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異世界で騎士をはじめました。  作者: ダージリン
第二章 見習い
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見習い初日(3)

ご無沙汰して申し訳ありません。久しぶりの更新です。


大変お待たせいたしました。今後共応援よろしくお願いします。



 王宮に戻った鈴蘭は驚きの事実を知った。

 何と、散歩中の私を皆総出で探していたとのこと。アーノルドなど、警備兵を数人引き連れて捜索していたらしい。それを知って私はかなり申し訳ない気持ちになった。


 いやしかし、見習いごときに大掛かり過ぎやしまいか?お偉いさんが行方不明とか、極悪人が脱獄したとかなら分かるけど・・・。


 予想外の展開に頭がついて行かない。一体、私はどういう立場なんだ。


 ちなみに、現在私はお叱りを受けている真っ最中だ。殿下の執務室で四人に囲まれている。

 殿下とリュシエンヌ先生、アーノルドにクラウスの四名だ。何てド迫力のあるメンツだよ。お馴染みの美形三名と、若さこそ無いが、綺麗な顔をしているリュシエンヌ先生。昔は絶世の美女だったと言われたら頷いてしまうだろう。


 そして私は新たな発見をした。凡人がどうやったら目立てるのか。

 非凡人に囲まれれば自然と目立てるぞ。今の私のように。美形美人に囲まれて私の平凡さが更に際立っている。喜べばいいのか嘆けばいいのか。


 私は嘆きたいけどね。とりあえず、早く解放されたい。説教タイムと非凡人の集まりから。


「スズラン、聞いているのか」


 おっと、マイワールドにトリップしていた。又の名を現実逃避とも言うが。いけないけない。これ以上長引くのは御免だ。耐えねば。


 鈴蘭は眉間に皺を寄せたイグネイシャスに焦点を合わせた。


「聞いてます」


「勉学は嫌いか?」


 何故いきなりそんなことを聞いてくるのか、私は殿下の質問の意味を謀りかねた。


「好きでも嫌いでも無いです。強いて言うなら、必要なことだと思ってます。自分が生きていく為の知識を得られるのだから」


 この言葉に、四人は感心した。アーノルドなど、口が半開きになっている。鈴蘭の真面目さ、賢さが垣間見れた瞬間であったが、同時にイグネイシャスに疑問をもたらした。


「なら、何故脱走した?」


「脱走した訳ではありません。休憩時間に外を散歩しようとしただけです。・・・そしたら、遠くに行き過ぎました」


 語尾は声が小さくなった。間違ってはいない。休憩時間は私の自由時間。そう、自由なのだ。

 何をしようが私の勝手。だから散歩に出かけた。そこは強く主張させてもらおう。


 ・・・ただ、時間を守れなかったことだけは反省します。

 日本人、時間厳守は必須!職場で時間を守れん奴は即解雇っ!って、まだ社会人じゃないけど、学生であろうとも時間は守るべし。むしろ5分は余裕を持つのが良い。


「お前の散歩は、窓から出て行くものなのか」


 ブツブツと呟いていると(本人は心の中で呟いていたつもり)、イグネイシャスが問う。彼の言葉に鈴蘭はギクリと肩を揺らした。


 うっ、そこを突くか。そこ突かれたら、言い訳できん。いや、笑っちゃうほど苦しい言い訳ならありますけど、それってもう、言い訳にならんだろう。


「それは・・・ごめんなさい。扉から出たら見張りの人に止められると思ったんです」


 鈴蘭は無駄な言い訳はせず、素直に答えた。それを聞いて、目の前のイグネイシャスは、少し目を見開く。そして小さく溜息を吐いた。


「別に閉じ込めるつもりは無い。この世界に不慣れなお前の為に彼らを置いただけだ」


「え?」


 てっきり、自分を監視する為にいるものだとばかり思っていた鈴蘭は、殿下の予想外過ぎる言葉に驚いた。思わず、自分の両耳を引っ張る。正常な耳がついているのか、確かめたくなったのだ。


 そんな私を、殿下はクッと小さく笑い見る。


「説明不足だったな。お前は城壁の中でなら自由に動いていい。ただ、城の外に出るなら俺に言え。お前の容姿は珍しい。外に一人で出たら何が起こるか分からないからな」


「じゃあ、何時でも外に出て散歩しても、アグニアスに会いに行ってもいいということですか?」


 嬉しくて、声が幾分弾む。


「ああ、自分の自由時間ならな。だが、見習いとしての仕事、今は勉学が最優先ということを忘れるなよ」


 イグネイシャスは目を輝かせる鈴蘭に釘を打つ。しかし、言葉とは裏腹にその声音と目は穏やかなものであった。 


「忘れませんよ。しっかり勉強はします。早く騎士になりたいですし」


 鈴蘭は両手を胸辺りで握り締める。そんな彼女をイグネイシャスは、先程の穏やかさを消し、真剣な目で見やる。


「そのことだが、お前は本気で騎士を目指したいのか?」


「勿論です。小さい頃からの夢でした。何が何でもなってみせます」


 何の躊躇もなく、私は言い切った。迷いなどない。叶うはずのない夢が実現するかもしれないのだ。このチャンスをみすみす逃すか。


「言っておくが、肉体的にも精神的にも辛いぞ。男だろうが女だろうが容赦なくシゴかれる。それでもか?」


 殿下の声は実に真剣で固い。彼が偽りを告げていないことが分かる。本当に、容赦がないようだ。しかし、


「私の決意は変わりません」


 変わらない。いくらでもシゴかれてやろうじゃないか。根性はある方だと自負している。伊達に幼き頃から祖父に鍛えられてきたわけではない。厳しかった祖父を思い出し、一瞬目頭が熱くなった。


