12(透) 勝者
それから、試合はあからさまなスリーポイント合戦となった。
霧咲さんと、宇奈月さんの、一騎打ち。
暗黙の了解というか、両チームとも二人のシュートの邪魔をしない空気になっていた。
霧咲さんが一本決めて、宇奈月さんが一本決めて、霧咲さんが一本外して、宇奈月さんが一本決めて、霧咲さんが一本決めて、宇奈月さんが一本外す。
といった具合の、一進一退、互いに譲らぬ神経戦が続き、
ついにスコアは、19―21。
残り試合時間、7秒。
タイムアウト以降、私、まるっきり外野だよ……。
「霧咲っ!」
道重さんから霧咲さんへパス。先ほどから無口なスリーポイントマシーンと化している霧咲さんは、懸命に跳び縋る三園さん(コート上で彼女だけがこのスリーポイント合戦の空気を破ろうと必死だった)を寄せ付けず、シュートを放つ。
ボールは、しかし、がつっ、とリングに阻まれ、落ちてくる。
残り時間、4秒。
このリバウンドを私が取って、決める。あるいは、適当に時間いっぱいボールを回せば、私たちの勝ち。
「ていやー!!」
跳ね返ったボールに真っ先に反応し、食らいついたのは宇奈月さん。先ほどから八面六臂の大活躍。
でも、
「させないっ!!」
負けっぱなしは嫌だ!
「わはっ!?」
ボールを掴んだのは、私だった。ポジション的には宇奈月さんのほうがいいところにいたけれど、私の身長ならそれくらいのハンデはハンデにならない。跳べさえすれば、こっちのもの。
がっちり両手でボールを掴み、落ちていく、空中。
笑顔の宇奈月さんと目が合って、思わず、私も笑みを返す。
よし……これで、私たちの、
「隙ありです――」
「っ!?」
一瞬、私は何が起こったかわからなかった。
何か、小さな影みたいなものが足下から這い上がってきて、気付いたら、私の手からボールが消えていた。
着地際で三園さんにスティールされたんだ、と理解したのは、試合が終わってから。
「宇奈月さんっ!」
「あいよー!!」
私からボールを奪った三園さんは、着地と同時に走り出していた宇奈月さんに、バウンドパスを送る。
宇奈月さんがボールを手にする。
残り、1秒。
「わっ――しょおーい!!」
えええぇ!?
走っていた宇奈月さんが、謎の掛け声とともにボールを思いっきり放り投げた。
そこで、ホイッスル。
まさか……!?
笛の音を遠くに聞きながら、私はボールの行方を追った。
ボールは、すぅーっと、吸い込まれるようにゴールへ、
――ぱしゅ!!
瞬間。
しんっ、と体育館中の時が止まった。
そして、私たちや、見ていた人たちの思考が現実に返ってきたところで、やっと歓声が上がる。
「「「わあああああああああ!!」」」
ブザービーター――と、道重さんが小さく呟くのが聞こえた。
最終スコアは、22―21。
勝者、一年二組。