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第23話 いざこうなると怖くなるんだ。

 ついに、出発の日を迎えた。

年明けて5日後。

まだ正月気分が抜けきらない…とも言える。

緋瑪斗らはこれから空港に向かうため電車で空港へ行く。

「んー。結構晴れたねー。寒いけど。ヒメ、本当に大丈夫?」

「大丈夫だから。心配性だな月乃は」

 寒そうな恰好はしていない筈だと思う緋瑪斗。

黒めの帽子にベージュのコート。

おそらく女性用の。

月乃らも暖かそうなコート姿。

「はいはい。朝からラブラブね」

 二人の中に割り込んでくる未弥子。

「何よー未弥子~」

「ほら、立ち止まらないで早く行きましょ」

 玲華が3人の背中を押すように歩くよう促す。

「やれやれ。で、先ずは…琉嬉さんと合流しないと」

 昇太郎はスマホ片手に先頭に立って先導する。



「みんな、準備出来た?」

 駅内で琉嬉が緋瑪斗達を出迎える。

わざわざ北神居町の駅まで来てくれた。

と言っても、隣の駅なので近いのだが。

隣には來魅と呼ばれた琉嬉よりもちょっと小さい子供。

妖怪らしいが、緋瑪斗達は未だに妖怪だと思えない。

「いよっ、子供娘」

 竜が軽快に挨拶をする。

「やおー」

 琉嬉の代わりに來魅が挨拶する。

「ところで、緋瑪斗、寝れた?」

 華麗にスルーをして緋瑪斗を気に掛ける。

「あ、うん…大丈夫です」

「そ。ならいいか」

「はは、スルーされたね。竜」

「うるせぃ」

 昇太郎が肩を叩いて慰める。

「なぁに、琉嬉はいつもの事だ」

「…子供にまで慰めたら俺……凄く悲しい」

「これで揃ったのかしら?」

 辺りを少し見回す玲華。

まだ年明けのせいか、人通りが多い気がする。

いや、実際多いのだろう。

まだ休みの人もいるだろうし、若い人が多い。

学生は冬休み中だからだ。

「や、まだだね」

 琉嬉が否定する。

まだ誰か来るのだろうか。

誰しもが思った。

「他に誰かいるの?」

「んーと、一応の案内人?どこにいるのやら…」

 一応の案内人…などと、少し自信無さげな言い方。

「あ、いたいた。おーい、こっちー!」

 珍しく声を張り上げる琉嬉。

手をおもいっきり振って場所を示す…が、小さくて分かりにくい。

「よっと。これなら分かるだろ?」

 竜が琉嬉を持ち上げて高い高いするような形を取る。

「……お前後で殴る」



「すみません、少し遅れました」

「珍しいね。寧音しづねが遅刻なんて」

「…ちょっと夜遅くまで……アニメ見てたら…」

「……まぁいいや。んで、こちらが緋瑪斗達…一度会った事あるよね?」

 琉嬉が寧音と呼ばれる少女を紹介する。

夜栄守やさがみ寧音。

琉嬉の同級生で、今回一緒に途中まで同行するという。

緋瑪斗達も一度見ている、眼鏡をかけている。

広がるようなおかっぱぽい髪型した子だ。

ただ、髪の色がちょっと灰色のように明るい。

「あ、どうも…狗依緋瑪斗です」

「話では聞いてます。半妖になられたとか……」

「あ、そ、そうです…」

「…思ったより可愛らしい人ですね。琉嬉さんと一緒に武術の稽古してたというから…。

てっきりゴツゴツしたゴリラみたいな方かと思いました」

 にっこりと微笑んではいるが、少しえげつない言葉。

その妙なギャップがじわじわくる。

「あ、あはは…」

 変な笑いが出てくる。

(女の人に可愛いと言われるとなんかこそばゆいや…)

「で、この人がなんで案内人なのかしら?」

 未弥子が相変わらずの態度で琉嬉に問う。

どこ行っても強気な態度だ。

「いや、だって君らも僕らも行った所ない土地に行くんだよ?

