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異世界で騎士をはじめました。  作者: ダージリン
第一章 異世界
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リアル騎士に遭遇




 鈴蘭とアグニアスの一連のやり取りを眺めていた周囲は、唯々唖然とする。そんな中、鈴蘭は一人の男に声をかけた。武装した集団の先頭に立つ男、始め鈴蘭に静止の声をかけた男だ。


「ということで、私はこの子としばらく一緒にいることにしました。貴方達はこの竜の仲間、ですか?」


 ハッと我に返った男は、目の前の奇妙な少女に視線を向ける。目前で起きる出来事があまりにも異常過ぎて、気付かなかったが、彼女の行動は勿論その容姿も異様であった。一切うねりのない髪は胸下辺りまであり、その色は夜空のように深く、艶やかな濃い黒、瞳も同様の色だ。この世界に黒という色彩の髪や瞳を持つ者はいない。

 得体の知れない少女を警戒を滲ませた視線で見据える男は、イカついその面構えに似つかわしい重圧のある、例えるなら男性の低音バスのような腹に響く声で鈴蘭の問いに答える。


「ということで、の経緯が全く理解できないが確かに、その竜は我が竜騎士団の竜だ」


 男の言葉に、鈴蘭は目を見開く。


「・・・今、何て?」


 聞き間違いかと思い、鈴蘭はもう一度確認する。男は怪訝な表情を、その強面をさらに恐ろしくして再度答える。


「――だから、我が竜騎士団の竜だと言っている」


「ほう、竜騎士・・・・・騎士っ!?騎士って、あの騎士様っ」


 鈴蘭の妙な驚き様に、男は?マークを浮かべる。


「何だ、あの騎士様とはどの騎士様だ?まあいい、言葉通り俺たちはこの赤の大陸を治める赤竜王を主とする竜騎士団だ」


 言葉の意味をやっとこさ理解した鈴蘭の瞳はすこぶる輝いていた。男は幻覚でも見ているのかと目をパチクリさせる。


 ――何だ、コイツ・・・周りにキラキラ何かを放っている、ように見える。


 実際何も出てはいないが、そう思わせるほど彼女の目は期待と興奮らしきもの訴えていた。彼女はその目のままスタスタとこちらへ歩いてくる。何故だろうか、つい後ずさりしてしまった。


「あのっ!やっぱり騎士様というからには、姫君をお救いする任務なんかがあったりするんですかっ?」


 意味不明な発言をする鈴蘭に何故だろう、冷や汗を感じる。そもそも何故姫限定なんだ。さっき言ったように主である赤竜王を第一に守護することが前提の組織なのだが・・・。

 とりあえず、質問された内容には答えた。


「ま、まあ姫を救うこともあると言えば、あるが・・・?」


 その答えに、鈴蘭は口元の緩みを抑えることが出来なかった。


 ――嘘っ!何この人達、本当の・・・リアル騎士様っ!?何てことだっ!この世界にやって来て、ファンタジー感満載だったから、もしやあの憧れの騎士様もいるんじゃっ!とは思って少しばかり期待してたけど・・・まさか本当に存在しようとはっ!


 鈴蘭は心の中でガッツポーズ。したつもりが何と、実際やっていた。ちなみに、それを見ていた男はビクリと驚いていたのだが、そんな目前の現状に目もくれず、鈴蘭はハタと思う。


 こ、これは・・・今こそ長年の夢を果たす時ではっ!?


 地球では叶わなかった夢を実現可能と思った鈴蘭は嬉しくて嬉しくて、我慢しきれなかった。気付いたときには既に、口を開いていた。小学生の時、毎授業練習させられたあのピン挙手と共に。


「はいっ!私騎士になりたいですっ!入団希望しますっ」


「――は?」


 あまりに予想外、いや的外れな発言に男が間抜けな声を出してしまったのは仕方がないこと。


「私を騎士団に入れてくださいっ」


 再度申し込む鈴蘭の瞳は至って真剣そのもの。男は少女の意図することが全く分からなかった。


「いきなり何を言っているんだ。そもそも、騎士団に入団するにはそれ相応の身体面、魔法面での能力が必要だ。女が騎士になってはいけないという規制は無いが、それ以前に適正年齢というものがある」


