第21話 天からの贈り物なんていらない、てね。
クリスマス。
つまり、12月の25日。
一年の締め括りの大きなイベント。
その大きなイベントが、自分にとってはどうでもいいと思っている。
仲の良い友人同士が集まって楽しむ。
恋人同士が慣れ合う。
家族が集まって親からプレゼント貰ったりする。
何かと騒がしいイベントである。
緋瑪斗はぼんやりと過ごしてた。
クリスマスシーズンという事で音楽も懐かしいクリスマスソングなどが街中でもかかっている。
ここ数年わざわざクリスマスの日に集まるという事もない。
でも月乃の方から久し振りに集まろうと声をかけられた。
緋瑪斗は別に断る理由もない。
何しろ、その日は暇だからだ。
「ほぅー、クリスマスパーティーねぇ…」
竜が呆けた顔しながら机に突っ伏しながら言う。
「竜は嫌なのかい?」
隣の席でピコピコ携帯ゲームをしながら昇太郎が竜に聞く。
「別にー」
どこか面倒そうだ。
「緋瑪斗は?」
「え?俺は行くけど…取り敢えず」
「へぇー。月乃に言われちゃあ、断れないもんなあ?」
嫌味そうに言う昇太郎。
「なんだよそれ」
「学校でもクリスマス会みたいなのやるのにね」
「そうだっけ?」
「それはもう来週明けじゃなかったけ?」
いまいち学校に行事日程を覚えていない3人。
「ウチでします!」
ビシッと指を差して決める月乃。
真剣な表情だ。
「お、おう…」
断れる雰囲気がない。
緋瑪斗達はそう確信する。
頬杖しながら月乃に質問。
「ねえ、他に誰が来るの?」
「未弥子と玲華にも声かけたよ。未弥子は保留ー。玲華は来るって」
「ああ、いつものメンバーね…」
「当たり前じゃないっ!小さい頃を思い出すよね~」
ウキウキしながら言う。
月乃という人間性を知っている緋瑪斗達にとっては、気持ち悪い動きだが。
年末の大イベントとも言える、クリスマス。
面倒だなぁ……と、緋瑪斗はなんとなく心の中で呟いていた。
25日の当日。
少し雪が舞う寒さ。
緋瑪斗は竜と玲華と先に合流して月乃宅へ向かう。
特に会話も多くなくなんとなく淡々としながら進む。
そこで緋瑪斗から大きく会話を切り開く。
「ねえ、竜」
「お?なんだ緋瑪斗?」
「世の中ってなんでクリスマスなんて日が好きなんだろうね」
竜がきょとんとする。
「それもそうだな~。ま、楽しい事あればなんでもいいみたいな考えなんじゃね?」
「一理あるわね、たしかに」
玲華も納得する。
「ふぅん……そういう考えか」
「ほら、だって最近ハロウィンも人気出てるでしょ?私達が子供の頃は大した事やってなかったじゃない?」
秋真っ只中の10月のハロウィン。
最近になって日本でも広まりつつある一大イベントになってきた。
「それにそういう行事あったらお金の回りも良くなるしね」
「なるほど。汚い話そうかもな。さすが玲華」
「私が汚いみたいな言い方しないでよ」
などと、クスクス笑いながら月乃の家まで着く。
歩いてすぐ着く距離。
それぞれ同じ町内会なので当然だ。
「こんにちはー」
緋瑪斗が先頭になって月乃宅のインターホンを大きな声で挨拶しながら押す。
「別に携帯で連絡取ればいいんじゃないの?」
昇太郎が疑問に思う。
今の時代一人一個の携帯電話が当たり前の時代。
わざわざインターホンで呼びかけなくても連絡用アプリでもなんでも個人的に連絡を通せばいい。
そうすると他の家族の者を通さなくて済む。
「え?なんで?だめ?」
「いや、だめじゃないけど…。緋瑪斗って時々天然発動するよな」
「んだんだ」
隣の竜も大きく頷いてる。
「……そう?」
自覚はなし。
「あ、鍵開いてるから入って~」
頭の上の方から月乃の声が聞こえる。
4人は顔を見上げると二階の窓から月乃が顔を出している。
手をフリフリしてい笑顔だ。
「鍵開いてるのかよ…いくらそこそこの田舎だからって物騒じゃねえかな」
なぜか竜がブツクサ言いながらも先にドアを開けて入って行く。
「でかい図体して結構細かい事言うんだよな、竜って」
昇太郎の言葉に皆賛同して笑いながらも入る。
(月乃の部屋なんて久々だな…)
小学生の頃以来、入った事のない月乃の部屋。
基本的な間取りは変わっていないが物が少なめで漫画本などあまり置いてない。
「ささ、休憩所は私ので部屋でいいから、玲華」
「ん?」
「食事作るの手伝って?」
「あ、あと男子チームは買い出し行って来て。これ、買い物メモ」
「…来た途端それかよ…?」
メモと千円札を何枚かを渡される竜。
三枚あるので三千円だ。
もしかして月乃の自腹のお金なのか?
