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第6話 男らしくって何だ?女らしくって何だ?

 ケース1。

三島竜の場合。


緋瑪斗の友人のひとりである三島竜。

彼は昔から単純で馬鹿扱いされてきた。

しかし体格もよく、運動も出来て結構頼りになる存在だった。

みてくれも少し強面だし、揉め事があれば前に出てきて解決させてくれる。

筋の通った男らしくてクラスの中でも目立つ存在だ。


 その三島竜(15歳)は、ソワソワしていた。

久しぶりに自分の家に緋瑪斗がやってくるからだ。

というのも、緋瑪斗が女の子になってから、やって来るという話になると初めてだ。

今までであれば別にそこまでソワソワしない。

いや、する訳がない。

しかし美少女となってしまった親友が来るとなると…話は別だ。

約束の時間は朝の10時。

ピンポーンと、呼び鈴の音が鳴る。

ビクッと体を浮つかせる竜。

(き、来たっ!)

 玄関先で話し声が聞こえる。

「あっら~、緋瑪斗君じゃない~。話には聞いてたわよ~。こんなに可愛くなっちゃって」

「あは、あははは、なんかすみません…竜君はいます?」

「いるわよ。竜~!緋瑪斗君来たわよ~!」

 竜にも劣らない大きな声。

竜の母親だ。

いい体格をしている。

「わーってるよ、でっけえ声出すなよ…」

 下に降りて見ると竜の目に飛び込んできたのは、緋瑪斗の姿。

上はグレーのパーカーだが、下は素足丸出しのホットパンツ姿だった。

久々に遊びに行くと話をしたら頼子に用意された服を着せられた。

その結果が、今の緋瑪斗の格好だった。

男の時には考えられない服装をしている。

(な、なんて格好だ……緋瑪斗よぉ……刺激的だぜ…)

 涙が出るくらい、感動していた。


「な、なあ…竜。俺なんか変か?」

「いやいや。どこも変な所ありまへん」

「なんで関西弁みたいになってるの…?」

「ハハハハ。気にするな」

 キリッと表情を整える。

「あはは。竜はコロコロ顔変わって面白いな」

 クスクス笑う緋瑪斗。

(うああぁ、なんて可愛らしいんだ?!お前…本当に男だったのか?!)

「気持ち悪いよ。竜」

「ういおっ?!お前いつの間に…」

 昇太郎が緋瑪斗の後ろに居た。

「ほら、これで今日遊ぶ予定だったんだろ?」

 小さな鞄の中から取り出した物。

それはゲームソフトだった。

複数人数で遊べるようなパーティー系のボードゲームだ。

ルールはお金を集めて、お店などを大きくしてって目標金額に達成してゴールすればいいルールだ。

「久々だな、この3人で遊ぶのも」

「そうだね。こんな体になる前はテストで忙しかったしね」

「おう」

 そう、緋瑪斗が事件に巻き込まれる前はテスト期間があって中々遊ぶ時間もなかった。

そうでなくっても、昔よりはみんなと会って遊ぶ機会も減ってくる。

こうして3人だけというのは久々なのだ。

「俺も楽しみだよ。そのゲームやろうぜ~」

「お、おう。そうだな…(その笑顔…ヤバイぜ!)」

 無邪気そうな笑顔。

竜は大いにテンションが高くなっていった。



 ゲームを始めて中盤差しがかった頃だった。

一時間以上経ったくらいに、やはりだらけ始める。

緋瑪斗は寝っ転がる体勢になる。

「お、こりゃやばいぜ…」

「なんの」

 昇太郎が現在一位。

二位は緋瑪斗で、竜は三位。

CPUが最下位。

3人の中では竜が実質に最下位だ。

だが、そんな事は気にする竜ではなかった。

どうしても寝っ転がった緋瑪斗の姿が気になる。

(……どうしてそんな体勢取るんだよ?やべーだろ。その足にそのお尻は…って何考えてるんだオレは…。

緋瑪斗は男だろ?!いや、今は女であって…男ではなくって…、いやしかし……)

「…あのさぁ、竜。何やってるの?そこ行ったら緋瑪斗のお店に…あーあー…」

 昇太郎の忠告も聞きもせず自分の操作するキャラを移動させたようだ。

すると、緋瑪斗のプレイヤーのお店に止まり、大金を払った。

「あ、え?何?あれれ…?」

「あー」

「わーい、ありがとー竜~!」

 喜ぶ緋瑪斗。

その結果緋瑪斗が昇太郎を追い抜いて一位に躍り出たのだ。

「何やってるんだよ竜のアホー!」

「う、うるせ!ここは男らしく突き進んだまでよ!男には戻れない道がある!」

「意味がわからないよ!僕の一位の座が!」

(ふへへ…これで緋瑪斗が一位に……オレの密かな愛を受け取ってくれありがとよ!)

