11(ひかり) スイッシュ
……あれ?
なんだか、タイムアウトを経て、霧咲さんの雰囲気が変わったような。
気のせいかもしれません。
あ、いや、
――っしゅ!!
……気のせいなんかじゃありませんでした。
「嘘でしょ、スリーポイントって……!?」
と開いた口が塞がらないのは星野珠実さん。私も概ね同様の反応です。
相手チームの作戦は、タイムアウト前と同じ、細かくパスを回していくものでした。このままリバウンド勝負に持ち込むのか、隙を見て藤島さんへのパスを狙うのか、さてどう来ますか……と、考えているうちに、攻撃の起点である霧咲さんへとボールが戻って、その次の瞬間。
あの人、私のことを丸無視して、やおらシュートモーションに入りやがりました。
ええ、まあ、成す術なんかありませんよ。170超の人が頭の上で構えたボールに、147センチの私の手が届く道理がありません。
実質フリーの霧咲さんから放たれたスリーポイントシュートは、果たして、見事なスイッシュ。
10―15
背筋が凍りましたね。
いえ、もちろん、プレーそのものも素晴らしいのですが、それよりも、あの霧咲さんの雰囲気です。
氷の司令塔――丘中の〝白刃〟。
あの人、プレー中、集中が高まれば高まるほど、まったくの無表情になるんですよね。まるで機械みたいな、といいましょうか。淡々と、正確に、戦略的に、ボールを回して、ゲームを優位に進めていく。
その時と同じ顔をしています。スリーポイントシュートを決めても、眉一つ動かしません。先ほどまでとは集中の度合いが違います。
「い、一本、取り返しましょう!」
さすがの星野さんもスリーポイントは想定外だったのか、動揺しています。
ひとまず、といった風にポイントガードの私のところへパスが回ってきます。
ただ、せっかくボールを頂いたはいいものの、これはかなり攻めにくいですね。マッチアップの相手は変わらず霧咲さんですが、ドリブルで抜こうにも、まるで別人のように隙がなくなってます。
裏に控えている道重さんも怖いですし、どうにか、パスを回して相手をかく乱していきましょう。
「宇奈月さんっ!」
私は一番近くにいた宇奈月さんへパス。同時にインサイドに切り込みます。
ぬぬ、霧咲さん、ついてきます。仕方ありません。もう一度ターンして、宇奈月さんからパスをもらって、今度こそ――。
って、あれ?
宇奈月さん? ん? は?
あなた、そんな、ボールを掲げてジャンプ、ちょ、本気で何をしているんですか!?
「てーいっ!!」
スリーポイントラインの外側、宇奈月さんが両手で放ったボールは、綺麗な放物線を描き、
――っしゅ!!
……入りやがりました。
「嘘でしょ、スリーポイントって……!?」
と開いた口が塞がらないのは道重幸子さん。デジャブです。
スコアは、13―15。
試合残り時間、約3分。
これは、いやはや、どうなってしまうのでしょう。