そう思いながらも自分の財布に取り敢えず入れる。
「え…と。俺は?」
自分を指差しながら何していいのか分からなくなる緋瑪斗。
「ヒメは女子チームで」
「やっぱり…」
力づくで引っ張られるように女子側に入れられる。
そのガッカリした顔は半端なくガッカリしている。
「ち、しゃーねーなぁ…。行こうぜ、昇太郎」
「仕方ないね」
渋々二人は部屋から出て行く。
「いいの?」
「ま、これからこれから」
「何がこれからなんだか…」
月乃が何か企んでる。
そんな気がしてならない12月の25日の昼下がりだった。
「あら、奇遇ね」
「げっ」
「何がげっ、よ」
竜と昇太郎は帰り際に未弥子と偶然出会った。
近所のスーパーから出てきて数分。
月乃宅へ向かう方向へ進んできた所だった。
「華村さん、もしかしてだけどさ……」
「…行くべき所は癪だけど同じだと思うわ」
未弥子が同じだと言う。
歩いて行く方向は一緒。
つまり月乃の家の所だ。
「結局お前も呼ばれたのか」
未弥子はちょっと嫌そうな顔をする。
「…あの子が何考えてるのか知らないけど。……どうせ暇だし」
最後の方だけ小声で少し恥ずかしそうに言う。
「あ、そっか。お前も彼氏いない寂しい独り者だもんな」
「失礼な事言わないでよ」
思いっきり竜の背中をグーでパンチする未弥子。
「うげっ」
「おー、いいボディパンチだ」
珍しい3人の組み合わせで本日二回目の月乃宅へ着く。
「帰ったぞー」
「はーい、ありがとー」
「あ、いい匂いする」
台所の方から何やら揚げ物の音と匂いがしてくる。
「…料理してるのかしらね?」
ちょっとだけ興味ひかれて未弥子が台所方面へ向かって行く。
「僕も見て来よう~」
「あ、おい、荷物置いて行くなよ…。なんでオレが全部持っていかないといけないのだ…」
さっきから貧乏くじを引いてばかり。
愚痴が増えていく一方。
「あらー、緋瑪斗までエプロンして…」
昇太郎が先に目に入ってきたのは緋瑪斗のエプロン姿。
「はは、俺料理出来ないってのにさ…無理矢理にさ」
「いいじゃん、似合うよ」
グッと親指立ててなぜか月乃がドヤ顔。
恥ずかしそうにする緋瑪斗。
「ほんとね。緋瑪斗…可愛いかも」
「……ぐ、未弥子さんまで…」
「ほら、目を離さないで」
しかし玲華だけは冷静だ。
揚げ物の正体はからあげ。
香ばしい匂いと油の大きな音。
まさに料理してるという雰囲気だ。
わいわいと賑やかになる。
時には未弥子の罵声が飛び交えば、月乃の叫ぶ声。
竜が怒声。
緋瑪斗の悲鳴。
てんやわんや。
「やっと出来たね…」
少し焦げ付いたからあげ。
「でも、美味しそうだよ?」
緋瑪斗のフォロー。
「ほんと、いい子ちゃんね、ヒメって」
頭を撫でだす。
「子供扱いするなーっ」
ばっと軽く跳ね除ける。
この中では一番背が低い。
パッと見一番年下にも見える。
「あははは」
「さて、月乃」
昇太郎が場の空気を変えるかのように月乃の名を呼ぶ。
「ん?何?」
「なぜわざわざ自分の家にまで呼んでクリスマスパーティなんて企画したんだい?」
「あー、それ俺も気になる」
「……え?なんで?楽しそうじゃん?」
「そりゃそうだけどさ」
あっけらかんとする。
「でも本題は別な所にあるんだろ?」
すっくと緋瑪斗が立ち上がりながら言う。
「え?」
「俺が気づかないとでも思った?月乃?」
つんっと月乃の鼻を指で突っつく。
「んー、緋瑪斗って鈍そうで案外そうでもないところあるよね…昔から」