 また始まる二人の天然漫才。

緋瑪斗はそれをみてケラケラ笑っている。

笑ってはいるが、竜の言葉に少し胸がキュッと締め付けられるような感覚になる。

(男らしく……か)

 体勢を戻し起きる。

ふと、竜の部屋にある小さな鏡に気づき、自分の顔を鏡越しに見る。

(……どう見ても、男には見えないな…)



 ゲームの結果、緋瑪斗は一位で優勝。

僅差で二位の昇太郎にCPUは三位。

そして竜はCPUも含めて四位の最下位となった。

なんともアホな結果であった。

「腹減ったな~。飯でも食いに行くか?」

「いいね、俺ラーメンがいいな」

 緋瑪斗が提案するのはラーメン。

「ラーメンか…近くにあるっちゃあるけど…どうする?」

 時計の針は11時15分くらいを示していた。

「時間たっぷりあるし、少し遠めのお店でも行くか?12過ぎくらいには着くだろ」

「街中に行くの?」

「そうすっか。たまにはいいか」

 ここでいう街中というのは鞍光市の中央の方だ。

駅前を中心にいろんなお店などが集まっていて、この辺一番に栄えてる所だ。

「よっしゃ、行こうか。早速」

「でも俺、あんまりお金持ってないよ?街中行くんだったらもっと持ってくるべきだったな~」

「大丈夫だ緋瑪斗よ。オレが交通費くらい出してやる」

「ほんと?じゃあそれに甘えちゃおうかな~?」

「任せとけ!」

「何が任せとけだよ…やれやれ」

 呆れかえる昇太郎。

しかし顔はいつもとは違ってやや笑顔が強めだった。

3人はすぐ準備して街中へ繰り出す事になった。

(緋瑪斗の出かける…これはデートか?いや、しかし昇太郎もいるからダブルデートか?いや違うだろ…緋瑪斗は元々男であって…)

「竜はなんでずっと笑ってるんだ?」

「あいやっ!なんでもないぞ緋瑪斗君よ!気にすなら!ささ、いこうぜ」

(まったくもってバカ丸出しなんだから…竜は)

 終始ヘンテコなテンションの竜に呆れまくる昇太郎だった。




 ケース2。

山下昇太郎の場合。


緋瑪斗の友人のひとり、山下昇太郎はどこでもいそうな眼鏡の少年である。

しかし、少しお馬鹿な竜と共にいつも一緒にいる。

いつも冷静にして事態を観察しながら行動する。

仲良し組みの中では比較的常識人だ。

ただ、腹の底では竜には負けないくらいの意思の強さは持っている。


「さーてと、着いたぜ」

「おー、久しぶりー。ってこの前服買いに来たばっかりだったけか」

「しかし…暑いなぁ。上着着てきたのは失敗だな」

「でも夜冷えるから…」

 鞍光駅。

3人はその場のノリで駅前にやってきた。

人通りが自分の暮らしてる街の駅とは断然違う。

午前中はそんなに感じなかったが、日中は少し暑い。

これから本格的に夏が近づきそうだ。

とはいっても夜は緋瑪斗の言うとおり冷える。

昼間は半袖でいても夜は寒いので上着着ていたがそれを脱ぐ。

(おお、緋瑪斗…素敵だぜ…)

 竜はアホヅラして緋瑪斗を見ている。

着ていたパーカーを腰に回して、半袖姿となる。

ホットパンツと合わさって随分セクシーな姿に。

(…ちょっと大胆かなぁ…?視線が気になる…)

 人通りが多い駅前。

普通より目立つ緋瑪斗。

やはりというか、男の時より通る人、それも男女関わらず見ていく。

(んー。やっぱ見られてるなぁ…。そんなに目立つかこの髪の色…?)

