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第19話 始まった文化祭もなんのその。

 一日目はあっという間に過ぎてしまった。

緋瑪斗は特に何もしてない。

一日目は月乃達といろんな出し物を見て回っていただけだ。

店員は二日目に行う事になっていたからである。

緋瑪斗ら一年生は初という事もあり、流れが掴み切れていないのが一日目の実状だ。

店員役もクラスの殆どがやるという決まりになっており、二日に分けて大体が店員に当たるようになっている。

勿論一部の実行委員などはやる暇がないのでスルーはされていたりする者もいるのだが。

「ついに、緋瑪斗の番だね」

 眼鏡をキラリと輝かせ、昇太郎が早速コス用の服を持ってくる。

その速さは刹那。

とんでもない速さだった。

「あ、ああ…うん」

 少し引き気味になる緋瑪斗。

その顔色を伺う月乃。

「大丈夫だよ!私も着るんだから!」

 仲の良い月乃と同じシフトにしてもらった。

「無理を言ってシフト変えたんだから…」

 未弥子も同じタイミングにしてもらった。

その手段は強引だったようだ。

(……怖い女だな華村は本当に…)

 竜は心底未弥子の変な強さに驚くばかり。

「サイズは合ってるのかしらね?」

 強烈な冷たい目線で昇太郎を見る未弥子。

しかしその目線も跳ね返すように明るい口調で昇太郎は話を続けている。

「モチロン!問題なし。多分緋瑪斗は普通の女子より小さいから少し大きいくらいだと思うよ!」

「小さいって言うなこの野郎」

 げしっと昇太郎の脛を軽く蹴る。


「おー、ばっちり~」

「似合うわねぇ」

「ほんとほんと」

 3人が出てくる。

すると歓声が上がる。

「うわー、狗依君似合うね~」

「マジだな」

「すげーな」

「沢城も華村ももしかしてレベル高いんじゃね?」

 女子どころか男子も騒ぎ出す。

「ハイハイ。二日目始まるからホラ準備にとっととかかるかかる」

 担任の教師が手を叩いて作業を進めるように動く。

「しっかし…似合うっちゃあ似合うよな」

「先生まで……」

「嫌なのか?」

「うーん、半分半分かなぁって思います」

 そう言うと緋瑪斗は少し駆け気味に、最初の定位置に着く。



「いらっしゃいませ~!」

「う、うん……?緋瑪斗君?よね?」

「…れ、玲華?!と…え?え?」

 玲華と一緒に入ってきたのは他の家族達。

「どけぃっ玲華!おおー緋瑪斗~かわゆいのう~」

 佑稀弥が玲華を押しのけて目の前に現れる。

突き飛ばされた玲華は怒る素振りも見せずにニコニコしている。

「変態さんはお断りですっ」

 月乃が緋瑪斗の前に出て、守るように割って入る。

目が本気だ。

「ヒメ兄ちゃん可愛いー」

「稔紀理?」

「父さんもいるぞー」

「母さんもいるぞー」

 両親が揃い揃ってやって来た。

二日目は家族など招待制だが、基本的には一般の参加はNGだ。

生徒の保護者などの家族、それと招待状を受け取った者だけに限られている。

勿論他校の生徒なども参加は基本的には出来ない。

のだが、招待状があって尚且つ身分証明出来た者だけが文化祭に参加出来る。

一部、例外もあるが。

ようするに生徒以外の者達が参加出来る、二日目が本番の本番という訳だ。

「うんうん、似合うわねっ」

 テンションあがる頼子が緋瑪斗のコスプレ姿を見てニンマリしている。

少し危ない笑みを浮かべている。

「……最初っからかい…」

「月乃ちゃんも未弥子ちゃんも可愛いわね~撮っていいかしら?」

「ど、どうぞ…」

(さすがの未弥子も強気に出れないか~…)

 月乃もさすがの未弥子も緋瑪斗の親相手には強気になれない、と感じ取っていた。


「まあ、緋瑪斗は人気だわな」

「そりゃあの見映えだもんね」

 誰もが振り返るくらい、目立つ。

赤い髪が功を奏したのか、企画運営長の昇太郎がしてやったりな顔をしている。

「ま、あの丁寧な働きぶりもね」

「ガチでウェイトレスのバイトでもしたらいいところいくんじゃねえか?」

「そうだよね~」

 すっかり客として居ついている家族達。

玲華も緋瑪斗達どころか、月乃や未弥子の方も注目している。

「くっ、玲華め……人を物珍しそうに見て…」

「月乃がイラつくくなんて珍しいね」

「まぁ……普段一緒に居るから余計に少し違和感というかなんというか…」

「言いたい事は分かるわ。だけど忙しいからほら、キビキビ働くっ!」

 月乃のお尻を軽く平手打ちする。

「ひゃんっ!セクハラだよ!」

「なんとでも言いなさいな」

 すぐ近くに居た緋瑪斗。

声をかける事も出来ずに佇んでいる。

(ひょぇ~、こえ~……これが本当の職場だったら…て考えると怖い怖い…)