「どういう事だ?」
竜は何も理解出来てない。
玲華と昇太郎はやれやれと言った顔をしている。
なんとなく今の緋瑪斗の行動で感づいたようだ。
「あれー、もう始まってる?」
甲高い声。
他の女性陣よりも高い声質の音が響いてきた。
「琉嬉さん!」
緋瑪斗がいち早く大声で反応した。
「どうして琉嬉さんも…。はっ!」
そしてはっきりと分かった。
月乃の顔を見る。
するとまたもやしてやったりな顔をしている。
ニッコリと微笑む顔の裏には何やら少し黒いモノが感じる。
「……月乃が呼んだのか」
はーっと、大きくため息つきながら言う。
「そゆこと」
ピースサインして喜ぶ。
「なんかさ、月乃に呼ばれたんだけど…」
さすがの琉嬉もちょっと場に入りづらそうだ。
「やれやれね…で、どうしたいわけ?」
「ええとね、緋瑪斗焔の里出発決起集会INクリスマスパーティ!て事で?」
「……長いし、クリスマスにぶつける意味がワカラン…」
気持ちが着いて行くのが大変だった。
「やおー」
琉嬉の後ろから派手な狐色の髪色をした小学生くらいの女の子が入って来た。
以前ラーメン屋で見かけた女の子だ。
この日も大きく真っ赤なリボンと真っ赤なカチューシャ。
そして両サイドに垂れた髪の毛に括り付けられた朱色のビーズのような髪飾り。
一見すると外国の子にも見える。
「や、誰?その子?可愛い~」
玲華がその少女の所に向かう。
「ああ、そいつは…」
「おう、來魅と言う。よろしくなっ」
ニカッと屈託のない笑顔を見せる女の子。
名を來魅と名乗った。
「……ええと、琉嬉さん…この子は?」
「うちに居候してる妖怪」
來魅は妖怪だと琉嬉が言った。
その瞬間その場の皆が驚いたのは言うまでもない。
「へぇ…妖怪さんなの…?」
とは言えそこまで驚きはしない。
半分妖怪の緋瑪斗がいつも近くにいるからだ。
「おう、妖怪だ。ただ琉嬉のせいで妖力を抑えられてるがな」
「よく言うよ。自力で数分間本気出せるくせに」
言ってる内容がぶっ飛び過ぎてていまいち頭に入って来ない。
「でも人間にしか見えないけど…どうして?」
未弥子の疑問。
「甘いのう、そこの黒髪の女よ。私くらいの上級の妖怪ともなるとヒトの姿と変わらん奴もいるのだ」
「へー…」
「いいか?この街もそうだが、鞍光を中心とした街中には妖怪が沢山おる。普通の人間の目には映らんだけで、な」
「そうなのか?まぁ、でも…」
少し気になる事を竜が思い出す。
「いや、な。鞍光高校行ってるオレの知り合いが頻繁に変な事が起きるって言ってたからよ…。
もしかして琉嬉ちゃん先輩知ってる?」
「ん。僕が通ってる学校だけどさ。僕も元々転校生だから詳しくは知らないけど良く「出る」よ」
「へぇ…」
ぞぞぞっとしてくる緋瑪斗達。
「こんな冬に怖い話しないでよ」
未弥子がやめるように言う。
結構怖がりなのだ。
「そうね。ほら、料理冷めちゃうからみんな食べよう?」
「はぁーい」
「ホラ、琉嬉さんも」
「悪いね。こっちはこっちでクリスマスだってのにゴタゴタしてて」
琉嬉が背負っていたリュックサックから取り出した物。
大量のお菓子とジュース類。
そして何かの怪しい御札。
「何コレ?琉嬉さん?御札?」
「あ、ごめん、これ違う」
ちょっと照れながらも御札を隠すようにリュックに戻す。
間違って出てきてしまったようだ。
「……見た?」
「うん、見た」
「御札だよ御札。本格的なの始めて見たよ」
ボソボソっと小声で喋る竜達。
