40(梨衣菜) 秘密の作戦会議
「ちょい、まりーな耳かしーな!」
「おっ、またっスか、宇奈月殿! で、今度は自分、何をすれば?」
コートに戻る途中で、宇奈月殿がこっそり呼び掛けてくる。今日二度目の、秘密の作戦会議。一度目は、例のしゅっとしてびゅっとしてひゅんだ。
「まりーな、ブロックなんだけど、今向こうの泣きボクロの人をマークしてるよね? そのマークを、今度はあっちのモコモコ頭の人にしてほしいんだ。いける?」
「あの人が動いたら、自分も動く。あの人が跳んだら、自分もその正面で跳ぶ。ってことっスよね? 大丈夫っス!」
「さんきゅー、まりーな。あ、ただ、正面じゃなくて、半歩右側でよろしく」
「半歩右側、っスね。了解っス」
「で、それと連動して、プレイヤーポジションは私と交替。まりーなは右、私は真ん中」
「問題ないっス」
「それで、アタックは悪いんだけど、お休みで」
「宇奈月殿がアタックを打つために、霧咲殿がセッターになるっスもんね。じゃあ、こっちの攻撃のときは、自分は右側で大人しくしてるっス」
「ごめんね、まりーな。この埋め合わせはあとでするから!」
「全然っス!」
話を終えて、自分たちはネット際のポジションにつく。今自分は右側にいるから、サーブのあとで動く必要はない。そのままネットを挟んで反対側にいるモコモコ頭の人の動きに合わせればいい。
宇奈月殿は岩村殿と何か話している。そうこうしているうちに、笛が鳴り、相原殿がサーブを打った。
相手はサーブをちゃんとセッターに返す。マークしている相手以外をちらちら見る程度には慣れてきた自分は、さっきまでマークしていた愛梨殿の動きをそれとなく追う。愛梨殿は速攻に入り、セッターのすぐ前で跳ぶ。けれど、トスは上がらない。こっちだ。よし、止める!
「よっしゃ! せーので跳ぶよ、まりーな!」
「はへえ!? う、宇奈月殿!? い、いつの」
「いいからっ! 行くよ、せーーーっ!!」
「「の(っス)!!」」
瞬間移動してきた宇奈月殿と、タイミングを合わせてブロック。打たれたボールは宇奈月殿の手に当たったらしく、すぐさま宇奈月殿が大声を上げる。
「ワンタッチー!!」
「オーライ!」
ボールはセンターを守る相原殿のところへ。これはきっちりセッターに返りそう。
「ねねちん、速攻かむかむ!!」
ネット際に上がってきた霧咲殿に、宇奈月殿がアピール。対する相手は、モコモコ頭の人が宇奈月殿を、セッターの人が岩村殿を、そして愛梨殿はその中間、やや宇奈月殿寄りのところでブロックの構えを取っている。
ボールが霧咲殿へ。速攻に入る宇奈月殿。霧咲殿は、しかし、レフトの岩村殿へひゅっと速いトスを。愛梨殿がそれを見て移動、岩村殿の前には二枚の壁。
ただ、その壁には、少しだけ隙間があった。岩村殿はその隙間目掛けて思いっきりスパイクを打ち込む。
ずががんっ、とボールはブロックの間を抜けて、相手コートへ落ちる。
点数は、19―18。逆転っス!
「まりーな、ブロックいい感じ! その調子でお願いね!」
「うっス!」
宇奈月殿とハイタッチ。と、自分は今さっき気になったことを口にしてみる。
「あ、そうだ、宇奈月殿」
「ん?」
「さっきのブロック、なんで宇奈月殿はトスが上がってすぐ自分の横に来れたっスか? 瞬間移動っスか?」
相手の攻撃は、真ん中の速攻とレフト。こっちがやった攻撃も、真ん中の速攻とレフト。
でも、こっちはレフトに『せーの』で二人一緒に跳べて、あっちは愛梨殿が少し遅れる形でブロックに跳んだ。
「単純なことだよ、まりーなくん! どこにトスが上がるのかを読んだのさ! ぶいっ!!」
「なんとっ!? つまり、トスが上がる前から動き出していたっスね! すごいっス! 自分もやってみたいっス!!」
自分が興奮気味にそう言うと、宇奈月殿は「ちっちっちー」と人差し指を振り、笑顔で答えた。
「十年早いぜ!!」
がーん!?
「しかぁし! まりーなは大変よいところに気付いた! というわけで、まりーな耳かしーな!」
そして、宇奈月殿は自分にこそこそと耳打ちをした。
図解。
<今回のローテ>
―――ネット―――
実花 万智 梨衣菜
音々 透 つばめ
↑(コートポジション)
↓(プレイヤーポジション)
―――ネット―――
万智 実花 梨衣菜
透 つばめ 音々
※実花の提案で、実花と梨衣菜のプレイヤーポジションをチェンジ。
※梨衣菜はライトブロッカーとして、相手レフト(和美)をマーク。
※実花はミドルブロッカーとして、攻撃時にはセンターから速攻に入る。