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異世界で騎士をはじめました。  作者: ダージリン
第一章 異世界
14/26

その後、殿下の部屋にて(1)

今回は少し文章が長くなってしまいました。


知らぬ間にお気に入り登録が100件を超えていました。

登録して下さった読者様有難うございますっ!


今後もこれを励みに頑張りたいと思います。最後まで応援宜しくお願いします。

できれば感想を書いて下さるともっと励みになるので、時間があればそちらもよろしくお願いします。

ストーリーやキャラクターに関しての感想など色々お待ちしております。




 そう、昨日は私に悲劇が起こったのだ。本当、こちらに来てからというもの散々な目にあってばかりだ。

 アーノルドに王宮に連れてこられ、赤竜王に会い、騎士にして欲しいと頼めば勝手に殿下に見習い騎士にされ、話の途中で殿下に連れ去られ、挙げ句の果て今後は殿下の部屋で生活しろと赤竜王からの厳命。


 恐ろしい伝言を置いてクラウスとアーノルドが部屋を出ていき、殿下の部屋に取り残された私は唖然とした。

 何がどうなってこうなったのか、皆目見当も付かない。

 付かない、分からない。でもとりあえず。とりあえず、一言いいですか?


 赤竜王、ふざけるな。


 何、頭可笑しくなったの?何でいきなり、一緒の部屋で過ごすなんて事が起こるわけ?

 仕事は引き受けますよ。ええ、しっかり働かせていただきます。しかしですね、それとこれは別個でしょ。生活まで共にする必要は無い。仮にも男女ですよ?


 ああ、私は対象外ですね。こんなチビで幼児のような身なりだし。それ以前に、相手は殿下様ですから私とは別世界のお方ですね。本当、申し訳ないです。仮でも男女などと口走って。


 しかし、王命令だと?殿下でも逆らえないと言っていたし、当然私の意見など聞いてくれないだろう。

 ・・・だからと言って、これを受け入れろと?


 っていうか、部屋有り余ってるだろっ!部屋の一つや二つ使わさんかいっ!

 何てケチくさい王様だよっ!


 私は眉根を寄せ、脳内で先程会った王に対しての悪態を吐きまくっていた。そんな私の百面相?を眺めていた殿下は、一つ溜息をついて前髪をガシガシとかき回した。

 あ、ついでに言っておきます。今はお互い机を挟み向き合ってソファーに座ってます。先程クラウスとアーノルドが去った直後、呆気にとられる私同様、彼も呆気にとられていたようで、すかさずその腕から逃れました。今度はすんなりと抜け出せました。とりあえず、一安心。

 爆弾を落としていった二人ですが、殿下にこの隙を与えてくれたことだけ礼を言います。


「・・・仕方ない、この部屋は好きに使え」


 殿下の言葉に私は驚き目を見開いた。


「え、いいの?でもアンタはどうするの?」


 なんと、私に部屋を譲ってくれると?いい奴だな。だが、部屋を空け渡したら彼は何処に行くのだろうか。移る部屋があるなら私がそちらへ住もう。流石に人様から部屋を奪うようなことはしたくない。

 期待に満ちた目で見つめる私に、殿下は目を細めて溜息をついた。


「何を勘違いしている。俺は出ていかんぞ。当然今までどおり、この部屋で過ごすに決まっている」


 ・・・私の期待がものの数秒で木っ端微塵に粉砕された。

 今の私は『ガーンッ・・・』とバックに効果音が付きそうな勢いで激しく落胆している。


「ただ、住人が一人と一匹増えただけだ」


 そんな私を気にする様子も無く、殿下は私と私の膝にお座りするグレンを一瞥した。


「まさか、本気?」


「仕方が無いだろう。父上は一度決めたことを取り止めることは絶対にしない。これはもう決定事項なんだ。諦めろ」


 くそっ、息子が言うからには本当のことなんだろう。ていうか、それ以前に親子だからきっと性格も似ているんだ。コイツ自身も、決めたことを覆すことはしないだろう。強引なところもそっくりだ。

