表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/28

第22話 一年の締め括りはやっぱり新しい始まりだって。

 間もなく一年が終わろうとしている。

何かと騒がしい年末。

緋瑪斗は家族と買い出しに来ていた。

年末年始は家で過ごす。

そして年明けに両親の実家へ行く予定だ。

「いやはや、混んでますな」

「…その反応は子供っぽくないぞ」

「えー?なんでー?」

 稔紀理の時々発する年相応っぽくない喋り方。

誰に似たのか。

「ほら、母さんあっち行ったぞ」

「あ、待ってー」

「やれやれ…。ああいう所はまだまだ子供なんだから…」

 疲れたのか、緋瑪斗は近くのベンチに座り込む。

と言っても空いてるスペースも僅かしかない。

混みあってるせいなのか、どこのベンチも誰かかしら座っている状態だ。

(……月乃から?)

 スマホがブルブルと震える。

確認すると、みんなで年明け迎えないか?という内容の通知だった。

(ついこの間クリスマスでみんな一緒だったじゃん。月乃はそんなに暇なのか?)

 などと心の中でぼやく。

通知内容をさらに見てみると、買い物に来てるの?という内容が目に入った。

(…なんで知ってるんだ?もしかして出かける時に見てたのかな?)

 家が近所のため、外を通りかかったらすぐ分かる。

世間は狭い。

それだけ近場だ。

「ひーめーとーくん!」

 突然両肩に手を置かれると、ビクッと体を跳ね上げさせる。

「ぎゃあっ?!」

 緋瑪斗は大声を上げて引っくり返るようにベンチから立ち上がって、その場にへたり込む。

「何よー。そんなに驚く事ないじゃない?」

「な、な、な…月乃…!驚かせるなよ!」

「ごめんごめん…大丈夫?」

 回りの人も驚いてる。

視線が痛い。

「んもー……。なんだよ、突然」

「だってヒメだってすぐ分かっちゃうんだもん」

「なんで?」

「赤い髪が出てるんだもん…帽子被っても分かっちゃうよ」

「…失礼な」

 黒いキャスケット帽子を一旦取って、髪の乱れを整えてまた被り直す。

「ごめんってば。あとあれだよね、ヒメって重たそうなお尻してるよね?座ってるシルエットでもすぐ分かっちゃった」

「…………」

 緋瑪斗は無言で月乃の頭を何回もチョップした。


「いったぁい」

 脳天部分を抑える月乃。

結構痛かったようだ。

「失礼な事ばっかり言うからだ」

「なんだ、お前ら仲良しだな」

「そんなんじゃないよっ」

 緋瑪斗の他の家族と合流した。

佑稀弥も荷物運びに付き合わせられている。

「なんだよ重たそうなお尻って…別に重たくはないぞ」

「えー、だってヒメってさぁ~、細見のくせして出てる所出てるから…」

「出てる所出てるって…」

 段々恥ずかしくなってくる。

勿論自分の事についてだが、回りの目を憚らず喋ってくる月乃にも恥ずかしい。

「あ、あとさ、お風呂入った時とか水着になった時に思ったけど、ヒメって意外におっぱい大きいよね」

「………お前言ってる事がスケベオヤジだな」

 月乃が自分の体を見てる目がなんだかいやらしい。

そんな気がしてならない。

「ん~。やっぱり女の子になったばっかりの頃より…今は痩せた?痩せたってうか…引き締まったていうか」

 緋瑪斗は心当たりが大ありだった。

「それって…武術してるからかな」

「ああ、そういえばそうだったけ。てかなんで?」

 単純な疑問。

なんで武術を習っているのか。

詳しく聞いていない。

いや、敢えて月乃の方からも聞き出そうとはしてなかった。

「まあ、この体になってからいろいろと絡まれる事多くなったてのが一番かな…」

「あー。そだね…」

 これまでに学校中を巻き込んだ大事件にもなった。

今後そうならないために自分自身を鍛えて強くする。

「あとさ、やっぱり格闘技習ってると心の強さも鍛えられると思うんだ」

 シュッと拳を前に突き出す。

すると佑稀弥のお腹に命中。

「ぐほっ…なに……するんだぁ…ひめとぉ~…」

「あ、ごめん」



