15(ひかり) 側頭部を殴られたような衝撃
――翌日(仮入部期間開始日)・昼休み・一年二組教室
「たたた大変なことに気付いたよ、ひかりん……!!」
「それは大変ですね。で、なんですか?」
「最低でも三人って言われてたのに、まだ二人しか誘えてない!!」
「そんなことは一昨日からわかっています」
「ばっさりだ!?」
宇奈月さんに指摘されるまでもなく、現状はとても厳しいです。
現在アプローチ中の藤島さんと霧咲さんは超のつくほどの有力選手。戦力的には四人分にも五人分にもなりそうなお二人です。が、分身の術が使えない以上、二人は二人でしかありません。
整理しましょう。現段階の城上女子高校バレーボール部(候補含む)は、立沢先輩、岩村先輩、宇奈月さん、私、藤島さん、霧咲さん、の六人だけ。
そのうち、立沢先輩は選手ではありません。ゆえに、私がリベロ希望であることを度外視するとしても、あと一人いなければ大会にはエントリーすることさえできません。
さてどうしたものか、です。
「ひかりん、とーるうとねねちん以外に、経験者の心当たりは?」
「いるのかもしれませんが……さすがにまだ全クラス分は把握し切れていません。クラスメイトの顔と名前だって完全には一致してないのに」
「えっ? ひかりん、まだクラス全員の顔と名前覚えてないの?」
「……宇奈月さんは覚えているんですか?」
「もちだよ! なんなら入学式の日の自己紹介のときに全員覚えたよ!!」
顔と名前を覚えるのはコミュニケーションの第一歩、というわけですか。さすがさすらいの転校少女。宇奈月さんでなければ尊敬の念を抱くところです。というのはさておき。
「あと一人……あと一人だけは、どうしても確保しないとですからね」
本来的なことを言えば、仮入部期間――本来の部活動の勧誘は、今日の放課後からです。部員集めをする時間はまだ十分にあります(というか、今はまだ始まってもいません。私たちが藤島さんと霧咲さんにモーションを掛けているのは、ややグレーな行為なのです)。焦る必要はどこにもないはずなんです。
が、万が一のことを考えると、あまりのんびり構えてもいられません。
まずは先も話に上がった通り、他のクラスに経験者がいないかどうか探すところから。
あるいは、藤島さんや霧咲さんに尋ねれば、お二人以外の落中バレー部員や丘中バレー部員を獲得できるかもですね。
そうと決まれば、悠長にランチなど召し上がっている場合ではありません。
「およ、もういいの? 今日は放課後バレーするんだよ?」
「残りはあとで食べることにしました。ちょっと他のクラスを見てきます」
「部員探しだね! はいはーい! 私も行くー!!」
「ご自由になさってください」
そうして、私たちはお弁当箱を片付けて、教室を出ました。
しかし、残念ながら、めぼしい成果を上げることはできませんでした。
――放課後・体育館
結論から言うと、最低ラインの三人目は、探さずとも自ら現れました。
「初めまして! 美那川中学出身、一年六組の北山梨衣菜っス! 身長は170センチありまス! 中学までは水泳をやってたっス!」
涼やかなツンツンのベリーショート。
バランスよく鍛え上げられた肉体。
小麦色に焼けた肌。
やや吊り気味の向上心溢れる目。
フレッシュ爽やかスマイルは、そう、プライスレス。
「バリ初心者っスが、どうぞよろしくお願いしまっス!」
極めつけは語尾が『っス』。いやはやこれでもかというほど典型的な体育会系女子です。
「はぁい、よろしくお願いしますぅ」
ぱちぱち、と主将の岩村先輩が拍手をします。私たちもそれに合わせます。
「ではぁ、何か北山さんに質問がある人ぉ」
「はいっ!」
「はぁい、宇奈月さん」
「北山さんは、どうしてバレーを始めようと思ったんですか!?」
おお。さすが宇奈月さん。誰もが真っ先に思いつく質問を真っ先に尋ねました。
「はい、自分、週刊少年ジャンクの『High-Q!!』に感動して、バレーをやってみたいと思った次第っス!!」
がつーん、
と側頭部を殴られたような衝撃が走りました。
しかし、宇奈月さんはまったくノーダメージどころか水を得た魚、油を得た火の如く声を張り上げます。
「影日!?」
「日影っス!!」
「東西!?」
「西東っス!!」
「月山!?」
「山月っス!!」
「残念ながら私たちは分かり合えないみたいだな、まりーな!!」
「ぶっちゃけ喧嘩売られてるんじゃないかってレベルっス、宇奈月殿!!」
「「わははははははは!!」」
「はわわぁ、二人とも仲良くなるの早いねぇ。あ、私は黒大だよぉ」(岩村先輩)
「わたし、菅潔」(立沢先輩)
「あ、えっと……王様サンド、なんてどうでしょう……」(藤島さん)
「えっ? なんなのこれ? みんなが何を言ってるのかわからないのあたしだけ?」(霧咲さん)
私は困惑する霧咲さんに生暖かい眼差しを向けました。睨み返されました。
「さぁて、自己紹介も済んだところでぇ、早速なんですけどぉ」
ぱむっ、と両手を合わせて、岩村さんは宣言しました。
「移動しまぁーす」
はて、いずこへでしょうか?
登場人物の平均身長:161.3cm
登場人物の○女子率:78%