 気にしてるのはそっちだった。


「ん?どうしたの竜?」

「はてさて、どこのラーメン屋行こうか?」

 緋瑪斗に見とれていたが、見てないフリを慌ててする。

駅前通りをキョロキョロとわざとらしく見回しているがラーメン屋らしきものは見えない。

むしろ大きなビルが沢山あってどれがどこなのか分からない状態。

「こことかどう?」

 昇太郎が手持ちのスマホを二人に見せる。

画面には「らーめん「とと」」と書いていた。

駅前の近くにあるようだ。

「ほーう、美味そうじゃん」

「そうだね。そこにしようか?さすが昇太郎」

「いや、それほどでも、てかこういうのは今の時代当然だよ」

「またまたー、素早く見つけるってのは昇太郎ならではだろ?」

 緋瑪斗と笑顔で褒める。

その笑顔が前とは違って、すごく可愛く見えてくる。

「な、なぁに。これくらい朝飯前だよ」

 少し照れながら、スマホをポケットにしまう。

「いや、昼飯食いに来たんだから昼飯前だろ?」

「……馬鹿は放っておいて…場所はこっちだよ。緋瑪斗」

「ああ、うん…」

「おーい、馬鹿ってオレの事かよ?!」

 一人で賑やかだ。

一緒の連れと思われたくない。

そんな勢いで早歩きでラーメン屋に向かう。


 昼時のせいか、店内は混んでいた。

店内の壁側に沢山椅子が並んでいて、そこに腰掛けしばらく待つ。

「おー、混んでるな~。ん?」

 昇太郎は店内を見回している。

そこで一席だけ、端っこの席が空いてるのに気づく。

こんだけ並んでるのになぜかそこに誰も座らないし、座らせない。

「あれ?あそこって…空いてるよね?」

「んあ?本当だ?なんでだろうな?」

 変な違和感に竜と昇太郎は疑問に思った。

「…え?空いてるの?そこにおじさんっぽい人いるけど?」

「へ?」

 緋瑪斗の発言に二人共変な声を上げる。

「嘘言うなよ?誰もいねえぜ?」

「…へ?」

 今度は逆に緋瑪斗が変な声を上げる。

でも緋瑪斗がまた見返した時は誰もいない。

「…俺の見間違いかな?」

「そうだよ多分」

 気のせいという事にして、しばらく待つ。

するとすぐ空いていた席に客が座る。

「うまかったのう~」

「また来ようよ。今度はみゆ連れて」

「奢らせようという魂胆でしょ…?まったく…」

 黄色い声が聞こえてくる。

入れ替わるようにお勘定を済ませようとレジに来る客達。

その客を見て3人は少し目を奪われた。

物凄い綺麗な金髪の女の子と同じくらい明るいオレンジ色した小学生くらいの女の子。

それにもうひとり地味ながら綺麗な黒髪をツインテールの小学生くらいの女の子。

いずれもすごく目立つ容姿なうえにどの子も、美少女だ。

その中のツインテールの子に緋瑪斗は見覚えがあった。

そう、以前会った、彼方琉嬉であった。


「あ……」

 つい声が出る。

「うお、なんだあの子?外人か?胸でけー」

 竜は相変わらず下衆な発言しかしない。

だが、昇太郎は緋瑪斗の異変にを見逃さなかった。

「………や。」

 琉嬉が緋瑪斗に気づき軽く手を振って挨拶する。

「…ど、ども……」

 軽く会釈する。

「なんだ?緋瑪斗?知り合いか?」

「………前、ちょっと会ったコトあって…まだ、ただの知り合いってだけだけど」

「なんだと?あのパツキンねーちゃんもか?」

「いや、後の二人は知らない…」

「そっかー。残念。知り合いだったら是非お近づきになりたい…が、今は緋瑪斗いるしな」

「…へ?どういうい意味?」

「なんでもございやせん!」

「バーカ…」

 アホ竜についていけなくなる昇太郎と緋瑪斗だった。



 ラーメンを食べ終え、少し小休憩。

竜がお手洗いに行った時だった。

緋瑪斗はメールを確認する。

琉嬉からメッセージが入っていた。

『偶然だね。そこのラーメン屋おいしいよ』

とだけ、書いていた。

それだけ?と思い、しばらく画面と睨めっこする。

何か肝心の情報がないのか…?と思いながら他にメッセージないのかと確認していた。