それに宿代浮かすために、無理言って寧音の親戚の家に泊まる事にしたんだし」

「いいんですよ、私も丁度夜栄守家の新年会に顔を出さないといけないし」

「…夜栄守家って言い方だと…もしかしてお嬢様か何かですか?」

 何かピンとくる昇太郎。

「いえいえ、全然違いますよっ。別に金持ちって訳でもないですし、至って普通に暮らす庶民です。

ただ本家の家柄が特別なだけで」

「んー、本家っていう言い方の時点で結構な特別だと思いますけど…」

 月乃が少し驚きの表情で言う。

「そうね」

「ほら、電車来たよ」

 緋瑪斗が指差す。

丁度電車がやってくる。

いいタイミングだ。

「やれやれ…話はゆっくり移動しながらでも聞こうぜ」

 珍しく大人っぽい振る舞いする竜。

「いこいこ」

「あ、おおい…待てよ~」

 そしてやっぱりスルーされる。

「ふむ。ふかしぎ部とやらとも負けない賑やかさだの」

「まったくだね」




 飛行機に乗り込む緋瑪斗達。

「これが飛行機か~すごいのう~」

 とか、

「おおぉー、文明の発達とやらは凄いのー」

 などという子供の声が響き渡る。

琉嬉と一緒についてきた妖怪だという來魅のはしゃぐ声だ。

緋瑪斗らは正直、まだ半信半疑。

見てくれは髪の色が派手な外国の女の子みたいにしか見えないからだ。

顔つきは…どっちかというと日本人ぽいのだが。

「ねえ、あの子供はなんなの?一体?」

 露骨に嫌そうにする未弥子。

「仕方ないよ…琉嬉さんが連れて来たんだから」

「だからって…」

「でも…これから行く所は「妖怪」が住む所なんだから…用心に越した事はないと思うよ」

 昇太郎が後ろの席から顔を覗かせ言う。

「妖怪たって…いまいちピンと来ないわよ」

「たしかに。未弥子が言うのも無理ないわよね」

 さすがの玲華も未弥子の意見に同調する。

「難しいこった考えるな。見て現実を噛みしめばいいんだよ」

「あら、竜のくせに大人な意見ね」

「何も考えてないとも取れるけどね」

 緋瑪斗と月乃のツッコミ。

「はは、緋瑪斗。解かってるな。オレの事を一番理解してるのは緋瑪斗だけだ」

 そう言って緋瑪斗の頭をわしゃわしゃと撫でまくる。

「こら、髪が崩れるだろ」

 力強い腕を片手で止める。

「……これが普通の女の子だったら完全に嫌われてるよね」

 月乃は大きくため息を吐いてゆっくりと深く座る。


「琉嬉さん。焔の里とはなんですか?」

 琉嬉の同級生の寧音。

あまり深い話を聞いてない様子だ。

「いや、僕もあまり詳しく知らない。文献にもほとんど記されていないみたいだし」

「…そうなんですか……。しかし…」

 チラっと緋瑪斗の方を見る。

眼鏡がキラっと光る。

視線が危ない。

緋瑪斗も気づき、慌てて目線を外す。

「フフ、可愛らしいですよね。元が男性とは思えません…」

「良からぬ想像するなよ」

 ぺちっと寧音のおでこを軽く叩く琉嬉。

「いたぁい…。何するんですかぁ」