 抱えた買い物袋。

重たそうに運ぶ稔紀理。

佑稀弥とは正反対に可愛らしい姿に見えてくる緋瑪斗と稔紀理の二人。

そして佑稀弥は痛そうに腹を擦ってる。

「悪いわねー月乃ちゃん。お手伝いしてもらっちゃって」

「いえいえ、私の家も買い物に来てるんですよ」

「あら、そうなの?挨拶しなきゃ」

「そんな、いいですよ別に」

 なぜか月乃は狗依家のお手伝い。

「いいわね、女の子がいると華やかになって」

「そうだな。いっその事月乃ちゃんもうちの子になるかい?なんてね」

 両親のバカ話。

「へーへー、男で悪うござんした」

 ふてくされる佑稀弥。

「……まったく、うちの親は…」

 両親に呆れる緋瑪斗。

「どこの家も同じよ。うちなんてもっと女の子らしくしなさいって言われるし。もっと大人しい娘が良かったなんて言うんだよ」

「…月乃は時々はっちゃけるからね…」

 


 月乃の親とも会って近くのフードコートで世間話。

ちょっと飽きて来たのか、他の兄弟は近くのゲームコーナーへ行ってしまった。

二人残った緋瑪斗と月乃も追いかけるように兄弟の元へ向かう。

「あれ、陽太は?」

「来てないよ。「オレは別にいい」って反抗するかのような言い方でさ」

「ハハ、反抗期真っ盛りだからね…」

 中学生くらいの頃から来る反抗期と言われるもの。

親に対抗する思春期。

(…俺は反抗期みたいなのあるんだろうか?)

 自分自身ではよく分かってない緋瑪斗。

取り敢えずゲームコーナーに着く。

人が賑わっている。

大晦日にもなると、一年で一番多いんじゃないか?というくらい人が多い。

「人、多いね」

 月乃が佑稀弥と稔紀理を捜すように奥へ進んで行く。

「仕事が休みっていう人が多いだろうからね」

 二人を見つけると割り込むかのように混ざる。

「何か取るの?ぬいぐるみ?」

「あー?月乃か。稔紀理があれ欲しいって…」

 指差す台。

今大人気のアニメのフィギュア。

景品物にしては出来が良い最近の景品。

結構バカに出来ない。

「あれが欲しいの?稔紀理?」

 稔紀理の隣に来てひょっこりと覗き込む。

「月乃ねーちゃん取ってくれるの?」

「まっかせないさい~」

「まあ、まてまて兄としてのオレの腕を…」

「私の方が…」

 稔紀理のためにと、二人が腕を競い合い出す。

「なんていうか、楽しそうでなによりだね…」



 フィギュアを取ってもらいニコニコの稔紀理。

佑稀弥と月乃の財布は少し軽くなっていた。

「じゃ、またあとでね、ヒメ」

「う、うん…」

 手を振りながら一旦その場から別れる。

「なんだよ、ヒメ。月乃とイイ仲じゃねえの?」

「うるさいなー。そんなんじゃないし…それに今俺、女だよ?」

 ちょっと面倒くさそうに言う。

佑稀弥の茶化すような言い方が気にくわない。

「いいじゃねえか。心は男なんだろ?」

「…そうだけど…」

 緋瑪斗は何かに気づく。

(……普段は女扱いしてくるのに、こういう話では男扱いするんだ…ゆき兄)

 決して「弟」だった事は忘れてはいない。

佑稀弥なりの気の遣い方なのだろうか。

少し納得する緋瑪斗。

そして小さくため息つく。

「はぁー。ゆき兄は腐っても俺の兄貴だな」

「……は?どうゆう意味だ?」

 そしてそのままスルーして小走りで先に歩いてる親の所へ行く。

「おぉいー」

「…ゆき兄て、鈍感ってよく言われるでしょ?天然とも言われるでしょ?」

「はぁ?お前まで何言ってるんだ稔紀理…てか、誰が鈍感で天然だ!たしかに天然だとは言われるがなっ!」

「はー。ほんと残念イケメンですね」

 そして稔紀理も小走りで先へ行く。

「くっそー、お前ら~」

 こうして残念イケメン佑稀弥を置いてけぼりにするかのように、家族達は車に乗り込んだ。




 自宅。

テレビ番組は年末だけあっていろいろ盛り上がっている。

テレビが置いてある居間を通り抜けて緋瑪斗は自室へ向かう。

この地域では大晦日に豪勢なご馳走になる。

そのご馳走を頂いてた後だ。

(……てかみんなうちに来る気満々なのか…?)