そこで昇太郎が口を開いた。

「……ねえ、緋瑪斗」

「…え?!な、何?」

 なぜか少し驚く。

今思えば、昇太郎と二人っきりになった事なんて、女になってからない。

「いくつか質問していいかい?」

「…質問?答えれる範囲であれば答えるけど…?」

「まずひとつめ。女の体ってどうなの?実際?」

「お、女の体…?そこからいきなり聞く?」

「興味本位に過ぎないけどね」

「…うーん……。答えにくいというか……、いろいろ大変だよ。いろいろと…」

「いろいろか…。僕にも姉がいるからなんとなく分かるよ。男とは違っていろいろデリケートだもんね」

「そ、そうだね…」

 姉がいる。

二つ年上の姉。

昇太郎達と同じ学校ではなく、別の鞍光市の女子高に通ってるそうだ。

「そういやお姉さん最近見てないなぁ…女子高だっけ?」

「そうだね。うちの姉の話は置いといてふたつめ」

「うん」

「他に何か隠してる事ないかい?」

「…え?隠してる事…?」

 ドキッとした。

自分が女としてだけでなく、妖怪として変化してるという事。

その事実はまだ竜と昇太郎には話してないからだ。

それを今述べるべきか。

月乃や玲華話して、この二人に話さないのはどこか良心が痛む。


「最後のひとつ。ラーメン屋で見たあの女の子達…いつの間に知り合ったんだい?」

「あー、えーと…その」

「…何か重要な事なんだろ?」

「まあ、重要というか…」

「小学生と知り合いなんて、やばい匂いするけどね~」

「ち、違うって…小学生なんて言ったら怒られちゃうよ!」

 バタバタ手を振って否定する。

「あはは。ごめん、無理しないでいいよ。……話したくない事があれば話さなくてもいい。

でも、これだけを覚えておいて。僕達は小さい頃からの仲間だから。ね?でもいつかは話してくれよ」

「ああ、うん…」

「って、なーんて青臭いやら。かっこつけて言ったけど…はは」

 自分でも気恥ずかしいとは思ってたようだ。

緋瑪斗はその様子を見て笑みが溢れる。

「あ、緋瑪斗。竜じゃないけどさ、僕も可愛いと思うよ、今の緋瑪斗は」

「…………あ、え?え?」

 戸惑う。

まさか昇太郎から「可愛い」なんて言葉が出るとは思わなかった。

そうしてる間に竜が戻ってきた。

「お、緋瑪斗。なんで顔赤いんだ?可愛いなぁ」

「う、うるさい!男が可愛いって言われて嬉しい訳あるかっつーの!」

 自他共に認めるくらい可愛い。

しかし元々が男だけに、そう言われると何がどうしていいのか複雑な気分になる。

というより、男らしい方を目指してた時もあって「嫌」という気持ちの方が強いのだった。




ケース3。

狗依玲華の場合。


狗依玲華。

緋瑪斗と同じ年齢の従姉妹。

家が近所のため、昔からよく遊でんでいて今もよく遊ぶ仲。

昇太郎と同じように後ろから見守るお姉さんみたいなタイプで何かと裏から世話を焼いてくれる。

何かと勘が鋭く、表に出さなくても何かと知り得ているぬかりない性格である。



「よっし、ゲーセンでも行こうぜ」

 唐突に竜が言い出す。

「ゲーセンか~。久しぶりだな」

「…ま、たまには大きく息抜きするのもいいかもね」

 3人は駅前近くのゲームセンターへ向かう。

休日だけあって人が多い。

家族連れ、カップル、友人同士で来ているグループ、単独でオンラインゲームやってる人達などなど。

「よっしゃ、あれやろうぜあれ」

 竜が指を指してる方向。

4人対戦出来るゲームだ。

「俺、これやった事ないけど…」

 ぽんっと肩を叩く昇太郎。

「大丈夫。僕もやった事ない。でも負ける自信はない。竜相手なら」

「そう言われると俺もそんな気がしてきた」

 俄然やる気がなぜか出てくる。

「やったるぜ~」

 気合入れる緋瑪斗。

そして対戦が始まる。



「……あのド派手な赤色の頭は……緋瑪斗君?」

「…え?あ、玲華?」

 緋瑪斗の目の前に突然玲華が現れた。

