第26話 運命って、変えれるのかなって思った。
そして、その時がやってきた。
とある小さな小屋。
そこに集まる面々。
全員が入れそうにはない程…小さな小屋だ。
そこで力の受け渡しを行うという。
族長の由愛の粋な計らいで場所を提供してくれた。
「やり方は…大丈夫か?」
何度も何度も茜袮は心配そうに緋瑪斗に語り掛ける。
しかし緋瑪斗は、
「大丈夫です。そのために琉嬉さんにも教えもらったんですから」
と、自信ありげに答える。
「鼻が高いよのう、琉嬉よ」
「お前に言われるとむず痒いから言うな」
小屋の入口前に集まる。
「頑張ってね。ヒメ」
「頑張れよ」
「健闘を祈ってるよ」
「…しっかりね」
「緋瑪斗…頑張りなさいよ」
幼馴染メンバー全員からの応援の声。
「最悪何かあれば……僕が止めるから」
少し照れくさそうな表情はしているが、至って真剣な顔した琉嬉が言う。
「止めるって…どうやってですか?」
「なぁに、琉嬉は特殊な力持っておるからな。万が一何かあっても問題ないと思うぞ」
伝説の妖怪來魅からもお墨付き。
そのように信頼ある力が琉嬉にはあるようだ。
「ふむ。それは心強い。もし…何かあれば…頼むぞ」
茜袮が琉嬉の頭を撫でる。
「むう」
子供扱いするな…と言いたかったが、茜袮の実年齢を聞いてる分強く言い返せなかった。
二人はそのまま小屋に入って行った。
瞬時に静寂がやってくる。
「変な事しないでしょうね?」
未弥子があらぬ心配をする。
「バカね。二人とも女なんだし」
「まあ一概に言えないよね。緋瑪斗は元々男なんだし」
「昇太郎が珍しくのってきたな」
「失礼な。百合ていうのも中々いいものだよ」
眼鏡が心なしかキラっと光ったように見えた。
「な、何言ってるのよ!」
「まあまあ、場を和ます昇太郎ならではのギャグだよな?」
「そうさ。腐女子が薔薇…つまりBLを好むように男共は百合を好むものさ」
「昇太郎君、さすがにそれは引くわ、フフフフフフ」
いつものクスクス笑いじゃなく、大きく笑い出してしまう玲華。
他の皆も昇太郎の変な発言に思わず笑ってしまう。
「さてさて…吉と出るか凶と出るか…」
「運命の分かれ道ってやつだな。乾坤一擲か」
「け…いってき?何それ?」
「子供なのに難しい言葉知ってるんだな…」
琉嬉と竜が來魅の言葉を聞き返す。
「ん?まあ簡単に説明するとここ一番の大勝負って意味だな。最早運任せと言ったような話だ」
「へー……」
関心する琉嬉。
「博打レベルって事か」
無理もない。
誰もした事のない話なのだから。
焔族でさえ、結果が見えていない。
妖怪としての力を戻す。
どうなるのか、誰も解からない。
「そうそう、由愛さん」
「なんだ?彼方の者よ」
「いろいろ調べたんだけど…さ、昇太郎がある結論に辿り着いたんだけど」
「ふむ?」
「これは仮説なんですけどね、ご本人達を前に言うのも恐縮なんですけどね」
昇太郎が何かのメモを持って話し始める。
その喋り方はなんだかまわりくどい。
「焔一族は…天狗じゃないのかと、思いましてね」
「天狗?あの鼻の長い?」
月乃がいち早く反応する。
「ああ、一般的に思いつくイメージは鼻が長くて、和服着てて下駄を履いていて、そして鳥のような翼がある。
そんなイメージさ」
思いつくイメージは大体そうだ。
葉っぱやら持っていろんな妖術を使う。
普通はそういったイメージを思い浮かべる。
「天狗か。なるほどな…。そう言われた時代もあったな」
由愛は否定はせず。
「天狗なのは間違いではないな。祖先が天狗との交わりがあるからな」
「え?そうなの?」
「厳密に言うと純粋な天狗ではない。まあ、出で立ちなどが似てたのだろうな」
天狗であって天狗でない。
なんとも微妙。
「天狗って、なんかこう……ばーって飛んで風を起こしたりとかする感じあるけどね~」
月乃は顎に手をあてて考えるポーズ。
「てコトは…緋瑪斗は天狗に?」
「だから完全な天狗じゃないって言ってるだろ?」
珍しく竜が未弥子にツッコミを入れる。
「な、何よ!竜のくせに!」
「お?やるか?オレは月乃のように優しくないぜ?」
「やめろ二人とも」
二人の脛を軽く蹴る琉嬉。
「あがっ」
「いたっ」
二人はその場に崩れ落ちる。
「大変だな琉嬉。学校の連中といい、こちらの連中といい」
「同じくらい疲れる…」
ぐっと項垂れる琉嬉であった。
緋瑪斗と茜袮が入った小屋。
何もなくがらんとしている。
