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第17話 偽りの日々はもう沢山だった。

 夏休みが終わり、何の変哲のない毎日となる。

何も変わらないようで変わった。

未弥子とも親しくなり、クラスがまとまる。

勿論クラスだけでない。

学年全体として、まとまりが出来てくる。


 9月中盤に入り、涼しいを超えて寒いとも思える時期になる。

時折昼間は暑い時もあるが夜はすっかり冷え込む。

そしてやってくる文化祭。

出し物などが決まり、各々準備に取り掛かる。

のだが……。

「で、ウチは何やるの?」

「無難に喫茶店だとさ」

「へぇ」

「へぇ、て、何も聞いてないの?」

「だってあまり興味ないし…」

「そんなんだからモテないのよね」

「んだと?」

 相変わらずの緋瑪斗達。

「まぁ…決まったものはちゃんとやりましょう」

 未弥子が冷静に言う。

「けっ、華村はクラス委員でもないくせにまとめようとしやがって」

「あら、貴方もよくまとめようとしてるじゃない。そうじゃなくて?」

「んだと?」

「いい加減にしろ」

 竜の尻を軽く蹴っ飛ばす昇太郎。

こんな事を出来るのは昇太郎を含む緋瑪斗達だけなくらいだ。


 以前、緋瑪斗を助けるために竜達が暴れた。

それの主犯格としてどうやら学校中の生徒(一部の)から恐れられるような立場になったという。

その点は佑稀弥も同じだが。

「さぁさぁ、頑張ってね」

 手をパンパン叩いて行動を促す月乃。

「やるったって何をやるんだよ」

「いいから割り当てられた事をやるっ!」

「へいへい」

 やる気ない竜。

「ホラ、竜」

 緋瑪斗が片手で持ってるダンボール。

「ん?なんだこれ?」

「線の通りに切って。得意でしょ?力仕事」

「お、おう…緋瑪斗に言われちゃあな…」

「…まったく。ヒメに甘いんだから」

「本当ね」



(はぁ……結局言えずにダラダラ文化祭の時期まできちゃったな…)

 自分の本当の事。

現段階で詳しい状況を知っているのは月乃と玲華。

そして彼方琉嬉の3人のみ。

親兄弟や竜達はまだ知らない状況だ。

知ってるのはごく限られている。

結局最後の方まで残り、一人てくてく歩く。

他の皆は先に帰ったり、途中で寄る所あるとかでバラバラになっていた。

「なんだかなぁ……」

「何がなんだかなぁ……なんだ?」

「?!」

 急に聞き覚えのある甲高い声が聞こえる。

帰りの通学路の途中の公園前。

目の前には琉嬉が居た。

「琉嬉さん?」

「やっほ」

 自転車に乗っている姿のまま。

制服姿だ。

「どうしたんです?突然(相変わらず小っちゃくて可愛いなぁ…)」

 少し違った視点で見てしまう緋瑪斗。

「んーとね、ちょっとお話しに」

「え?お話…ですか?」

「ま、近いから通っただけなんだけどさ、緋瑪斗を見かけて……何ぼーっとしてるの?」

 少し首を傾げて緋瑪斗を上目づかいで見る。

緋瑪斗も背は女子の中でも少し低いくらいなのだが、その緋瑪斗が下を向くほど、琉嬉は小さい。

その仕草がまた年上の高校生とは思えないくらい、可愛いらしい。

「遅いね?どっか寄ってたの?」

「文化祭の準備が…」

「あ、そっか。そっちも学際かぁ。こっちも学際準備で忙しいよ。いろんな意味でね…」

 少し琉嬉に疲れが見える。

きっと、何か大変な係にでもなっているのだろうと緋瑪斗は思っていた。

「ちょっと時間大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です…けどお話ってのは…?」

「そうそう、焔一族の奴に会ったらしいね。目当ての人…じゃなくて妖怪じゃなかったらしいけど」

「はい」

 