一瞬の余所見でちゅどーんと、緋瑪斗の操作するキャラがやられた。

「ああああ…やられちゃった」

「あらら…ごめんなさい」

「玲華…なんでここに?」

「それはこっちのセリフよ。私はクラスメイトと遊びに来てただけ。そっちは…いつもの3人ね」

「…まーね」

「なんだぁー?緋瑪斗~。油断したかぁ?って、玲華じゃねーか」

 竜が上から覗き込むと玲華が居た。

厄介なヤツが現れたとでも言いたそうな顔をする。

「なになに?誰?玲華?」

 玲華のクラスメイトらしき女の子達がやって来る。

「あー、玲華、もしかしてその子例のいとこの?」

「…まあそうね」

「……なんだなんだ?」

 玲華含めて総勢5人の女子高生達。

それに囲まれるような形になる緋瑪斗ら。

「近くで見た事ないけど…緋瑪斗君可愛いね~。本当に男の子だったの?」

「へ?いや…その?」

 まるではじめて登校した時みたいに大勢の女子に囲まれる。

この状況はどうも慣れない。

「あ、あの…」

「綺麗な髪~。どうやって染めたの?」

「染めてはないんだけど…」

「嘘~?なんで~?」

「こんな色に染めたら学校で怒られちゃうじゃん」

「本当に~?」

 怒涛の質問攻めになすすべなし。

「ハイハイ、いいでしょ?もう」

 ぱんぱんっとお得意の手を叩いて場の空気を変える玲華の技。

「ちょっとー玲華ー、いいじゃん~」

「緋瑪斗君が困るでしょ?ホラ、あっち行った行った」

 女子達を両手で追いやる。

「聞き分けいいじゃんか玲華」

「私の言う事なら聞いてくれるのよ」

「お、おう…」

 竜はクラスメイトよりは長く玲華の事を知っている。

怖さは十分知っているのだ。


「緋瑪斗君って目立つよね。やっぱり」

「…そう?」

 ゲームセンターの中の自販機が置いてある休憩所。

緋瑪斗と玲華は二人で休んでいた。

近くにいわゆるプリクラが沢山置いてある。

玲華のクラスメイトはプリクラを撮っているようだ。

「玲華はやらないの?」

「…私はいいの。それよりさ、緋瑪斗君はやっぱり男の子と一緒にいた方が落ち着く?」

「………んー、そうかもな。だってこの方生まれてから女の子と遊んだ事なんて月乃と玲華以外にないし…」

「そう」

「そりゃずっと男友達…ていうか、竜と昇太郎と一緒だったんだぜ?今まで通りになるさ」

「………緋瑪斗君はそれでいいの?」

「何が?」

「…………「異性」としては意識しないの?」

「異性?なんで?だって俺男だし…、あ、今女か。なんか訳わからないな」

 頭をぐしぐし掻き毟る。

「フフ、なーんてね。ごめんね。そうだよね。心は変わってないもんね?」

「まーそーだけどね…」

 ほっぺを膨らませて少し不服そうにする。

缶ジュースを一飲みして、テーブルに置く。

「女の子と話すのは苦手?月乃と私以外とは?」

「うぇ……苦手…?うーん、苦手というか…何話していいかわかんねえもん」

「そっか、そうだよね」

 今思えば自分は月乃と玲華以外の女子とあまり会話した事も遊んだ事もない。

いっつも竜や昇太郎達だけだった。

たまに違うクラスメイトなどと遊ぶような事はあったが。


「ネーネーネー、そこのお嬢さん達、これから暇?」

「…はい?」

 チャラい男達3人。

またか…と緋瑪斗は思った。

どうしてこう何度も声をかけられるんだろう。

女って大変だなぁとつくづく思い始める。

「ええ、と…」

 強引に引っ張られた時を思い出して少し怖い気分になる。

(…なるほどねぇ…緋瑪斗君も大変ね)

「そちらのショートカットのお嬢さんも美人さんだね」

 玲華の事だ。

「ばーかどっちもショートカットじゃんかよぎゃはは」

(下品な笑い方ね)

 心の中では男達の事をバカにする。

いちいちこんなの相手するのもバカらしいと思うくらい。

緋瑪斗の方は何も喋らずに、ただじっとしていた。

あきらかに少し怖がってるのが分かった。

(なるほどねぇ…ここは少し場の切り抜け方を教えてあげますか)