「はいはい、いーからいーから。琉嬉さんも來魅ちゃんも一緒に食べましょ」
「おー」
気にしないでさっさとパーティを始めたい。
月乃が他の者の意識をパーティに集中するように言う。
賑やかさが最高潮になる。
そのうるささを横目に少し食器を片づけて台所へ持って行く月乃と緋瑪斗。
「月乃の親御さんは?あと陽太は?」
緋瑪斗が今更ながら他の家族の人の事を気に掛ける。
「親は夫婦仲良く外食。陽太は男友達集まって寂しく外で遊んでくるってさ」
「あー、そうなんだ。だから月乃は自分の家で?」
「……そうだね。だって自分だけ予定が空っぽとか恥ずかしいじゃん?女の子だしぃ」
気持ち悪い動きをする月乃。
本気なのかわざとなのか曖昧。
「ふー…。月乃」
「うぇ?」
月乃の額に手を当てる。
「大丈夫?熱でもあるんじゃない?」
「ちょっとー。どーゆー意味?」
「熱はないみたいだ…」
「当たり前じゃない!」
プンスカと怒り出す。
とは言っても冗談交じりだが。
「それこそヒメ、ヒメこそどうなの?」
「へ?何が?」
「……本気で男に戻るつもりでいるの?」
「あー……それね…」
何度も何度も繰り返してきた。
男に戻る。
そのためには焔の里に行ってみるしかない。
しかし戻れる確証はない。
何の当てはないが、向かってみる他はないのだ。
「兎も角さ、きちんと話し合わないと闇雲に行っても無駄になるよ」
「…それもそうだな……月乃の言う通りだよ」
「だから、これを機に今日話し合いするの」
「…だから琉嬉さんも呼んだの?」
無言でニカッと笑う月乃。
なんだかんだで緋瑪斗の事を想っての行動だ。
ケーキも食べ終え、時刻は夜の8時を回る。
月乃の他の家族はまだ帰ってくる気配はない。
おそらく大分遅くなるだろうと月乃は言う。
「で、早速だけど…」
「分かってるわよ。緋瑪斗。話しなさい」
未弥子が誰よりも喋る前に、緋瑪斗の話を進めるように言う。
「ああ、うん。俺が男に戻るとか戻らないとかは正直分からない。
でも、焔の里に向かう必要があるんだ。
だから、みんなの力を貸してくれ」
「言われるまでもなく…な?昇太郎?」
「まぁ、勿論」
「異論なし」
竜、昇太郎、玲華はOKサイン。
「最後までどうなるか私も見届けるわ。一応ね」
未弥子も承諾する。
「何があるか分からないし、向かうのは妖怪の所だからね。僕も手助けするし」
「私も着いて行っていいかー?」
來魅も挙手する。
「この子も?」
「こう見えても最強と呼ばれた妖狐の妖怪だからね。何かと役には立つと思うよ」
「ようこ?」
ちんぷんかんぷんの竜。
「狐の妖怪って事だよ。ははぁ…なるほどなぁ。だから狐っぽい髪なんだぁ。ふむふむ」
來魅をまじまじと見つめては納得する昇太郎。
興味津々だがなんだか変な風に見てるので誤解が生じそうだ。
「で、その焔のなんたらってどこにあるんだっけか?」
「ほんと、竜てもの覚え悪いよね~。よく高校合格出来たよね」
呆れる月乃。
「うるせい。それとこれは別だろ?」
「あんた達は黙ってなさい」
二人の口を手で塞ぐ未弥子。
「場所は、関東周辺。茨城のどこか。そこまでしか分からない」
「い、茨城ぃ?!めっちゃ遠いじゃねえか」
「でもフェリーなら一発で行けるんじゃない?」
「でも時間かかるわよ」
緋瑪斗が言った地名。
現在の焔一族はそこに集結してるらしい。
時が経てば住む場所を変え、また別の所に住み着く。
日本を転々としている。
「はー、茨城ねぇ。関東か……」