 何かの片鱗が見えたような気がした緋瑪斗であった。



 休憩時間。

一回休憩を挟んでもう一度だけ行う。

チラっと教室にかかっている時計を見る。

(…そろそろ12時か……さて最後にもう一度)

 椅子から立ち上がるまたその場に戻る。

すると何やら騒がしい様子。

「ヘイヘイ!可愛いねぇ!」

「…なんだ?」

 おそらく同じ学校の生徒…の筈だがやたらと騒がしい男子生徒が4人程。

月乃らや嫌な顔をしている。

「おー、いたぜ!あれが噂の狗依緋瑪斗ちゃん?」

「は、はい?」

「また注文いい?」

「はい、ただいま…」

「可愛いねぇ~」

「はぁ…」

 明らかに変な目で見ている。

(やな視線だなまったく)

「いやぁ、本当に男だったの?信じられないね~?」

「まあ…」

 未弥子はまだ休憩中だ。

しかも近くに運悪くいない。

こういう輩にはすぐ未弥子が突っかかる。

月乃も丁度別の客と接客中である。

しかも写真を撮られている。

緋瑪斗も散々写真を撮られてた。

なぜか昇太郎にも。

(う~ん……騒がしいけど無理に注意したらしたで面倒だよなぁ)

 あれこれ考える。

下手に触ると面倒だ。

それに…緋瑪斗は以前そういう相手をボッコボコにしてしまった。

次起こすとまた警察の厄介になりそうで、笑顔でスルー。

「ねえねえ、緋瑪斗ちゃん、ほんとに元男?女の子にしか見えないよ?」

「あの~、そういうのは他の方に迷惑になるんで…やめてもらっていいですか?」

 少し強気に出る。

「えー?オレらと話すの嫌なの?」

(ヒメ…大丈夫かな?こういう時に未弥子が居てくれたら)

 月乃が遠目で気に掛ける。

でも今は接客中。

雰囲気が壊れるのを嫌がる月乃は動けずじまい。

「いーじゃんか、ね?」

 手を掴んで来る。

(この……!)