 またもや月乃の提案で皆集まる事にした。

年越しの瞬間を全員で過ごそうというのだ。

「はー…」

 なぜか出るため息。

「おーい」

「…夜中にでっかい声出すアホは竜しかいない…」

 取り敢えず聞こえて来た声。

外に出てみると竜と昇太郎がいた。

「おっす」

「寒いね」

「……本当に来たんだ」

「あたぼーよ」

 無駄に元気。

それに少々うんざりしながらも家中に招き入れる。

「女どもは?」

「知らないよ。一緒に来たんじゃないの?」

「来てねーよ」

 どうも気がきかない竜。

そういう鈍感な部分にもうんざりしてくる。

「もー。夜中なんだから気を遣ってあげなよ」

「だよねぇ?竜ったらさ、「あいつらは強いから大丈夫だ」とか言うからさ」

「……まぁ、そうかもしれないけど。近いしね」

「何が大丈夫なのかしら?」

 そう話してるうちに女性陣が到着する。

にこやかにしてる玲華とは対照的に月乃と未弥子は何やら睨むような表情。

そして無言のまま、二人は竜に対して腹パンを決めた。



「うごご…」

 うずくまる竜を放置して、皆緋瑪斗の部屋へ向かう。

「ヒメの部屋って久し振り」

「小学生以来かしらね…」

「あ、あの時は子供の頃だろ。今とは違うよ」

 などとぞろぞろと大人数で部屋に入る。

「あー、うん。ヒメって感じだわ」

 月乃が大きく頷く。

キョロキョロ見回す未弥子。

「玲華は何度も入ってるだろ?」

「そうねー。目新しさはないけど、ふーん…」

 かけられた制服に気づく。

女子制服の隣に男子征服。

何も言わないまま、緋瑪斗の顔を見る。

「何?」

「ふふ、なんでもない」

「変なの…」

「あー、でもさすがに6人だったら狭いわね」

 未弥子がのっけから文句を言い出す。

勿論、文句をすぐ外に出すのは皆分かりきっている。

だからいちいち文句に対してさらに文句は言わない。

竜ですら。

「仕方ないじゃん、大人数でいる部屋じゃないんだからさー」

「そりゃそうだよな」

「でもそれが乙なもんってやつよ」

 そう言いながら月乃がリュックサックの中から何かを取り出した。

大量のスナック菓子やらチョコ菓子やら。

「太るわよぉ?」

 なぜかやらしく言う玲華。

でも気にせずに、

「いいのっ。年末年始は楽しむの!みんなで!」

「はいはい」

 みんなで。

その「みんな」という言葉に、ついついやられてしまう。


 せっかく復活した絆。

「みんなで」という言葉は相当緋瑪斗達の意識に植えつけられたようだ。

「しゃーっ!じゃあ楽しむぜぇ!」

 竜が立ち上がりガッツポーズを取りながら大声で言う。

「うるさいわね…なにも騒げとは言ってないのよ?」

「んだとー?」

「はいはい、二人共お約束はいいから」

 なだめる緋瑪斗。

もうこういうやり取りを仕切るのもお手の物だ。

「役目とられちゃったね、昇太郎?」

「ま、こういうのもいいんじゃない?」

 玲華と昇太郎は相変わらず一歩引いた目線で、ジュースを飲み始めた。




 結局6人でそのまま新年を迎えた。

緋瑪斗の部屋で。

恒例の番組などを見ながら。

眠たそうにしている緋瑪斗。

元気のままの月乃と竜。

頑張ろうとしている未弥子。

既に寝ている昇太郎。

何も変わらない様子(に見える)の玲華。

それぞれの思惑は年をそのまま越した。




「新年明けましておめでとうございまーす」

「おは…、て何その恰好?」

 ドアを開けると綺麗に着付けした月乃達。

時刻は午前の11時。

寝ぼけた目を擦りながら緋瑪斗は呆気にとられた。

「ほら、行くわよ。一応の初詣に」

 ツンツンしながらも言う未弥子。

まさに和風美人。

「は…つもうで?」

 きょとんとする緋瑪斗。

「ヒメちゃーん」

 母親の声が後ろから聞こえてくる。

満面な笑顔で、手には着物。

「まさか」

「そのまさか~」

 月乃は後ろから羽交い絞めにする。

「ちょ…」

「観念しなさいな」

「…わ、私は言われて仕方なく…」

 未弥子も一緒になって捕まえる。

「うわあぁあぁ」



「やれやれ…夜遅かったうえに朝から何をするかというと…初詣とはな」

 竜と昇太郎は近くのコンビニに居た。

月乃らと待ち合わせするために。