顎に手を当て考えるポーズを取る琉嬉。
「のう、緋瑪斗やら。その焔のなんとか達は今もそこに居るという確証はあるのか?」
「あります。焔一族の箕空ていう人が少なくともあと数年は居ると言ってましたから」
何年かはその場に住み続ける。
箕空が言うにはまだしばらく居るとの事なので確実にその場には居るとみていいだろう。
「なるほどの…。茨城…昔で言う常陸国とか辺りか」
「ひたちのくに…?よく分かんないけどそうなんじゃない?」
今の時代の人間、特に若者には余計分からない話。
「あ、そっか。來魅が封印される前は今の地名と違うのか」
「封印?何それ?」
他の者は知らない。
「あー、んーとね…話すと長いんだけどさ…」
「なぁに、簡単に言えば良い。単純に私は100年間封印されててのう。この琉嬉に封じを解かれて現代に復活したのだ」
腰に手を当ててばばーんと威張る。
「はぁ…。突拍子もない話過ぎて着いて行けないわ…」
頭を抱える未弥子。
「…こんな事がこれから何度も起きるのよ。未弥子さん。受け入れないと、ネ?」
玲華が諦めろとも取れるような言葉を未弥子に突きつける。
そもそも現状の緋瑪斗の存在が突拍子もないのだから。
「よし、寧音に連絡取って宿をどうにかしてもらおう」
「しづね?」
また聞き慣れない名前が出てくる。
「んーとね、同じ部活の同級生。たしか親戚が関東に住んでた筈だし…」
「すみません、琉嬉さん。何から何まで手伝ってもらって…」
「なーになに。ふかしぎな事件を解決するのが僕らの大きな部活動だからね」
「部活動…ですか」
なんの部活動なのか意味不明過ぎて話を伺うのをやめる緋瑪斗。
こうした不思議な出来事を解決してるというのは沢村刑事からも聞いている。
なんとなく察してはいるが、細かい話はした事がない。
「でもま、こっちの事は気にしなくていいから。自分の身の事を案じなよ」
ぽんっと緋瑪斗の頭に手を乗せる琉嬉。
そして軽く撫でる。
「…琉嬉さんまで子供扱いしないでくださいよ…年齢も一個しか違わないじゃないですか」
「そう?僕もいつも撫でられる方だからさ」
表情はいつものようにあまり変わらないまま言う。
(う…たしかに、琉嬉さんも見た目は凄く子供っぽい…)
話は進められた。
実行する日は冬休み中の1月の最初の金土日に決定した。
さすがに年末年始はそれぞれ忙しいという事もあり、止めにする。
「準備するもの…服とかいろいろ…」
「ま、旅行だと思って行けばいいんだからさ」
気楽に言う琉嬉。
しかし緋瑪斗本人はそういう気にはならない。
「でも…」
「大丈夫。何かあれば僕が守るから」
「いえ、守られるってのも男としては…」
「……あー、そか。緋瑪斗は元々男だもんね…うーん…」
何かを思い出そうとしている琉嬉。
「まー、オレだって喧嘩ぐらいは出来るぜ」
「僕も武器さえあれば…」
「物騒な事言ってるのね」
と言いつつ玲華もなぜか少し笑顔。
その笑顔が逆に怖い。
(玲華の笑顔が誰かさんを思い出させるなぁ…)
その裏がありそうな笑顔を持つ人物を琉嬉は他に知っている。
2泊3日。
資金的にも時間的にもこれが限界。
これ以上になると何かと面倒のなりそうでこの期間に決定した。
出発は飛行機を利用した移動手段。
何かとお金が飛んでいく事に緋瑪斗ははぁーっと強いため息を放つ。
「みんなは大丈夫なの?お金とか」
「大丈夫よ!」
根拠なしのグーサインを出す月乃。
無理してる気がしてならない。