 一瞬イラっと仕掛ける。

「あのーーーーー」

 突然の甲高い声にビクッとなる緋瑪斗の男子生徒達。

「邪魔なんですけどー、てか座っていいですかー?」

「あ、はい、ただ今……って、えー?!琉嬉さん?!」

「やお~」

 無表情ながら左手を振りながら挨拶をする。

現れたのは私服姿の彼方琉嬉だった。


「あ?なんだこのガキは?お子様は小学校に戻んな」

「ぎゃっはっはっは」

 下品な笑い。

だが琉嬉は臆する事無く男子生徒の目の前に立つ。

「お?なんだ?」

「んーと、小学生相手に強がる高校生っていうのはカッコ悪いよ?」

「あ?なんだ?ガキだからって…」

「しかし緋瑪斗も毎度毎度変なのに絡まれるよね……」

 無視して緋瑪斗と会話を始める。

呆気に取られるその場の面々。

勿論店員役のクラスメイトや客達も。

「ちょ、揉め事は…」

 耐えかねた月乃が緋瑪斗の前に入る。

「あ、あれ…琉嬉さん?」

「やあ」

「なんで…?」

「緋瑪斗の親に頼んで案内状貰ったのさ」

「え?俺人数分しか渡してないのに…?」

 緋瑪斗は事前に親と兄妹分しか渡してない。

なぜ琉嬉が持ってるのか不明。

「ぬっふふふ。それは私からでーす」

 琉嬉の後から入ってくるのは玲華だった。

「玲華?なんで?」

「うちの弟の分なんだけど来ないって言うから緋瑪斗君のお母さん伝で渡して貰ったのよ」

「へぇ…ってかいいのかそれって…」

「適当に親戚だって言って通して貰ったから」

「……まじかい」

 茫然とする二人。


「おい、お前等オレらを無視するんじゃねっ!」

 無視され続けられた男子生徒達。

キレ始めたようだ。

「はー、学際で目立とうとするのもいいけど、それは別の形でした方がいいんじゃない?」

「は?」

 男子生徒が後ろを向くと、恐ろしい目つきをした未弥子が居た。

「ひっ?!」

 未弥子の後ろには竜と昇太郎の姿もある。

「お、お前等は……」

「おっとぉ?先輩方ぁ。オレらの事は知ってますよねぇ?」

 嫌味ったらしく上から目線で言う竜。

「お、おい…行こうぜ!」

「ああ!」

 すごすごと退散していく。

「おー、逃げてく逃げてく。もしかして学校内で有名なの?」

 琉嬉が感心したように腰に手を当てて言う。

「お?何時ぞやのちっちゃい先輩じゃんか」

 手を挙げて挨拶する。

琉嬉もそれに応えるように手を挙げ挨拶。

「おー」

「なんなの……?この状態」



「どう見ても小学生が紛れ込んだとした思えないな」

「失礼な事言わないの!竜!で、どうしたんです?琉嬉さん?」

 と言いながらも竜を軽く蹴っ飛ばす。

「んー、コスプレした緋瑪斗達を見に…かな?」

「ちょ……何言ってるんですかっ」

 慌てめいて着てる服を両腕で隠すようにする。

「今更意味ないじゃん。撮らせてもらっていい?」

 ポケットからスマホを取り出す。

そして撮影準備。

「うんうん、分かりますか?緋瑪斗のこの姿の良さを…」

 そして昇太郎も撮影に混ざる。

便乗して玲華も。

「ちょ、また撮影会~?」

「ホラホラ、月乃と未弥子も入って」

「な、なんで私も…」

 ブツクサ言いながらも未弥子も入る。

「いえーい」

 謎のポーズ。

「いやぁ、撮れた撮れた」

「あ、あはははは…」

 照れ笑いしか出ない緋瑪斗。




 緋瑪斗達の店員役も終わり、自由行動時間になる。

午後の2時過ぎ。

これから終わりにかけて慌ただしくなっていく。


 緋瑪斗達は琉嬉と一緒に回り歩く。

時々、誰かの妹さんですか?などと聞かれる事も。

そこは適当に緋瑪斗らの親戚とか言って誤魔化して通す。

琉嬉も特に喋り出す事も多くないので、人見知り少女みたいな感じで言われている。

ただ、琉嬉自体は一部では有名なので知ってる人には「あっ」みたいな顔をされたりしている。

別に気にしない琉嬉。

「ええと…琉嬉さん…わざわざ来てくださったのは嬉しいですけど、本当にどうしたんです?」

「あー、んーとね。僕の学校も学際終わったし生きてたから、緋瑪斗「達」に話しておきたいと思ってね」

 緋瑪斗「達」と言った。

つまり月乃らも含む事意味合いだ。

何か重要そう…そう確信する。

「生きてた…?話とは?」

「こっちはいろいろあってね…。そうだね、人少ない場所とかある?」

 キョロキョロ見回す。

