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異世界で騎士をはじめました。  作者: ダージリン
第一章 異世界
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私の就職先

いつも読んで下さりありがとうございますっ!

ご感想などございましたら、是非よろしくお願いしますっ

お待ちしてます。



 ――私を、騎士団に入れて下さい。


 彼女のこの発言に、男四人は言葉を失った。その中で辛うじて衝撃の弱かったアーノルドが額に手を宛がい溜息を吐く。


「・・・おい、本気だったのか。それ」


 アーノルドは呆れ眼で私を見遣る。私はそんな彼を睨んでやった。


「本気も本気、大本気です」


「これ又、何故騎士になりたいのだ・・・」


 少し掠れた声で赤竜王が訊ねる。


「赤竜王様、働かざる者食うべからず。金貰えず、です。私はこの世界で生きていく為に職が欲しいのです」


 只与えられる事を良しとしない、その謙虚さに感心するが疑問を抱かずにはいられない。


「職なら他にも沢山あるぞ?何も騎士を選ばんでも・・・」


 赤龍王は手で髭をなぞる。


「いえ、せっかく違う世界で働くのならば元の世界に無い職に就きたいんです。そして長年の夢でもあるのです。私はイエスと答えて下さるまで引きませんから」


 強情な光を宿す漆黒に、赤龍王は溜息を吐く。


「さて、どうしたものか。確かに女の騎士も居るが、其方のような者は居らぬしな。魔術の方は心配無さそうだが、騎士の基本は剣術や体術である。其方では・・・」


 赤竜王は鈴蘭を頭の天辺からつま先まで一通り見る。その視線に気付いた鈴蘭は、ムッとして己の胸を握った拳で叩いて見せた。


「見縊ってもらっては困ります。私これでも武術の心得があります。元の世界のものですけど」


「しかしだな・・・」


 どうも私の外見から騎士団入団へ踏み込めない赤竜王。まあ、分からなくも無い。私は童顔で小柄な為、何処からどう見てもただの子供にしか見えないのだろう。

 だがしかし、実際は入団可能な年齢に達している。女性が騎士になれないわけでもない。なら、まず真っ先に誤解をしているであろう年齢を暴露しよう。そこから攻めるっ!引いて成るものか、この気を逃したら騎士になれなくなる。そんな気がした。

 私は何とか赤竜王を言いくるめようと口を開けかけたその時、意外な人物が話に加わった。この部屋に入って来て、まだ一度も声を発していない殿下だった。 


「コレは俺が預かる」


 厚い胸板の前で腕を組むイグネイシャスがそう言った。淡々と告げられたその一言に、彼以外の者は唖然とする。


「預かるとはどういうことですか?殿下」


 鋭利な刃物の如く見据えられたクラウスの視線がイグネイシャスを刺す。彼はそれに動じず、フンと鼻で笑った。


「俺の下で騎士見習いとして働いてもらう」


「!!!!?」


 皆が絶句した。一番言葉を失ったのは、私だ。何が可笑しくて、変態の下で働かねばならないんだ。盛大にお断りしたい。


「殿下、寝言は寝て言って頂きたい」


 彼の言うとおりだ、寝言は寝て言えっ!ていうか、寝言でも言うなっ!!

 冷ややかな目で睨むクラウスを素知らぬ顔で無視し、イグネイシャスは喉元でクツクツと笑う。

 

「いくら今後成長しようと、女だろうが男だろうが、弱かろうが強かろうが、父上は首を縦に振らぬでしょう?」


 不敵に笑い、イグネイシャスは赤竜王にそう言う。


「えっ!?何で?」


 驚いた鈴蘭はイグネイシャスと赤竜王を交互に見た。


「騎士になるには身分を証明する必要がある。一般市民だろうが貴族だろうがそれは変わらない。そして、お前は異世界からやって来た。その意味がわかるか?」


 彼の問いに、私は絶句した。そう、私は身分が定かではない。そして今後もそれが明らかになる事はない。私の素性を知る術は私の口だけなのだ。あまりに信憑性に欠ける。


「因みに、この国では正規の職に就くには大抵身分証明が必須だ」


「――そんな、じゃあ私、騎士どころか他の職にすら就けないかもしれない・・・?」


 自分で言った言葉に私は絶望した。


「そういうことだ。だから俺が雇ってやると言っている。俺は身分証明など必要としない。勿論、給料も払うし衣食住付きだ。どうだ?これ以上ない好条件の職だろう?」


 口角をあげて歪んだ笑みを讃えるイグネイシャス。そこら辺の奴が同じ事をすれば只の下婢た笑いにしか見えないだろうが、悔しいことに彼の美は落ちるどころか増していた。そんな彼を鈴蘭はジロリと睨む。