 鈴蘭の意思を確認したイグネイシャスは頷く。


「そうか、分かった。では騎士になれるよう、身分証の方はこちらでなんとかしよう。お前は見習いの内に実力をつけろ。今のままではついていけないだろうからな」


「有難うございます。勉学に励みます」


 何と、殿下は本気で協力してくれるらしい。赤竜王も言っていたが、騎士になるには身分証明が必要だ。これだけは私自身がいくら頑張ろうとも、どうにもならない。そこをフォローしてくれるのだから、有難いことこの上ない。

 

 うん、殿下は意外といい人だった。変態から、もはや害に近いイケメン人間に昇格だ。


 覗いたことは一生忘れんが、協力してくれるのなら一度だけ水に流してやろう。一度だけだがな。二度は無い。ふふふ・・・と黒い笑みを讃えた鈴蘭に、はたと疑問が浮かぶ。


 ん?そういえば、殿下は人間では無いか。赤竜王の息子だから竜だっけ?いや、だが何処からどう見ても人間じゃないか。一体、どこら辺が竜なのだろう。めちゃくちゃ気になる。


 好奇心に満ちた目で、まじまじと眺めていると、殿下と目が合う。彼は何かを感じたのか、眉間に皺を寄せた。


「ただ、知識だけあっても意味がない。騎士には強さが必要だ。明日から戦闘の訓練も始めよう。武術、剣術、魔術。頭と体に叩き込むことは沢山ある」


 イグネイシャスはそう言って、リュシエンヌに視線を移す。


「リュシー、午後の授業は明日に回しても大丈夫か?」


「ええ、別にいいですが。何故です?」


 首を傾げるリュシエンヌから再び鈴蘭へと視線を戻した。


「訓練の前にスズランの実力を見たい。武術を少しかじっていたと言っていたからな」


「俺も見てみたいな」


 アーノルドが興味津々の眼差しで見つめてくる。いや、そんな目で見られても困る。本当にかじった程度なのだ。あなた方の足元にも及ばぬヘボさだろう。何せ、あの平和な国で生きてきたのだから。戦争?そんなもん経験したことも無いわ。教科書という紙の束でしか存在を認知しておりません。


「期待されるほどじゃ無いですよ?むしろ幻滅するかもしれません。剣は使ったことが無いですし、私が出来るのは素手同士の組手くらいです」


「言っただろう、今の実力を見るだけだ。出来ないことはこれから学べばいい」


 予防線を張る私を殿下はスパンっと一刀両断。はい、そうですね。これから学べばいいですよね。てか、殿下。端から大して期待してないんだろ。


 何となく、面白がっているだけのように思うのは私だけだろうか。否、絶対面白がっている。


 私のようなチビ女に何ができるのか。と。ムカつく。その目、すんごいムカつくんですけど。人を小馬鹿にするかのように細められた目が、気に食わない。


 鈴蘭の闘争心に火が付いた。


 私は負けず嫌いだ。絶対ド肝抜いてやる。首洗って待ってろっ!


 鈴蘭の周りを黒いオーラが覆った、気がした。彼女は「ふふふ・・・見てろ・・・」と呟く。


 

 イグネイシャスは鈴蘭が可笑しくてしょうがなかった。

 彼女は実に素直だ。心の内が口から洩れているし、感情がそのまま魔力に表れている。どうやら現在の彼女はすこぶるやる気らしい。何やら魔力に黒いものも混じっているようだ。その黒いものが何なのかは、知らないことにしよう。


 彼女の実力が一体どれ程のものなのか。いい機会だ。しっかり見極め、彼女に合った訓練計画を立てよう。騎士は危険な仕事だ。そんな所へ、彼女を放り込みたくは無いが、俺が何をどう言おうと耳を貸さんだろう。ならば、危険など軽々跳ね除ける程の強さを身に付けさせればいい。


 竜騎士がいるように、騎士にも色々な種がある。鈴蘭のように、肉体的力が無い女性でも、魔導騎士なら希望はある。彼女のように強大な魔力の持ち主はそういない。魔術を完全に使いこなせれば、最強の魔導騎士になるかもしれん。


 最強の魔導騎士。そんな女性が将来、王妃になるのならば誰も文句は言うまい。スズランには是が非でも頑張ってもらわなければ。将来、俺の傍に置くためにも・・・。


 思考が完全に脱線していくイグネイシャスを、鈴蘭以外の三人は生暖かい目で見つめる。鈴蘭はというと、未だマイワールドで盛り上がっている。勿論、黒いオーラは健在だ。


 お互い向き合いながらニヤリと笑っているのだが、二人は全く噛み合っていない。笑いの種類が明らかに異なっているのだ。一人は闘争心からの、もう一人は下心丸出しからのである。


 クラウスは、もはや呆れ果てた目で己が主を眺め、アーノルドはその巨体を揺らしながらケタケタと笑う。リュシエンヌは、静かに微笑む。その笑が何を意味するかは、本人しか知り得ないこと。


 こうして殿下の執務室では、しばらく異様な空気が流れていた。





・・・中々話が進まない。

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