人の流れは強い。

生徒以外の姿も結構多いようだ。

「人の少ない場所ねぇ…」

「あそこはどうかしらね?」

 未弥子が何かを思い出したように発案する。

「良い場所知ってるの?」

「そうね……」

 そして未弥子を先頭に各自ついて行く。



 着いた場所は人通りのない、校舎の裏側…のさらに奥。

グラウンドの近くに設置されている部活などで使う建物。

そこの一番端の土手みたいになってる所。

グラウンドはステージがあり人が結構いる。

しかしこちらに来るような人はいない。

「意外にいいかもね。灯台下暗し的で」

「まったく人気がない所に行っても逆に怪しまれるだけよ」

 ツンツンした言い方だが、一応それなりの考えを持って行動を起こしてくれた。

「さんきゅー。ええと、みやこ…だったけ?」

「未弥子です」

「うん、あんがと」

「……」

 照れる未弥子。

「お?何?照れてるの?めっずらしー」

 茶化す竜。

「うぐおっ」

 そして無言でまた蹴られる。

今度は未弥子にだ。


「さて、今回は強く深く入った話するけど…いい?」

 土手の所に最初に座り込む琉嬉。

他の皆も続いて座る。

そしてそのまま全員が黙り込む。

唾を思いっきり飲み込む緋瑪斗。

話しの覚悟は出来た、と言った顔をしている。

「まずは緋瑪斗、君から言うべきかな?」

「へ?」

 突然振られて驚く。

目を丸くして挙動不審だ。

「俺から…?って…」

「緋瑪斗。君が主役なんだよ。この話」

「お、俺が主役って……」

「行くんでしょ?焔一族の里に」

「………そう…ですね。行きたいです」

「んで、緋瑪斗の正体を知っている他の諸君。諸君らはどうしたい?」

 琉嬉の真剣な眼差し。

それを月乃達に向ける。

その不思議な雰囲気。

目の前の少女は何処にでもいそうな小さな少女…なのに力強い何かを感じる。

「それは……」

 躊躇する月乃。

「オレも行きたいぜ!なあ?」

「そうね」

 未弥子と竜はすぐ行く方向へ考える。

月乃は少し焦っているようにも見える。

「妖怪の住む所かぁ…。行ってみたい気もするね」

「私もそうね~。気になるかな」

 昇太郎と玲華も意見が揃う。

「月乃は……どうしたいの?」

 玲華が月乃に寄り添って問う。

「私も行きたい…。でも、緋瑪斗が…変わっちゃったりしたら…どうしようかと思って」

「…それは俺が「男」に戻るかもしれないって事?」

「ヒメ…」

 緋瑪斗が珍しく月乃に対して強めに言った。

「うん…そうなんだけど…どうしても何か納得出来なくて…私、ヒメがずっと女の子のままでもいいと思ってる。

そんな自分が嫌で…」

 今にも泣き崩れそうな顔。

そして弱い言葉。

「月乃…(こんなに弱い子だったんだ…)」

 つられて泣きそうになる緋瑪斗。

未弥子も表には出してないが、緋瑪斗が戻る事に反対派だ。

でも緋瑪斗が決めた事にはそれに従うつもりでもいる。

「私は戻るのには反対よ。でもね、緋瑪斗が自分で決めた事なら仕方ないと思うわ」

「割り切りのいい性格だね、華村さん」

「……ふん」

 昇太郎の言葉に照れる。


「んー、オレは戻って欲しくないなぁ。だって緋瑪斗可愛いじゃん?」

「…女として見てるからだろそれって」

 嫌そうな目をする。

「はは、かもな。緋瑪斗がいいって言うなら男女として付き合うのもアリだぜ?」

「それは断るっ」

 ビシッと断りを入れる。

当然だ。

「ふふ、面白いね、君ら」

 つい笑ってしまう琉嬉。

「でもさ、皆聞いてよ。戻るって決まった訳じゃないし、それにどんな所かもプロに聞いても解からない所だよ。

兎に角…俺をこの体にした茜袮さんに会わないと行けないんだ。じゃないと…」

「ヒメの言いたい事、分かるよ。

未だに、まだ完全に受け入れきれてないって……事だよね?」


 ドクンッと緋瑪斗の胸の鼓動が大きく唸った。

月乃は自分の事を理解していた。

緋瑪斗は少し手が震えている。

「受け入れてない…そう…かもね…」

 自分自身でも気づいてなかった。

いや気づいているけど気づかないフリを自分の中にあった。

少しゴチャゴチャした感情が湧いてくる。

めまいでもしたように、座ってる姿勢が崩れて倒れそうになる。

「大丈夫?ヒメ?」

 月乃が急いで両手で支える。

思ったより軽い。

「ごめん……月乃」