「僕らはあくまでも手助けだけ。「後の始末」は、本人に任せるしかないさ…。

これも出会ったが運命…ってかっこよく言ってみるけどさ」

「……本当にお人好しですよね、琉嬉さんって」

「うるせい」

 かくして、一向は飛行機で旅立ち、先ずは宿泊先へ向かうのだった。




 プルル、と着信音が鳴る。

既に時代から取り残されつつある折り畳み式の携帯電話。

その着信した携帯を手に取るのは、緋瑪斗を診た医者の朝田。

少し暗がりの病院の一室。

「はい、なんですかー?」

 少し面倒そうに電話に出る。

『…俺からだと不満かい?』

 声の調子で察したようだ。

電話の主は沢村刑事。

「いやはや、そんなわけないじゃないか」

『……まあそれはいいとして、聞いてるとは思うが』

「ああ、うん。聞いてるよ。なんでも狗依緋瑪斗君を妖怪にした張本人に会いに行くとかなんとか…」

 朝田の耳にも入っていた情報。

どこから仕入れいたのかは分からないが。

裏中の裏の話をも自分の所へ持ってくる力があるようだ。

「で、どうかしたのかな?」

『いや、何か思うところでもないのかなって』

「いやはや、なんであれ僕の患者さんだった子だよ。そりゃ心配さ」

『嘘くせー』

「まったく、失礼な刑事さんだね」

『疑うのが仕事だ』

「たしかに。疑うのが仕事ねぇ…。医者も同じさ」

 意味ありげのような無さげのような。

曖昧な言い方をする。

「君もわざわざ電話してきたって事は心配なんだろ?」

『10%くらいな』

「…?ほとんど心配してないって事?」


 朝田は携帯を持つ逆の手で、コーヒーカップを手に持つ。

湯気が出ていないのですっかり冷めてるようだ。

『琉嬉ちゃんがついて行ってる』

「……ああ、あの五大家の」

『そうだ』

 五大家。

何の話なのか、見えてこない。

しかし二人はその呼び方を知っている様子。

「それならば心配はあまりないか」

 納得する朝田。

そしてそのままゆっくりと椅子に腰掛ける。

コーヒーを置いて何かの資料に目を通し始める。

『どう見る?』

「どうって……所詮僕はいっぱしの医者だよ?大きな目測しかたてれない」

『そっか』

 そう言って電話の向こうは静かになる。

「一応さ、こちらも仕事中なんだけど…他に何か用あるのかい?」

『仕事あるだけ羨ましいぜ。こちらは暇な部署の特係様だからな』

 自虐的に言う。

「…僕に聞いても何も分からないよ。ただ、緋瑪斗君が戻れるとかそういうのは人間レベルの話じゃどうしようもないからね」

『行ってみないと分からないってコト……か』

「そういうこっと」

 ペンを持ちそのまま資料に何かを書き込む。

『やれやれ…柄じゃないけど祈るだけしか出来ねえやな』

「祈るか……。ふふ、そうかもね」


 長い昼。

天候は晴れ模様。

窓を開けて、外の空気を吸う。

一層冷たい空気が身に染みてくる。

(ほんと、奇妙な運命に魅入られた子だ…。狗依緋瑪斗君って子は)