 それを聞いて、鈴蘭は難しい顔をする。


「むっ、やはり未成年ではダメか。今私は17歳、20歳まで後3年・・・長い――」


 まさかの歳の壁に、鈴蘭は項垂れる。しかし、そんな彼女を見る男は何故か瞠目していた。


「お前、17歳なのか?」


「はい、見ての通り17歳のガキでも大人でもないお年頃の女ですが」


 男の屈強な体躯が、よろりと傾いだ。


「俺は今、この世の奇跡でも見ているのか・・・」


「はい?」


 鈴蘭は怪訝な顔をする。

 この人、大丈夫か?頭。やはりこういう人は、脳も筋肉で埋め尽くされているという説は本当なのかも。と失礼極まりないことを思う鈴蘭に男は一つ質問。


「お前、何歳から成人か知らないのか?」


「へ?20歳からじゃないんですか?」


 キョトンと首を傾げる。


「成人は16歳からだ」


 鈴蘭はパッカリ目を見開いた。


「なんとっ!?なら私でも入団出来るんじゃないっ!驚かさないでくださいよ。一瞬本当に3年待つか考えっちゃった」


 あービックリした。と胸を撫で下ろす鈴蘭は、ん?と疑問を感じた。


「あの、つかのことお聞きしますが貴方は私のこといくつだとお思いで?」


 なーんか、嫌な予感。

 じとーっと見つめる鈴蘭に男は、何処か渋るように答える。


「13、4歳・・・ぐらいかと」


 ――はい、沈黙。の後、一つ溜息。


「何てこと・・・侮辱もいいところですね」


 まさか3、4歳も下に見られていたとは。まあ、日本人ですからね、私。皆様想像がつくことでしょうけど、そう大して背はありません。154センチです。言っときますけど、背の順一番先頭になった経験などありませんから。ええ、普通ですとも。しいて言うなら、中の下。低すぎず、かと言って中間には達しない。言わずとも分かっております。そう、微妙な存在です、はい。


 まあ、これも地球人さらには日本人的な考えだから結局、私など現在誰から見ても今は子供同然なのだろう。だって、目の前にいるこの強面の男、どれほどのものだと思います?

 驚くなかれ、軽々2メートル超。ひぇ~怖っ!その顔でその大きさは無いわ。


 あ、首痛い。やられた。


「悪かった。仮にも女性の年齢を間違え、実年齢を聞くなど紳士としてあるまじきことだ」


 何も話さない鈴蘭が怒っていると思ったか、男は自分の非礼を詫びた。その対応に鈴蘭は目をキランと輝かせる。


「わお、今のすっごく騎士様っぽい。勉強になりました」


 ・・・何の勉強だ。と内心男はツッコんだ。


「とりあえず、年齢に問題は無いようだが動機が分からない。何故女の身であるお前が騎士になりたいなど思ったんだ。親はちゃんと了承しているのか?」


 うむ、と一つ頷いて鈴蘭は話し始める。


「動機は、私の憧れだから。小さい頃から強い騎士になってお姫様を救いたかった。そして親の了承は得てない。というか、得れない?私、天涯孤独の身でして。保護者いないのです」


 男は軽く目を見張る。

 始めの動機は意味不明だが、身内がいないとは・・・。


「そうか、いや悪かった」


「いえ、お気になさらず。物心つく前に両親亡くしてるんで私自身気にしていません。まあ、つい最近亡くした祖父を思うと悲しいですけど」


 淡々としているが、その呆気からんとした態度がより悲しみを表しているように思えた。


「そうか、しかしだな。身分がはっきりしない者は騎士になることは出来ない。悪いが諦めてくれ。だがお前には感謝している。乗り手を失った竜は暴れ狂うと手に負えなくなり殺さなければならない。しかし今回は異例の結果となった。お前があの竜を鎮めてくれたおかげで町の被害も最小限に収まったんだ」