暖房もない、冷たい空気。
「さて…二人きりだな」
「そう……ですね」
急にたどたどしい態度になる。
緋瑪斗ならまだしも、茜袮までもが。
「正直…俺達って、近しいようで遠い存在ですね。
だって…公園の時と、俺が病室に居た時…あの二回だけですよ。
会ったのは」
「たしかにな」
茜袮は緋瑪斗に近寄る。
背丈は緋瑪斗とあまり変わらないくらい小柄な部類だ。
目線が丁度同じくらい。
「しかしまた奇妙な巡り合わせだな」
「はは…」
力ない笑いが出てくる。
「緋瑪斗。お前がまさか自力でここまで辿り着くとは…」
「いえいえ、そんな事ないですよ。俺一人だけじゃ到底着けなかった。箕空さんに偶然会ったからこそ…」
「フフ、箕空か。あの子は若い。お前達と同じくらいだ。
やはり、焔族としての何か縁があるんだな。君は」
「そうなんですかねえ…?」
夏に行った、旅行先。
そこで偶然箕空と出会った。
まさかの出会いがきっかけに急激に焔の里に近づいたのだ。
「やれやれ…箕空に感謝しなきゃだな」
「ええ。本当ですね」
「緋瑪斗」
こつん、と自分の額を緋瑪斗の額に近づける。
「え?ちょ…なんですか?!」
突然の行為に焦る。
「他人行儀な敬語は要らないぞ。私達は…姉弟みたいなものじゃないか。
私の血肉となる焔の力を持っているのだから。
年齢的には親子かもしれないけどな」
「そ、そんな…家族だなんて」
なんか、妙に気恥ずかしくなる。
でも実際、一日たりとも茜袮の事を忘れた事などない。
毎日寝る前に思い出す。
それは恋しいとかじゃなく…説明しにくい感情。
「さて……と。準備はいいか?緋瑪斗」
くっつけてた額を離す。
そして茜袮は緋瑪斗の胸元に両手を置く。
「いいか、同じように私の胸元に手を置け」
「え?ああ、はい…って!何を!?」
胸元をはだけさせる。
綺麗な胸を見て驚く。
「…ん?いつも見慣れてるのではないのか?」
「それは自分の話ですよ!他人のは無理です!大体自分のですら恥ずかしいんですから!」
「ふむ。そうか」
一通り説明し終える。
そして緋瑪斗は目を瞑り、集中する。
大きな霊力が小屋に響く。
外に居た月乃達は小屋の変化に気づく。
「ねえ?なんか…感じない?」
「何だが?」
「なんか……空気が熱いていうか」
「そうだね。ビシビシ伝わるよ。緋瑪斗の、妖怪としての力が」
琉嬉が答えを言う。
「妖怪としての力?ああ、焔一族のか」
竜がいつになく冷静に納得する。
「今日の竜は珍しいね。もっとうろたえるのかと思ってたよ」
「ばーか。オレも大人にならないとな」
「…そっか」
昇太郎の目には平静を保ってるように見える竜。
しかしその竜の利き腕である右手は強く拳を作っているのが入って来た。
(いつまでも子供じゃない…か。さすがに竜も)
自分と考えてる事が違うと感じた昇太郎は少し反省した。
「…大丈夫かしらね、緋瑪斗君」
いつになくソワソワする玲華。
顔はいつも笑顔を見せているのだが、さすがに今の状況は表情では隠しきれてないようだ。
「心配なの?」
珍しく未弥子から玲華に話しかける。
「それは勿論ね…。家族代表って事で来てるから」
「そう…ね」
家族。
そこがちょっと妬ける。
未弥子は玲華とこの日初めて会話した。
普段からあまり会話しない。
それはなぜか。
それは、自分と性格が丸っきり違うからだ。
同じ同性同士でも月乃とはなんだかんだで真逆な考えでも、どこかしら似ている。
しかし玲華とは似てる気がしない。
自分とは違うタイプのクールさ。
余裕すら感じられる喋り方。
似てそうで、似てない。
そして自分が好意を抱いてる緋瑪斗の、従姉妹。
この中で唯一の緋瑪斗との肉親だ。
「本当はね、多分緋瑪斗君の両親や兄弟達も来たかった筈なのよね。
でも…私がなぜかついて着ちゃったって感じ?」
「なんだ、珍しく弱気は発言じゃねえか」
ぽんっと玲華の頭に手を置くのは竜の手だった。
「あら、慰めてくれるつもり?」
「そんなわきゃないけどよ」
「フフ、こういう時のあなたって頼りになるよね」
「あら、いい線いってるんじゃないー?」
茶化すように月乃が肘で竜の脇腹を突っつく。
この期に及んで何かと明るく振る舞う月乃。
「うるせいっ」
「やれやれ…静かに出来ない連中だね。まったく…」
琉嬉は近くにある切り株に座り込む。
「ふむ…、緋瑪斗の奴は上手くいくかのう?」
來魅が隣に座ってくる。