 先日の旅行での出来事。

偶然に焔一族の一人という、箕空に出会った。

なぜ会えたのかも謎だが。

緋瑪斗と琉嬉は場所を変えて近くのファーストフード店に入る。


「忍者のような妖怪?」

「そう。女性しかいないからくのいちとでも言うのかな~」

 ズズッとストローを音を立ててジュースを飲む。

緋瑪斗もちゃっかりハンバーガーを買っていた。

「忍者……ですか」

 茜袮の服装や、箕空の服装を思い出す。

たしかに、和服っぽい服で動きやすそうではあった。

「で、場所がちょっと面倒だそうだね」

「はい。なんでも、2、3年に一度里の場所を変えるそうで…」

「存在を特定されたくないからか」

 際立った存在を知られたくない。

だからこそ、まるで忍者のような存在だという話だ。

ろくに文献などにも残っていない。

そもそもまだ現存している一族。

慎重に行動してるせいなので、あまり真実味のある情報が出ていないのでああろう。

「今回話に来たのは…緋瑪斗はどうしたい?って事」

「…どうしたい…ってのは…?」

「またまたー。自分でも気づいてるんでしょ?」

 スマホを取り出す琉嬉。

そして何かの画面を見せる。

「なんです?これ?」

「…………なんだと思う?」

「ええと…?」

 むず痒い顔をする緋瑪斗。

画面には文字列だけだ。

「…焔一族…についての?」

「そそ。現状把握出来てる内容。その道筋に詳しい妖怪がいてね。ちょいと聞いたんだ」

「よ、妖怪のお知り合いさんですか…」

「うん。赤坊主っていうお坊さんみたいなやつなんだけどね」

「赤坊主…?」

「そいつにまとめてもらった内容を打ち込んでもらったのさ」

「…妖怪に…ですか…」

 ぽかんとしてしまう緋瑪斗。


 現状だけで解かる事。

焔一族は限りなくヒト型に近い容姿で、全て女性しかいない。

一番の特徴は赤い髪と瞳、そして炎を操る能力がある。

その特徴を緋瑪斗は大きく受け継いでしまったようだ。

それに数百人いるという事。

里は数年に一度場所を移すという事。

そして緋瑪斗がまだ知らない内容が書かれていた。

「…これって……」

「うん。焔族には敵対する、天敵の妖怪の一族がいる。

それが「鋼赫こうかく」ていう妖怪の一族」

「鋼赫……?」

「体の一部を鋼のように固くしたりして攻撃したりするらしいけどね」

「もしかして……」

「心当たりあるの?」

 さらに険しい顔する。

思い出したくもないあの時の光景。

なんせ、自分自身が死にかけたからだ。

あの時の事を緋瑪斗は琉嬉に洗いざい話し始める。



 カラになった紙コップをテーブルに置く。

琉嬉は腕を組んで背もたれに寄り掛かるように深く座る。

「なーるほどね」

「その相手はどうなったのか分かりませんが…多分燃えてたので死んだのかも…?」

「…そうだといいけど、ね」

「…?」

 ふーっとため息をつく琉嬉。

「原因が……焔族による「力」のせいか……。雪女と似てるな…」

「雪女…?雪女って本当にいるんですか?」

「あー、うん。なんちゅーか…、多分想像してる雪女とはだいぶかけ離れてるとは思うけどね」

「そうなんですか?」

 きょとんとした顔をする。

そのきょとんとした顔を見た琉嬉。

「緋瑪斗ってさ、本当表情豊かだよね」

「…え?え?そう…ですか?」

 途端に顔を赤くする。

「ふふ、そういう所が表情豊かって言うんだよ。僕はもっと笑えと言われるけどね」

「はぁ…」

「ほんと、緋瑪斗って愛想もいいよね。きっと人気あるんだろうね」

「な、何を根拠に…」

 褒め言葉の連続についつい顔を隠す。

その行動が見ていて面白い。

「ちょっとした噂だよー、鞍光高校にも話題出てくるよ。緋瑪斗の事」

「な、なぜ…?」

「赤い髪のボーイッシュの女の子が凄く可愛いって、ね」

「赤い髪って……俺の事ですか~?」

「そーそー。その自分の事を「俺」って言うギャップがたまらないらしいよ」

「…んなっ?!」

 かなり驚く。

というのも、なんとなく声をかけられる事が多いのにもなんか納得しだす。

「それと……」

 ずいっと小さな体を思いっきりテーブルに乗り上げて近づく。

「な、なんですか…?」

「焔の里……行くんでしょ?」

「え?あ、はい…。そのつもりです」

 ニコッと笑う。

「僕も行かせてねっ」




 琉嬉と別れて、トボトボと家に戻る。

すっかり真っ暗だ。

自宅のお店。

正面から入る。

「ただいまー…」

「お、おかえり」

 父親が迎える。

店番をしていたようだ。

だがそろそろ閉店の準備をしていた所のようだった。

気がつけば結構な時間が経ってたようである。

「最近帰り遅いな。学際大変だろうけど、あまり遅くならないようにな」

「あ、う、うん…」

「元々男の子だったとはいえ、今は女の子なんだから。気を付けろよ」

「そう…だね」

 胸にズキンと刺さるような感覚。

女の子だから。

女女女。

その言葉が辛い。

本当は戻りたい。

でも、今の状況で作られた関係性。

戻ったら?