丁度今居るコンビニの通り沿いから近くの神社に行ける。

そこそこ大きくて、結構は人が初詣に来る。

地域一帯の人達が一カ所に集中的に集まる。

だから、年越し瞬間の真夜中から人通りがあまり絶える事なく来ているらしい。

「おっせぇなあ…それにしても」

「女性は準備に時間かける生き物なのだよ」

「何を悟ったみたいに…。しっかしさみぃな」

「冬だからね」

「…お前わいちいちと…」

 手をグーにして昇太郎をゲンコツしようとした瞬間。

「あれー?何やってんの?」

「ん?なんだ?どこのガキだ?」

「ちょっと…竜…」

「ん?うげっ」

 竜は突然話しかけて来た子供に蹴られた。

というのも、子供ではなく、琉嬉だった。

「琉嬉さん、おはようございます(今日もロリ可愛い…)」

「おはよ。それにしても失礼な男だね…竜って本当に」

「その点は僕からも謝ります」

 大きくお詫びして頭を下げる。

「…昇太郎は悪くないよ。こいつが全部悪いんだからさ」

「んげ…」

 琉嬉はしつこく竜を軽く頭を何回もチョップし続ける。

「琉嬉さんは一人ですか?それになぜここのコンビニに?」

「いや、コンビニ限定のさ、ゲームのくじをやりたくって…」

「…なるほど、ようするにいろんなコンビニ回ってたんですね」

「いえーす」

 無表情気味に顔色を変えないまま、ピースサインする琉嬉。

ゲーム好きがここまで琉嬉を動かしていたようだ。


「あの、これから僕達初詣に行くんですが、琉嬉さんはどうですか?」

「あー、こっちはちょっと家族旅行の準備がこれからあるから…つか、お寺だしね僕んところ」

「そうなんですか?でももうすぐ緋瑪斗達来ますよ?どうせならちょっと会っていきません?」

「ふむ……」

 首を傾げて少し考える。

そして出した答え。

「ちょっとだけなら」

「ふふ、驚くと思いますよ」



「あ、来た来た」

 いつもより人通りの多い、通り道。

その中にやってくる煌びやかな姿の3人組が見えてくる。

「どれ?」

 いまいちどれか分からないと言った様子の琉嬉。

「やっほーう、あ、琉嬉さん!」

 月乃が手を大きく振って走りながらやってくる。

よくもまあ、着付けた着物で走れるものだ。

「…珍しいね。和服とは」

「あ、琉嬉さん…明けましておめでとうございます」

 緋瑪斗と未弥子が後からやってくる。

勿論緋瑪斗も綺麗な和服姿。

少し暗めの朱色を基調として着物。

髪の色に合わせたのか、なんとも統一感がある色彩を放っている。

「似合ってるよ」

「そそうですか?」

 照れに照れる緋瑪斗。

「そうね。意外と似合うのね。緋瑪斗ったら」

「未弥子さんまで…」

「おぉい、オレをないがしろにするなー!」

 でかい声を出して存在感を自ら示す竜。

両手を上げてぐるぐる回す。

ただただ、でかい子供。

「はいはい。落ち着いて。ほら、愛しの緋瑪斗だよ」

「はぁー?!」

「や、やあ、竜…」

 ちょっと引き気味に緋瑪斗が竜に目を合わせる。

「おお…綺麗だな。緋瑪斗」

「…そう言われると嬉しい半分気持ち悪いのも半分だよ……」

 かなり複雑な気持ちのようだ。


 コンビニ外の駐車場で外で少し会話をする。

昼間なのでさすがに寒さは和らいでいる。

「ところで、準備は出来てる?」

 琉嬉が鎌をかけるかのように言い出す。

詳しい内容を言わずとも緋瑪斗達は理解している。

「はぁ、一応は…」

 自信無さそうに言う緋瑪斗。

「私は出来てるよっ」

「オレもだ」

「なんだかんだで皆やるべき事はやってるの」

 相変わらずつんけんしたままの未弥子。

その態度に臆する事もない琉嬉。

「ま、僕もすぐ帰ってくるからさ。家族旅行に次は友人と旅行に…大変かも」

「あはは、すみません…俺のために…」

「なーに」

 ぽんっと琉嬉は緋瑪斗の肩に手を置く。

可愛らしい手袋だ。

「正直、焔一族ってのも少し興味あってね…。幻とも言われる妖怪らしいから、さ」

「なるほど…」

「お前さんはその焔一族の力をなぜか受け継いだ。人間なのに。もしかしたら…元からそういう器があったのかもね。

緋瑪斗自体が」

「お、俺自体が…?」

 目を大きく見開いて驚く。

自分自身が元から妖怪としての器?