「私の方こそごめん。煮え切らない態度取って」

「ううん。大丈夫だよ」

「…戻るにしろ戻れないにしろ、緋瑪斗が決めるんなら私もそれに従う。

だって納得出来ないもんね?」

 いつもの月乃に戻ったかのように明るい状態になる。

それでこそ月乃だ。

そう思う緋瑪斗達。

「弱音吐くなんてアンタらしくないわね」

「うるさいな~」


「……なんか昔を思い出すわね」

「ああ、そうだな」

 玲華の言葉に竜も過去の事を思い出していた。

「昔かぁ…。こうやって近所の広場で6人揃って遊んでったけ?」

「そうそう。最近まで疎遠になってたんだけどね」

 6人揃ってはいろいろ遊んだという。

小学生からの付き合い。

他の年齢の子や皆の姉弟達も混ざり、楽しかった思い出。

「へぇー。いいね。そういうの」

 羨ましそうに眺める琉嬉。

「琉嬉さんは幼馴染いないんですか?」

 昇太郎の質問に琉嬉は答える。

「引っ越し多かったし、ま、こういう性格だからね。仲の良い友人なんて出来なかったさ。

でも僕は今が充実してるからいいんだけどね」

「…何かあったのかは知りませんが…こんな僕達で良かった逆に相談乗りますよ」

「ふふ、ありがとさん」



 琉嬉は立ち上がり、緋瑪斗の前で中腰になる。

「緋瑪斗。お前の取りたい行動を取るといいさ。自分で納得出来る事を。僕はそれを手助けする。

友達だからね」

 琉嬉が小さな手を差し出す。

「琉嬉さん……」

「無論、緋瑪斗以外の皆もね」

 差し出した手を強く握る緋瑪斗。

そして立ち上がる。

「おーっし!決まったな!」

 竜も手を差し出し、握った手の上に置く。

「あ、竜ずるい」

 昇太郎も乗せる。

「じゃあ私も~」

 にこやかに玲華も乗せていく。

「……仕方ないわね…」

 嫌々ながらも未弥子も手を出す。

「………どうなろうと私も、緋瑪斗を見届ける」

 月乃が最後に手を乗せる。

順番が適当だが、何も誰も言わない。

「じゃ、頑張ろうか」

 照れながら緋瑪斗が最後に締めるかのように言う。

「せーのっ!」

 勢いよく下にためて、一気に上に放つ。




「行く日程は冬休みでいいかい?年明けになるかもだけど」

「それがいいかもですね。お互いに」

 日程を決める。

早いうちに…と言いたかったがどうも長引いたら困るので休みが長い冬休みに決まった。

冬はこちらは雪が積もるのだが、緋瑪斗が聞いた場所は雪があまり積もらない所…という話だ。


 琉嬉を含む7人は校舎内へ戻っていた。

昨日回れきれなかった所を回る事にする。

その間にある程度の日程などを決める。

じっくり考える暇はないという理由で移動の間に話を進めるという、なんとも適当な話し合い。

一応昇太郎がメモを取っている。

こういう所は気が利く。

「ね、琉嬉さん、あれはどうかな?」

「お化け屋敷…?」

「楽しそうねぇ」

「…ウチの学校がリアルお化け屋敷みたいなもんだけどね…」

 渋々月乃達女子チームに付き合わされる。

あまりテンションが高いようには見えない。

このノリはどうも苦手っぽい。

その様子が緋瑪斗らにも伝わってくる。

「琉嬉さんって…どっちかというと見た目に反してボーイッシュだよね」

「あー、それなんとなく分かるなぁ」

「自分の事「僕」って言ってるしね。本当は男の娘だったりして?」

「それはないと思うよ。琉嬉さん、れきっとした女の子だよ?」

「だよなぁ」

「証拠は?」

「え?だって一緒に武術の修行して…って何言わすの!」

「もしかしてあれか?一緒に風呂でも入ったのか?!なぁなぁ!?」

「なんで竜が興奮するんだよ!」

「気になるじゃんかよー!緋瑪斗もだけど、琉嬉さんもー」

「……ロリコンか」

 ボソッと最後に昇太郎が呟く。

緋瑪斗を含む男子チームは後ろに居てただただ付き添ってるだけ感。

適当に言いたい放題。

始まった文化祭もなんのその。

結局は緋瑪斗中心の話が大きくなって正直、心から楽しめてないのだった。


「……なるほど…」

 キャーキャー言う月乃と玲華。

楽しそうである。

反対に冷静なのは未弥子と琉嬉。

「よく出来たもんだね…」

 琉嬉は感心したように歩きながら独り言のように喋る。

「琉嬉センパイ…中々の肝が据わってらして?」

 まるで戦いを吹っ掛けるような言い方。

未弥子も動じないで進んでいる。