「まー、最悪あいつから借りればいいし。未成年だと金融から借りれないだろうし」
「また物騒な事言ってるのね、琉嬉さんったら」
「そう?」
「で、緋瑪斗」
「はい?」
琉嬉が真剣な表情で緋瑪斗の目を見てくる。
「本当に…君にかかってるんだからね」
「うむ」
隣に居る來魅もなぜか頷いている。
「あ、う、うん…。分かってます。自分の事ですから。おおまかの場所とかは多分大丈夫です…」
自信無さげではある。
でも琉嬉が見ている緋瑪斗の目の奥底は何かの確信があるのか。
強い意志があるのが分かる。
「なら大丈夫か」
琉嬉はすっと立ち上がる。
「僕は今日はこれで退散するよ。9時過ぎちゃったしね」
「えー、もう帰るんですかー?」
残念がる月乃。
「琉嬉ー。私はもっと居たいが」
「だーめ。あまり遅くならないようにって言われてるんだから」
「今更じゃのう」
「後は君達で、楽しむといいさ。僕も帰ってうちのケーキ食べたいし」
「なにその理由~あはは」
などと笑いが巻き起こる。
「じゃ、気を付けて」
「うむ。またの」
「はい」
玄関先で琉嬉と來魅は先に別れる。
「さぁて…バスで帰ろうか、歩いて帰ろうか…どっちがいいかな」
家は隣の地域なので歩いて帰ろうと思えば帰れる。
しかし外は当然、非常に寒くなっている。
しっかり着込んではいるが寒いものは寒い。
「寒いからばすとやらでいいんじゃないか?」
「バスが来るいいタイミングあったらね」
二人は喋りながら帰って行く。
「…どうみても女子小学生が夜中に歩いてるようにしか見えねえな」
しかめっ面で言う竜。
「本当ね」
「でも、僕達と同じ高校生と、妖怪なんだろ?不思議な光景だね」
「まったくね」
ヘンテコな二人組を見送る。
「寒いね」
口から白い息を吐きながら手を振り終える緋瑪斗。
ゆっくりと細かい雪が降っている。
そのせいか夜なのに明るい。
「はぁー。冬だね」
「雪降ってるからな」
「そうね」
上を見上げる。
当然、夜空の星なんぞ見える訳もなく雪が舞い降りてくるだけだ。
その雪が顔に当たって冷たい。
「冷えるね。入ろうか」
「天からの贈り物なんていらない、てね」
「は?」
緋瑪斗が怪しげな言葉を言う。
それを聞いていた月乃達。
「あ、いや……、クリスマスだしサンタさんからプレゼントくれるなら元に戻してほしいって思ったんだけどさ…。
でもやっぱりいらないていうかさ…」
「…緋瑪斗、何言ってるかさっぱり分からんぜ?」
竜が緋瑪斗のほっぺを両手で挟む。
「んむむむ、なにすんはほ」
「最近のお前はポエマーだな」
「いたひ…。なんだよポエマーって」
「ふふ、言えてる」
玲華も笑う。
「なんだよ玲華まで…」
「いーから入りなさいって」
月乃が皆を押して無理矢理に家の中に押し込む。
さっきの緋瑪斗の発言。
意味不明のように思えて月乃にはなんとなく理解していた。
皆に聞こえないように緋瑪斗に話しかける。
「ヒメ」
「…何?」
唾を飲み込んで、勇気出して話す。
「さっきの言葉……。もしかして、女の子になった事と妖怪としての力を授かった事の意味?」
「!!………さすがだね。月乃」
「伊達に幼馴染やってないからね…」
でもその表情は悲しそうにも見える。
お菓子をついばみながら会話を続けようとする。
他の者はパーティー会場となっている居間のテレビでゲーム大会になっている。
未弥子までが混ざって盛り上がってる。
今までにない光景になんだかほんわかしてくる。