例えが良く分からないがなんとなく分かるような、非常にこんがらがった気持ちだ。

「大丈夫ですよ。こいつ、案外図太い神経してますから」

 昇太郎がそう言いながら緋瑪斗の頭を軽くぽんぽんと叩く。

「昇太郎~、どういう意味だそれ~?」

「言ったまんまの意味さ」

「むむー、許さんっ」

「おっとぉ、怒った緋瑪斗怖いからなぁ~」

 そして小走りで逃げ出す。

「まていぃ!」

 やっぱり追いかける。

着物だという事を忘れて。

「おーおー、はえーはえー。さすがは緋瑪斗。おてんば姫ってか?」

「あ、それ上手いっ」

「緋瑪斗と姫をかけたのね…。たしかに…竜にしては珍しく面白いね」

 月乃と琉嬉が一緒になって頷く。

「……プッ」

 堪え切れずに未弥子もちょっと噴き出す。

「お、未弥子さんもお気に入りか?」

「んな訳ないわよっ」

「素直に笑えばいいだろ?ん?鋼鉄の女ってのも気取ってるのか?」

「うるさいわね~。ぶっ飛ばすわよ?!」

「へいへい、やってみな~」

 からかうように言う竜。

しかし未弥子はぷいっと別の方向へ顔を向ける。


「やれやれ…賑やかね。なんだか昔に戻った感じするわね」

「あ、玲華」

「どもー、勢揃いで」

 遅れてやって来た玲華。

玲華も着付けをしている。

より大人っぽさが出ている。

「琉嬉さんも初詣ですか?」

「いんや、僕は行かないよ。ちょっと用事でコンビニ回ってて…これから家族で旅行さ。

君らと行く前に…ね」

「えー、いいですね~。狗依家はこれから親の実家帰りですけどね」

「あ、そうなんだ」

 などと、琉嬉もなんだかんだで緋瑪斗グループと和んでいた。


「じゃ、僕はそろそろ次のコンビニ行ってそのまま帰る。みんなは楽しんできな」

 相変わらずクールな表情で手を振って緋瑪斗達と別れる。

去り際が毎度の如く鮮やかにスパッとしてて清々しい。

なんというか、サバサバしててハッキリしていて自分とは違うなぁ、などと緋瑪斗が勝手に思っていた。

「じゃ、私達も行こうか」

 月乃が仕切る形になる。

緋瑪斗と昇太郎は追いかけっこして共に息切れを起こしている。

「何やってんだが…新年から」

「珍しいわね、昇太郎があんなにハッスルするなんて」

「はぁはぁ…僕もね、少しは動けるってところをだね…げほげほっ」

「ほらー。無茶しなさんな」

 優しく緋瑪斗が微笑みかける。

「…おかしいな…緋瑪斗よりは自信あると思ったんだけどな…」

「そりゃ、俺鍛えてるし」

 寒い中腕をまくって筋肉を見せようとする…が、細くしまった腕。

見た目は女性の腕そのままだが。

「細いじゃん」

「うるさいなっ、月乃」

「ま、ぷよぷよしてる腕よりはいいけどね~」

 なぜか未弥子の方を見る。

「…あんた、ケンカ売ってるの?」

「ありゃまーばれたかー」

「そうねそうね!冬休み入ってから少し太ったわよ!冬だもん仕方ないじゃない!」

 今度はこっちで争い。

「フフフ、ほんっと、飽きないわ。この面子は」

「だね」

 玲華と緋瑪斗はお互いに笑い合う。




 ようやく着いた神社。

初詣客が沢山居て混雑している。

奥が見えないくらい。

「おぉい、はぐれるなよ~。はぐれたらオレを目印にして頼れ~」

 竜が得意の大声で皆に指示を出す。

「混んでるねぇ」

「ヒメは小さいから余計にはぐれる確率高いかもね」

「失礼な…、俺だって……って、思ったけど…」

 子供の数も多いが、自分より背の高い者も多い。

(……小さいって、不利だな…。琉嬉さんもそう思ってるのかな?)