「未弥子…こういうの平気なの?」

「貴方とは違うのよ」

「むぅ…」

 月乃はホラー系は少し苦手のようだ。

玲華はそうでもなさそうなイメージだが、見てるとただただ面白可笑しく、一緒になってワーキャー言ってるだけのように見える。

「僕はこういうのを商売してるようなもんだしね」

「むっ…」

 なぜか対抗心燃やす未弥子。

ズカズカと先へ進む。

バンッと勢いよく出てくるお化け役も、

「うっさいわね!」

 と、一喝して先へどんどん進んでいく。

まったくお化け屋敷としての楽しみ方を間違えてるようだ。

「……無茶苦茶な奴だな…」

「あー、そうだね」

 後から入って来た緋瑪斗達。

「華村さんはああいう、敵意剥き出しにするという悪いクセが表部分にすぐ出ちゃうからね~」

「昔からな」

「ふぅん………」

 さすがの琉嬉も呆れるばかり。




 お化け屋敷という名の教室から出た所。

先に出て待っていたのは未弥子。

「遅いわよ」

「あんたが早いのっ。まったく…」

 変に息を切らして出てくる月乃。

ぞろぞろと月乃後ろから出てくる。

「どうだった?」

「うん。割と面白かった。やっぱお祭りとかのやつに比べるとチープさが逆にいいよね」

「お、分かるぞそのチープという味が」

 昇太郎と分かり合う緋瑪斗。

謎にハイタッチ。

琉嬉は唐突に止まる。

「ん?どうした?琉嬉さん?」

 竜が異変に気づく。

「………琉嬉さん、これ」

 緋瑪斗も何かに気づく。

二人は一斉に後ろを向いた。

「あら、みつかっちゃった」

 見慣れない女子生徒が居た。

というか、制服姿なのだが、赤い髪。

「……箕空…さん?!」

 その姿は緋瑪斗が以前夏休みの旅行に行った時に出会った、焔一族の少女だ。

「そそ。箕空。火野神箕空ひのかみ みそら。火の野の神様って書いて火野神」

「苗字あったの…?」

「適当に決めたの」

「適当って…」

「ちょっと!誰?部外者が勝手に…

「待った。未弥子。こいつ…妖怪だ」

 琉嬉が小さな体ながらも未弥子の前に入って止める。

「よ、妖怪…?この女の子が?!」

「如何にも~」

 にこやかに挨拶をしてくる箕空。



「で、何の用で来たの?ぶっちゃけ、侵入でしょ?どっから制服持ってきたの?」

 琉嬉の怒涛の質問攻め。

「まぁまぁ、琉嬉さん。ここは我々の通う学校ですから我々が…」

 と、頼もしく昇太郎が前に出てくる。

何か違う意味合いにも取れる行動だ。

が、緋瑪斗に割り込まれる。

「箕空さん。どうしてここが分かったんですか?」

「えー、だって、茜袮に聞いたんだもん」

「!!」

 全員が驚く。

「茜袮さんに会ったんですか?!」

 がっつく緋瑪斗。

その勢いに箕空も少し驚く。

「あの子はね、今動ける状態じゃないの。私もいろいろ忙しいからあんまり話聞けなかったけどネ」

「動ける状態じゃない……?」

「あ、別に重病患者とかそんなんじゃないから。力を失くして、焔一族としての行動が出来ないだけだから」

「それって……」

 思い当たる節がある。

自分自身の命を救ってくれた…力。

そのせいかもしれない。

「待った。なんでわざわざココに?」

 琉嬉が緋瑪斗を遮るように質問をする。

聞きたい事は緋瑪斗の方が山のようにあるのだが、素性が不明な妖怪がわざわざ学校にまで現れたとなると気になるからだ。

「え?だってそこの焔一族の半妖の子が行きたいっていうから…」

「………」

 琉嬉は悟った。

こいつは多分、あまり何も考えてない妖怪だ、と。


「それだけ?」

 少し前に詰め寄る琉嬉。

「そうね~。正直言ってさ、茜袮って子とはあまり接点ないのよ、あたし」

「それは一族の人数が多いから…ですか?」

「うん」

 笑顔で返す。

どこかひょうひょうとしている。

基本的には他人にはあまり興味持たなさそうなタイプに見える。

「でも、一族の好み(よしみ)で、伝えて置こうと思ってね」

「ふーん、なるほど…その身動き取れないでいる茜袮って女に会えば全て分かるのね」

 未弥子が言う。

手は拳の形を作っている。

「ヒメ……」

 心配そうに月乃は緋瑪斗の顔色を伺う。

意外にも平静を保っている。

「なぁ、緋瑪斗にも話を聞いたんだけどよ、力とかなんとかってどういうこった?」

