プロローグⅠ
こんにちは。
私はたった一人の言葉から再びこの世に生まれた、紫木柔以という者です。
私は一度、十七歳でその生を終えました。が、たった一人の、立った一言で、私は再びこの世に戻ってきました。
人間とは別の生命体、別の存在として再び生まれました。
存在名称は、『言霊』。
その言葉の通り、言葉に宿る力から生まれたので、そう呼ばれています。
そんな私はユーレイとは違い実体があるため、人の目に映るし、物に触れることも可能です。
もちろん、鏡にも映ります。
では、どこが人間と違うのか。
違うところは二つ。
一つ目は、戸籍がないことです。
元々、一度死んだ身なのでそれは当然のことです。
二つ目は、私の発する言葉には、特別な力がある、ということです。
例えば、私があなたに「近寄るな」と言えば、あなたは絶対に私に近づくことは出来ません。
さて、こんな私ですが、仲間がいます。
榊原莉久という、たった一人の心から生まれた存在名称『心の欠片』という男の子です。
莉久も私同様、一度死んでいるため戸籍はありません。
莉久と私の違いは、生まれ方、存在名称、そして、特別な力です。
莉久の特別な力は、相手の心を読み、心を通じて会話が出来る力です。
が、本人の性格に問題があ―――――――
「めずらしく静かにしていると思ったら…。ふざけていただけだったんだね」
「ふ、ふざけてなんかないじゃん!至ってマジメ、超マジメじゃん!!だって、嘘はついてな――――――」
…莉久、そんな怖い顔で私を睨まないで★
「睨まれて当然だよね?―――――そんなの紙に書いて…誰かに読まれたらどうするの?」
「別にバレてもいいじゃん」
いや、だからそんな怖い顔で私を見ないで!
「とにかく、これは焼却処分」
莉久はどこからかライターを取り出し、火をつける。
あぁ…私の最高傑作がぁ…
「次こんなことしたらどうなるか…分かってるよね、柔以?」
ヤバイ。目がマジなんですけど!?
お、落ち着いて、莉久!!話せば分かるって!!
「今までに話し合って分かり合えたことって、あったかな?」
目が…莉久の目が不気味に光っていて怖いんですけど…。
「―――――ていうか、莉久!さっきから、勝手に私の心を読むな!!」
「読みやすい柔以が悪い」
「どんな言い訳だ!!」
「こんな言い訳だよ」
くっ…口で莉久に勝てるわけないじゃん…。
「なんだ、分かってたんだ」
「ええい、黙れ黙れい!!」
どうせ私はアホで脳筋な女ですよぉ、だ。
「自覚していたん―――」
「勝手に読むなぁぁああ!!」
「柔以、うるさい。何時だと思ってるの?場所を考えてよね」
ここは、私が所長を務める『時間・探偵事務所』の事務室。
今は、私と莉久以外に誰もいない。
私たちの家。
「自分の家でうるさくして何が悪いのさ!」
「僕の迷惑になってるっていう自覚…ある?」
アレ?莉久から冷気が発せられている気がするんですけど…。
てか、寒いんですけど…。
「さぁ?気のせいじゃない?」
いやいや…さっきより一層寒くなってる気が…。
あれか?私の感覚がおかしくなっちゃったのか!?
あ、そっかぁー。もうすぐ冬だもんねぇ…って、まだ九月にもなってないんですけど!?
「柔以、一人でボケて突っ込むのは、見てて痛々しいから」
「お前のせいだろ!!」
莉久はさっきから私とふざけながらも、一通の手紙を読んでいる。
何が書かれているのかまったく見当もつかない。
「それ、何読んでるの?」
「手紙」
「いや、そりゃ見れば分かるよ…」
莉久が深い深いため息をつく。
「仕事の依頼の手紙だよ」
「内容は?」
「ストーカー被害に遭ってるんだって」
「うわぁ…怖い世の中だねぇ…」
「それについては、僕も同意しかねるかな」
「依頼主の名前は?」
「佐々木摩莉、二十歳。現在府内では有名な、F大の理学部生」
佐々木、摩莉…。
「どっかで聞いたことあるような…」
あぁ!!
あの佐々木摩莉ちゃん、ね…。
「ふ…フフフフフフフフっ…」
「柔以、怖い。てか、気持ち悪い」
「それは、ヒドイ!」
「事実。――――で?この人と知り合いなの?」
「まぁねー。―――――依頼内容の事実検証は?」
「杏ちゃんが、今やってる。結果は、明日くらいに出るって」
「さっすが杏ちゃん。仕事が早いや」
杏ちゃんこと黒原杏子は、『時間・探偵事務所』の情報処理を担当している姉御である。
「姉御、杏ちゃんの前で言うと、ボコボコにされるよ?」
………。
杏ちゃんも、私たち同様一度死んでいて再びこの世に戻ってきた者だった。
この事務所はそんなメンバーで構成されている。
「そこはスルーするんだね」
杏ちゃんはさっきも言ったとおり、情報処理担当。
理由は単純明快。
存在名称が『情報』だから。
杏ちゃんは、杏ちゃん自信が死ぬ間際に、「すべての情報を手に入れたい」という思いから再び生まれた。
故に、杏ちゃんの存在名称は、『情報』。
生前は、マスコミだったらしい…。
「こう考えると、杏ちゃんは僕たちとは生まれ方は違うね」
「確かにそうかも。私と莉久は、呼び出された感じだもんね」
と、そこで事務所の扉が開いた。