「緋瑪斗!ほら、ぼやっとしないで…こっちよ!」

「あ、ごめん」

 未弥子に手を強く引っ張られる。

まるで姉と妹みたい。

「緋瑪斗さぁ…今行動してる時に違う事を集中して考えるクセ…なおした方がいいよ?」

「う…ごめん」

 月乃にバシッと言われる。

昔からのクセ。

今の行動からまったく違う事を考えてしまう。

それが今の状況になってから尚更その傾向が強くなっていった。

置かれた状況を考えたら仕方ないのかもしれないが。

「オラオラどけぇいー!」

「無茶しすぎ~竜」

「放っておきなさいよあんな脳みそ足りない奴は」

「うへ…ドギツイですね…未弥子さん」

 結局初詣は結構な時間がかかり、お参りするのに長蛇の列に並んだ結果、1時間を要した。

そして面々は帰路に着く。



「疲れたね…てか、これからみんなどうするの?」

 せっかく着付けた着物や髪型が少し綻んでいる。

「あー、うちらは…なあ?」

 緋瑪斗が玲華の方を見る。

「そうね。狗依家はこれから親の実家に行かなくちゃ、ね」

「そうなんだー。他のみんなは?」

 未弥子はそっぽ向いたまま。

向いたままだがボソッと何か言い出す。

「私は暇だけど?」

「未弥子は暇、と。竜と昇太郎は?」

「オレは帰るぜ。うちも親の実家行かねえと。ジジババにそろそろ顔見せねえとな」

 夏は帰ってない様子だった。

今回はさすがに祖父母に会わないと駄目なようである。

「僕も暇だけどねぇ。でもさすがに残った面子が…」

「なぁに?嫌なの?」

「いえ、滅相も御座いません。お付き合いします」

 月乃の形相に恐れを抱いた。

「じゃ、俺達は今日はここで。月乃達は楽しんできてね。

昇太郎は両手に花で羨ましいですなぁ~」

 わざとらしく言う緋瑪斗。

さっきのお返しとばかりの厭味ったらしい言い方だ。

「うへ…花は花でも、バラみたいなもんだよ」

「何?どういう意味ー?」

「いえ、美しいって意味ですよ」

 必死な昇太郎を見てクスクス笑う玲華。

なんとなく言ってる意味が理解したようだ。

「さて、行きましょうか。着替えないといけないしね」

「あ、そうだな。じゃあ………、出発の日まで…」

 力弱く言う。

そう、出発の日。

5日の日に決まった。

今日はまだ年明けの1月1日。

祖父母宅から帰って来てすぐ準備完了して出発しなければいけない。

忙しい日々になりそうだ。

こうしてこの日はあっさりと解散して、それぞれに別の目的に向かうのだ。




 すぐにでも出発する。

着替えも終わり準備を終える。

玲華宅の方は先に出発した模様。

追いかけるかのように緋瑪斗側の方も車に乗り込みまもなく出発する。

冬道なのでおそらく時間がかかりそうだ。

「どうした?浮かない顔して?」

 兄の佑稀弥がいち早く気にかけて話をかけてくる。

「そう?」

「…なんかあったのか?困った事あれば兄であるこのオレに遠慮なく言いたまえ」

 なぜか胸張って言う。

どこからくる自信なのだろうか?

そしてこういうちょっとおバカっぽいノリが竜と似ている、などと思いつつ。

「なんでもないよ。ほら、早く乗ろ?」

「おお、そうだな」

 特に大きく気に掛ける事もなく佑稀弥が先に乗り込む。

(……落ち着かない)


 車中でもずっと今後の事を考える。

考えたくないけど考える。

茜袮に会ったらどうするか。

そもそも会えるかどうかも分からない。

無駄になるのではないだろうか?

今にしてこう不安が強くなってくる。

(今考えても仕方ないのにな…)

 浮かない顔。

佑稀弥に言われた通り。

ずっと浮かない顔をしている。

両親は気づいているのか気づていないのか。

それとも気づかないフリしているのか。

仲慎ましくお互い楽しく会話している。

稔紀理も何か察しているのか、ずっと携帯ゲームしている。

(…家族にも気遣われてるなぁ…。俺がしっかりとしてないから……)

 元からこういう性格。

今は琉嬉の所で武術習ったり、これまでいろんな事を経験してきたおかげで多少は心も強くなった。

そんな気は自分でしている。

(はぁ………うまくいくだろうか……)

