10(音々) アレ
「いやー、あのちっこい人、上手いねー!」
道重は笑いながら相手チームを見やる。
確かに、三園のテクニックには驚いた。瞬発力があるのはわかっていたが、元バレー部とは思えないほどバスケ慣れしてる。まあ、あの身長で、卓球やテニスを外してわざわざバスケにエントリーしてきたことを考えれば、当然なのかもしれないが。
いや、というか、三園よりむしろ、
「それと、あの声の大きい人。びっくりするほど飛ぶねー」
そう、飛ぶ、だ。
跳ぶ、じゃない。
しかも、藤島をスクリーンアウトで抑えていた状態から、たった一歩であのジャンプ。あたしとほぼ同時に跳んだはずなのに、より速く、より高い位置でボールをかっさらっていった。にわかには信じられない。
「まー、ぶっちゃけこのまま藤島さんを中心に攻めてもゴリ押しできると思うんだけどね。パスカットもリバウンドもいつもいつもできるわけじゃない。ちっこい人の速攻だって、あるとわかってればどうにかできるっしょ。でも……」
道重は腰に手を当てて、ふうっ、と息を吐く。
「せっかくいい勝負してるからね。こっちも藤島さん以外のパターンを試してみよっか。ってなわけで、霧咲、アレやれる?」
「わかったわ」
「大丈夫よ、失敗しても藤島さんがなんとかしてくれるから。ね!」
「えっ……あ、が、頑張りますっ」
審判の子が笛を吹く。コートに戻る時間だ。道重はゴールラインに、それ以外は定位置に。
「あ、あの、霧咲さん……」
あたしは眼鏡の位置を正して、すうっ、と息を吸い込む。
「ごめん、藤島」
目を閉じて、指先の腹同士をすり合わせ、その感触を確かめる。
「今は話し掛けないで」
目を開ける。あたしは真っ直ぐに目標――敵ゴールを見据えた。