37(美波) ボールコンタクト
狙い澄ましたようなネットインサーブ(マジで?)でサービスエースを取られ、14―15。
マリア様ローテで相手のサーブを二度も受けるのは、そうあることじゃない。正直言うと、若干の焦りがある。
相手のサーブは、例の両利きの子。今度は右打ちのフローターサーブ。ボールは和美のところへ。綺麗なカットが返ってくる。
芽衣はレフトからBクイックに。センターのマリチカがレフトへ回る。アンドロメダ――アンはライトセミだ。
誰を使う? 確実に一本で決めておきたい。アンのライトセミはまだ練習不足。ここは芽衣のBクイックか、マリチカのレフト平行。相手ブロッカーは――たぶんつばめの指示よね――全体的にレフトに寄っている。
ぎりぎりまで迷って、あたしはトスを、
「レフトおおー!!」
よく響く声。あの両利きの子だ。読まれた!? と気付いたが遅い。私はマリチカに平行トスを送る。
「止めるわよっ!!」
つばめの雄々しい声。ブロックは――藤島も含めて、三枚。めちゃ高い。これはちょっとマズいかしら。
「ってやんでーい!!」
どがっ、とボールを破裂させる勢いでマリチカがスパイクを打つ。ボールはストレート方向、つばめの手を弾いてコート外へとすっ飛んでいき、体育館の横の壁に衝突。
「ハッ! おととい来やがれ、べらんめー!」
「っ……やってくれるじゃない、マリチカ」
楽しそうなマリチカ。悔しそうなつばめ。直後、二人は私を見、声を揃えて言った。
「「ボールコンタクトの位置が前寄り。バレバレ」」
「つばめはともかく、味方まで!?」
「おいおいしっかり頼んまー、ヅカミー。私じゃなきゃ捕まってたぜぃ?」
「ぐぬぬ……申し訳ございませぬ」
けど、言うほどコンタクトの位置前だったかぁ……? 私的にはいつも通り頭の上で捉えたつもりだったんだけど。
「うぅ、芽衣」
「気休めかもしれないけれど、私には区別がつかなかったわ」
ほらぁー! 芽衣様はこう仰られているじゃない!
あんたら二人の基準で物を言うのやめてよねー、もうっ!
「……ん?」
違う――。
ちらっ、と私は両利きの子を横目で見る。
怪物は……二人だけじゃないかも。
さっき、あの子は一体何を根拠に私のトスをレフト平行だと読んだのだろう。
単なる山勘? 同じセッターとして私の心理を読んだ? それとも、つばめやマリチカが指摘したように、芽衣で気付かないレベルの、私のボールコンタクトの微妙な差異を見抜いて……?
「おい、ヅカミー」
マリチカが私に寄ってくる。何よ。
「面白ー感じになってきたから、センター線を使ってけ。あんま私に頼んな」
「は? だってあんたさっき」
「さっきはさっきだ。ま、どうしようもなくなったら私がどうにかすっからよー」
「よくわからないわね……」
言いたいことだけ言うと、マリチカは後衛に下がったアンに声を掛ける。
「っしゃあ、思いっきり打てよ、ドロメダ! てめー手抜いたら揉むぞ! ヅカミーが!」
「は、はい!」
……ふーん、そゆこと。
私は、マリチカの背中を見て、思わず苦笑してしまう。
スコアは、14―16。客観的に見れば、確かに、面白くなってきた。
<バレーボール基礎知識>
・ボールコンタクトについて
パスで用いる普通のオーバーハンドは、心持ち顎を上げた目線の先、つまり頭の前でボールを捉えます。
一方、セッターがトスで用いるオーバーハンドは、本編で述べたように頭のほぼ真上でボールを捉えます。
一番大きな理由は、どこにトスを上げるのか読まれないようにするため、です。
レフトに上げるときも、速攻をセンターに上げるときも、ライトにバックトスを上げるときも、常に同じフォームになるように練習をします。