今までの関係性が崩れるのでは?

現状の居心地は良い。

しかし、今のままでいるのは、心苦しい部分もある。

少し頭がふらつく。

(……お風呂入ったら寝よう…)


 何度目なんだろうか。

もう慣れた筈の自分の体。

大きな鏡の前で壁に両手を当てて、じっと自分の顔を眺める。

顔つきはあまり変わっていない。

なのに、はっきりと「女の顔」に取れる。

元が童顔だったせい?

前から年齢より幼く見られたりはした。

あまり女の子に間違えられてた事なんてない。

でも今の顔は、女のつくりの顔だ。

(……はぁ。元に戻れるのだろうか…。ていうか、俺は……)

 シャワーを流す。

ザザーッと大きな音を立てて、排水溝にお湯が流れ込む姿を眺める。

(…本当に元に戻りたいんだろうか……?)



 自分自身で疑心暗鬼になってくる。

それも、周りの自分に対する接し方。

特に…未弥子の言葉。

大きく胸に突き刺さったまま。


 何でもない、どこでもいそうな男子高校生。

だった筈だ。

平凡な、その辺にいる15歳の高校生だった筈の自分が特殊な状況下に突然置かれた。


 女になった。

妖怪になった。

変な物が視えるようになった。

人知を超えた力を持つ者達に出会った。

むしろ自分が人知を超えた力を使えるようになっていた。

平凡から180度変わってしまった人生。

この先どうなるのか。

緋瑪斗は不安だらけになる。

(……むむぅ……。俺、生きていけるかな…?)




 その日はやって来た。


 ある日の文化祭準備の途中だった。

「緋瑪斗君、買い出しに行ってもらっていい?」

 眼鏡の女子生徒が緋瑪斗に買い出しして欲しいと言い出す。

「…なんで俺?」

「だって手があいてそうだったし」

「まー、暇だったのはたしかにそうだけど、さ」

 ちょっとだけ不満な顔を見せながらも、文化祭用のための資金を少し手渡される。

他の者はあれこれ作業に取り掛かっている途中。

月乃は別グループで仕切っている。

未弥子の姿はない。

どこかで別の作業でもしているのだろう。

竜は月乃達と一緒のグループで月乃と何かと言い争っている。

とても頼める雰囲気じゃない。

昇太郎は用事があるようで先に下校している。

「…んー、やっぱり俺しかいないのか」

 どうやら他のクラスメイト達は緋瑪斗にあまり大きな仕事を回していない。

最近の元気の無さや、いろいろな事情があるため。

あまり緋瑪斗に負担をかけさせないようにちょっとした事を避けてる。

なんとなくそれを察してはいる。

「しゃーないね」


 学校近所の文房具屋。

近隣の小中高の教科書なども取り扱っている。

そこに向かう。

「これとこれと…うーん、これ学校の購買部に売ってないのかよ」

 必要な材料などを買い揃える。

(ホームセンター…この辺にはないよな。うちの近くならあるのに)

 わざわざ家の近くのお店まで行くのに一旦家に帰る距離までは行きたくない。

なので歩いて数分程度の所のお店でなんとか終わらせる。

そういう考えだ。

「毎度」

 50代くらいの男性の店員。

ここのお店の主人だろうか。

「文化祭、近いからいろんな生徒さんくるよ。君もお使い頼まれたんだろ?」

「あ、はい。俺だけ、暇だったからですね」

「はは、そうかい。頑張ってね」

「はい。ありがとうございます」

 一声だけでも嬉しい。

こういう交流があるだけでもやる気が少し出てくる。

ちょっとだけ気分が高揚して、店を出る。




「お、いたいた」

「探したぜ」

「?」

 緋瑪斗の前に現れた、見知らぬ男達。

制服ではなく私服姿の集団。

あからさまにヤンキー風だ。

「……えと、誰?ですか?」

「ふぅん…たしかに。真っ赤な髪してるけど可愛いな」

「??」

 まったくさっぱり意味が分からない事を言っている。

なぜかこちらを知っている風なのか。

「狗依緋瑪斗ちゃんだろ?知ってるぜ。男から女になったって噂の」

 ドキッとする。

なぜ見知らぬ者が自分の名前はおろか、事情まで知っているのか。

鼓動音が早くなる。

「…なんですか?」

「こいつらがちょっとお世話になったらしくてな…」

 男達の後ろから姿を現す同じ学校の制服の男子生徒。

以前、緋瑪斗にちょっかいを出して竜達にボコボコにされた上級生達だ。

嫌な予感がした。

多分、報復行為。

それに来たのではないかと。

運悪く事件の発端の緋瑪斗が先に出会ってしまった。

(ヤバイな…逃げよう)