「竜は相変わらず感が鈍いなぁ。その茜袮って人が緋瑪斗に妖怪の力を与えたって事だろ。

そして、その茜袮って人は緋瑪斗に力を渡した結果力を失った…っていう解釈でいいんだよね?」

 眼鏡をクイッと上げながら箕空の目を見る。

その仕草は怪しさ抜群だ。

「そうね。あたしら一族はこの妖力を他人に渡す事が出来る」

 人差し指を一本だけ挙げ、そこから火を出す。

「おお……?!」

「そこの緋瑪斗君も同じ事出来るよね?」

「………そう、だね…」

 緋瑪斗も手のひらから一瞬だけ、火を出した。

「おおーすげー」

 歓声があがる。

「誰も見てないよね?」

「多分」

「普通に手品に思うんじゃないか?」

 でもそこまで驚かない面々。

何か、いろいろと慣れた感がある。

数々の緋瑪斗の状況を見ていれば火を出すくらいは女になった事に比べれば大した事ないのだ。

これまでの事を考えたら大した驚く事ではない。

「………じゃ、あたしは伝えたからね」

 窓を開けて飛び降りようとする。

「ちょっと待ってください」

「ん?」

 呼び止める緋瑪斗。

「…戻る方法とかあるんですか?」

「……戻る方法って言われてもね~、あたしにゃちょっと解からないかも~」

「じゃあ、俺の焔一族の力を茜袮さんに返せば…戻るかもしれませんよね?」

「!」

 その場の皆がドキッとした。

「…その方法があったか…いや、しかし…」

 思わず琉嬉は手を組んで考えてしまう。

成功するのだろうか?

そもそも緋瑪斗が力を受け渡す能力が備わっているのか?

「それはどうかな…でも今までにそんな状況になった人なんていないしね」

「でも、希望が僅かでもあれば…」


(ヒメがあんなに前向きなんて…)

 月乃が知る緋瑪斗はあまり外向的な性格ではなかった。

どちらかというと、おとなしめの目立たない存在。

自分の意見もはっきりする事も少なく、周囲の流れに寄り掛かって生活しているタイプだ。

でも今は自分自信の置かれた状況を打破するために行動しようとしている。

「じゃ、あたしは今度こそ行くね。またね」

 そして窓から飛び降りて行った。

「おいおい…飛び降りたぞ…ここ二階だぜ?」

「……信じられない」

 箕空の姿はもうなかった。




 突然また姿を現した箕空。

伝えるだけ伝えて、去って行った。

緋瑪斗らは、校舎内の別のクラスの飲食ブースに来ている。

竜はバクバクとパンを食べている。

呑気そうだ。

「収穫はあったさ」

 スマホを取り出して何やら誰かと連絡を取っているようだ。

「収穫ってどういう事ですか?」

 玲華が琉嬉のツインテールにしている長い髪を弄りながら聞く。

完全に妹扱いみたいにしている。

琉嬉を自分の両膝の上に乗せているからだ。

「……玲華も大概ね…」

 少し呆れたように未弥子は玲華に向って言う。

そして出されたサンドイッチに手を付ける。

「だって、琉嬉さん文句言わないし可愛いから~。私、妹も欲しかったなぁ」

 チラっと緋瑪斗の方を見る。

「なんで俺を見るの」

「んー、なんででしょうねぇ」

「あれはヒメを妹のように見てる目よ…」

 コソコソと月乃。

「はいはい。で、琉嬉さん何か気づきました?」

「そだね。始めて焔一族の奴と遭遇したけど……忍者みたいというか……天狗?」

「てん…ぐ?」

「そ。天狗」

 天狗。

皆が予想つく姿は顔が赤くて、鼻が長くて、険しい表情していて修行僧のような姿をして翼がある。

そんなイメージだ。

「天狗なんているんですか?」

「あー、うん。沢山いるよ。こっちにはあまりいないけど」

「へ、へぇ…」

 驚く話ばかりである。

「それは興味深いですね」

 身を乗り出して興味津々にする昇太郎。

こういう話が大好きなようだ。

「でもさ、琉嬉さん。天狗ってあのいかつい感じなのしか思い浮かばないけどよ」

「ノンノン。天狗と言っても沢山種類いるのさ。勿論、女の天狗だっているさ」

「マジか…」

「僕の祖父さんと居候妖怪さんによるとだね、天狗の一種じゃないかって言うんだけど…聞きそびれちゃった」


 緋瑪斗は思い当たる節があった。

茜袮と会った時の姿。

そして箕空と会った時の姿。

言われてみれば天狗を想像させるような和装だったのも頷ける。

「って、事は緋瑪斗も天狗なのかー?!」

「バカでかい声で言わないでよ…」

 自分自身が天狗?

