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異世界で騎士をはじめました。  作者: ダージリン
第一章 異世界
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変態再び


 一人部屋に残されてしまった鈴蘭。いや、グレンもいるから一人と一匹が正しい。

 アーノルドは戻って来ると言ったけれど、報告に行ったのなら暫く待たされるだろう。


 じぃっと重く閉ざされた扉と睨めっこしていた鈴蘭は静かな部屋を振り返る。部屋の中も来るまで目にした物同様お高そうな物ばかり。

 実は鈴蘭、こういったアンチティークの家具には憧れていた。祖父と生活を共にしているとやはり暮らしが和になってしまい、中々こういった物に囲まれることは無かった。

 

 ちょっとした夢が叶えられて嬉しい鈴蘭が鼻歌交じりに室内をうろうろしていると、コトリと物音がした。何の音かとそちらに視線を向けると、小型化したグレンが棚の上に登り壺らしき物を不思議そうに突いている。

 その光景に、鈴蘭の顔が蒼白になった。


「グレン触っちゃダメっ!早く降りてっ」


 突然怒鳴った鈴蘭の声に驚き、グレンはコチンッと固まった。

 

 この部屋の物を壊したら一体どんだけ0の数の付いた請求をされるか・・・。ここの物を壊すわけにはいかない。だって、絶対弁償できない自信があるものッ! 貧乏舐めんなッ!只でさえ私は今、一文無しなんだぞッ!

 鈴蘭は生死に関わるような、それ程真剣な目をしている。


 グラついてはいたが何とか棚から落ずにすんだ壺を確認し、ほうっと息を漏らしたのも束の間、突然勢いよく扉が開かれ、我に返ったグレンが体をぐらつかせると、壺にゴツン。グレンとお高い壺が床に真っ逆さま。

 その瞬間、私の全身の毛が逆だった。


「ぎゃあああああッ!!?」


 女子とは思えないお下品な奇声をあげ、私は全身全霊のヘッドスライディングで壺をぎりキャッチ。と同時に、背中にグレンが着地。――ぐえッ 重っ!

 一瞬、グレンを恨めしく思った。が、しかし何とか「弁償」の二文字を突きつけられる心配は避けられたので良しとしよう。

 それにしても、誰だよっ!いきなりノックもせず乱暴に扉を開けたのはっ!マナーの無い奴めっ!


 鈴蘭がキッと睨むと、そこにはマナーの無い青年が瞠目して突っ立っていた。

 その赤い髪、その黄金の瞳を持つ、青年・・・


 ――コイツは・・・


 鈴蘭は目を見開いて、叫ぶ。 


「あああーーーっ!?あの時の変たぐむっ!?」


 恐ろしく整った顔に笑を貼り付けた変態が鈴蘭の口を大きな手で塞ぐ。


「ここでは下手な事を言わない方が身の為だぞ」


「はふぃふぁっ!(何がっ)」


 口を塞がれながらも叫ぶ鈴蘭に変態は溜息を吐く。

 彼のこの態度が気に入らなかった鈴蘭は苛立ちを己の牙・・・歯に込めた。  


 ――がぶりっ


「いっ!?――」


 綺麗な顔を歪めた変態は鈴蘭の口からサッと手を離す。鈴蘭は目を釣り上げ、少し不足気味だった酸素を一気に吸い込み、その吸い込んだ酸素を二酸化炭素・・・いや、怒声に変えた。


「アンタ一体何な――」


「何事ですか殿下っ!」


 鈴蘭の怒声を掻き消すように叫ばれた声は、扉の向こうから現れた騎士より発せられ、それを聞きつけた仲間たちが続々とやって来た。気付けば、部屋に溢れんばかりの騎士が目の前の変態を守るように私の前に立ちはだかっていた。


 ――何ですか、これ。


 私はただ唖然としていた。

 何・・・え、殿下?この変態が?――するとこの状況・・・もしや悪者は、私?何故。


 一人自問自答を繰り広げる鈴蘭に一人の騎士が近寄る。 


「おい貴様っ!何者だ」


 彼はそう叫び、鈍く光るそれを突きつける。


「何者かと聞いているんだっ」


 首を傾げる私に彼はもう一度訊ねた。

 ――何者と聞かれても、答えに悩む。ただの人間です、じゃダメかな?