 何を言わずに走ろうとする。

しかし。

「おっと、駄目だぜ」

 腕を掴まれ、止められる。

「何するんですか!」

「ちょっとこっち来なよ」

「!」

 別の男に口を手で塞がれそのまま連れてかれる。



 身動きが取れないように両腕を後ろから掴まれたまま。

今のままでは力では到底敵わない。

抵抗しても、相手は大人数。

脱出は困難だ。

人気のない、狭い公園の裏地に連れていかれる。

「お前のせいで俺らのメンツ丸つぶれだ。だから、この人達に…分かるよな?言いたい事?」

 上級生が何かを言っている。

あまり頭に入ってこない。

分かるのは、自分達より上の力を持つ者を連れて来たって事だ。

情けないヤツだなとピンチながら思う緋瑪斗。

「…一人相手に大勢で、卑怯ですね」

「うるせぇ!」

 バシッと平手打ちされる。

痛い事は痛いが、琉嬉との武術の練習に比べれば大した事ない。

でも怒りは湧いてくる。

「……なんだその目?」

 自然と怒りの目つきをしていたようだ。

「今回はあいつらは来れないぜ?」

 スマホをいつの間にか取り上げられていた。

「返してください」

「やなこった」

「元男なんだろ?でも今はどうみても女じゃん」

 私服姿の男が寄ってくる。

「やめてください」

「な?調べていいかな?」

「……下衆」

 緋瑪斗が聞こえる様に言う。

「なんとでも言えよ。剥け」

「了解」

 上級生が緋瑪斗の服を脱がそうとする。

「やめ…!」

 嫌がる緋瑪斗を無理矢理服を脱がそうとする。

そしてまた口を塞がれる。

(ヤバイヤバイヤバイ……なんでまたこんな事に……)

 制服を無理矢理脱がされる。

ボタンが引きちぎられて飛んでいく。

せっかく親が買ってくれた制服。

「……!!」

「本当に女か調べてやるってよ!」

「ぎゃははは」

 気持ち悪い笑いが耳に入ってくる。

(なんなのこれ……なんで俺がこんな目に…)



 琉嬉の言葉を思い出した。

「いいかい?その力をむやみに使うのは…よくない。

と、言いたいところだけど。

やむを得ない時には、惜しみなく使うといいよ。

言って分からないバカには手を出せ。

体に言い聞かせろ。

生物の本能に言い聞かせるんだ。なんて、ね」


 無茶苦茶な理論だが、ある意味正論でもある。

人間のままの力では、まず男相手には勝てないだろう。

鍛えてるとしても始めて数か月。

そんな力が付く訳がない。

だったら……。

「だったら、焔一族の力を使うしかないよね」

「あ?」

 緋瑪斗の右腕が自分の首を絞めている腕を掴む。

「なんだ…?あ、あっちぃ?!」

 男の腕が燃え上がる。

「ぎゃああああぁつっっ?!」

 掴んだ腕に炎を付けた。

男の腕が火だるま。

「な、なんだ?!」

「何をした?!」

 パニック状態になる。

「え?え?」

「ぎゃあああああぁぁ、助けてくれぇっぇ」

 転び回る男。

「………もういいよね。俺に関わるなよ。もう………」

 緋瑪斗の目つきが変わる。

その鋭い目つきの瞳に色が、燃えるように赤く輝く。

「お前らが悪いんだよ。お前らが…」

「おい、なんかやべぇよ?どういう事だよ?」

「し、知りませんよ!」

 逃げようとする。

だが、緋瑪斗が飛び掛かる様にして、一人の男の首根っこを掴んだ。

「なあ、お前等こうやって何人の子泣かしてきたんだ?なぁ?」

 もれなく顔面に掌底を食らわす。

「ぶげっ…」

 一気に血まみれの顔になる。

「やめろてめぇ!」

 上級生の一人が蹴りを仕掛ける…が、軽く受け止められた。

彼方式の武術が役に立ってしまった。

「俺は一人だから卑怯だとは言わないよね?」

 にっこりと、不気味に微笑んだ。

「ひ、ひぃ?!」




(――偽りの日々はもう沢山だった。

俺は、もう本当の事を、述べる。

じゃないと、胸が痛くて痛くて、耐えられないから―――)