「上手くも何も…僕の弟子だよ?上手くいくさ」
「いつからお前様の弟子になったんだ?緋瑪斗は」
「そんなのいいじゃん。どうでも。あいつは……やる時はやる「男」さね」
「ふむ…」
特に返しの言葉もなく、來魅もおとなしく小屋を見つめる事にする。
「…始まったか……」
由愛や、箕空。
そして他の焔一族。
何かを感じ取ってる。
「同じ種族だからこそ分かる…ってか」
琉嬉は小さな声で言う。
琉嬉や來魅にも多少なりとも感じているが、何が起きてるのかまでは分からない。
おそらく、焔一族の者には感じ取っているのだろう。
そんな気がしてくるような族長由愛の言い方。
「祈るしかないってこういう状況の事だな…まさに」
「のう、琉嬉。お前様は寺の一族だろ?何か念仏でも唱えれないのか?」
「念仏って…。読経か……。出来ない事もないけど、気休めでしかないよ」
「そんなもんか?」
琉嬉は座り方を変える。
渋々のような、そうでもないような、複雑な表情を見せる。
そしてブツブツと呟くように、何かの読経を唱え始めた。
「お?琉嬉さん…どうしたんだ?」
「彼女の家柄はお寺さんなんだよ。いろいろ事情あって深い関わりは今はないらしいけどね」
事情通の昇太郎が答える。
この男はどこまで知り得ているのだろうか。
月乃と未弥子は驚くばかり。
「あれってお経?」
箕空が不思議そうに関心を示す。
「人間が信じ抜くための儀式…みたいなものだな」
「なるほどぉ、そうなんですね~」
「念仏は別に人間だけが使う訳でもないがな」
いつの間にか隣に來魅が居た。
「あ、これはこれは…伝説の大妖怪様」
「それは過去の話だ。私は、いっぱしの妖怪に過ぎん」
「へぇー……。え?」
「ほれ、お前達も、喋り呆けてないで、緋瑪斗達を応援せんか」
月乃達の所に行き、説教じみた喋りで諭す。
「琉嬉さんみたいに?」
「私お経なんて知らないよ~」
「何もお経を唱えろとは言わん。各々の、応援でいいんだぞ」
笑顔で月乃にそう答える來魅。
「そうだよねっ。よし、みんな!ヒメを応援しよ!」
「応援たって…フレーフレーってか?」
「なんでもいいよっ」
「アホくさ…やってらんないわね」
未弥子は恥ずかしそうに、その場からちょっと避けるように移動する。
「未弥子!」
月乃が引き留める。
力強く腕を掴んで。
「…解かってるわよ。私は私なりの「祈り」で応援する。緋瑪斗を」
「そう…なら大丈夫だよね」
ニカッといい笑顔をなぜか自分に見せる。
未弥子は気恥ずかしくなる。
(その笑顔をなんで今私に向けるのよ…!まったく………)
その場に座り込む未弥子。
目を瞑って両手を組んで膝の上に乗せる。
「ま、成功を祈るって言うもんな」
「ちょっと的外れな気もするけど…それが竜らしいね」
「フフ、本当ね」
「うるせえうるせえ!」
結局いつもの竜らしさが出てた発言。
竜はそのまま琉嬉の近くに行って、座り込む。
そして昇太郎らも後に続く。
琉嬉の後ろの回り込んで、一緒に祈る。
「面白い子らだ」
「ですよねー、茜袮先輩…いい人間に巡り会えたみたいで良かったです」
「…最初人間に力を与えたと聞いて驚いた。
それもまさかの成功するとは。
我々焔一族は……、元を辿れば人間。
よもやここで証明されようとは、な」
空を見上げ、何かを思い出すような顔をする。
「族長さま?」
「妖怪だの人間だのという考えは…もう古いのかもしれやぬ。そうだろう?茜袮よ……」
バシュッと両手から赤い光が輝く。
「そうだ!緋瑪斗…頑張れ!」
「う……ぐっ……!熱い…!!」
緋瑪斗の両手から放たれる光。
まるで炎のように、熱く煮えたぎるように、熱を帯びている。
自身が操る炎は熱く感じないのに、なぜかこの光は熱く感じる。
「……お前の力…感じる!」
「うおおおおお!!」
緋瑪斗の咆哮。
緋瑪斗の体に宿る、焔一族の妖力。
元々は茜袮が持っていた力。
それが今は逆流するかのように、茜袮の体に流れ込む。
茜袮も熱い力が注がれているのが分かる。
「くっ……(受け取る側がこんなにも辛いとは…緋瑪斗…お前は……普通の人間だったろうに…)」
あれこれ考えが浮かんでくる。
こんな状況なのに。
なのに、なぜか冷静でいられる。
それは緋瑪斗という人物が安心していられる存在だから。
緋瑪斗の仲間達が、いるから。
「お前の想いを今度は私が受け取ろう。さあ…」
茜袮は緋瑪斗の小さな体を覆うように、抱きしめる。