 答えあぐねる私と苛立ちを隠さない騎士の間に割り込む者がいた。それは変態・・・いや、殿下様でした。


「もういい、下がれ」


 温度を感じない、無機質な声で彼は命ずる。部屋に沈黙が走った。たった数秒の静寂も、私にはとても長く感ぜられた。そしてその沈黙を破ったのは、私に剣を突きつける騎士。


「――!?しかし殿下・・・」

 

 彼は狼狽えるように声を発する。


「聞こえなかったのか、下がれと言っている」


「――っは!」


 今度は何処か殺気を滲ませ命じられ、騎士は慌てて後ろに下がった。彼の顔は蒼白だ。


「お前達もだ、全員下がれ」


 有無を言わさぬ彼の命に従い、皆一斉に退室していく。またしても部屋に静寂が訪れた。私はとりあえず安著の息を漏らし、グレンを抱き直した。


「悪かった、怖い思いをさせたな」


 先程とは打って変わり、柔らかい口調で言う殿下を私はじとっと睨んだ。


「私、別に怖かったわけじゃない。ただ驚いただけ、主にアンタのことで」


 それを聞いて、殿下は端正な顔をクシャりと崩して笑う。


「くっ・・・はははっ お前は、俺の正体を知っても尚その態度か、面白い」


「いや、全然面白くも何とも無いです。そして同じく面白く無さそうな顔で睨んでる人が後ろにいますけど」


 私の言葉に後ろを振り返った殿下の顔が引き吊った。視線の先には無表情・・・というより、やや怒りの滲んだ顔で殿下と私を見据える青年がいた。

 彼は銀色の髪と海底を思わす深い青色の瞳をしており、私が彼に抱いた第一印象は氷の王子、だ。


 あー、それにしても。何だ?どうしてこう美青年の出現率が高いんでしょう。日本ではありえないな、うん。


「クラウス――」


 殿下は彼をクラウスと呼んだ。氷の王子ことクラウスは笑み一つ見せずに温度の無い、淡々とした声音で話す。


「突然部屋を飛び出ていったと思えば・・・これは、どういった状況でしょうかね?殿下」


「あー・・・これは――」


 殿下は視線を彷徨わせ、吃る。そこへアーノルドが勢いよく部屋に駆け込んで来た。


「スズランっ!?どうしたっ何か騒ぎがあったみたいだが・・・って、殿下っ!とクラウス?」


 心配する表情で姿を現したアーノルドは部屋の中のメンツを見て、驚愕する。


「何故二人がここに?」


「それは殿下に聞いてください、私も知りたいのです」


 クラウスに言われ、アーノルドは殿下を見る。彼は顔を背けて答えた。


「強い魔力を感じたから気になっただけだ」


 彼の言葉にアーノルドは首を傾げつつも納得した様子だが、クラウスは胡乱な目を向ける。


「おかしいですね、貴方ほどのお方が強い魔力を感じ取ったという理由だけで、あそこまで慌てて部屋と飛び出しますか?」


「何が言いたいんだ、お前は」


 凄みを利かせた殿下の視線をクラウスは涼しい顔で受ける。しばらく沈黙が続いたが、これでは埒があかないと思った私は溜息を吐いて話を切り出した。


「あの、痴話喧嘩中失礼ですけど、アーノルド。私はこれからどうすれば?」


 睨み合う二人の眉がピクリと動いたが、私はそれを無視してやった。

 話を振られたアーノルドは一度咳払いして鈴蘭に視線を向ける。


「ああ。待たせて悪かった、スズランには今から陛下にお会いしてもらう」


 アーノルドの言葉に反応したのは殿下だった。


「父上に?それよりお前達の関係は何だ」


 殿下が怪訝な顔で二人を見ると、鈴蘭は自分とアーノルドを交互に指さした。


