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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第二章(城上女子) VS音成女子高校
26/374

22(胡桃) マリア様ローテ

 いきなりの三連続得点。


 しかし、さすがに県内最強クラスの攻撃力を誇る『毒蜜蜂《Killer Honey Bee》』こと成女なるじょバレー部。


 ずどんっ!!


 ようやくエンジンが掛かってきたのだろう、エース・鞠川千嘉マリチカのスパイクがブロックの間を抜け、コートのど真ん中に叩き付けられた。


「ヘーイ! ナイスキー、マリチカ!!」(美波みなみ


「あたぼーよー!」(マリチカ)


「ねねちん、もっとぎゅっと! 私の傍に来てよ!!」(実花みか


「な、何言ってるの!? ばかじゃないの!?」(音々(ねおん)


 スコアは、3―1。


 サーブ権を得た成女は、ローテを一つ回す。セッター・美波が下がり、セッター対角・佐間田さまだ芽衣めいが上がってくる。


 こうして、成女が最も点を稼げる布陣が敷かれる。


 いわゆる一つのマリア様ローテ(『マリア様』とは、『まり』かわ・『あ』いはら・『さま』だ、の三人を指す)だ。


 今日は『あ』が、つばめではなく代役の『ア』ンドロメダであるとは言え、むろん侮るべからずである。


 なぜなら、『攻撃力のある選手が前衛に揃っている』ことは、あくまでマリア様ローテの強さの表側に過ぎず、高い攻撃力を『十全に支援できる選手が後衛に揃っている』という裏側については、つばめの不在とは無関係に、目下欠落なく成立しているのだから。


 その証拠に、


「ひあわっ!?」


 ややキツい印象の凛としたルックスに似合わない悲鳴を上げたのは、霧咲きりさき音々。


(ちなみに、城上女の体育館パルテノンで彼女を見たときは、銀縁眼鏡を掛けてセミロングの髪をストレートに降ろしていたが、今は銀縁眼鏡を外し(コンタクトだろう)、髪はまとめてバレッタで止めている)


 スコアは、3―2。


 わたしはペンの頭をこめかみに押し付ける。


「ヘーイ!! もう一本行くわよー!!」


 そう。マリア様ローテは、何よりもまず、セッター・獅子塚ししづか美波のサーブが厄介なのだ。


 ほとんどゼロのミス率。正確無比なコントロール。そして、伸びる・落ちる・曲がるを自在に使い分けるという謎の技術(真偽不明)。


 獅子塚美波の十八番、信頼と実績のジャンプフローター。


「のああわっ!?」


 今度の悲鳴は、北山きたやま梨衣菜りいな。まあ無理もない。


 スコアは、3―3。


 二連続サービスエースで、あっという間に同点。


「まだまだあー! ヘーイっ!!」


「はわぁあ……っ!」


 第三の犠牲者は万智まちだった。万智は決してサーブレシーブが下手ではない。が、今回は梨衣菜に寄って深く守っていたところを前に落とされ、敢えなく撃沈。


 これで、3―4。


 これ以上離されるようなら、タイムアウトを取って守備のフォーメーションやメンバーを見直す必要があるだろう。


「霧咲さん」


 出し抜けにそう言ったのは、リベロの三園みそのひかりだった。


「ネット近くまで上がってください」


「わ、わかったわ」


 ひかりは淡々と、指示を出していく。


藤島ふじしまさんは、アタックラインより後ろに下がって、ややセンターよりの位置でお願いします」


「は、はい!」


岩村いわむら先輩は、アタックライン上、センター近くの位置でお願いします」


「はぁーい」


「あと、北山さん」


「うっス!」


「大変申し訳ないのですが、今回は見学でお願いします。できる限り他の人の邪魔にならない位置にいてください」


「う……うっス!」


 そして、守備位置の変更を指示したひかり本人は、バックセンターとバックライトの中間くらいの場所に陣取った。


 わたしは記録用ノートに今の守備位置をメモする。


 ―――ネット―――

    音    実


        万

  透


      ひ梨

 ―――エンド―――


 コート左方を透、コート中央・右後方をひかり、コート右前方を万智でカバーする、三人レシーブ体制。


 今のローテ、コートの中にいるメンバーにおいて、恐らく二番目に適当な陣形だ。


「これでダメなら、宇奈月うなづきさんにレシーブ参加してもらいます。ただし、その場合のセッターは霧咲さんになりますが」


 うん。それが一番、隙がない陣形だと、わたしも思う。


 もっとも、守備位置フォーメーション変更で済ませられるなら、役割ポジション変更はしないに越したことはない。できる限り、この三人レシーブ体制で美波の信頼と実績(ジャンプフローター)を攻略したい、とひかりは考えているはずだ。