 ガタッと玲華が突然立ち上がる。

緋瑪斗の手を取って一緒に移動しようとする。

「あ、ちょっと、どこ行くの?お二人さん?」

「私達彼氏と一緒に来てますので」

「彼氏?どこにいるんだい?」

 チャラ男達も一緒についてこようとする。

すると…。

「昇太郎君~竜君~この人達が私らの事ナンパするんだけどー」

 わざとらしい言い方で玲華はゲームを終えて談笑してた昇太郎の腕に組みつく。

「わ、ちょっと…何?玲華ちゃん?」

「いいからいいから」

と、小声で言う。

状況把握が鋭い昇太郎はすぐに感づいた。

玲華は緋瑪斗の方を向き、目をパチクリして何かの合図。

緋瑪斗も悟ったようで、軽く頷き竜の腕に組み付く。

「竜~、助けて~」

 棒読み。

「ひ、緋瑪斗…?なんだ?(どういう状況だー?!ラッキー?!いやそうじゃなくって…)」

 こっそり玲華が竜の腰元に肘打ちする。

「あ?」

 玲華達がやって来た方向にはチャラ男達。

さすがの竜も状況を飲みん込んだようだ。

「なんスか?オレらの彼女になんか用?」

 ギロッと睨む。

そこらのヤンキーにも負けないくらいの威圧感。

「チッ、本当に彼氏連れか…行こうぜ」

 おとなしく引き上げていく男達。

作戦は成功したようだ。



「ふいー。うまく言ったねー」

「ありがと、玲華」

「例なんていらないわよ。緋瑪斗君。気をつけなよ?今までと違うんだから」

 鼻をつんっと突っついて警告する。

「あ、ああ、分かったよ」

「じゃ、私は戻るね。また学校でね」

「うん」

 軽く手を振る。

玲華はクラスメイト達と合流して別の場所へ向かった。

それを見送るようにしている3人。

「いやはや…びっくりしたぜ。突然緋瑪斗が手を組んでくるんだからな」

「あ、あはははは、あれは仕方なくだよ。あんな状況じゃなかったら竜となんか手を組まないって。男相手に気持ち悪いでしょ」

「……ひ、緋瑪斗…それはないぜ…気持ち悪いとか…」

 膝から崩れ落ちる。

いちいちリアクションがでかくて見てるだけでも面倒だ。

「危なかったね。街中はいろんなヤツがいるからさ。緋瑪斗、気をつけなよ?」

「そうだな。悪かったよ。玲華がいなかったらどうしようかと…」

「ふん、そういう昇太郎も玲華に腕組まれて嫌じゃなかったんだろ?」

「それとこれは別だろ?大体なんで僕が玲華と…」

 ギャイギャイ言い合いする。

恒例の掛け合いをクスクス笑いながら見てる。

玲華の咄嗟の判断。

場の切り抜け方の技を教わったのだった。

(…我が従姉妹なら頭の回転の良さを尊敬するよ。俺…少し警戒心ないのな…。一人で行動する時は気を付けよう)


 玲華達と別れて、再び3人になる。

「まさか玲華と会うとはな~。あいつ、月乃だけじゃなかったんだな友人って」

「それはそうでしょ。唯一違うクラスなんだし。ああ見えても世渡り上手なんだよ。どこか卑屈っぽいとこあるけどさ」

 玲華だけクラスが違う。

緋瑪斗と苗字が同じ親戚だからだと思われるが。

それでもよく緋瑪斗達の方へ来て月乃と楽しく喋ってるのは見かけてた。

「そりゃそうか。月乃みたいな激しいヤツと一緒にいるよかは楽だろうしな」

「竜は月乃の事は猛獣か何かと勘違いしてない?」

「ちげえねえ」

 笑って誤魔化す。

「ふぅ…疲れたね。帰ろうか」

 緋瑪斗が切り出す。

昇太郎は無言でコクンと頷く。

「そうだな。明日も学校だし。さっさと帰りますか、と」

 おとなしくこの日は帰宅するのだった。

(玲華…後でお礼しなきゃな。助かったよって)




ケース4。

月乃の場合。


沢城月乃は見た目は少しお嬢様っぽさを醸し出している、清楚な感じだ。

だがハキハキ物を言う性格を災いしてか他の人間と衝突する事もある。

時にはクラス委員をやって人の前に立ったりして引っ張ていく、明るく元気な子。

そんな彼女だが、人付き合いも良く毎日楽しそうにしている。

言ってみればクラスで目立つ竜と同じように目立つタイプだ。



 そんな月乃が心配でたまらない。

緋瑪斗の事だ。

女の子化した緋瑪斗を放って置けない。

事件に巻き込まれたりして、気が気でない。

ましてや妖怪がどうのこうのと聞いて、そして彼方琉嬉というちっちゃな女の子との出会い。

緋瑪斗の仲間グループの中で一番頭を悩ませていた。

(大体、私はなんでヒメの事こんなに考えてるんだろ…?それに…ヒメはもう女の子なのに…)


 この前玲華や琉嬉に言われた言葉で胸が締め付けられる想い。

非常に緋瑪斗に対する想いが強くなる。

この気持ちはなんだろうか?

