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異世界で騎士をはじめました。  作者: ダージリン
第一章 異世界
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ネヴィル帝国到着


 凄い風だ。まともに目も開けられない。だが、目を開けたところで怖い思いをするだけなのは明白。

 それというのも、今私は竜の背に乗って空を飛んでいるからである。


 飛行機にすら乗ったことのない私が周りに何一つ壁のない、いつ落ちてもおかしくないこの状況に平然としていられるはずもなく、思い切り恐怖していた。

 まだ良かったのか、そうでないのかは判断しにくいが、私は先程口論していたアーノルドという男と一緒に、彼の竜に乗っている。だから私の背中はとても安心している。背もたれにもなるし。


 どうやら彼はこの部隊の隊長らしい。周りの男たちがそう呼んでいたからおそらく間違いないだろう。


「寒くないか?」


 頭上から低音バスの声が聞こえる。


「大丈夫」


 鈴蘭は真上を向いてそう答えた。

 アーノルドは「そうか」と一言言って視線を前方へ戻す。彼はこんな強面のくせに、以外と優しい。常に相手を気遣うところは感心する。ただ外見的には少々近寄り難い。

 鈴蘭はじっと彼を観察する。


 瞳の色は新緑。髪は少し茶色に近いオレンジ色をしており、短く切られたその髪は無造作に後ろへ撫で付けてある。そう、いわゆるオールバックだ。頬には何やら切り傷の跡が痛々しく残っている。それがより一層、彼の迫力を引き出していた。

 そう、全体的にイカついのだ。しかし、イカついくせにどうしてこう、イケメン・・・なのだろうか。この男、顔が整っているため一言で言うと精悍な男、になる。

 

 全く羨ましい限りである。やはり騎士を目指すからにはイケメンでなければと思うのだが、どう見ても私にイケメンは難しい。何よりイケメンにあって当然の身長が無い。

 女性でも格好良い人はいる。そう、宝塚の男役ような方々だ。あの美しく長い足は見ていて飽きない。しかし、残念ながら身長もなければ足も長くない私は、せめて顔で勝負・・・したいが無理だ。私の顔は日本人の中でも童顔という部類。そう、幼いのだ。日本人からしても私は高校生に見られない程の童顔。そりゃ、こっちの人間からしたら私が子供に見えるのは仕方がないことだと、今更思った。

  

 それでも、私は長年の夢を諦める気はない。似合う似合わないは関係ないっ!だって、現に私たちの後方を追ってくる騎士達全員がイケメンなわけではないのだからっ!まあ、そこそこの人材もいたが、イケメンと確信を持って言えるのはこのアーノルドくらいだ。

 イケメンしか騎士になれないという規制はどうも無さそうなので、それならば私とて望みはある。


 一人考えに更けっている鈴蘭をちらりと見下ろすアーノルドは思う。

 彼女は根本的に思考がズレている。先程からブツブツと声が漏れているが、イケメンがどうとか・・・まず騎士になるのに容姿は関係ない。どちらかというと実力がものを言う。実力といっても身体面、魔法面、そして貴族特有の経済面など様々だが、とりあえず一つ言えることは、鈴蘭のような少女が騎士になった例は無いということだ。女の騎士がいないわけではないが彼女等と鈴蘭は明らかに違う。屈強な彼女たちと正反対に、鈴蘭の体は見た目通り小さくひ弱にしか見えない。

 こんな少女が騎士になりたいというのだから、アーノルドも驚きを隠せなかったのだ。


 こんな弱々しい少女が実は物凄く強い、なんてことがあったらアーノルドはひっくり返る自身があった。魔法に関しては十分にありえるのでそちらではなく、身体能力でもしそんなことがあったら、だ。実は怪力で軽々相手を投げ飛ばせる。とか、色々想像はしたがどうもしっくりこず、結局ありえないことだと笑うだけで終わった。