「着きましたね」

 いち早く駅から出て来たのは昇太郎。

キョロキョロ見回す。

「やっぱ、暖かいね~」

 月乃が上着のコートを脱ぐ。

「あったかいって言っても…寒いのには変わりないけどね」

 琉嬉が後ろから遅れてやってくる。

「本当だ。そんなに寒くないや」

「無理をしちゃいけんぜ、お姫様」

 荷物を抱えながら竜が緋瑪斗の後ろから出てくる。

「だからお姫様はやめろってー」

 昔から斜めについてからかわれる。

お姫様だとかおてんば姫とか。

普段は月乃や竜の方が目立つから緋瑪斗は目立つ事ないが、一緒になってやんちゃしてたりする。

なので名前からもじられて元気なお姫様とか言われたりする。

小さい頃は女の子っぽい印象もあったせいもある。

今は女なので尚更言われる事が多くなってきた。

「…お姫様か。ふふ」

 その様子を見て少し笑う琉嬉。

「な、なんですか、琉嬉さんまで…」

「いや、お姫様なんて言われた事ないからねー。僕は」

「普通は言われないと思いますよ?」

 玲華も会話に入るように言う。

「そうそう。ヒメが「ひめと」なんていう変わった名前してるから」

「月乃までー」

 嫌そうな顔する。

「いいんじゃない?僕なんて良く男の子っぽい名前だねって言われるし」

 どうみても少女にしか見えない琉嬉が言う。

「そうですよー。妹さんも男の人っぽい名前ですからね」

「へぇー。そうなんですか」

 などと、名前の話題で盛り上がる。

「どうせ私は普通の名前です」

 なぜか機嫌悪い未弥子。

「はは…」

 愛想笑いするしかなかった。




「着きましたよ」

 寧音の道案内で辿り着いた所。

階段が続いてる。

見上げるくらいの長さだ。

「ゲッ、ココ登るのかよ?」

 辛そうに言うのは荷物を抱えた竜。

他の者の荷物も持たされてるからだ。

緋瑪斗が思いっきり見上げると鳥居が見えた。

どうやら神社のようだ。

「あ、遠回りすれば車でも参拝に行けるようなスロープがありますよ」

「まじか、じゃあそっちに行くか」

「私も行くわ」

 玲華も荷物の一部を竜から受け取る。

「俺も行くよ」

「あら、いいのよ。緋瑪斗君は」

「いや、なんか悪いよ」

「あのさ、どうせならみんなで行かない?」

「そうね。階段登るの大変だし」

「そゆこと。寧音案内よろしく」

「…若いもんがなんとまぁ…」

 來魅もさすがに呆れた。



「こんにちは~。寧音でーす」

 大きな社の近くにある、これまた大きな建物。

古くからあるアパートのような建物だ。

表札?には「あまのがわ荘」と書いている。

一見寮のようにも見えるがどうやらよくあるアパート系の建物のようだ。

「…これ、アパートじゃね?」

「みたいだね。しかし綺麗な所だなぁ」

 どこから出したのか。

昇太郎は辺りをデジカメで撮影を始める。

「おいおい…昇太郎…」

「はぁーい」

 緋瑪斗の声をかき消すくらい大きな女性の声。

出て来たのは眼鏡をかけた、長い髪の同じ年くらいの女の子だった。

長い髪を一つに三つ編みに束ねている。

ちょっと地味っ子な雰囲気だ。

ただ、分かるのはスラっとして平均より少し高め身長にスタイルが良い。

「あ、あれ…らみるさん?」

「あれ?寧音…ちゃん?てか、後ろの人達は誰?」

「あ、いえ、数日間お節介になると伝えて置いたんですけど…?」

「なんだなんだ?」

 緋瑪斗達は少し不安になる。

どうやら情報が行き届いてない感じだからだ。

「???はて…」

 不思議そうな顔をする寧音。

寧音が分からなければ緋瑪斗達ももっと分からない。

「ええと……、どうしよう。流奈達いないし…」

「えと、らみるさん以外誰もいないんですか?」

操橙みさとちゃんしかいないしなぁ…。みんなして買い物行っちゃった」

「そうなんですか」

 何やら不穏な空気。

着いた途端、どうも怪しげ状況だ。

「ちょっとぉ…大丈夫なの?」