 末恐ろしや、血の繋がり。


 鈴蘭は寒気を感じ、身を震わせた。


 ああ、私の平穏は何処へ。

 まだグレンと森にいた頃は環境こそ危険だったが、心は平穏そのものだった気がする。


 何時からだっけ、精神が疲労を感じたのは。そうだよ、ここに来てからだよ。本当やめてほしい。

 何か、森に戻りたくなってきた。

 

 鈴蘭は遠い目で殿下の後ろの窓、さらにその向こうの(あるか分からないが)アルスの森を眺めた。



「それより、もう夕食の時間だが、スズラン腹は減ってるか?」


 殿下にそう言われ、現実否定で意識を飛ばしていた私はやっと、今が夕時なのだと知った。

 ・・・知ったら知ったで、急激に空腹感が私を襲う。


 ぎゅううぅぅぅぅ~きゅるきゅるるぅぅ~・・・キュっ


 私の制止も聞かず、腹は雄叫びを上げた。

 うおおおーーいッ 何てことをしてくれたんだ、私のお腹っ!お前、切腹ものだぞっ 覚悟は出来てるだろうな!

 私は顔を茹でだこのように赤く染め、ぷるぷると震えた。


「体は正直者だな」


 クックッと笑う殿下に私は羞恥で顔が上げられず俯いた。



 どれくらいそうしていたか分からないが、殿下の指示を受けたらしい侍女が部屋に食事を運んできた。私は目の前に用意された食事の匂いにつられ、先程の恥ずかしさは何処へやら。美味しそうな匂いに誘われ顔を上げる。

 目の前にちゃんと調理された食べ物がある。何かすっごく久しぶりな感じがした。実際には三日、四日ぶりの人の食事であるが。

 私は嬉しさのあまり、食べる前から顔が綻んでいた。当然見た目通り味もかなり素晴らしく、さらに笑を深めた。


「うわあっ・・・美味しい」


「そうか?まあ、気に入ってくれたならいい」


 私が感嘆の声を漏らすと、殿下は首を傾げて答える。

 まあ、いつもこんな美味しいもの食べてりゃ、私のこの感動は理解できまい。


 いやしかし、本当に美味いな。元の世界ですら、ここまで美味しいものを食べた経験がない。

 食材とコックさんに感謝感謝。


 食材といえば、グレンにもらった果物も美味しかったなぁ。うーん、この世界は食材自体が美味しいのかも。


「この世界の食べ物って基本美味しいよね。って、こっちに来てから食事らしい食事はこれが初めてだけど」


 私はしみじみと呟いた。


「お前、今まで何を食べてたんだ?」


 殿下は怪訝な表情で私を見つめる。私は食事の手を休めず、簡潔に答えた。


「果物」


「それだけか?」


「うん、グレンの食べ物分けてもらってたから」


「そいつの?果物なんか食べるのか?」


 意外だと言う顔で殿下は私の膝に座るグレンを見た。


「私も驚いたよ。何食べるの?って聞いたら、果物と野菜だって。てっきり肉食だと思ってたから最初、私が食べられちゃうんじゃないかって思ってた」


 おどけてそう言うと、鈴蘭は自分の皿上にある野菜をグレンに与える。

 グレンは私の手からパクリと人参?らしきオレンジの物体を食べた。


 鈴蘭は自分の皿を凝視して眉間を寄せる。

 うーん、私の皿にはもう野菜が残りわずか。元々付け合せ程度にしか存在していなかったのだが、グレンも流石にこれだけでは足りないだろう。


「・・・グレンってどれくらいの量を食べるの?」


『この形態ならば、そこの器山盛りくらいで足りる』


 そう言いながら、グレンは私の左斜め前置かれた直径三十センチ、深さ十二センチ程のボウルを目で示した。

 うん、私の知る犬猫よりはたくさん食べるんだね。とりあえず、私の分の野菜だけでは足りないということらしい。ので、殿下にお願いしてみた。


「あのう、出来ればそこの器と同じ大きさの物に野菜か果物をいっぱいに欲しいんですけど・・・」


「ああ、そいつの餌か。てっきり肉を食べるとばかり思っていたからな」


 ちらりと肉の塊が乗る皿へ視線を向ける。どうやらグレンに用意されていたらしい。

 殿下に言われ控えていた侍女が皿を下げ、「すぐにお持ち致します」と優雅に一礼して部屋を出て行った。


 それから程なくして、溢れんばかりの野菜とある程度切られた果物が入った器を持って、侍女が戻って来た。彼女は音も立てずに鈴蘭が座る椅子の脇の床に器を置き、静かに壁際へ戻る。


 グレンは私の膝から降りると、器の中身に鼻を寄せ、くんくんと匂いを嗅いだ後、もくもくと食べ始めた。食事中のグレンは私に背を向けており、美味しいのか尻尾をふりふりと揺らしている。


 か、かわいいっ!!