そして―――――。
バシュンッと赤い光が小屋から放たれた。
すると黙々と煙みたいのも出てくる。
「おい!なんか小屋から煙出てるぞ?!」
「え?まじ?」
「ヒメ!!」
月乃が思わず立ち上がってダッシュする。
「危ないわよ!」
未弥子が引き留める。
しかし…。
「緋瑪斗ぉー!」
竜が月乃が動くより前に動いていた。
ドアを蹴破り中に突撃していく。
「おいおい…あのデカイ小僧行ってしまったぞ」
來魅も立ち上がり、琉嬉の声をかけた。
「あ、え?何?何が起きた?!」
読経に集中し過ぎて反応が遅れた琉嬉。
「竜!」
「琉嬉さん、竜が!」
「あのアホ…考えずに!」
琉嬉も咄嗟に動き出す…が、來魅の制される。
「いや、おそらく大丈夫だろ」
「大丈夫…って、焦げくさいんだけど?」
「ひめとーーー!!」
竜の叫び声が聞こえる。
どうやら中に入っても大丈夫そうだ。
「一応、火を消す用意しとくか」
由愛は冷静ながら部下に指示を出す。
「本当、やれやれだね…。って事は終わったのか」
胸をなでおろす琉嬉。
「らしいな」
「緋瑪斗!緋瑪斗!大丈夫かー!」
竜が中に入って倒れている緋瑪斗を抱き起こす。
「う…う?」
後から入って来た月乃達。
「ヒメ!大丈夫!」
「茜袮さんも大丈夫かい」
昇太郎が茜袮も体を支えて起こす。
「私は大丈夫だ。緋瑪斗の方を頼むよ」
「しかしですね…」
「茜袮の方はこちらで見る。お前達は緋瑪斗の方を」
由愛自らが茜袮を介抱しに来る。
「しかし…成功したんですかね?」
「まあそうだろうな」
「ねえ、緋瑪斗の髪の色が…」
未弥子が先に言い出した。
というより最初に、冷静になって気づいたようだ。
緋瑪斗の髪の色が赤かったのが、黒色になっている。
いや、黒色に赤色が混ざったような、赤黒の縞々のような奇抜な髪の色になっている。
「おい、緋瑪斗!大丈夫か!生きてたら起きろ!」
「ううぅん…大丈夫だよ…」
「おう!そうか!良かったぜ!」
そういう竜が緋瑪斗をなぜか抱きしめる。
「こら…気持ち悪いよ…」
突き放す。
だが竜は尚も離さないようにする。
そして右手が何か柔らかい物を掴んだ。
むにっと。
「あ、あれ?」
何かに気づいた。
竜の手は緋瑪斗の胸を触っていた。
「お、柔らかいぞ?緋瑪斗?…って事は?」
「ちょ、離れなさいよ!アンタ!」
未弥子が竜を突き飛ばす。
どこにそんなパワーがあるのか。
見事に竜の大きな体が引っくり返った。
「ヒメ!怪我してない!?」
そして未弥子の前に月乃が割って入る。
「大丈夫だよ……、あ、あれ…?」
緋瑪斗が立ち上がろうとした。
しかし、目の前が真っ白になった。
すると緋瑪斗は意識を失った。
暗い――。
でも少しだけカーテンが開いている。
そこから溢れている、眩しい光。
光と言っても、オレンジ色だ。
「……あ!俺…どうしたっけ?」
ガバッと起き上がる。
そして見回す。
が、誰もいない。
静かな部屋。
寝泊まった部屋のようだ。
「………どうなったんだ?」
敷かれた布団から立ち上がる。
そして自分の体を確かめる。
「……あれ?」
柔らかい物ふたつ。
ぽよん。
胸には大きな膨らみ。
「あれ?あれ?」
頬を触る。
特に変化ない。
「……」
あまり深く考えずに履いてるズボンを、少しだけ脱ぐ。
そして下着の中を確認。
「あ。やっぱり…ない」
恥ずかしさのあまり体が熱くなる。
「まじか…まじか!」
近くにある自分のリュックサックから取り出す、手鏡。
そして自分の顔を確認する…が、元から男の時からもそんなに顔が変わってないので違いがあまりないように思える。
だが一番の違いは髪の色の変化。
ついさっきまでは真っ赤だったのに、黒い。
黒いが所々に赤い色がある。
「なんだこの髪の色…まさか失敗したのか?」
そう思い、右手に少し集中してみる。
すると……。
「のわー!」
「な、なんだ?緋瑪斗か?!」
竜がまたもや勢いよく動き出す。
「ちょっと…私も行く!」
月乃も負けじと走り出す。
「忙しい子達ね」
玲華が重い腰を上げるように立ち上がる。
「だね」
昇太郎が未弥子の背中をぽんと叩く。
「解かってるわよ」
促されるようにして未弥子も嫌々立ち上がる。
そして部屋から出て行き、寝ている緋瑪斗がいる隣の部屋へ向かった。
「お前様は行かないのか?」
ピコピコと來魅はスマホでゲームをしている。
「んー、そこは月乃達に任せておこうよ」
