表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第二章(城上女子) VS音成女子高校
31/374

27(音々) ガンタンク《Transistor Glamour》

「ポテンシャルの塊ね……あいつ」


 マンツーマンで相手のCクイックをシャットアウトした北山きたやまを見て、あたしは感嘆の溜息を漏らす。


 その北山は、今度もマンツーマンで相手センターをマークしている。今度はAクイックだ。北山がコミット(いわゆる決め打ちならぬ決め跳び)なのは明らかだから、ライトかレフトへ振るだろう。


 と思っていたら、向こうも意地があるのか、もう一度センターで勝負してきた。


 さっきのCクイックは、少しネットに近かった(そもそもCクイックを攻撃に織り交ぜてくる時点で相当な技術なのだが)からシャットできたが、今度はそうも行かないだろう。向こうのセンターはきっちりブロックを見て、空いているクロスに打つ。


 打球の威力は、しかし、セッター対角の人ほどではなかった。北山のブロックを信用して空いてるコースで待ち構えていた藤島ふじしまがなんとか反応し、力任せにレシーブ。ボールはアタックライン上、ライト側に飛ぶ。それを宇奈月うなづきがレフトへ。大きく開いた岩村いわむら先輩が、フルスイングでそれを打つ。


 ぼがごっ、


 とひどく鈍い音がした。岩村先輩の打ったボールは相手ブロックを弾き飛ばし、反対側の壁まですっ飛んでいった。ミドルブロッカー(センターの人)が左手を抑えている。かなり痛そうだ。


「マチ子あんたね……っ、あだだだ。これはキてる。骨にキてる。慰謝料を請求する」


「ごめんねぇ、愛梨あいりちゃん。でもぉ、そこはほら、保険でなんとかしてほしいかなぁって」


芽衣サマメィさん、私もうマチ子の相手嫌です」


愛梨アイリー、こう考えるの。指を狙われなかっただけ幸運だった、と」


「うぅ……それ笑えないです、芽衣サマメィさん」


「誰かが犠牲にならねばならないのよ」


「もうぅー、二人ともひどいですぅ」


 岩村先輩はぷかぷかと笑う。あたしはぞっと寒気を覚えて、左手で右手の指を包んだ。


立沢たちさわ先輩……あの、岩村先輩って、もしかして石館いしだて一中いっちゅうの出身ですか?」


「そうだよ」


「あぁ、やっぱり……。そっか、あのときの……全然気付かなかった」


 あたしは、あたしが中学一年だったときのことを思い出す。


 三年生が引退して、最初の大会。スタメンで出場して、そのとき、あたしたち霞ヶ丘(かすみがおか)中は、初日のトーナメント、三回戦で石館いしだて一中いっちゅうと当たった。


 そのとき、石館一中の主将でエースだったのが、岩村万智(まち)先輩だ。


 随分と印象が変わったから気付かなかったけれど、今のスパイクを見て、記憶が刺激された。


 正確に言えば、岩村先輩のスパイクで腕を弾き飛ばされた、向こうのブロッカーを見て、だが。


 理不尽なくらいに『重い』んだよな、あれ。


館一だていちの……〝ガン(Transistor)タンク(Glamour)〟」


音々(ねおん)、それ万智の前では言わないであげて」


「えっ、あ、はい」


 館一は、あたしの知る限り県大会に出たことはない。どちらかと言えば弱小校だと聞いていた。けれど、あの年だけは違った。岩村先輩が主将を務めていた一年間、館一は常に地区ベスト8をキープしていた。


 県大会に上がれなかったのは、単純にチーム力の違い。いくら岩村先輩でも、強豪校シードに一人では勝てない。ただ、これは言い換えれば、地区大会の一・二回戦レベルなら、岩村先輩一人で勝てるということ。


「それにしても、ようやく腑に落ちました」


「何が?」


「この、成女なるじょでの岩村先輩の馴染み具合。部員が少ないから他校の練習に混ざるなんて……たとえ許可が降りたって、普通はできないことだと思うんです。でも、館一の……あの人なら、わかる気がします」


「そうだね。天下の成女が受け容れるだけの価値が、万智にはあった」


「ところで、ずっと気になってたんですけど、音成おとなる女子ってものすごく強くないですか?」


「だって県四強だもの」


「ぶっ!?」


 吹き出してしまった。


「県四強!? ベスト4ってことですか!? それは、そんな――」


「そんな強豪校の練習に混ぜてもらって、その上すっかり馴染んでしまうのが、万智だよ」


「来る途中に聞きましたけど、岩村先輩、練習試合に出たこともあるって」


「あの子、普段から控え(Bチーム)として一軍(Aチーム)の練習相手をするくらいだから」


「すごいですね……」


「いや、でも、すごいと言えば」


 立沢先輩は、スコアボードに目を向ける。


 表示は、8―8。


「向こう、つばめがいないだけで、あとは全員一軍(レギュラー)


「……最善を尽くします」


「そうしてくれると」


 手の平に、じわり、と汗が滲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