 鼻血が出る・・・いや、もう吐血するぞ。チビグレン最高っ!勿論元の姿もカッコいいよっ


 にへら~っと締りの無い顔でグレンを見つめる鈴蘭。それをイグネイシャスが食い入るように見つめていたことを知るのはこの場に居た侍女ただ一人。彼女の目は驚愕に見開かれていた。



 食事も終わり、片付けていた侍女も退室していった。久しぶりに腹満腹に食べた鈴蘭は少々苦しげに腹を擦りながらもその顔は至福に満たされていた。そんな彼女にイグネイシャスは微笑む。


「腹は満たされたようだな。どうする、もう寝るか?それとも湯浴みをするか?」


 湯浴み、って言うのはお風呂のことだよね。

 そう言えば、こちらに来てからは池でしか身体を洗った事が無い。そろそろお風呂でしっかり体を洗いたい。できれば石鹸で。


 鈴蘭は無性に風呂に入りたくなった。ここへ来るまで毎日のように入っていた風呂と疎遠になっていた為、恋しくて仕方ない。


「お風呂に入りたい」


 私が迷わず言うと、彼は苦笑し呼び鈴を鳴らした。先程の食事の時も鳴らしていたそれを見て、きっとあれは召し使いを呼ぶものなのだろうと私は思った。程なくして先程と同じ侍女が扉をノックして入って来た。


「彼女に湯浴みを」


 彼の言葉に侍女は「かしこまりました」と一礼し、私を湯殿へ連れて行った。っと言ってもそれは殿下の部屋にあるのだが。

 どうやら殿下の部屋はバス・トイレ付きのようだ。なんて便利な、と私は思う。しかし更に驚愕の事実を知った。侍女曰く、全ての部屋に設置されているのだそうだ。

 まったく、金持ちの考えにはついていけん。トイレと風呂は一家に多くて二つまでだろう。何で一々一部屋ごとに付いてるんだ。理解できない。贅沢過ぎだ。


 私は溜息を零した。

 ちなみに、どうして侍女がそのような説明をしてくれたのか、私は訊ねた覚えは無いのだが。

 どうやらまたしても私の思考は口からダダ漏れだったらしい。昔からお爺ちゃんに注意されていたのだが、未だに直らない。いや、直す気が無いのだろう。だって面倒だし。

 害さえ無ければいいではないか。


 ということで、この癖は長年直る事無く顕在している。


 湯殿に案内され、侍女は一旦出て行き、再び戻って来た。その手には着替えが持たれている。


「湯浴み後はこちらの服をお使い下さい」


 そう言って、部屋を出て行く。っと思ったらいきなり私の服を脱がそうとするではないか、私は驚いた。いや、日本人の皆様ならこの驚き、きっと理解して下さるだろう。

 私は必死に抵抗し、何とか渋る侍女を言い包め、彼女を風呂場から出した。


 彼女から仕事を奪って申し訳なく思うが、これだけは譲れない。だって、何が嬉しくて見ず知らずの人の前で素っ裸にならなければならない。そんなの私の精神が耐えられない。羞恥で死ねるよ、自分。

 いやね、日本人だから一緒に風呂に入る考えならば別に理解できるんだけれど、裸は自分一人で、服を着た人に身体やら何やらを洗われるという羞恥プレイが理解できないんです。