「大丈夫?緋瑪斗?」

「んー、大丈夫」

「驚いたぜ、緋瑪斗。電話してくるから何かと思ったらよ…」

「緋瑪斗…怪我してない?」

 未弥子が抱き着く。

「ちょ、未弥子!」

「あら、失礼…」

 赤面しながら離れる。

「うん、怪我はしてない。むしろ…」

「むしろ相手の方が大怪我だけどね」

 昇太郎がなぜか戻っている。


「驚いたぜ~まったく。

突然連絡来たから行ってみたら、なんかうちのヤンキー共や変な奴等が血まみれでぶっ倒れてるからな」

「警察やら来て大騒ぎ。なんか何人かは大火傷負ってるらしいし。何がどうなってあんな風になるんだろうね」

「そうね。緋瑪斗君がやったのあれ?」

「あ、うん……どうだろ?」

 あまり記憶がない…というより、少しうやむやだった。

怒り任せで動いたせいで、ほとんどの記憶がぶっ飛んでる。


 学校の保健室。

「一体何があったの?」

 養護教諭が保健室に戻ってくる。

「警察の方も来るって…?」

「あーあー、その件については大丈夫です」

 突然後ろから女の子の声が聞こえた。

振り向くと、この学校とは違う制服姿の黒髪ツインテールの子。

「貴方は…?」

「緋瑪斗のお友達です。ね?」

「琉嬉さん!」

 現れたのは琉嬉だった。

「誰だ?」

「小学生?」

「それは置いといて。先生。ちょっと僕らだけにしてもらえませんか?」

 琉嬉は養護教諭を外に追い出す。

「あ、ちょっと…」

 強引にバタンッと戸を閉めて、鍵をしてしまう。



「で、何がどうなった訳?」

 相変わらず未弥子の高圧的な態度。

顔知らない琉嬉に対しても強気な態度だ。

でも琉嬉はそんな未弥子には引く様子もなく、喋る。

「えー、と。どこから説明すればいいのやら…」

「その件は俺から言います」

「どういう事だ?緋瑪斗?」

「……皆、黙っててごめん。

結論から言うとあれをやったのは俺。

そして、俺は普通の人間じゃない」

「は?」

 竜が固まる。

「普通の人間じゃないってどういう意味?!」

 未弥子が大声を張り上げる。

「ごめん。意味が分からないんだけどさ…。緋瑪斗。君…女の子になった以外にまだ何かあった訳かい?」

 眼鏡のズレを中指で直しながら昇太郎も驚きを隠せないまま、緋瑪斗を問いだす。

「俺は…焔一族っていう、妖怪になったんだ」

「よ…うかい…?」

 三人は絶句する。

本気の言葉。

嘘は言ってない。

納得する部分がこれまでいろいろあった事を思い出す。

「どういう事だ?なぁ…妖怪って?!なにそれ!」

「妖怪って…無い言ってるの?緋瑪斗…」

「…そもそも存在するものなのか…?」

 月乃と玲華は黙っている。

二人は知っているからだ。

「妖怪は存在する。だから、緋瑪斗は女になったんだ」

 ざわつく保険室内。

それを静かにするような一言を琉嬉が放った。

「うん……俺は…女になったあの日…妖怪に殺されかけた。

だけど……助けてくれた妖怪のおかげで、この体になったんだ」

「何言ってんの…?そんな事ある訳…」

「あるから、俺はは女になったんだよ」

 重くのしかかる緋瑪斗からの事実。

竜達は言葉を失う。

「妖怪としての力があるから…俺はあいつらを一人であんな事出来たんだよ」

「……そこは僕も悪かったかな」

「つか、お前誰なんだ?なんで緋瑪斗と親しいんだ?」

 竜が琉嬉に対していちゃもんつける。

何か気にくわないようだ。

「竜!琉嬉さんは…」

「あーあー、いいよ。別に。そういう気持ち解からんでもない。