「なんていうかさ…正直辛い。今の状況が。でも逃げるのはやめたいし、向かい合わなきゃいけない」
「うん」
「みんながここまでしてくれるし、それに応えなきゃいけない。だけどさっきの発言は不本意なのは自分でも分かってる」
「…うん」
「一種のストレス発散かな?特に大きな意味はないんだよ」
と言いながら必死に何かを隠すかのような。
自分でも何を言ってるのか解からなくなってくる。
気持ちが、心がついて行っていない。
そんなモヤモヤした気分になる。
「ほんと、サンタさんがいるなら戻して欲しいよ」
「なんでも屋さんじゃないんだから、サンタクロースは」
「はは、そうだよね」
「ヒメ…」
座る体勢を変えて、ソファを背もたれのようにして寄しかかる。
なんともだらしない恰好になるが、これがまた気持ちいいのである。
緋瑪斗は両手を頭に組んで、ちょっと体を伸ばす。
そのまま喋り続ける。
「本当はさ、正直俺は男に戻りたい気持ちはある。だって男として生まれて来たんだから」
「……そう」
「ま、グダグダ言ってもしょうがないよな。戻れなかったら戻れなかったで、その時は受け入れる」
今までの緋瑪斗とは思えない、言い切った言葉。
戻れなかったら受け入れる。
その覚悟はあるようだ。
「…ふふ、ヒメ、なんか男らしい」
「失礼な。元々は男の子でぇーす」
ぷいっと違う方向を向く。
ふくれっ面がなんとも可愛らしい。
というか顔自体はそんなに男の時から変わってないのだが。
「あー、やられたー。未弥子、お前もしかしてこのゲームやってるのか?」
「やった事ないわよ。でも操作さえ慣れれば楽じゃない」
「…天才現る」
昇太郎がぼやくように言う。
「ちっ。ほら、緋瑪斗。お前の番だ」
そう言ってコントローラーを渡される。
やっているゲームは4人まで出来て、2対2の対戦が出来るようだ。
ロボット物のゲームで人気ある作品らしい。
緋瑪斗も好きなロボット作品で、勿論緋瑪斗もこのゲームは持っている。
「いいの?俺もこのゲームやってるからそこそこうまいと思うよ?」
「あら、私に勝てると思って?」
「ふふ、僕らのコンビに勝てるかな?」
オタク気質のある昇太郎も勿論ゲームはプレイ済み。
あらぬ力を見出した未弥子との相手は少々厄介。
「よし、緋瑪斗君。狗依家の力見せてやりましょ?」
「…玲華もこのゲームやった事あるの?」
「理央が良く稔紀理君とやってたじゃない」
「そだっけ?」
知らない間に玲華もプレイしてたようだ。
「負けないよっ!」
「やれやれ…ゲーム大会か…。琉嬉さんも居れば良かったに」
「ぷちっ」
「お?なんだ?風邪でもひいたか?」
來魅が少し心配そうに琉嬉の顔を覗く。
「…んぐ、なんでもないよ。だいじょーぶ」
鼻を啜りながらバスを待つ。
雪が降り続けている。
「さてさて…上手く話をつけるんだろうか…緋瑪斗」
「ふむ?何の話だ?」
「なーんでもないよ」
むにっと來魅のほっぺをつつく琉嬉だった。
緋瑪斗が驚異的な動きをしていた。
と言ってもゲームの中でだが。
「おおぅ…緋瑪斗…。やたらと動きチートめいてるけど…なんで?」
「超反応だよね」
「俺も知らないよ…。言っとくけどなんの力も使ってないからな」
必死に否定する。
でも反応が半端なく凄まじい。
勿論、囲まれたりしたら撃墜はされるのだが。
単体対決ならまず攻撃が当たらない。
「やるわね…緋瑪斗…」
(これってやっぱり、琉嬉さんとの特訓のせいかな…?)