 ということで、私は今一人で入浴中。

 あぁ~・・・極楽極楽。暖かい湯に浸かるのなんて何日ぶりだ。それに、石鹸で身体洗えるし、頭も洗えるなんて、幸せだ。

 久しぶりの風呂をたっぷり堪能し、私は浴槽から出て脱衣所へ向かった。先程侍女が置いて行った着替えを広げ、私は固まる。


 私の目の前にあるのは、おそらくパジャマ。しかし、私の良く使う上下分かれたものでなく、これは自分が知る限りの言葉で言うならば、ネグリジェ。膝下までのワンピース型の寝具だ。色は純白、袖や裾にはレースやフリルがあり、胸元にはリボンが付いている。


 大抵の女の子なら、きゃーかわいいっ!などと言って喜ぶかもしれないが、私は違う。嬉しい?んなわけあるかい。喜ぶどころか絶望を感じる。何でこんなフリフリワンピースなんて着なきゃならんのだ。

 自慢じゃないが、元の世界での私服にスカートなど存在しない。制服が唯一のスカートだ。


 ちなみに、こちらに来る際着ていたのは高校の制服だ。上下白の制服で、当然スカート。丈は膝下だ。現代でこの長さのスカートは珍しいだろうが、私の通っていた高校は女子高。しかもお嬢様学校だったので規律が厳しく、今流行りのミニスカなどありえなかった。

 ま、そうでなくとも私は自ら足を見せるような行為はしなかっただろう。というより、スカート自体に抵抗があった。


 私はどうも女らしくない。小さい頃から野山を駆け回り、お爺ちゃんの持つ道場で武芸を習い、自然と動きやすい服装を好むようになった。結果、私服がボーイッシュになったのだ。


 何故そんな娘がお嬢様学校に?という疑問を持たれた方も多い事でしょう。まあ、そこまで深い理由はありません。あまりに女の子らしく育たなかった私を嘆いたお爺ちゃんが、もう少し女らしくなってこいっ!とお嬢様学校に放り込んだのです。こんな男勝りに育てたのは元はと言えば、私に武芸を叩きこんだお爺ちゃんの所為ではないか。と思ったのですが、今となっては感謝してます。

 

 お嬢様学校に通っていたおかげで最低限のマナーや、お淑やかな振る舞いが身に付いたし、元々武芸も出来たので、可憐且つ強い私になりました。自慢じゃありませんが、奨学金で入学した私は勉強も出来ます。常に成績は首席でした。簡単に言うと、文武両道な女です。


 そんな私ですが、苦手なことが一つ。それは女らしい服装。

 制服は仕方なく着ていましたが、それに対抗するように私服はズボン。ズボンだらけでした。


 そんなこんなで話を戻しますが、今ネグリジェと対峙している私。その目は最早、宿敵と睨みあうが如く鋭くなっています。

 そんなに嫌なら着なければいい、とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、そう簡単な話でも無いのですよ。何故なら、これしか着る物が無いからだ。着ていた制服?それがあったら私だってどんなに歓喜した事か。


 悲しいかな、風呂を堪能している間に見事持っていかれましたよ。侍女殿に。


 故に着る物はネグリジェ只一つ。これが嫌なら裸しか私に選択肢は残されていない。

 流石に裸でいる選択はいけない。常識ある人として。


 ・・・非常に嫌であるが、着るしかない。

 何度目かの溜息を吐き、禁断のそれに袖を通す。そして、背後の大きな姿見に私の屈辱的な姿が映し出される。

 何で、脱衣所にこんな鏡が存在するのか。この時は鏡でさえ憎く感じた。

 レースたっぷりひらひらネグリジェ姿の自分が鏡に映る。感想一言。


「キモい」


 目の前の自分に吐気がした。

 やはりこんなの自分ではない。これは至急違う服を用意してもらう必要がある。


 その為にはまず、このバスルームから出なくてはならない。が、足が重い。

 だって、誰にそのことを言うって?アイツしかいないではないか。


 あの殿下にこの羞恥の姿を晒さなければならないとは、何という屈辱。絶対笑われる。似合わないだの、なんて滑稽だのと言われかねん。

 ちっ、考えただけで苛立ってきた。

 しかし、こんなところでうだうだしていても何も始まらない。とにかく一刻も早くこの服とはおさらばしたい。


 私は一度重い頭を降り、バスルームと部屋を隔てる扉のノブに手を掛けた。





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