んーとね、僕は彼方琉嬉って言って…退魔師、やってます。鞍光高校二年だよ。一応」

「え?」

 竜が再び固まる。

「琉嬉さんは先輩なんだよ…竜」

 昇太郎と未弥子も固まっていた。



 緋瑪斗は今までの事を説明した。

月乃や玲華は事情を知っている。

が、詳しい話は聞いてなかった。

「それって…親とか知ってるのかよ…?」

「知らないと思う…。でも、言わないと…いけないよね」

「そうね。いずれ分かる事だろうし」

 月乃が緋瑪斗の手を取る。

ボロボロの制服。

何があったのかは敢えて聞かない。

おおよその事は予測つくから。

「武術を教えてるのは僕だし、僕にも責任あるかな…。とは言うけど、先に手を出してきたバカが悪いんだけどね」

「あいつらか…あいつらのせいで俺らが停学になったんだぜ…?」

「月乃もね」

「あ、あはは…そうだったけ?」

「…君等も結構暴れてるんだね…」

 琉嬉もちょっとだけ引いた。


「おーい、開けてくれ~。ケーサツだけどー」

「警察だってよ…緋瑪斗捕まっちまうのかよ?」

「まさか…正当防衛だろ?」

「過剰防衛になるとか…?」

「どうすっべ…?」

「いいから開けてやりなさいよ」

 少し笑いながらも玲華がカギを開けた。

「おっす。お、琉嬉ちゃんも一緒かい」

 姿を現したのは、以前緋瑪斗らが会った事のある、沢村刑事だった。



「そっか…全部バレたのか」

「はい…」

「てか、俺どうなるんです?」

「ん?何が?」

「だって…あんだけボコボコにして…」

「あ、その事なんだが…」

 その場の皆が唾を飲み込む。

「俺の権力でもみ消しちまった。だって、あっちから手を出してきたんだろ?

全員しょっぴたぜ。笑えるだろ?ハハハ」

「………」

 そしてその場の皆が再び沈黙する。

「何言ってるんですか。沢村刑事。まったく…」

 軽く横腹を、肘でつつく琉嬉。

「な、なぁ、しょっぴたってなんだ?」

 昇太郎に聞く竜。

「捕まえるとかそういう意味だよ」

「ほうほう…」

 納得する竜。

「じゃなくってだな!」

 論点がズレそうになったのを自分で戻す。


 

「結局緋瑪斗自身にはお咎めなしですか?」

「なしというか…、あれだけ派手に暴れ回ってるから暫くは学校行かない方がいいのかもな」

 沢村刑事はそう言う。

「ま、これは「特殊事件」として取り扱うからな。

それも、緋瑪斗君。君を「妖怪」として取り扱う事件として」

「え?何?どういう事?」

 意味がまったく解からない。

妖怪として取り扱う?

緋瑪斗自身すらよく意味が理解出来ない。


「はー。俺、結局どうなるんです?」

 再度質問。

「あーその事だけど…」

「それは後」

 沢村を遮るように、琉嬉が前に出る。

「一旦家に帰ろう。全てを話してからだね」

「…その方がいいかもしれないわね」

 玲華がいつの間にか持っていた緋瑪斗の鞄。

「なんだよ、どうするんだって?」

「そこのお兄さん、落ち着いてね」

 琉嬉が顔を見上げて竜になだめる様に言う。

「しかしだなぁ…」

「竜。僕らだって動揺してるんだ。一度整理した方がいい。だよね?月乃?」

「え?ええ…。そう…だね」

「月乃?」

 優れない表情。

少し汗をかいている。

「大丈夫?月乃も体調悪いの…?」

 見かねた未弥子が寄り添う。

「うん、平気。ありがと、未弥子…」

 保健室から出て行く、琉嬉ら。

緋瑪斗は最後に出てくる。

(…………胸が痛い…)