「おい、ヒメ」

 ぷにっと頬を突っつかれる。

佑稀弥だ。

「なんだよぉ、ゆき兄…」

「少しは元気出せ。妹が元気ないと兄は寂しいぞ~」

「妹言うなっ」

 げしっと佑稀弥のお腹を足で軽めだが蹴る。

「うげっ…強くなったな…ヒメよ…」

「ひめひめ言うなよ~」

「いいじゃん、ヒメ兄ちゃん、我が家のお姫様って事で」

 久し振りに喋ったと思うとなんだか冷静にズシッと来る一言を言い放った稔紀理。

末っ子ながらも鋭く切れ味のある言葉を言ってくれる。

「うぐ…、稔紀理は稔紀理でなんてコトを言うんだ…。(俺、男としての自信無くしそう…)」

 ガクッと項垂れる。




 祖父母宅に到着してもなんとなく晴れない気持ち。

でもいつも通り明るい家族達。

集まってくる他の親戚達。

夏場と同じように賑やか。

「緋瑪斗君、まーた何か考えてる?」

「んあ、玲華か…」

 皆が集まっている居間とは違う別室。

そこにぼやーっとしてるところに玲華が入ってくる。

そして隣に座る。

その仕草にちょっとドキッとする緋瑪斗。

(…従姉妹なのになんで俺ドキっとかしてるんだ?)

 自分の頬を軽くぺしぺしと叩く。

「何やってんの?」

「いや、なんでもないよ」

「……ま、そうやってモヤモヤと悩んでる方が緋瑪斗君らしくていいけどね」

「なんだよそれ」

「フフ、ほんと、変わったようで変わってないんだからね緋瑪斗君」

 変わったようで変わってない。

それもそうだ。

体がは変わったが、中身は変わってないのだから。

性格が急に変化する訳もない。

「ま、今は楽しみましょ」

 玲華が立ち上がり、緋瑪斗の手を取って立ち上がらせようとする。

「……前向きだね、玲華って」

「あら、何も考えてないだけかもよ?」

「そうやってはぐらかすんだから…」

 多分、本音を言ってない。

緋瑪斗には解かる。

昔からの、子供の頃からの付き合い。

いとこ同士という血の繋がりだからというのもある。

「せっかく新年明けたんだし、新しく頑張ろうよ」

「…玲華ってよくもそんな事恥ずかしげもなく言えるよね…そういうの月乃と似てるよね」

「いつも一緒だからかもしれないわね」

「………変なの」

 思わず笑ってしまう。

二人は居間の方へ向かう。




 深夜。

家族達はもう眠りについてる。

ウトウトしたけた頃。

緋瑪斗はなんとなくぼんやりと今後についてしつこいくらい考えてた。

(つくづく俺って…情けないなあって思うよ…。こんなに慎重な性格だったけ?)


 焔の里へ着いたらどうするべきか?

茜袮に会えたらどう話そうか?

この体についてどう説明してもらおうか?

あれこれシミュレートする。

意味のない事かもしれない。

でも突発的に行くよりはいいのかもしれない。

こういう部分が男らしくないかもしれない。

(あ、でも今女だしな…。あれ?でも心は男だし)

 しばらく男女どうのこうのと考えてなかった。

でも今更になって改めて考える。

「寝れない……」

 寝付けないのか、起き上がってしまう。

そして少しおぼつかない足取りで、寝室を出て行く。



 小音量でテレビの音が聞こえてくる。

まだ誰か起きてるようだった。

居間の方はまだ明かりがついている。

(…まだ誰か起きてるのか…)

 寄らずに素通りしようとした時。

「お?緋瑪斗か。どうした?寝れないのか?」

 少しお酒くさい匂いを醸し出しながら緋瑪斗の後ろに居たのは祖父の政尚。

「じいちゃん?寝ないの?」

「そこらの年寄りと一緒にするな。緋瑪斗こそ寝ないのか?」

「んー、寝れなくってね」

「そか」

 テレビからどっと笑い声が聞こえてくる。

正月番組なのだろうか。

お笑い系のバラエティ番組が延々と流れている。

「…高校生に酒飲ますわけにもいかんしなぁ。ジュースくらいならあったと思うが…飲むか?」

「あ、うん…お願い」


 どかっとソファに豪快に座る政尚。

対して緋瑪斗は床に座る。

「なんだ、椅子に座ればいいじゃねえか」

「体伸ばしながら座りたくって…」

 寒さはあまり感じない。

暖房が行き届いてる。

「聞いたぞ?妖怪だかなんだかの里に行くんだってな」

「…!なんでそれを?って…なんとなく犯人は分かるけどね…」

 どうせ両親だろう。

そんな気がした。

「にわか信じ難い話だがな。本気で言うもんだからしゃあねえしな。

行くなら本気で行って来い。

男ならシャキッと…て今は女の子だったか?ハハハハ!」

「ま、まあ…そうだね……」

 変な汗が出てくる。

本当に解かってて言ってるのだろうかと疑う。

「男とか女とか関係なく、人間の生きざまってやつか?