 イラつく未弥子。

言い方もトゲトゲしい。

「まぁまぁ…」

「ちょっと操橙ちゃんに聞いてくるねっ」

「え?ちょ…」

 そう言ってらみると呼ばれた女の子は寧音らを玄関入口で残して奥へ行ってしまった。


「遅くない?」

「まだ2分だよ」

「細けぇなあ…昇太郎はいっつも」

「竜が大雑把過ぎるんだよいつも」

「んだとコラ?」

「ここに来てケンカしないのよ」

「これだから学校一の問題児は…」

「なんだと未弥子ー?お前に言われたくないんだけどなあ?」

「やる気?」

「…やれやれ」

 髪を指でいじり倒す緋瑪斗。

玲華もただニコニコしてるだけ。

「おー、やっぱ鞍光とは違う植物が生えてるのう~」

 來魅は來魅で外で何やら独り言のように何か喋ってる。

「…緋瑪斗も大変だね。毎日こんなやり取りしてるんでしょ?」

「え、ええ…まぁ…。でも慣れますよね。こんな事を10年くらいやってるんだから」


 そしてようやく待つ事1分程。

戻ってきたらみると呼ばれた女の子。

そして後ろからパタパタと一緒にくっついてきた小学生くらいの女の子。

「あ、あの…ごめんなさい。私聞いてなかったから…。

さっき操橙みさとちゃんに確認したら操橙ちゃんも知らないって言うから、

んで、勇雲いさもさんに確認したら沢山お客さん来るのは聞いてるぞって言ってたから…」

「イサモさんって誰?」

 ジト目で緋瑪斗がぽつりと漏らす。

なんだか早口で言葉の羅列がめちゃくちゃで何を言ってるのか分かりにくい。

なぜか相当焦ってるように見える。

「ええと、ですね…らみるさんは夜栄守家ではなくって、ここに一緒に住んでる別の家系の方なんですよ。

ね?らみるさん?」

 寧音がフォローに入る。

「あ、う、うんうん、そうそう」

 凄い勢いで首を縦に振るらみる。

「やれやれ…本当に大丈夫かコレ…」

 琉嬉はこの先が不安過ぎて呆れ返った。




 そのまま居間に案内される。

寧音と操橙と呼ばれた小学生くらいの少女が全員分のお茶を持ってくる。

家そのものは広く、古めの建物だが中は綺麗にされている。

所々リフォームされてるのか、作りや間取りは昔のままの古い作りだが、壁は新しい。

「ねえ、緋瑪斗。場所とかは分かってるんだよね?」

「あ、ええ。大丈夫です。箕空さんとは連絡が繋がりますんで」

「ふぅむ…。怪し過ぎるけど…緋瑪斗がそう言うなら…」

「ハハ…実は俺も正直不安ですけどね」

「ふむむ…」

 腕を組んで考えてしまう。

「最悪、聞いた情報を頼りに探すという事になるかもね」

「…はい」

 琉嬉と緋瑪斗が今後について話し合っていると、奥からガヤガヤと大勢の声が聞こえてくる。

「なんだ?」

 竜が先にふと振り返る。

すると、大人数の人達。

「あ、おお……」

 急激に増えた人の数に竜が呆気にとられた。

「どうしたの竜…おお…」

 緋瑪斗も思わず同じような反応する。

「……らみる、何?この人ら…?」

「わ、私に聞いたって知らないよっ!流奈りゅうなこそ聞いてないの?!」

「え?俺?」

 流奈よ呼ばれた、ちょっと髪の長めの少年。

その流奈が後ろを振り返り他の者に確認を取ろうとする。

流奈以外はみんな女の子のようだ。

「おーおー、女性所帯ですなあ」

 琉嬉はため息交じりに言う。

なんかどこか見たような光景。

「あー、皆さん!待ってたんですよ!」

 寧音がバンッと両手をテーブルを突き飛ばす勢いで突きつけて立ち上がる。

「…寧音?何してんだ?」

「何してんだ?じゃ、ありません!一応里帰りです!それと…緋瑪斗さんと琉嬉さん達です」

 ババッと紹介するように手を緋瑪斗達に向ける。

「いや、だから俺は聞いてない…」

「あらら、流奈どころか私も聞いてないわねえ…」

 一番年長者だと思われる女性。

「聞いてる?」

「聞いてないよウチは」

「私もー」

 他の女の子達も聞いてないと言う。