「という事なんですが、理解して頂きますか?」

 沢村が丁寧に緋瑪斗の両親に話す。

沢村が知り得てない所は緋瑪斗自身が説明した。

勿論、緋瑪斗の妖怪化させ、女にした張本人。

「茜袮」という妖怪の少女の存在も。


 だが、親達はそこまで動揺はしていない。

「あの…父さん、母さん?」

「緋瑪斗。いいんだよ。父さん達は別に驚きもしない。

生きてるだけで嬉しいんだから」

「いや、だから妖怪だって…」

「それはね…なんとなく気づいてたわよ」

「…へ?」

 頼子の発言。

逆に緋瑪斗達が驚く。

「どういう…?」

「あぁ、それは僕が」

「お前……?」

 沢村が一番驚く。

部屋の奥から出て来たのは、朝田医師だった。


「なぜ、お前さんが…?」

「誰ですかこの人?」

 琉嬉が本能的にちょっと嫌な感じで言う。

怪しさ抜群だからだ。

白衣ではなく普通のスーツ姿。

「ああ、俺をを助けてくれたお医者さん…?」

「そうだとも。緋瑪斗君。元気で何より」

「あんまり近づかないでくださる?」

 未弥子が緋瑪斗の前に庇うように出てくる。

「てか……俺の事知ってる…?」

「勿論。確証はなかったけどね。沢村から聞いて確信はしたけど」

「…どういう事ですか?沢村刑事」

 琉嬉も知らない人物。

「あー、んーとな…。俺と同じで、妖怪の事を知り得ている医者なんだよ…。こいつはな」

「………鞍光市とその周辺、恐るべし」

 納得の表情をする琉嬉。

他の者はまったく意味不明過ぎて会話についていけてない。

「まずは……この地の事から説明する必要性があるな」

 沢村は鞍光と周辺地域が特殊な地域で、妖怪や幽霊などが多い事を説明した。



「頭痛くなってきたわ…」

「うーん、さすがに僕もそう思う」

 未弥子と昇太郎は頭を抱える。

竜は珍しく何も話さずに聞いてる。

「…あまり君達は驚かないね。もしかして知ってた?」

 琉嬉が月乃と玲華の態度に気づく。

「……そうです…ね」

「でも、話半分程度だったけどね」

 月乃とは対象的に明るく振る舞う玲華。

「……玲華…だったけ?君は僕の仲間になんとなく似てるよ。

決して表に出さない表情の強さがね」

 最後の所だけ玲華だけに聞こえる様に小さく話す。

「あら、それはどうもです」

 にこにこした顔が変わらない。

(この子…中々強いな)