 学校指定のTシャツとハーフパンツに、成女から借りた蛍光レッドのリベロゼッケン。


 城上女の〝(Fired)一点(Pinwheel)〟は、大きく手を広げ、コートの反対側に立つ美波を見据えた。


「ばっちこい、です」

<バレーボール基礎知識>


・ブロックについて(続き)


 ブロックの跳び方は、コミットブロックとリードブロックの二種類があります。


 コミットブロックは、アタッカーに合わせて跳ぶブロックのことです。アタッカーに合わせて跳んでいるので、アタッカーが最高到達点で打つ瞬間に、ブロッカーも同じく最高到達点でブロックできることになります。これがコミットブロックの利点です。


 難点は、マークしているアタッカーにトスが上がらなかった場合です。他のアタッカーのブロックへ回ることがほぼ不可能になってしまいます。


 リードブロックは、トスに合わせて跳ぶブロックのことです。トスが上がったのを見て、その行き先に回り込み、ブロックに跳びます。利点は、相手にノーマーク(ブロックがゼロ枚)で打たれないことです。


 難点は、アタッカーより後に跳ぶことになるがゆえに、シャットしにくくなることです。ただし、リードブロックはシャットよりワンタッチを取ることに重点が置かれているので、問題というほど問題にはなりません。現在はリードブロックが主流となっています。


 なお、トスが上がる前に一点読みで跳ぶブロックを、ゲス(推測)ブロックと呼んだりします。コミットブロックに似てますが、戦術的には別物です。


・サーブカットのフォーメーション


<図1>


 ―――ネット―――

    音    実


        万

  透


      ひ梨

 ―――エンド―――


 このフォーメーションは、ローテーションがどうなっているのか一見してわかりにくいです。初心者の方は、なぜこんな奇妙な位置取り(例えば、『邪魔にならない位置』に行かなければならない北山さんが三園さんのすぐ隣にいたり)をするのかも、よくわからないかと思います。


 せっかくいい例なので、少し解説します。


 まず、現在の城上女のローテーションがどうなっているのかを、わかりやすく並べてみます。


<図2>


 ―――ネット―――


  透  音々  実花

        


 ひかり 梨衣菜 万智


 ―――エンド―――


 前衛(フロントレフトから):藤島さん、霧咲さん、宇奈月さん。


 後衛(バックレフトから):三園さん、北山さん、岩村さん。


 この位置関係コートポジションは、サーブが打たれるまで維持しなければいけません。ここでいう『位置関係』とは、<図2>における、各人の前後左右にいる相手との関係のことを指します。例えば、宇奈月さんは、霧咲さんより右、岩村さんより前にいなければなりません。


 さて、それを踏まえて、<図1>と<図2>を見比べてください。


 六人とも、<図2>で前後左右にいる相手との位置関係は、<図1>でも変わっていないことがわかります。


 例えば、岩村さんは、<図1>と<図2>のどちらにおいても、北山さんより右、宇奈月さんより後ろにいます。


 霧咲さんも、藤島さんより右、宇奈月さんより左、北山さんより前にいます。


 三園さんも、藤島さんより後ろ、北山さんより左にいます。


 <図2>における前後左右の相手との位置関係さえ守っていれば、斜めにいる相手や離れている相手との位置関係はどうなっていても構いません。


 <図1>で、後衛の岩村さんが前衛の藤島さんより前にいたり、バックレフト(左)の三園さんがフロントセンター(真ん中)の霧咲さんより右側にいるのは、そのためです。


(※端末の種類によっては『 (スペース)』の表示方式が異なり、図と解説が食い違う可能性があります)

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