「拉致した方と、拉致られた方?」


 首をかしげて私がそう答えると、殿下とクラウスは同時に目を細めた。


「・・・拉致、だと?」


 呟く殿下の声が先程より低くなり、クラウスは嘆息する。


「どういうことですか、アーノルド」


 二人に睨まれアーノルドは酷く焦っている。強面の大柄な男性が慌てている様子は結構面白かったりする。鈴蘭は心の内でニタリと笑った。というより顔に出ていた。


「な!?ち、違うっ これは保護だ保護っ」


 彼はブンブンと勢いよく首と腕を振り、否定した。


「保護・・・?」


 殿下は眉を潜めてアーノルドを見据える。


「スズランが住む場所も金も無いというから、とりあえず連れてきただけだ」


「そうなのか?」


 すぐ後ろに立つ小さな鈴蘭を見下ろして、殿下は問う。

 私は半目でアーノルドを見据えた。


「保護だったの?それにしては強引だったけど」


 三対の目がじっとアーノルドを見る。溜息を吐いて彼は降参と言うかのように両手を挙げた。


「悪かった、確かに穏やかでなかったことは謝る。だが、あのままあそこに残してもお前は困っただろう?」


「まあ、それはそうだね。飢えと寒さでいつかは死んでたかも」


 アーノルドの問いに、鈴蘭はさも当然のように返す。そんな彼女に殿下は呆れた目を向けていた。


「保護したというのは分かりましたが、それだけでは陛下にわざわざお会いする理由にならないのでは?」


 腑に落ちない顔でクラウスが訊ねると、アーノルドは悩む様子で鈴蘭を見た。


「あー・・・言っていいか?」


 許可を取る彼に鈴蘭は小首を傾げる。


「別に知られたくない訳じゃないけど、これから陛下さんにその話しをするんでしょう?ならそこで一編に説明したほうが効率良くない?」


 鈴蘭の最もな回答に、一同頷いた。


「そうだな、じゃあ行くか」


 アーノルドの号令と共に四人は陛下のもとへと向かう。部屋を出て、長く広い煌びやかな廊下を歩く鈴蘭は何故か不機嫌な表情をしていた。その理由はおそらく隣を歩く殿下だろう。


 何でコイツが一緒に歩くわけ?前に行けばいいのに、と直接言いたいところだが私とて馬鹿ではない。一応仮にも殿下・・・そう、王子様な彼にそんな態度では何時首を撥ねられるか分かったもんじゃない。


 仕方がないから今は我慢しよう。と心に言い聞かせる鈴蘭。


 

 彼女の腕の中でグレンは今更だろうと思う。

 もう当の昔から罰せられるくらいの態度を取っているし、その口に出てしまっている心の呟きも聞こえているだろう。何せ竜は耳がいいからな。

 

 グレンはちらりと隣の青年を見る。彼は一件、澄ました顔をしているが米神辺りがぴくぴく痙攣していた。


 それにしても不思議だ。ここまで失礼な態度を取られて何故鈴蘭を咎めない?あまりそうは見えないが、余程の小心者なのか?あの側近らしき男も言いたい放題だったしな・・・。


 首を傾げるグレンに気付いた鈴蘭はその仕草に心を打たれ、勝手に悶えていた。彼女の顔はだらしなく緩んでいる。


 ちなみに、そんな鈴蘭を盗み見ていたイグネイシャスも密かに悶えていた。




すみません、あまり話しが進展しませんでした・・・


次こそはっ!と思うのですが、話し進むかな?

何とか頑張ります(>_<)

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