「おいおい…大丈夫かコレ?」

 不安になる竜。

「たしかに…」

 さすがの未弥子も変な汗が出てくる。

「えー……と…」

 立ち上がろうとする緋瑪斗。

でも琉嬉が腕の袖を引っ張って、制する。

お茶をすすりながら。

「琉嬉さん?」

「まあまあ、落ち着いて。僕らはお客さんなんだし」

「…そ、そうですか…」

 何回そうですか、と言ったか。

自分が一番の重要人物なのに、あれこれ変な状況を作り出している。

どうももどかしい。

「寧音に任せよ?」

「…はぁ…」



 寧音の説明。

緋瑪斗らの紹介。

いろいろとややこしくて説明してるだけでかなり時間をくう。

どうやら情報伝達が、こちらの家の中で十分に伝わってなかったようである。

一番の責任者だと思われる白髪の年配の男性が入ってくる。

寧音の祖父にあたる人物で、夜栄守勇雲やさがみ いさも

その勇雲は情報は聞いてると話す。

勇雲はどうやら他の家族達に伝えたつもりが伝わってなかったようだと笑いながら話す。


「あ、あの…狗依緋瑪斗です…、ちょっとの間お世話になります」

「わー、小さくて可愛いー」

「ち、小さい…」

「小さいならこっちの方が小さいぜ」

「こら、竜、僕の事はいいだろ」

「本当~、可愛い~」

「ねえねえ、操橙と同じくらいじゃない?」

「本当だー」

「やめろー!」

「こちらは伝説の妖怪の來魅…」

「えー?!まじでー?!」

「可愛いでしょー?」

「…なんちゅう人数……」

 最後に呟いたのは緋瑪斗。

自分のためにここに来たというのにとんでもない人数に膨れ上がっていた。

ようするに、夜栄守家の人達は大家族だった。


 らみるは夜栄守家ではない。

事情があって居候しているそうだ。

寧音の従兄弟に当たる流奈。

姉が二人、妹と弟が合わせて4人。

計7人姉弟。

そのうえ祖父が在宅。

さらに、この日は緋瑪斗達は琉嬉らと合わせて9人。

とんでもない数だ。

「やれやれ…頭痛いわ…」

「気が合うわね…私もよ」

 未弥子と一緒に気が合うと話してる女の子。

侑奈ゆうなという、流奈と双子の妹だそうだ。

二人とも長い黒髪と黒めの服装。

似た雰囲気を持っている。

侑奈も意外と気が強いそうで、未弥子と似てる。


「でも大勢って楽しいよねー?パーティみたい」

 楽しいとはしゃぐ月乃。

「でしょでしょー?いいねー君ぃ」

 月乃と絡んでるのは流奈の姉でショートカットで猫っぽい感じの子。

鈴音りんねという名前。

楽天家でにぎやかを楽しむ性格のようだ。

「なあなあ、お姉ちゃんらどっから来たの?」

 割って入るように鈴音の膝元にぽすんっと座る少し小柄の女の子。

桃嘉とうかという子。

金髪に近いような、明るい髪色をしている。

一見派手目な印象を受けるが至ってヤンキーとかそういう感じではない。

年相応の女の子だ。

「んーとね、私達は北の国から来たんだよ」

「北の国ー?マジでー?雪とかあるのー?」

「あるある。すっごいよ~。背丈くらいまで積もるから」

「マジで?!行ってみたい!」

「そうね~。いつかは行ってみたいねー」

 鈴音が桃嘉の頭を撫でながら言う。

仲良しだ。


「ねえねえ、お兄さん方何しに来たの?」

「そこの赤い髪の緋瑪斗のために来たんだよ」

「へー」

「あと観光も兼ねてるかな?」

 操橙と一緒に居るボーイッシュな女の子…ではなく、男の子らしい。

可愛い男の子は天眞てんま

最初女の子に間違えられてご立腹だったが、竜や昇太郎達と話して機嫌が直っている。


「すみません、本当お騒がせして…」

 頭を下げてるのは玲華。

「あらあら、いいのよ。全部お祖父ちゃんが悪いんだから」

 一番年上の女性。

瑠海るうみという名前で、物腰柔らか。

ゆるふわパーマのロングヘアー。

大人っぽさが感じられる…が、実際はそんなに年上でも無さそうに見える。

まだ大学一年生らしく、そこまで玲華達と年齢が変わらない。