「ふむ。面倒くさがり屋だのう」
ぴょんっとジャンプして座っていた椅子から降りる。
「私も気になるから見て来るぞ」
「はいはい。いってらっしゃい」
「火が…出た」
呆気にとられる緋瑪斗。
力は完全に渡した筈だ。
そう思ってたから。
「ヒメ!起きた?!大丈夫?!」
「わぷっ」
思いっきり抱き着く。
そして勢いよく布団の上に二人共ダイブ。
「埃舞うでしょ。まったく…」
未弥子が二人を起こす。
竜は…というと、外で転んでいた。
急ぎ過ぎて足がもつれたようだ。
「竜って…飽きさせないわよね~」
「…悪かったな。根っからのお笑い枠でよ」
「拗ねるなよ」
バッチリ画像を撮っていた昇太郎。
「起きたか。緋瑪斗」
後から入って来た茜袮。
茜袮は前と変わってないように…思える。
しかし心なしか、以前とは違う活気に満ちた目になっているようにも思える。
「あの…俺、失敗したんですか?!だってまだ炎が出せるし…」
「いや、「成功」したぞ。力は戻った」
茜袮は成功と言う。
その茜袮の右手人差し指には火がともっていた。
「ただ、半年以上も力が使えずに鍛練怠っていたせいか、うまく使えないがな。
いわゆるブランクってやつだな。
情けない話だが……お陰様で力は戻った」
「そうですか…良かった」
ヘナヘナと、その場に座り込んでしまう緋瑪斗。
「ふむ…良かったのう、焔族の娘よ」
「恐縮だ」
來魅は同じ妖怪仲間として喜びを讃える。
「はは、本当、良かったよ…」
緋瑪斗は安心したのか、涙が出ている。
「泣いてるの?ヒメ?」
「あ?いや…そんな…」
涙を指で拭う月乃。
「フツー逆じゃない?それ」
「え?そ、そう?って…琉嬉さん」
結局琉嬉もやって来た。
「なんだ、来たではないか琉嬉よ」
「なんか仲間外れになるのも嫌で」
少し頬が赤い。
照れてるようだ。
「琉嬉さん。茜袮さん…成功はしたけど…俺…結局戻れなかったのかな?男にも…人間にも」
「緋瑪斗…」
力は茜袮に戻った。
しかし、緋瑪斗は女のまま。
そして、力もまだ使えるようだ。
「厳密には、大多数の力は茜袮に受け渡したようだ」
「族長」
「だが…僅かながら緋瑪斗に素養があったのと…おそらく素質もあったのだろう」
「どういう事ですか?族長」
由愛は茜袮の肩に手をつく。
そして、優しく頬を寄せる。
「…いやはや、普通の人間だと思っていたが…緋瑪斗、いや緋瑪斗だけじゃないな。
お前達は本当に面白い者達だ。
茜袮を救ってくれた事に感謝する。ありがとう」
頭を下げる由愛達。
「いえ、そんな…」
「一件落着ってところか?ただ、肝心の緋瑪斗が完全には戻れなかったのが残念だったけど」
琉嬉が痛い所を突く。
そしてその場が静まり返る。
「い、いやいや、大丈夫ですよ。
大体…あまり期待はしてなかったですから。
ま、戻れなかったのは残念かもしれませんけど…一番の目的は茜袮さんに会う事でしたから」
悔しい気持ちは勿論ある。
でも、当初の目的のひとつは達成した。
それだけでも清々しい気分だ。
それに変化があったのは髪の色。
元の黒色…には完全に戻れてはいないが、前みたいな派手な感じではない。
とも言いたいが結局、黒基調に赤い部分が至る所にある。
「なあ、これって逆に目立たないか…?」
「う……どうしよう…」
「染めれば問題ないと思うけどなあ…でもやっぱ地毛なんでしょ?」
「こら!脱がすな!月乃!」
ズボンを脱がそうとする月乃。
「やめなさいっ」
ズビシッと未弥子が月乃にチョップ。
「いったぁい…」
「おー、琉嬉直伝のちょっぷだ」
「あんたもうるさいわよ」
來魅を睨む。
「おおっ、こわっ」
「しかしまあ…オレ達の「姫様」はお優しい事で」
「姫って言うな」
「名前が「ヒメト」なのだから仕方なかろう?」
「茜袮さんまで…」
がっくりと項垂れる。
「姫様ねぇ…。しっくりくるような来ないような…いろんな意味で面白いな、緋瑪斗って」
「俺が面白いってどういう意味ですか…琉嬉さんまで~」
なんだか違う意味で泣きそうな顔している。
「にしても、疲れたよね。なんだか。何もしてないのに」
昇太郎がぼやく。
「本当ねぇ。昇太郎君の言う通りね。特に何かしたって訳じゃないのに…こんなに待つ事が辛いなんて」
「はは、ごめんごめん。玲華も心配かけたな」
「んふふ。そうね。もう心配かけちゃだめだぞ」
ぷにっと、右頬を軽くつねる。