 いきなり笑うアーノルドに気付き、鈴蘭が怪訝な顔を向けると、彼は真顔になって知らんぷりした。それを鈴蘭の腕の中でグレンはしっかり目撃。


「おーいっ!アグニアス、ちゃんとついて来てる?」


 ぐりんと首を後ろに向け、アーノルドの脇の間から顔を覗かせた鈴蘭は、斜め後方を飛ぶアグニアスに声をかける。


『ああ、ちゃんといるぞ』


 ちゃんとついて来ているのに安心した鈴蘭はまた前に向きを戻す。ちなみに、今のアグニアスの返事は鈴蘭以外には『ぐるるるる』としか聞こえなかった。


「ずっと疑問だったんだが、始めはスズランお前が一方的に話していると思っていたんだが、今はどうもお互い意思疎通しているようにしか見えない」


 心底不思議そうに訊いてくるアーノルドに、鈴蘭は首をこてんと傾けて呆気からんと言う。


「だって、そりゃ話してるから意思疎通してるんじゃない?」


 アーノルドはポカンと口を開ける。こういう強面の人が呆気にとられた顔すると結構面白い。


「――は?話す?お前竜と会話できるのか?」


「アグニアスだけじゃないよ、グレンとだって話せるよ。ね?グレン」


 そう言って、鈴蘭は小さなグレンに頬ずりする。信じられんと呟くアーノルドは鈴蘭の腕の中のそれに視線を向けた。


「・・・そもそも、何だその生き物は。見たこともないぞ」


 珍獣を見るような表情のアーノルドに、鈴蘭は驚く。


「え、そうなの?この子結構有名なんだと思った。池で会ったあの変態も知ってるみたいだったし」


「・・・変態?」


「そ、変態。私が水浴びしてたら現れた変態赤髪覗き魔」


 途端不機嫌になった鈴蘭。しかし、アーノルドはそんなことは気にせず、さらに覗き魔という単語よりも気になった点があった。


「覗き魔、赤髪?その・・・変態とやらは赤い髪だったのか?」


 何故そこを追求してくるのか分からなかったが、鈴蘭は答える。


「そう、真っ赤な赤い髪で黄金の瞳、めっちゃイケメンだったけど、私の中ではただのド変態」


 忌々しいと苦虫を噛むような表情で話す鈴蘭を見て、アーノルドは首を捻る。


 ――赤髪で黄金の瞳、まさかな。


 アーノルドは鈴蘭の語る青年と同じ容姿を持つ青年を知っている。というか、その容姿を持つ者はこの大陸には一人しかいないはずだが、ありえない。あの方がこんなところにいるはずがない。ましてや変態呼ばわりされるなどもっとありえない。そんなことあったら俺は本気で笑い死ぬだろう。


 きっと彼女の見間違いだろうとアーノルドはこの時そこまで信じていなかった。




  ◇◇ ◇◇




 竜に乗っているとはいえ移動時間が短いわけでもなく、もうかれこれ2時間弱経っているだろう。私は乗り慣れない竜に酔った、わけではないが非常に疲れた。常に体に風を受けているため疲労感が半端ない。気づいたら寝ていた。

 意識のない私をしっかり落ちないよう支えてくれたアーノルドには感謝感謝。

 

「おい、起きろ。もうすぐ着くぞ」


「はえ?」


 唐突に話しかけられ、しっかり意識が覚醒していない鈴蘭は奇妙な返事をしてしまった。

 目をゴシゴシと擦り、ボヤけた視界をクリアにする。見えたのは大きな城壁に囲まれた立派な城と城下町。どこか地球のヨーロッパを思わせる建物と風景だ。実際行ったことはないが、まあよく学校の教科書に載っているような建物に似ていると言いたいだけである。

 

 今下に見えているのは赤竜王であるライアン・リード・ネヴィルが治めるネヴィル帝国、らしい。アーノルドがそう説明してくれた。


 空から城や城下町全体を一望できる位置から徐々に下降し、城だけが視界に広がるところまでやって来た。城よりまだ少しばかり遠ざかった広い敷地に鈴蘭達は降り立った。

 どうやら竜たちが着地した場所は広大な訓練場のようだ。竜騎士たちは降りるやいなや竜たちを小屋らしき所へ連れて行く。おそらく竜たちの家なのだろう。アーノルドも己の竜をそこへ誘導する。


「おいスズラン。そいつはお前が連れてこい」


 そう言って、アーノルドはアグニアスにちらりと視線を向ける。


「へ、何で?」


 キョトンと首を傾げる鈴蘭にアーノルドは嘆息した。


「その竜は今、お前の言うことしか聞かないからだ」


「あ、そか。じゃお家に戻ろうかアグニアス」


 呼ぶと、アグニアスは素直に鈴蘭の後に続き小屋へ入る。甘えるアグニアスを一撫でして鈴蘭は小屋の外へ出ると、驚愕の表情で固まった。


 いつの間に現れたのか、小屋の外には騎士と思しき者たちがたくさんいた。彼らは小屋の入口で固まっている鈴蘭に視線を集中させている。それは奇異なものを見る瞳であった。


 鈴蘭は痛い視線に耐え切れず、後ずさりする。そららから庇うように、アーノルドが鈴蘭の前に立つと騎士達は機敏に礼をとる。皆の綺麗に揃った見事な動きに、鈴蘭は小さく感嘆の声を漏らした。

 鈴蘭が呆けている間に、アーノルドは持ち場に戻るよう指示し、集まっていた騎士を撤退させる。


「追いて来い」


 アーノルドは後ろにそう声をかけると、城への道を進む。鈴蘭は慌てて彼の後を追った。


 


 鈴蘭は今、別世界にいる錯覚に見舞われている。いや、既に異世界に来てはいるのだが、何というか金銭的な別世界?簡単に言うと、恐ろしく豪奢な環境に体と頭がついて行かない状態だ。

 何だこのキラキラしい光景は・・・。鈴蘭は目をパチクリ瞬く。 

 見るもの全てが金金金・・・金の塊に見えるほどお高そうなものばかり。城の外も中も豪華の一言しか出てこない。

 なんて贅沢な世界。どちらかというと貧乏に近かった鈴蘭の生活とは掛け離れ過ぎていて居心地が悪い。

 

 よくもまぁこんな所で生活できるなぁ。息苦しいったらない。


 若干呆れ顔で城内をキョロキョロ見渡していると、前を歩くアーノルドが足を止め振り返る。


「悪いが、しばらくこの部屋の中で待っていてくれ」


 そう言って、ちょうど止まった場所にあった扉を開き、鈴蘭に中へ入るよう促す。鈴蘭は首を傾げた。


「何で?アーノルドは何処行くの?」


 いきなりこんな所に置き去りにされるとは思わず、鈴蘭は内心動揺する。


「俺は一度今回の任務報告をしてくる。それが終わったらまたここへ迎えに来るからそれまで待っていてくれ」


 彼の言葉に安著した。とりあえず置いてきぼりを喰らうことは無いようだ。

 安心安心。


「りょーかいデス」


「大人しくしていろよ」


 アーノルドはニカっと敬礼してみせる鈴蘭に、低い声を更に低くして念を押す。コクりと頷いた鈴蘭を確認したアーノルドは颯爽と扉の向こうへ姿を消した。


 無駄に広い客間には、静寂が走る。

 



中々イグネイシャスの出番がない。早く登場させたいけど、うまくいかない。

むむむっ・・・・。

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