しっかりけじめつけるんなら男女とか大人子供関係ねえやな!

ハハハ、オレ自身何言ってるか分からねえや」

「はは…(酔ってんなぁ~)」

 酔っ払いの戯言。

そんな言葉が過ったが、それはどうでもよかった。

あっさりとした祖父の背中押すような一押しの言葉。

なんとなくホッとした。

グイッと一気にジュースを飲み干す。

「ごめん、ありがとじいちゃん。俺寝るよ」

「おう、ちゃんと寝る前に便所行っとけよ」

「それは百も承知ですー。男と女じゃちょっと違うからね」

「お、おう?そうか。おやすみ」



 気が晴れた。

仲の良い月乃ら友人でもない。

不思議な力を持つ琉嬉でもない。

親兄弟でもない。

なぜか、祖父からの一言。

そう、自分より遥かに人生経験が豊かな祖父政尚からの言葉。

(あーあー。やっぱり長く生きてる人間の言葉は重みあるな…。そう言うとみんなに失礼かもしれないけど。

やっぱり来て良かったかも)


 結局自分に置かれている状況を理解してくれている者。

少しでも相談でもして気持ちがすっきりするなら良い。

(気持ちの問題って、でかいよなぁ)

 両手をぐっと天井向けて伸ばす。

軽く武術の動きをする。

「あー、寝よ!」

 一気に眠気が来る。

足早に布団のある部屋に向かった。



「さすが、年の功ってやつ?」

「んんー?」

 さすがに眠そうにしてた政尚。

声がする方を向くと同じく孫の玲華。

「どしたー?お前さんも緋瑪斗のように寝れないのか?」

「そんなところね」

「…敏宏に聞いたけど、お前さんも一緒に行くとか」

「無理言ってお金貰ったの」

「そんな事言うとお金くれっと言ってるように聞こえるぞ?」

「あら、そう?」

 相変わらずの細目で笑顔に見える玲華の表情。

「解かった。お年玉って事でいいな?」

 政尚が立ち上がってどこかへと行く。

「気遣わなくてもいいのに…」

 クスっと笑う。

「バカ言え。正月と来て孫が来たらお年玉と決まってるだろうが」

 ちゃんと点袋に用意して持ってくる。

「特別にお前達二人には多めに入れといてやる。今開けたら駄目だぞ」

 少し照れくさそうにして二つのお年玉を玲華に渡す。

「はいはい。優しいおじいちゃん」

「玲華のそういう性格はオレのお袋そっくりだな」

「私からするとひいおばあちゃんかしら?」

「遺伝って本当に面白いな」


「でもま、気を付けてな」

「うん、その筋に関して安心出来る人もいるから」

「よく解からん話だが…いい結果になる事を柄でもないが祈ってるぜ」

 グビッとコップに入った透明なお酒を飲む。

日本酒だろうか。

「おじいちゃんこそ、飲み過ぎて体壊さないでね」

「なぁに。普段飲まないしな」

「あら、意外」

 祖父と孫。

不思議な関係である。




 緋瑪斗達はこの後もう一泊して帰宅。

そしてすぐに出発となる。

緋瑪斗の最終的な運命が…決まるかもしれない。

その瞬間がすぐそこまでやって来た。

帰り間際。

「緋瑪斗君?」

 昨日までとは違う様子の緋瑪斗の雰囲気を感じ取った玲華。

「一年の締め括りはやっぱり新しい始まりだって、年末年始こう過ごしてきて思ったよ」

「……なんか変な言い方だけどそうかもね」

「あはは、頭あまり良くないからさ。俺」

「ほんと、緋瑪斗君って可愛いわよね」

「なんだよそれー。玲華まで」

「お?なんだ?仲良さそうに」

 いいタイミングで佑稀弥が輪に入ってくる。

「んもー、ゆき兄はいつもうるさいっ」

 帰りというのにも関わらず、相変わらずにぎやかだ。

「頑張れよ」

 政尚が一言、呟くように言う。

「うん」

 緋瑪斗は手を振って応えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