「く…なんだろう…同い年なのになんか年上に感じる…」
「そうだよね。玲華ってスーツ似合いそうだしね。OLさんって感じ?」
「あらやだ。そんなの大人っぽいかしら?」
「年増に見えるのか嬉しいのか?」
皮肉込めた言い方する竜。
「まあ、子供っぽく見られるよりはいいかなとは思うけど」
「なんで僕を見る?」
琉嬉が玲華の目線に気づく。
「あらやだ。私は別に琉嬉さんの事を言ってる訳じゃないですよ?」
「…笑顔でドギツイ事言うな…お前」
逆に呆れる琉嬉であった。
外は綺麗な夕暮れが見える。
どうやら朝から晴れ模様だったのが良かったのだろう。
起きた時に差し込んでた光の正体。
夕暮れ時の綺麗な夕陽だったようだ。
「んー。綺麗な夕焼けだね~」
月乃が背筋を伸ばしながら言う。
緋瑪斗と月乃は二人でその辺を歩いていた。
他の者はホッとしたのか、疲れがどっと出たらしく今はおとなしく部屋に居る。
ちょっとだけ散歩…という名目で二人だけで歩く。
いつもなら未弥子や竜が邪魔しに来るかもしれないのだが、運よく今は姿が見えない。
「ねえ、ヒメ」
「はい?」
「…いい顔になったね」
「いい顔…?そう?」
「そうだよー。いい顔」
そう言うと月乃は緋瑪斗の両頬を両手で挟む。
「むぐゅ…にゃにするんだゃよ…」
「吹っ切れたような、自信に満ちた顔。かっこいいぞ」
「むへっ」
面と向かって恥ずかしい言葉を気にせずに月乃は真顔で言い切った。
時折見せる、考えなしの天然な行動。
でもそれは昔から知っている。
知っている月乃の言動だ。
「力入れ過ぎだっての…ブツブツ」
小さな声で文句をとやかく言う緋瑪斗。
「でも正直ヒメが女の子のままでもいいかなあって思ってた」
「へ?」
「男の子に戻らなくてもいい、なんて思ってた。
でもそれじゃ…本当のヒメじゃないんだって、心の奥にあって…どっちのヒメがいいとか、
そんな事考えちゃってた」
「月乃……」
「でもね、今はそんな事どうでもいいの。男だろうが女だろうがヒメは、緋瑪斗は緋瑪斗なんだって」
普段ヒメと略したあだ名で呼んでいた月乃。
ここにきて「緋瑪斗」と、フルネームで呼んだ。
月乃からの呼び方に少しドキッとした。
「あ、でも女の子の方が可愛いからいいんじゃない?」
「あのなぁ…。俺はこう見えてもダンディな紳士な男に憧れを持っててな…」
「嘘だぁ。本当にぃ?」
「ほんと」
「じー…」
なぜか口に出して緋瑪斗の目をみつめる。
「な、なんだよ?」
「男の子の時から可愛い顔してたくせに~」
「それは昔の話だろ?!なんだって急に…」
「どうかなぁ?だってゆき兄だってみのちゃんだって、どっちかというと可愛い顔してるよね?」
「ゆき兄はどうか知らないけど…稔紀理はよく女の子に間違えられてるな」
「でしょー?イケメン兄弟の名は伊達じゃないね」
「誰が呼んでたんだそれ…」
案外緋瑪斗は知らない。
密かに兄弟揃ってそう言われてた事を。
「ね?今日はお話しない?茜袮さんも入れて。みんなで…」
「え?ああ、うん…いいけど。なんで?」
「私の知ってるヒメの事や知らないヒメの事知りたいし」
「好きだね…女の子ってトークが」
そういった部分がまだ理解しきれない緋瑪斗。
まだまだ女性としての器が足りてない…なんて自分で思った。
「僕らの役目は、ここらで終わりかな」
琉嬉は昇太郎と玲華にそう伝える。
「役目が終わり?なぜですか?」
「元々はあの沢村刑事から来た話だからね。たまたまだったけど。
でももう大丈夫だよ。
お前らは強い。
勿論緋瑪斗も。
竜とかもその辺のヤンキーより強いだろうし」
「ふふ、単純な腕っぷしの話ですか?」
「ま、それは軽い冗談としといて。ここまで来たからにはもう何も怖くないだろうね。
お前達6人の絆は、強い。間違いなく。
僕も力を貸したけど、多分これからはもう必要ないと思うよ」
ここまで言い切る。
琉嬉にしては珍しいくらいに、褒める。
ぽふっと、敷かれた布団に胡坐をかいて座る。
つられるように昇太郎と玲華も座る。
6人のうち、常識あって理解力が高い二人。
琉嬉はその二人を選んで話す。
「でもまあ…必要とあらばまた力貸すけどさ」
照れくさそうに言う。
「じゃあじゃあ、また妖怪とかの話聞かせてください!非常に興味あります!ふかしぎ部の話とか!」
昇太郎は別の興味を示している。
「のう、お前様よ。こやつらを一度ふかしぎ部とやらの者達に合わせてみたらどうだ?