でもまだキッカリと決まった訳ではない。

それも確かめるためにも里に行くしかないのだ。

「あ、でも一応連絡先はあるんだけど…」

「へ?」

 普段眠たそうな目つきの琉嬉の目が大きく見開く。

他の者もそうだ。


「なんでそういう重要な事を言ってくれないのさー」

 琉嬉が緋瑪斗の首を絞める。

「うごご…すみません…。でも連絡しても返事帰って来なくて…」

 そう、メールなどしても返事が返って来ない。

連絡先を知ってるのに連絡が取れない。

まったくもって意味のない事だった。

もしかしてこの連絡先から辿って、この場所を知ったのだろうか?

そう思えてくる。

そもそもそんな警察とかみたいに調べ上げれるのだろうか。

妖怪だし可能なのかもしれない。

「ふーん……。天狗も携帯をねぇ。ま、珍しくもないか。狐妖怪も持ってるくらいだし」

「狐妖怪…?」

「あ、こっちの話」

 琉嬉の傍には狐の妖怪がいるようだ。

「まぁ、返事が返って来ないようじゃどうしようもないけど」

 緋瑪斗の頭をくしゃくしゃっと撫でる琉嬉。

「んむぅ……(なんか年下の子に頭撫でられてる気分)」



「今日は楽しかったよ。意外なゲストも来たし」

「はは、そうですね…」

 文化祭も終わりに近づく。

琉嬉は先に帰るようだ。

家が元々近いので、ラッキーだと言う。

「オレも楽しかったぜ。なんかワクワクしっぱなしだ」

「子供ねぇ、いつまでも」

「男はいつでも冒険に憧れるものなのよ、ね?竜」

「玲華まで……まったくもう」

 月乃と未弥子は苦笑い。

でも顔は満足そうだ。

「琉嬉さん…次は琉嬉さんもコスプレ…用意しときますね」

「僕はいいよ、別に…」

 あっさり拒否。

「似合うと思うのになぁ…」

 と、ブツクサ小さくゴニョゴニョと言っている。

「緋瑪斗達のコスプレみただけで満足さ。じゃ、また…近いうちに最終ミーティングしようね」

 大きく手を振って学校から出て行く。

こちらも負けずに大きく手を振る。



「あー、琉嬉さんって本当可愛い」

「玲華の奴、心奪われちゃってんじゃん」

「そういう趣味あったのね…」

 意外な一面を見せる。

「ヒメ」

「ん?」

「来年の文化祭も楽しみにしようね。その時はヒメがどうなってるか分からないけど…」

 ぎゅっと緋瑪斗の手を握ってくる月乃。

両手で力強く。

少し痛いくらいだ。

「そーだねー。その時はもっと気持ちも安定してると思うよ」

 それは自分の心がまだ安定してない。

そういう意味だ。

自分でも理解している。

不安と希望が入り混じっていて、深い部分はぐちゃぐちゃしている。

それは今もだ。

「さて、最後まで楽しもうぜ、緋瑪斗」

 竜が何を思ったのか、足元から抱きかかえだす。

「ちょ、なにしてんの?!」

「んー、後夜祭、行くんだろ?」

 後夜祭はグラウンドでキャンプファイヤーとかカラオケ大会とかなんかいろいろとやるらしい。

取り敢えずそれに参加をしようという話だ。

「最後の締めね。どうする?」

「是非この服を着て…」

「どっから持ってたのよアンタ…」

「ほら、いこっ、みんな!」

 昇太郎を無視して月乃が走り出す。

なんだかんだで元気っ子だ。

「やれやれね」

 そして負けじと未弥子のノリで走り出す。

前までの未弥子では考えられない行動だ。

「おーい、着てくれよ~」

 追いかけるように昇太郎も走り出す。

「昇太郎まで行っちゃった…」

「オレらも行くぞ!」

 抱えたまま竜も走り出す。

「うおっ?!マジか…竜…ちょっと…恥ずかしいし重くない?」

「問題ない!」

 ガタイに見合ったパワーだ。

軽々と持ち上げている。

「頭気を付けろよ!」

 ササッと両手で頭をガードする。

「おお~いぃ~……」

 緋瑪斗の叫びは虚しく校舎内に響いた。



 文化祭は終わりを告げた。

家族達は元より、琉嬉の参加。

そしてまさかの焔一族の箕空までもがやって来た。

緋瑪斗にとっては文化祭自体どうでも良くなるような想いだった。



 これから冬のシーズンが来る。

後先の光が見えて来た。

熱い冬になりそう…なんて、かっこよく考える緋瑪斗であった。


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