31(透) 裏エース
9―9。同点。成女のサーブは、セッター対角の巻き髪さん。
ボールは三園さんのところへ。
三園さんは丁寧にボールを返す。Aカット。そこから宇奈月さんは、ライトから斜めにクイックへ切り込んだ相原さんを使う。
ばしっ、と相原さんは速攻をきっちりクロスに決める。
「ブロック遅れてるわよ、和美!」
「つーちゃんの切り込みが速過ぎるんだよ〜」
「愛梨は相手の攻撃を見てサイドに指示を出す!」
「は、はい!」
「特に今はサイドが低いんだから、遅れたら上を抜かれるわよ。しっかりね!」
「ヘーイ、やってますなー、鬼キャプテン!」
「美波はなんで今ブロック跳ばなかったの! サボってんじゃないわよッ!」
「うおっ、マジ怒!?」
相原さん、厳しいっ! ちょっと恐い! 北山さんも思わず一歩引くほどの迫力!
「相原殿……格好いいっス……!」
引いてなかった。むしろ惹かれていた。
とまれ、これで10―9。
ローテが回って、こちらの前衛は、岩村さん、北山さん、宇奈月さん。アタッカー二枚で、そのうち一人は初心者の北山さん。一番攻撃力が弱まる布陣だ。
サーブは相原さん。ブロックポイントを取るのは厳しいだろうから、できることならサーブで崩してほしい。
ばちっ、と鋭いサーブが放たれる。厳しいコースを突かれた巻き髪さんが、レシーブを後ろに逸らした(ナイスサーブ!)。それをマリチカさんが体勢を崩しながらオーバーハンドで懸命に繋ぐ。ボールは低い軌道で、センターとレフトの間の、ネットから離れた位置へ。
後ろから突くように上げられた、低くて速いトス。難しいボールだ。たとえ打てても、体重の乗ってない中途半端な打球にしかならない。強く打とうと力むとネットに掛ける可能性がある。私ならオーバーハンドで確実に返すことを優先する。
それを、
「えいやっ」
ひゅっ、と腕を鞭のようにしならせ、裏エースの人は苦もなく打ち抜いた。正確にコントロールされたボールは、私の予想を大きく上回る速度で、誰もいないスペースへ。動揺した私は手も足も出ない。三園さんは反応しているが、距離があり過ぎる。
だんっ、と渇いた音を響かせ、床を跳ねるボール。
「さんきゅーバタミ! やるじゃねーか!」
「わたしはただ繋いだだけだよ〜」
スコアは10―10。私はがっくりと肩を落として、俯く。
うぅ、またやっちゃったよ。もっとちゃんと構えてれば取れたかもしれないのに……。
「いやはや、あのボールを決定打にできるとはさすがですね」
「えっ……?」
声のしたほうに振り向くと、どういうわけか三園さんがすぐ横にいた。いつもの、何を考えているかよくわからない顔で、裏エースの人を見ている。
「お互い、気を引き締めていきましょう」
そう言った三園さんの目が、ふっと、私を向く。
吸い込まれそうな、薄茶色の瞳。
「どうかしましたか? 大丈夫ですか、藤島さん?」
「えっ!? いや、ううん、なんでもない!」
「ならよいのですが」
そのままサーブカットの位置につく三園さん。
……ん?
ああっ、そっか! だから今、三園さんは私の横に来たのか!
うわっ、わた、は、恥ずかしいよおおお……!!