 感謝してくれるのは有難いんだけど、正直感謝より入団許可の方が断然欲しい。


「・・・本当に、ダメですか?私が騎士になることって」


「悪いな」


 今度は即答された。どうやら本当に望み薄の模様。


「そうですか――」


 鈴蘭は少し長めの溜息を零した。その様子に男は苦笑する。


「さて、もう夜も遅い。家まで送ろう。家は何処にあるんだ?」


 コイツ、なんて答えづらいこと訊いてくる。今私はホームレス同然なんだぞ。

 鈴蘭は少々目を泳がせる。


「えっと、無い、デス」


「は?」


 男は何が?という表情を向ける。


「私、住む家無いです。それどころか、一銭もお金持ち合わせていないです・・・」


 男は驚愕の表情で鈴蘭を見下ろす。


「どういうことだ。一文無し?今までどうやって生きてきたんだ」


 ご尤もな質問ありがとうございます、はい。


「どうやって・・・まあ、普通に生活してましたけど。別の世界で」


「別の世界?違う大陸のことか?」


 あ、そうきましたか。あくまで思考の範囲内で収めたいのですね。申し訳ないけど、その範囲は大幅に突き抜けてしまいます。


「いえ、異世界と言ったほうが良いでしょうか?」


「・・・は?」


「ですから、私はこの世界の人間じゃ無いんですよ。つい二日くらい前に気づいたら、えっと・・・アルスの森?とかいう場所にいたんです。私はこの世界のこと何も知りません。魔法とかそんな変なものもここに来てから初めて知ったくらいです」


 男は声も出なかった。唯々無表情、の顔しか出来なかった。どう反応していいかも全く分からない。


 異世界?何だそれは。魔法を知らないだと?そんな生物存在するのか?

 疑問が多すぎて処理しきれない。だが、一つ言えることは、少女の容姿はこの世界の何処を探してもありえない、ということ。そう考えると、少女の言うことが狂言であると断定しにくい。


 謎過ぎる少女・・・このまま放っておくのはもしかしたら危険かもしれない。そう考えるのも、人間離れした外見、そして何より秘めたる魔力。彼女は魔法など知らないといった。なら使い方も分からないはず。これほど強力な魔力を持っていながら使い方を知らないとなると、かなり危険だ。彼女自身に、そしてその周りにいる者まで命が危険に及ぶやもしれん。


 今は野放しにしてはいけない。


 男は強くそう思った。


 男は一度思案し、おもむろに鈴蘭へ視線を向ける。


「色々、お前のことを知りたい。とりあえず、我々と共に来てもらおう」


 先程と男の目が変わった。雰囲気も、何処か冷たく顔は無表情。

 男が片手をスっと上げると、後ろに控えていた同じ制服を纏った男たちが鈴蘭を取り囲んだ。いきなりのことに驚いた鈴蘭だったが、グレンとアグニアスが今にも大暴れしそうなほど怒っていたので、それを宥めた所為か意外にも冷静でいられた。流石にあの二匹に暴れ狂われたら敵わない。私も、そして彼らも。


「え、何?これって拉致ってやつですか?」


 少々緊張感を感じさせない調子で言ってみた鈴蘭に、男は淡々と答える。


「心配するな、悪いようにはしない。唯、我が主に会ってもらいたい」


「主?って、さっき言ってた・・・えっ、赤竜王さん?」


 首を傾げる鈴蘭に男はゆっくり頷く。


「そうだ。あのお方に判断を仰ぐ」


「何それ、ていうか私知らぬ間にピンチ?」


 何時の間にか移動してきた男等が両側に二人、鈴蘭の腕を掴んでいる。


「安心しろ、何もしない。ただお前を城へ連れて行くだけだ」


 ただ、ね。ただで済んだら嬉しいんだけど、まあ、この状況私としては願ったり叶ったりなんだけど。


「ふーん、ま、いいや。どうせお金無いし、ここにいても何もできないし。連れてってよ、その赤竜王さんとか言う人、いや、竜のところに」


 何故かにやりと口角を上げる鈴蘭に、男は怪訝な顔をする。

 決して良い状況とは言い難いというのに、何故漆黒の少女は笑うのか・・・。

 

「お前、名は何と言う」


 男は唐突にそう訊ねる。鈴蘭は静かに答えた。


「鈴蘭。アンタは?」

 

 明らかに鈴蘭の男に対する態度が変わった。少しばかり丁寧に話していた先程より幾分口調が雑になっている。だが、男はそんなこと気にも止めず、目を細めて鈴蘭を見据えた。


「アーノルドだ」


 それだけ言うと、アーノルドは隊に帰還指示を出し、くるりと踵を返した。




すみません。今回は鈴蘭とアーノルドの会話だけで終わってしまいました。

全然進まなくて申し訳ないm(_ _)m


次話はイグネイシャス視点を書きたいと考えてます。


お気に入り登録してくださった方々、本当に有難うございます。できるだけ更新が遅くならないよう頑張りたいと思います。

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