟首を掴み、問答無用でひっぺがしました。次からは首輪でもつけておいたほうがいいですかね。


「あ、あなたは……」


 怯えきってうるうると潤んだ彼女の目が、遥かな高見から私を捉えます。


「私は玉緒たまのお中でリベロをやっていた三園みそのひかりです。あなたは落山らくざん中の藤島ふじしまさんですよね?」


「は、はい……」


「およっ? ひかりん、知り合い?」


「この地区でバレーやってる女子で藤島さんを知らない人はもぐりですよ」


「い、いえ、あの、そんなことは……」


 両手を合わせて、もじもじと恥ずかしそうに俯く藤島さん。私の低い視点からだと伏せた顔が真っ赤に染まっているのは丸わかりです。


「とりあえず、場所を移しましょう。藤島さん、よかったら私たちの話だけでも聞いてください。廊下で待ってます」


「えっ、あ……はい」


「行きますよ、宇奈月さん」


「ちょ、ひかりん、まだ一人しか見つかってないよ!?」


「私はもう一人見つけてます」


「なんと!? これが地元民ジモティの力か!!」


 などと騒いでいる宇奈月さんを無視して、私は『もう一人』のほうに目線をやってみます。


 少しハネ癖のあるセミショートの藤島さんとは真逆で、一つも癖のないロングストレートの彼女。


 筋の通った高い鼻、切れ長の目、シャープな輪郭……美少女というよりは美少年といった顔立ちからは、かなりキツい印象を受けます。


 試合では掛けているのを見たことない銀縁眼鏡も相俟って、近寄り難い雰囲気がMAXです。


 ……いや、でも、やっぱり試合中の彼女のほうが、プレッシャーがありましたよね。


 純白スノーホワイトがチームカラーの霞ヶ丘(かすみがおか)中で、一年生のときからレギュラーを張り、引退するまで強豪・丘中を牽引し続けた不動の名セッター。


 人呼んで氷の司令塔――〝(Snow on)(the Edge)〟。


 霧咲きりさき音々(ねおん)


 去年の夏、〝黒い(Headlong)鉄鎚(Hammer)〟こと藤島さん擁する落中らくちゅうとの地区優勝をかけた最終戦は名勝負でした。


 私たち世代の最巧さいこう最高さいこう――霧咲さんと藤島さんがバレー部に入ってくれたら、即戦力間違いなしです。立沢先輩が先取りしたかった理由もわかるというものです。170センチオーバーの〝(Snow on)(the Edge)〟と180センチオーバーの〝黒い(Headlong)鉄鎚(Hammer)〟の二人を獲得したいと思う運動部は多いはずですから。


 中学で矛を交えた(私はリベロなので実際は矛と盾を交えた、ですが)仲としては、高校でぜひ一緒にプレーをしてみたい人たちです。ポジションもばらけているので戦力のバランスもばっちりですし。


 宇奈月さんではありませんが、新入部員獲得作戦、俄然、燃えてきました。


 が、しかし――。


「……バレー。うん、そう……バレー、ね」


 十分後、通行の邪魔にならない廊下の端で、改めて水を向けてみたところ、藤島さんの表情がみるみる曇ってしまいました。


 なんだか、とてもつらそうです。


「ごめんなさい。私……もう、バレーはちょっと」


 肩を震わせて、あからさまに目を逸らす藤島さん。何か理由ワケがあるのかもしれません。が、非常に尋ねにくいです。これにはさすがの宇奈月さんも、


「藤島さん、バレー嫌いなの?」


 余裕で押せ押せでした。


「そ、そういうわけでは……ないんですけど」


「じゃあ大丈夫だね!!」


 だから何がですか。もうこの人は……。


「部活に入る入らないに関わらず、一度でいいから体育館に来てみてよ! 一緒にバレーして遊ぼっ! ねっ!」


「遊ぶ……?」


「うん!!」


 にこにこの笑顔でVサインを決める宇奈月さん。心無しか、藤島さんの顔色もよくなってきました。


「遊ぶだけなら……た、たまになら」


「やったー!! よろしくね、藤島っち!!」


「ふ、ふじ……っち? あ、えっと、それじゃあ、今日はこれで」


「急に押し掛けて申し訳なかったです、藤島さん」


「い、いえ、こちらこそ……せっかく三園さんに声を掛けてもらったのに……ご、ごめんなさい!」


 そう言って、藤島さんは私たちの前から走り去っていきました。


 ぱたぱたと廊下を駆けていく藤島さんの大きな背中を見送っていると、ちょうど、一年一組の教室から出てくる彼女と目が合いました。


「あっ」


 無意識に、声が出ました。あっちも私に気付いたようです。これは行くしかありません。


 私は小走りに彼女に近付いて、声をかけます。


「丘中の霧咲さん、ですよね?」


「そっちは、玉中の〝(Fired)一点(Pinwheel)〟……よね」


「はい。三園ひかりです。よろしくお願いします。それで――」


「バレー部の勧誘なら、お断りよ」


「えっ……」


 予想外の一言に、顔が強張るのが自分でもわかりました。


「あたし、バレーなんて別に興味ないもの。城上女ここに来たのだって、大学進学のため。部活をやってる暇はないの」


 霧咲さんはそう言って眼鏡を押し上げると、踵を返してさっさと帰ってしまいました。


 私、ぽかーん、です。


 新入部員獲得作戦、どうやら前途多難のようです。

登場人物の平均身長:160.3cm


<バレーボール基礎知識>


・アタックについて(続き)


 バレーの攻撃アタックの種類は、大まかに、『どの位置から打つか』と『どのテンポで打つか』の二つで分類することができます。


 位置とは、一般的にレフト(ネットに向かって左)、センター(ネット中央)、ライト(ネットに向かって右)の三種類です。なお、レベルが高くなってくると、もっと分け方が細かくなります。


 テンポとは、セッターがトスを上げる瞬間と、アタッカーが踏み切る瞬間の時間差のことを指します。


 セッターがトスを上げる瞬間とアタッカーの踏み切る瞬間の時間差が短いのが、ファーストテンポ。いわゆる速攻・クイックと呼ばれる攻撃です。


 逆に時間差がたっぷりある場合は、サードテンポ、オープン攻撃といいます。


 両者の中間くらいをセカンドテンポ、あるいはセミと言ったりします。


・女子で180センチ以上の選手


 プロでも通用する高さ。あるいは世界で戦えます。


 有名どころでは、全日本の木村沙織選手が185センチ。


 藤島さんの身長は、古賀紗理那選手、宮部藍梨選手らと同じくらいです。


 お二人とも、高校在学中に全日本に選出されています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