緋瑪斗には無理をして欲しくない。

こんな感情はなんなのだろうか。

今までなかった。

「あー、もう!なんでヒメの事ばっかり考えてるのよ!私!あーもうバカバカバカ!(ヒメはもう女なのに…なのになんでこう…)」

「うるせーぞー姉ちゃんー」

 ドア越しからうるさいぞと言う声。

声変わりをしたばっかりような、低くとも幼い感じがする声。

「うるさいあんたには関係ない!」

「な、なんだよ…なんで俺が怒られなくちゃいけないんだよ…」

 月乃の弟で現在中学二年生の陽太ようた

 あまりにも大きな独り言に注意したのがなぜか逆ギレされる。

「…まったく…。毎日ヒメヒメ言ってて姫様にもなりたいのかよ…?」

 トボトボ自室へ入っていく陽太。

理不尽な怒りをぶつけられて凹んでいた。



「あら、どこ行くの?」

 こっそり出ていこうとしたが母親にバレた。

「ちょっと散歩」

「あらそう…じゃあちょっとお使い頼もうかしらね~」

 気を紛らわす為に外へ出て行こうとした矢先、母親からお使いを頼まれる。

(ま……いっか…)

 散歩がてら、近くのスーパーまで歩く。

買ってきて欲しい物は豆腐と何か適当に飲み物。

「これだけなの?まあいいけど。陽太に頼めばいいじゃん…」

 ブツクサ文句言いながらもスタスタ歩いていく。

少し気温も下がってきて過ごしやすい。

歩いて5、6分。

近くのスーパーまであっという間に着く。

散歩の意味がない。

(……ついでだからお菓子でも買おうーっと)