にぎやかになるぞ~?」
「うへぇ…ただでさえ大人数なのに」
どうなるのか、想像が出来る。
「でも、さ。本当の話さ。多分、僕らの力を頼らなくても、きっとこれからは緋瑪斗の力だけで…。
緋瑪斗達の力で物事解決出来るんじゃないかって、思う。
それだけ、お前達は、強い。
この僕が言うんだから間違いないからなっ」
ビシッと人差し指を立てて銃を撃つようなポーズ。
「そうだといいんですけどね~。なんせ、相性がいいのか悪いのか分からない人達だから」
「月乃と未弥子さんと竜の事?」
昇太郎が会えて名前を出す。
すると突然バタンッと、戸が開く。
「ねえねえ、みんな集まるよ!」
月乃だった。
なぜかテンションが凄く高い。
「ほら、琉嬉さんと來魅ちゃんも来て!」
「…なんだなんだ?」
「こういう時の月乃は面倒だから…おとなしく従いましょ?」
「やれやれだね。本当に」
渋々立ち上がる玲華と昇太郎。
「結局最後まで僕らを巻き込むのか…」
「いいじゃないか。こんな結束力の高い者達に歓迎されてるという事は、いい事だぞ」
「ヘイヘイ…どこまでも付き合いますよーだ」
真夜中まで続く、緋瑪斗を中心とした話。
幼少の頃の思い出。
最近の話。
琉嬉達に会った時の話。
その他もろもろ。
ずーっと話をしていた。
そして、みんなが疲れ切って寝はじめた頃。
茜袮から呼び出された緋瑪斗。
その場所へ向かう緋瑪斗だったが、ちょっとだけ不安を感じていた。
折角会えたのに、明日にはもう別れるとなるだろう。
何とも言えない、妙な気分。
数回しか会った事ないのに…心の中から消える事なかった相手だ。
「茜袮さーん…どこですかー?」
呼び出された大きな建物の中。
暖房がないので冷えている。
「上だ、緋瑪斗」
「へ?」
声がした。
声が聞こえて来た上を向くと、蝙蝠のように逆さまになって天井にくっついてる茜袮だった。
まるで忍者のように。
「な、何やってんですか?茜袮さん?」
驚く。
「いや、緋瑪斗から授かった力だが…ほぼ完璧に近いな。
驚いたよ、まったく」
バッと派手な音を立てて地面に着地する。
「でも…俺、まだ力残ってるんですよ。さすがに前よりは大きな力使えなくなってますけど」
集中すればまだ火を出せる。
なのだが、全力でやっても、前ほどの火力はない。
本当に、僅かな力となった。
「不思議だな。私の場合は完全に力は無くなったんだ。だが、緋瑪斗はまだ力を持っている。
それがほんの小さな力でもな」
「ですよね…。なんでまだ残ってるのか…。男に戻れなかったのにも理由があったりするのかなあ?