持論を展開する。
リアルで武術の鍛練をしてるから、反応が早い。
それがゲームでも生かされてる。
そう思い始める。
それでも昇太郎未弥子チームには勝てない。
「んー、どうも私がお荷物ねぇ…。竜、頼んだわ」
玲華が突然竜にコントローラーを投げるように渡す。
「お、おい…。しゃーねえーな。オレの真の力を見せる時が…」
「お約束はいいから始まるよ」
「お、おいう!?」
変な言葉を発して次の対戦が始まった。
こうしてクリスマスパーティ兼焔の里出発決起集会は終わりを告げる。
特に大きな進展は見せてないが、改めて全員が本気だと知らされる緋瑪斗。
自分の事なのに、自分の事のように親身になって手伝ってくれる事を約束された。
「ごめん、月乃。変に気遣わせちゃって」
「なーに。いいのよ。ね?みんな?」
その場の全員に何かの確認を取るウインクをする。
「そうね。緋瑪斗が決めたならそれに従うまで…ね」
「未弥子とは思えねえ台詞だな」
「うるさいわねっ」
「まあまあ、僕らも覚悟は出来てるからさ。親友だからな」
昇太郎が拳を作って緋瑪斗の顔の前に持ってくる。
何も言わなくても緋瑪斗は笑顔を作ってその拳に対して自分も拳を作ってコツンとぶつける。
「じゃ、そろそろ帰るか」
素っ気なく帰ろうとする緋瑪斗。
「あっさりだなぁー」
「いいじゃん別にー。どうせ会おうと思えばすぐ会えるでしょ?」
「それもそうね、帰りましょうか。そろそろ月乃のお父さんお母さんも帰ってくるだろうし」
「ん、片づけありがとね」
感謝する月乃。
その月乃も特別何も言ってこない。
(ふぅん……)
玲華だけは何かを感じ取っていた。
それぞれ帰路に着く。
「未弥子~、なんなら家まで送ってやろうかー?」
「こんな夜中に大きな声出さないでよ。すぐそこなんだから構わないでったら」
少々ウザったそうにする。
「あーそうかいそうかい」
「…気遣いありがとね」
小さく囁くように言うと駆け足で帰って行った。
「なんか言ったのか?あいつ?」
「…鈍い鈍いと思ってたけど一番鈍いよね、竜って」
「たしかに」
緋瑪斗も納得して笑う。
「さて、ここいらで解散だね。じゃね、みんな。良いお年を~」
「ちょっと早いんじゃないのそれ?」
「そうね」
そしてここで散っていくように帰って行く。
(ふぅー、緋瑪斗ったら…)
ある程度を一緒に片づけてもらった。
でも残りの後始末をする。
月乃は緋瑪斗が緋瑪斗なりの気を遣っていたのを感じている。
なんとなく。
確証もなく。
それはこちらでもある。
お互いに気を遣い過ぎ。
(心が疲れる……。でも……あと少し……。あと少しで…)
気の休まらない日々が続いている。
でもそれのピリオドが近づいている。
吉と出るか凶と出るか。
携帯を手に取って緋瑪斗の連絡帳を開く。
でも何も文字入れる事なく、眺めるだけ。
「ただいま~」
ビクッとして、急に立ち上がる。
親が帰って来たようだ。
「あら、月乃ちゃんだけ?陽太は?」
「お帰りなさい…陽太は友達の家に泊まるって」
「あら、そう。ちょっと手伝って月乃ちゃん」
「…はいはい」
酔いつぶれた父親をどうにか動かそうとしている母親。
それを手伝えと言う。
面倒そうにも月乃は一緒になって父親を起こして寝室へ連れてくのだった。
緋瑪斗の自室。
カーテンもしないで窓の景色を見ている。
雪がまだちらついている。
(…年明けたら……か)
そのままボフッとベッドに広がるように寝っ転がる。
戸の近くにかけてある学校の制服。
女子制服の隣に男子制服。
(……仮に、男に戻ったら女子制服いらなくなるのかな…?)
ぽけーっしながらなんとなく考える。
モヤモヤした気持ちは収まらない。
「あー、だめだっ!お風呂入って落ち着こう!」
立ち上がってそのまま部屋を出て行く。
(天からの贈り物か…。やっぱり…今の状況って贈り物って事なのか…?)
脱衣所の窓を少し眺める。
雪がまだヒラヒラと舞っている。
少しの間自分だけ時が止まったかのように、ぼんやりと眺める。
(そんなの信じたくないけど。まいっか…)
この日はもう考えるのをやめて、ゆっくりとお風呂に入る事にしたのだった。