「ハハハ、悪かったて。ちゃんと言ったつもりだったんだがな…」

「操橙ちゃんにしか言ってないでしょ…?話聞く限り」

「いやあ、すまん。本当に」

 両手合わせてあやまるポーズとる勇雲。

「詳しい話は聞いたわ。当人と緋瑪斗ちゃん…くん?」

「くんでいいと思いますよ?だって私が言ってますから」

「あらそう?その緋瑪斗くんから詳しく聞いたわ」

「そうですか…」

「いろいろ複雑なのねえ」

「ええ…」

 ちょっと寂しそうな顔をする玲華。

その玲華の手を暖かい手で掴む瑠海。

「瑠海さん?」

「今日はゆっくりしていってね。おっきいお風呂もあるし、部屋もちゃんとあるんだから」

「ありがとうございます。本当に」

 何度も頭を下げる玲華に対して、優しく微笑む瑠海。

「お礼は寧音ちゃんにね。あの子が偶然にも、貴方達と同じ地域に住んでたから」

「はい。そうですね」

「これも何かの縁ねぇ…。まさか緋瑪斗くんだけじゃなくって…彼方家の人まで…」

「彼方家?ああ、琉嬉さんの事?」

「フフ、貴方達には関わりあまりない話かもしれないけど…その様子だとある程度知ってるわよねえ?」

「勿論。知ってますよ。来る道中で琉嬉さんから細かい事聞きましたから」




「どうすんだよこの人数…」

 居間から続いてる別の小さな部屋。

そこにぼやいていたのは流奈。

「ははは…すみません、俺のためにこんな事になっちゃって…」

「ほらー。緋瑪斗ちゃんがこう言ってるんだからその態度改めなさい、流奈」

 緋瑪斗を庇うようにするらみる。

「ただでさえ元々人数多いのに…こんな大人数の客なんて初めてだぜ」

「それは悪かったね」

 緋瑪斗と一緒に居た琉嬉。

「なぁに。賑やかのは楽しいぞ」

 フォローするかのように言う來魅。

「すみません、流奈さん。でも…」

「わぁってるよ。そこの緋瑪斗っていう子の為だろ。俺だって鬼じゃねえんだ」

「誰も鬼だって思ってないよ」

「うるせえなあらみるはいちいち…」

「夫婦万歳みたい」


 緋瑪斗は自分から現在の状況を説明する。

半信半疑の流奈とらみる。

信じられないような事を言っていた。

それもそのはず。

男から女になった。

そんな話がにわかに信じにくい。

「でも、夜栄守家って…妖怪退治みたいな事してるって…」

「まぁね…。そんなしょっちゅうしてねえけどな」

「私も最初聞いた時びっくりしたよー」

 らみるも驚いたように言う。

元々そんな話知らずにこの家に来たと言う。

「でも、たしかに女…だよな?」

 流奈は緋瑪斗を改めてゆっくり見る。

「その目つき怪しいから」

「バカ言うな、そんな意味じゃねえって…」

「あ、いえ、大丈夫ですよ俺は。慣れてるし…」

「慣れるっていうのも変な話だね…」

 琉嬉が呆れる。


「で、この小さいのが彼方琉嬉?と、來魅?」

「おう、よろしくな」

「小さいは余計だ」

 琉嬉がぶっきらぼうに言う。

「…小学生?」

「違う!」

「あー、駄目だよ流奈君…」

 緋瑪斗が琉嬉を抑えるようにする。

「離せ!緋瑪斗!こういう失礼なやつは一発殴って…」

「…なんか俺悪い事言ったか?」

 はーっと、らみると寧音はため息を大きく吐く。




 この日はまるで宴会のように、盛り上がる。

総勢20名を超す大人数。

うるさい状況が苦手な未弥子は浮かない顔をしていたが。

おもてなしのような晩御飯。

そしてかつて寮のようにして使用していた建物。

元々人数が多い家族だが、部屋がいくつかまだ余ってる。

なのでその空き部屋を利用して緋瑪斗達は泊まらせてもらう事になる。


 皆が寝静まる頃。

緋瑪斗はなかなか寝付けなく、外の空気吸うためにこっそり外に出て行った。


(…申し訳ないな…俺の為に…)

 スマホを取り出して画面を見る。

箕空との連絡。

現状は何も連絡来ていない。

(何もなしか…明日行ってみるしかないのかな)