「でもな、大丈夫だぞ、緋瑪斗。お前が人間だろうが妖怪だろうが僕達の子供であるのには変わりないからな」

 父親が緋瑪斗の頭を撫でる。

「う、うん…」

「たーだいまぁー、ってなんだこの靴の数?!」

 必要以上にデカい声が聞こえてくる。

佑稀弥がドアを開けると大量の見覚えのあまりない靴。

「なんだよ、みんなして集まって…ってうおっ?なんだこの人数…?」

 居間に集まっている人の数に驚く。

「なになにー?」

 稔紀理も佑稀弥の後ろから顔を出す。

「ゆき兄、稔紀理…」

 緋瑪斗が切なさそうな目で見てくる。

「ん?どうした?何があった?」

「また説明しなきゃいけないのか…」

 がっくりと肩を落とす緋瑪斗。

だが…。

「おおよその予想はつくけど…ヒメの事だよ…な?」

「正解」

 頼子がビッと親指を立てて言う。




「ちっ、そんなこたぁだろうと思ったぜ…」

「ゆき兄気づいてたの?」

「………まぁな」

 緋瑪斗とは向き合わず後ろ向いて話す。

表情を見られたくないようだ。

「はぁ…やっぱり「家族」だから。

一緒に過ごしてる時間が長いから……気づくもんだよ…な。はは」

 肩を落とす。

「稔紀理君も気づいてたの?」

「んー、気づくっていうか…だってヒメ兄ちゃんが男の子から女の子に変わったていう時点で…人間的じゃないていうか…」

「ふむ。稔紀理君。君は小さいのに洞察力が素晴らしいな」

 稔紀理の頭を優しく撫でる琉嬉。

「へへー、でしょー?」

 可愛く微笑む稔紀理。

「てか、この女の子って…前に遊びに来てた?」

「あれ、話した事なかったけ?んー?」

「変な目で見るなよ…」

「おお、あの佑稀弥兄貴がたじろいでるぞ」

 竜が謎に感動する。

竜ですら、尊敬できる強さを持つ佑稀弥。

その佑稀弥がたじろぐ姿を滅多に見る事がない。

だから感動している。

「この人は彼方琉嬉さんって言って…時々俺の事相談乗ってくれたりして…」

「僕の事は取り敢えずー、いいから。緋瑪斗。君の事だよ」

「……あ、はい…」


 緋瑪斗は出来るだけ自分の身に起きた事を詳しく説明した。

説明が足りない部分は、琉嬉がフォローする。

そして…朝田医師が、締めとなる内容を皆に説明する。

「実はね、君の親御さんにも予め説明してたんだよ」

「え?そうなの?」

「すまん。月乃ちゃん達と一緒で、話半分程度だったんだ。

ただ……緋瑪斗自身から言ってもらう方がいいと思って…な」

「そっか……ごめん。事実がこんな暴力沙汰ではっきりしちゃって」

「いいっていいって。ああいう馬鹿野郎達には言って解からない事あれば体で植えつけてやった方がいいってな」

 笑いながら言う沢村。

他の者はドン引き状態だ。

「それ、警察が言う事かね」

 朝田がキッチリとツッコミを入れる。

「簡単に言うと、妖怪や幽霊に何かされた…っていうのが病院にも舞い込んで来るんですよ。

警察にもよく入ってくるらしいけどね」

 ちらっと沢村を見る。

しかしすぐ目線を戻す。

「精神的なモノから怪我に繋がるモノまで。さまざまさ。

事件性が高いものは病院ではどうしようもない。

だから、警察でも特別な捜査一課の沢村の所へ行くのさ。

それでも…」

「俺達でもどうしようもないレベルになると、この琉嬉ちゃんのように「裏世界」に詳しい「霊術師」に頼む訳、さ」

 全員が黙る。

何も言えない。

「…そんな世界があったなんて…」

 未弥子がぽつりとこぼす。

「だから…琉嬉さんを紹介してくれたんですね」

「ぴんぽーん」

 今までの経緯がなんとなく把握出来た。


「さて、この後の話なんだが…」

「はい。数日間休ませてください。俺、気持ちの整理とか…いろいろあって…」

「そうね。ヒメ。しばらく休んだ方がいいね」

 月乃が再び手を取って、休む事に賛同する。

「そうだぜ」

「うん」

「…緋瑪斗、いい友達持ったね」

 琉嬉が隣に座って、肩に手を置く。

「ありがとうございます…」

「てか、れいじゅつしゃだかなんだか知らないけど…緋瑪斗の何?」

 未弥子がまた突っかかって来る。

「何って…なんだろう?友達…ていうか、師匠?」

「はぁー?師匠?こんな小学生がぁ?」

「あ、未弥子さん…それ禁句…」

 緋瑪斗が言うのも束の間。

琉嬉のチョップが未弥子の脳天に直撃していた。




 この日は一旦解散となった。

あとは家族間と、沢村と朝田が残って少し話し合うと。

月乃達と琉嬉もその場から解散となる。

「しかし、琉嬉さんとやら、あの未弥子を物ともせずチョップするとは大胆ですな」

「僕も反撃されるとは思わなかったけどね」

「そうね」

 クスクスとずっと笑っている玲華。

楽しそうだ。

「うるさいわねっ!貴方が小さくて可愛いからよ!あ…」

「可愛いってのは本音かしらね~?」

 月乃が茶化すように未弥子に指を指しながら言う。

「バカ!」

「ははは、たしかに琉嬉さんは可愛いよね」

「お前さんもしれっと言いにくいような事を言うタイプだよね」

 ジト目で昇太郎をじーっとみつめる。

「はは、照れるなぁ」

「照れるんじゃねえよ」

 ぽかっと竜が昇太郎を軽く殴る。

「じゃ、緋瑪斗の「妖怪」の部分は琉嬉さんが頼むわ」

「任せといて。心の支えは、君達に任せるから」

「おーけー」

 琉嬉と竜が拳と拳を合わせる。

そして琉嬉が去って行く。


「大丈夫かしら…緋瑪斗…」

「昔から理解のある家族だから大丈夫だよ」

「そうね。だって私のいとこだし」

「あー、そういやそうだったな」

 玲華が従姉妹だという事を忘れてしまう。

「私達も帰りましょう」

「そうね…疲れたわ…」

 少しフラつく未弥子。

「大丈夫かよ」

 腕を掴んで、体勢を無理矢理戻す竜。

「ありがと…」

「お、おう…」

「仕方ない。竜、月乃と一緒に未弥子さんを送ってあげて」

「なんで俺が」

「なんで私が」

「友達だろ?」

 いざという時に真剣な顔する昇太郎。

「お前も本当ズルい奴だな」




(俺は……この先どうすればいいのか。

偽りの日々は終わった。

全て話した。

………まずは。

まずは、茜袮さんに会わないと。

焔一族の里……。

そこへ―――――)



 一大決心が強まった。

まずはそこへ向かうために。

今は療養を兼ねて、数日休む事にした。

心身ともに、安定させるために。


 緋瑪斗は深い眠りについた。



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