36(ひかり) サーブ
宇奈月さんの大声がセンターブロッカーを引き付け、生まれた隙を藤島さんがずどん。相手の得意なローテを少ない被害で切り抜けることができました。
スコアは、13―15。
私は前衛に上がった相原先輩と入れ替わり、ベンチへ。
前衛は、藤島さん、霧咲さん、相原先輩と、長身の選手がずらり。
しかし、それは成女も同様。鞠川先輩、鈴木さん、佐間田先輩。曰く、マリア様ローテ。
一周前のように一本でサイドアウトを取られると、あとはジリ貧な気がします。せっかく高い前衛が揃っているのですから、できるならブレイク(こちらがサーブのときに点を取ること)したいところ。
サーブは宇奈月さん。ちなみに、セッター変更はさっきのワンプレーだけで、ここからはまた宇奈月さんがセッターになります。
主審が、ぴぃ、と短く笛を吹いて、真横に呼ばした腕を内側に曲げます(サーブ開始を示すハンドシグナルです。時々体育のテストに出ます)。
宇奈月さんがサーブを――打ちません。
呼吸か何かを整えているのでしょうか。右手で持ったボールに左手を添えたまま、相手コートを見つめています。ん? もしかしなくても左手で打つつもりですか? 一周前のサーブは右打ちだったはずですが……。
しん、と妙な空気が漂います。ちなみに、バレーのサーブは主審の笛が鳴ってから8秒以内に打たなければ相手の得点になってしまいます。よもやお忘れではないと思いますが、もったいつけてないでさっさと打ってください宇奈月さん。
たっ、とようやく宇奈月さんが動き出します。フローターサーブではありません。獅子塚先輩がやっていたものと同じ、片足踏み切りのジャンプフローターサーブ。
ばしっ、と速い打球。獅子塚先輩のは無回転でしたが、宇奈月さんのはドライブ回転が掛けられています。ボールはライトとセンターの中間辺りへ。
がさっ、
コートの中の時間が、一瞬、止まります。
「ヅカミー、後ろだッ!!」
真っ先に反応したのは、鞠川先輩。名前を呼ばれたセッターの獅子塚先輩は、しかし、何が起きているのか把握できていません。
「ちょ――」
獅子塚先輩が後ろを振り返ると同時に、ぽーん、とボールがその足下に落ちます。
ネット際に立つセッターの足下に、です。
それは、時代が時代なら、こちらのミスとして扱われ、サーブ権が相手に移動していたでしょう。
けれど、現代ではこちらのポイントです。
競技としてのバレーに大きな変化を齎した、前世紀末のルール改定。
ラリーポイント制の採用。
リベロの導入。
そして、サーブのネットイン許容。
「やっりー!!」
サービスゾーンでぴょんぴょん跳ねる宇奈月さん。
サービスエースを取ったのですから、その喜びももっともですが、しかし……。
「立沢先輩……今の、どう思いますか?」
「蓋然、かな」
「偶然ではない、ということですね」
「必然でもない、ということ」
本当に何者ですか、あの人。
ともあれ、宇奈月さんのネットインサーブで、14―15。
勝負は、着実に、終盤へと進んでいます。