 呑気に考えながら店に入っていく。


「あれ、月乃じゃん。つーきーのー」

「!」

 いきなり自分の名前を呼ばれて驚く。

お店のお惣菜コーナー付近を通った瞬間だった。

子供っぽく手を振る人物。

緋瑪斗だった。

無邪気そうな笑顔。

「ヒメ?なんでここに?」

「なんでって…買い物に決まってるだろ?」

「そ、そうだよね、あははは」

「?」

 おかしな事言う月乃に疑問顔の緋瑪斗。

緋瑪斗と会ったのはびっくりしたが、なぜかホッとする。

「…すっかり女の子っぽい格好してるよね」

「そ、そうか?この短パンがさ…ちょっと恥ずかしいんだけど、似合ってる?母さんに無理矢理着てけって言われて」

「短パンって…ふふ。似合ってるよ。ボーイッシュな感じが出てて、可愛い」

「おう……さんきゅ」

 照れながらもお礼を言う。

「で、緋瑪斗は何を買いに来たの?」

「俺?家に帰る前に、ちょっと飲み物でもって」

「どこか行ってたの?」

「竜と昇太郎と3人でね。ああ、街中のゲーセンで玲華に会ったよ」

「ほんと?」

「クラスの女子達とキャッキャしてたよ」

「ふーん、楽しそうね」

 月乃はなんだか楽しくなさそうな顔をしている。

「何?月乃も呼べば良かった?」

「わ、私は別にいいよ。久しぶりの男だけの遊びだったんでしょ?」

「そうだね。俺は今女だけどね」

「あ、……ごめん」

「なんで月乃が謝るの?」

「………だって」

 だって、なんだろうか。

その後の言葉が出てこなかった。

今の緋瑪斗に何を言っても誤解を招きそうで、怖かった。

「…………」

 いつもは一方的に喋ってくるのに無言。

変な空気に緋瑪斗が少し耐えられなくなって話をかける。

「あのさ。今日元気ないね?どうかした?」

「…な、なんでもないよ。うん。なんでもないから。豆腐買わなきゃ」

「トウフ?」

「そうそう、豆腐買わなきゃ。買ってこいて言われたんだけど。尺だからお菓子も買ってやると思って」

「どういう理由なのそれ…」


「他の二人は?」

「先に帰ったよ。俺一人」

「そ、そう…」

 お菓子コーナーで何買うか漁る。

「二人でこうやってお菓子買うのも小学生以来じゃない?」

「遠足の前日とかね」

「そうそう。月乃がこれがいいーって言うから値段見たら高くてさ…」

「300円以内だったけ?」

「よくある話だよね」

 昔の話で盛り上がる。

竜が300円以上持ってきてバレて怒られたり。

昇太郎が見た事ないような、マニアックなお菓子を持ってきて目立ったり。

玲華は古風な和菓子ばっかりだったり。

人それぞれで楽しかった。

「……昔に戻ったみたい」

「え?」

「なんでもない」

「……変な月乃」

「ヘンとはなによヘンとは!」

 軽くぽかぽか緋瑪斗を叩く。

いつもの月乃に戻った。

「やっぱり…話すと緋瑪斗は緋瑪斗だね」

「…んー?そう?中身は変わってないからな」

「だよね」




「ね、月乃。ちょっといい?」

「ん?」

 帰る前に近くの小さな遊具がある公園に立ち寄る。

公園に設置されている時計は夕方5時半を示していた。

園内のベンチに座って先ほど買ったジュースを開ける緋瑪斗。

「ふと思ったんだけどさ。月乃に話すような事なのかどうか分からないけど……」

 ドキッとする。

何を話すんだろうかと。

月乃は自分の心臓の鼓動が強くなるのがハッキリと把握する。

「男らしくってなんだ?女らしくって何だ?俺、なんだかよく分からなくなってきた」

「………え?男らしく…女らしく…?」

「ホラ…俺さ、男の時でもたまに女に間違えられる事もあってさ…ゆき兄みたいになりたいって思ってたし」

「………うん…。(ヒメ…そんな事考えてたんだ)」

「親にも男の子なら男らしくしなさいって言われたりしてさ…、いっその事女で良かったんじゃないかって思ったりして」

「…!」

「でも男として生まれたんなら、男らしくしようって思って、生きてきたけど今はご覧の通り」

 無言で頷きながら話を聞く。

頭の中では答えを作ろうとするが出てこない。

「今では女らしくしなさいって、親に言われるし。心は男のままなのにね」

 緋瑪斗自身は、現状を受け入れてる訳ではないのは何度も話して分かっていた。

月乃の頭の中がぐしゃぐしゃする。

ほんの十日程前の事件。

あれこれずっと考えてた。

考えを巡って巡って一周も二週もする。

その答えがまとまった。

ここにきて決心する。

「ヒメ!」

「な、何……?」

「私決めた!どんな緋瑪斗だろうと、私は有りのままの緋瑪斗を見てる!」

 ガバッと急に立ち上がり放った言葉。

ぽかーんと緋瑪斗は月乃の顔を見ている。

その表情は揺るぎない、強気の月乃の顔だ。

いつも見てきた、その顔。

拳を握り締めてまるで特撮のヒーローの登場シーンみたいなポーズをとっている。

「ぷ、ぷふふふ、あははは」

「なによ!なんで笑うの?」

「いやいや、いつもの月乃だなぁって」

「私はいつも同じだよ」

「いや、うん…そうだな」

 この切り替えの強さが月乃らしい。

そんな風に思う。

「ヒメはそのままで大丈夫だよ。急に変われってのが無理なのよ!私も無理強いしてたしね」

「……そう?」

「ヒメはヒメのやりたいように行きなさい!私はそれを否定しないから。多分」

「多分って…」

「男らしくとか女らしくとか面倒だよ!ヒメはヒメでオッケー!どぅーゆうあんだすたんっ?」

「発音悪っ」

 英語が苦手らしい。

「いいじゃん、男の子の心持った女の子でも。ね?」

「そう言ってもらえるとありがたいけど…実際生活するうえではそういう訳にもいかないしな…」

「その場合は女の子らしく振舞う!時と場合!あんたにはそれが出来る!」

「うぇええ?」

 緋瑪斗の両肩をガシッと掴む。

背の高さが違うので緋瑪斗が少し見上げる形。

前までは見下ろす形だったのに、変な気分だ。

(え?なんだ?急に…)

 ドキドキする。

女の子に面と向かい合った事なんてそんなにない。

月乃や玲華含めてだ。

「ヒメは選ばれし人間よ!男の心も女の心も理解出来る存在!あ、妖怪でもあるんだっけ?」

「それは言わないで…」

 その日は小一時間月乃のマシンガントークに付き合わされる結果となった。




 改めて緋瑪斗は思った。

持つべき仲間はいいものだと。

今回の休日で良く分かった。

いつしか戻れるのであれば戻りたい。

それは叶うかどうかもまだ分からないが、戻れないとしても、今までと同じようにいたい。

不安な気持ちが少しずつなくなっていくのが心地よかった。



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