「あ、やっぱりここに居た」

「?!」

 ビクッとして思わず振り返る。

すると月乃と、その後ろに未弥子。

「なんで…」

「いや、すぐ分かるから。緋瑪斗の行動なんて」

「………月乃には敵わないな」

 頭をぐしゃぐしゃとしながら月乃の方へ近寄る。

「緋瑪斗、本当に戻るの?」

 未弥子がいつになく悲しそうな顔をしている。

「戻る…つもりではいるけど…。確証はないしね。ただ…」

「ただ?」

「俺をこの体にした茜袮さんに会いたい。会わないと…いけない。だから、今、まさにこのチャンスを生かしたい」

「そう…」

 この機会を逃したら次はいつになるか分からない。

ましてや、焔一族との接触がただでさえ難しい。

箕空との繋がりがあるとはいえ、焔一族自体が別の所へ行ってしまったら…、そう考えると今しかないのだ。

「でもさ、いざこうなると怖くなるんだ。本当に戻れるか、戻れなかったら…とか。

もし俺がまた死にそうになったら。

皆が何かあったら……」

「大丈夫よ。ヒメ」

 月乃が優しく抱きしめてくる。

温かい。

「そうだそうだ、なんの為に僕が一緒に来たと思ってんの」

「わっ、琉嬉さん!」

 琉嬉が髪を下ろした状態でやってくる。

一瞬別の小さな子でもいるのかと思ったくらいに。

「仲良いね」

「あ、あははは、そんなんじゃなくって…」

「んもうっ!離れなさいよ!」

 力づくで二人を離す未弥子。

「緋瑪斗、覚悟は出来てる?」

「あ、はい…。怖いですけど、大丈夫です」

「だよね?だってあれだけ特訓したのに」

「特訓?何の特訓よ?」

 詰め寄る未弥子。

「格闘技だよ、格闘技。ほら、俺って何かと絡まれるから…」

「本当に?」

「なんで疑ってるのさ…未弥子さん」

「緋瑪斗がロリコンになったりした困るし…」

「ぷ、ふふふ…」

「コラ、なんで月乃笑ってるんだよ!」

「その前に未弥子。僕の事バカにしてるだろ」

「何よ!やるっての?」

「ちょちょちょ、夜中の神社で何やってるのさ!」

 慌てて止める緋瑪斗。

寝る前でも騒がしい。


「……うるせえなあ…マジで」

「あら、うちも変わらないんじゃないかしら?」

 窓から外の様子を眺めてる二人。

流奈侑奈の双子兄妹だった。

「そ、そうか?」

「そうよ」

「……うーん…」

 納得出来てない様子。

深夜までにぎやかなままだった。




 夜が明ける。

早朝…とも言わないが、肌寒い朝。

天気は晴れ。

時刻は午前の9時。

澄み切った空気が身に染みる。

緋瑪斗らは準備を終え、出発する準備を整える。

「用意はいい?」

 緋瑪斗が珍しく皆に声をかける。

やる気が出てるようだ。

「準備オッケー」

 Vサインを出す月乃。

「本当は一緒に行ってあげたいんだがなあ…」

 勇雲が残念そうに言う。

「本当ねえ」

「でもこっちはこっちのやる事があるから」

 つんけんしながら言う流奈。

「どうしてあんたはいつもそういう態度なの?」

 らみるがツッコミとも取れるチョップを軽く流奈の頭にする。

「…そういう訳じゃ…」

 煮えたぎらない態度。

でも気にかけてるのは確かである。

「気を付けてね」

 瑠海が緋瑪斗の頭を撫でる。

「あ、あはは、ありがとうございます」

「大丈夫だ。私もいる」

 來魅が胸を張って言う。

「ふふ、頼もしいわね」

「おう、任せとけ」

「頼りにしてるよ、來魅ちゃん」

「おーい、そろそろ行くぜー」

 竜が得意の大声で叫ぶ。

「あ、うん。すみません、行ってきます」

「うん、待ってるからね」

 らみるが手を振る。

「はいっ」

 表情明るく緋瑪斗は駆け足で竜達の所に戻る。



「しかし…妙な連中だな」

「そう?」

 流奈とらみるだけはまだ玄関先で残って見送る。

どっちにしろ今日中にはまた戻ってくるのだが。

ただただ気になる。

「…だって、あの小さい二人は元より、緋瑪斗以外は普通の人間だぞ?」

「私だって普通の人間だよ?」

「そりゃそうだけど…さ」

「なぁに言ってんのよ。普通じゃない所抜けばあたし達だって人間よ」

「わひゃっ?!何すんだよ鈴音姉!」

 流奈の頬を冷たい手で触る鈴音。

「ま、いい話を聞けるのを待ちましょ。さてさて家のお仕事お仕事…」

 朝から参拝客が来る。

神社なのでまだ初詣に来る人達がいるのだ。

「………そうだな」




 緋瑪斗達は出発した。

途中まで寧音と行動する。

寧音は緋瑪斗達には良く分からないが、本家に行くと言って別方向となった。

先程まで居た所が本家ではないのか?

そんな疑問出てきたが聞いてる時間はない。

近くの駅から別れて、緋瑪斗らが向かった駅。

「さて、緋瑪斗。あれが噂の焔一族かい?」

 琉嬉が何かの気配に気づいてた。

緋瑪斗もスマホの画面から目線を移す。

すると、見覚えのある顔があった。

「箕空さん」

「どーもー。約束通り来たわよーん」

「…軽い感じするな…大丈夫なのか?」

 不安になる竜。

「いや、美人だね。大丈夫だよきっと」

 昇太郎の根拠のない理由。

箕空はそこらの人間と変わらないような服装をして紛れている。

ほとんど人間と見分けがつかない。

これが焔一族の強みなのかもしれない。

冬用のコートなど、そこらにいる若い女性がするような恰好だ。

「よし、行こうかみんな」

 緋瑪斗は荷物を肩にかけて歩き出す。

皆もそれについて行く。


 こうして緋瑪斗達は焔の里に近づいた。

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