でも戻れる保証は元からなかったし…ううむ…」
「考え過ぎるな。禿げるぞ」
「は、はげ?ひぃ!」
「はは、冗談だ。でもよく言うではないか。考え過ぎると禿げると」
「…それ、妖怪の中でも有名なんですか?」
「私は感謝してるぞ。だが、戻れなかったのは残念だったな…すまない」
「謝る必要ないですよ。茜袮さん」
茜袮の両手を掴む緋瑪斗。
「会えただけでも嬉しいですし、茜袮さんの力が戻ったのも良かったです。
それに、俺にまだ力が残ってるなんてラッキーじゃないですか!奇跡ですよ奇跡。
女になったのも奇跡!そう、全部奇跡なんですよ!」
奇跡連呼。
でも奇跡なのは事実だろう。
あらゆる可能性があり、そして現実となった今。
まさに奇跡このうえない。
「そういう前向きな考えが強い所が緋瑪斗なんだな。優しいな、本当に」
「やめてくださいよ~。優しいとか…恥ずかしいです」
「ふふ。ふふふふふ。可愛いな」
優しく抱きしめる。
まるで母親かのように。
「あはは、すみません…俺なんかのために…本当に、命助けてもらったのが一番嬉しいです。
じゃなきゃ、月乃達とこんなに一緒にいなかったし、琉嬉さん達にも会えなかったし。
そして茜袮さんに出会えた。
運命って、変えれるのかなって思った。
それくらい、これまでの半年間思いました。
俺、幸せ者です!」
緋瑪斗の目には涙が浮かんでいた。
ポロポロと、涙が、溢れて来る。
「あれ?なんで俺…こんなに泣いてるんだろ?おかしいですよね?あはは…」
「疲れただろう?今はもう休め。そうだ、私を姉だと思ってもいいんだぞ?
同じ力と、血肉を持つんだからな。
さすがに母親……とは言いたくないからな。
たしかに年齢は15歳以上離れているが」
「やっぱそうですよね」
涙を流しながらも笑う緋瑪斗。
「今度お前の所に行くぞ。緋瑪斗の兄弟や親達に会いたいからな。
族長には許可をもらって…きっと、いつか。
近いうちに………。
だから、今は、もう休め。
大丈夫だ。私がいるし、お前には立派な、信頼ある仲間達がいるだろう?
緋瑪斗の人生は、これからだ……」
慰めてるのか、自分でも何を言ってるのか途中から分からなくなってくる。
実際、茜袮自身も不安が沢山あった。
それが一気に解放された。
茜袮の目にも涙が沢山溢れていた。
「今は緋瑪斗にも、私にもまだ生きていく権利がある。
だから…それを忘れずに……感謝してるのは私の方だよ。
緋瑪斗…」
あっという間の二日間が終わりを告げた。
長いようで短いようで。
いろいろあった。
そして――――。
「お世話になりました」
「なんのなんの、久々の客で楽しかったよ」
「由愛さんもありがとね」
軽い言い方する竜と琉嬉。
「茜袮さん。今度は俺達を訪ねてきてくださいね!みんな待ってますから!」
「うむ。期待しているよ」
「じゃ、行こうか」
緋瑪斗が別れの挨拶を終え、あっさりと言う。
「随分あっさりじゃない?」
「そうね。でも戻れなかったのは残念ね」
「そう言って本当は嬉しいんじゃないの?未弥子さぁん?」
「月乃~。また殴り合う?」
「おいおいやめろよ。最後まで喧嘩かよ」
「あんたが言うな!」
月乃未弥子のダブルツッコミ。
「お、おおう…?」
たじろぐ。
「情けな…」
昇太郎が笑いながら言う。
「グダグダするのも迷惑だし、そろそろ行きましょうか?」
「玲華の意見に賛成~」
「さんせい~」
琉嬉と來魅が力なく同意する。
「うむ。しっかりとな。元気でな」
「はい!茜袮姉さん!」
「ね、姉さん?」
一斉に皆が驚く。
突然呼び方が変わったからだ。
「どういう事?」
「え?いや、さすがに母親は嫌だって言うから…茜袮姉さんが」
「こら、余計な事を言わなくていい」
「ふふ、じゃあ、また!茜袮姉さん!」
「ああ、またな…」
両手一杯元気よく手を振る緋瑪斗。
そして、緋瑪斗達の姿が小さくなる。
行きと同じように、箕空が帰りの案内をする。
「行ってしまったな」
「ええ」
「茜袮よ。良いのか?箕空の代わりに見送りに行っても良かったんだぞ」
「いえ、それは…いいです。余計に、別れるのが辛くなりますから」
「ふむ。相変わらずそういう部分は頑固だな。真面目というか、ひねくれてるというか」
ニコッと、笑顔を見せる茜袮。
普段笑顔をあまり見せない。
そのせいか、由愛が一瞬驚いたような表情をする。
「さて、力も戻った事だし、また働いてくれるか?今度はあまり無茶をしないようにしてやるからな」
「大丈夫です。なんか、前より強くなった気がしますから」
胸元に手を当てて、何かを思い浮かべてる。
「強くなった?まさか…あの者に宿っていたからか?」
「さぁ…それは分かりませんが、そんな気がするだけです」
「ふむ?よう分からん。まあいいか。じゃ、早速…右腕としてまた働いてもらうぞ」
「はい!」
(しかし…姫か…。焔一族の姫……。
面白い話だ。
茜袮は直系。
偶然なのか、それとも…はたまた……。
普通の人間がここまで強いモノだとは思っても無かった。
茜袮よ、いい者に出会えたな)
由愛は茜袮の後ろ姿を眺めて、何かを思い出していた様子だった。