 非常に悔しいが、彼の提案は自分にとってかなり有難い。衣食住が付いてさらに給料もくれる。何より身分証明を必要としない。本来寸分の迷い無く飛びつく処だが、私は飛びつかない。

 何故かって?これだけ好条件が並ぶ中、一つだけ悪条件が潜んでいるからだ。

 そう、私の睨みを受けても毅然と笑っている男、雇い主が気に入らない。アレじゃなければ尻尾振って飛びついてたところを・・・っ!

 鈴蘭は忌々しげに眉を潜めた。


「殿下っ!勝手に話を進めないで下さい」


 怒気を含んだ声音でクラウスがイグネイシャスを窘める。しかし彼は耳を貸さず話を続けた。


「当然、騎士見習いとしてしっかり鍛錬もしてもらう。俺や、俺の側近であるアーノルドが相手をしてやる」


「え、俺も?」


 当たり前のように言われたアーノルドは自分を指差し、目を瞬かせた。そんな彼のことは無視してイグネイシャスは赤竜王に視線を向ける。


「そう言う訳で、あれは預からせてもらいます」


 強引に話を終わらせた彼に、赤竜王は溜息を吐く。


「お前の考えは理解した。異論は無いが、とりあえず余より先に本人に了承を得た方がよいと思うぞ」


 そう言って、チラっと赤竜王は鈴蘭に視線を遣る。彼女はその容姿にそぐわない鋭い眼差しでイグネイシャスを睨んでいた。


「必要ありません。決定事項です」


 イグネイシャスは鈴蘭に目も向けず即答した。


「ちょっ!私の意思も確認せず勝手に決めないでっ」


 流石に彼の横暴さに鈴蘭は怒鳴った。そんな彼女をイグネイシャスは一瞥する。


「お前の意思は関係ない。これは決定事項だと言っただろう。それに、断ったところで他にお前の行き場など無い」


「――っな!」


 あまりの言い草に私は腸が煮えくり返る思いをした。


「話は以上だ、さっさと行くぞ」


 勝手に話を打ち切り、イグネイシャスは鈴蘭の方へ近づくと、ひょいっと荷物のように小脇に抱えた。


「・・・ちょっ!こら離せぇっ!この変態っ」


 彼の流れるような動きに一瞬、自分が抱えられたことに気付かなかった。私は連れていかれて成るものかと渾身の力で腕を引き剥がそうとしたが、逞しいそれはビクともしない。

 わぁわぁと喚いている内にイグネイシャスはさっさと部屋から出てしまった。


 いつの間にやら節約モードに変化したグレンも、二人の後を追って扉を出て行った。


 

  ◇◇ ◇◇



 残された三人は唖然と両開きの扉を眺める。


「余は今、驚いておるぞ。アレが自ら他人を傍に置きたがるなど初めてのことだ」


「そうですね、殿下は王子でありながら侍従もつけず、身の回りのことはご自分で為さる」


 頭痛でもするのか、クラウスは米神を指で押さえている。その隣ではアーノルドが盛大に溜息を零した。


「護衛は必要無いと撥ね退け、側近の俺達ですら長時間共にいると不機嫌になる始末・・・」


 そう、彼らの知るイグネイシャスという男は帝国を守護する騎士の誰よりも強く、大抵の事は己でこなし、さらには他人を寄せ付けない、云わば一匹狼のような存在だ。容姿からその実力まで完璧な彼に近づくには相当勇気がいる。ましてや、お世辞にも愛層が良いと言い難い彼の性格を考えれば、自分から近寄ろうなどと思う者も少ない。・・・例外として、欲望に満ちた若い貴族の女はいるが。


 赤竜王は小さく唸り、突飛な事を言い出した。


「――これは、余の勘であるが。もしやあ奴、スズランに惚れでもしたか?」


 クラウスとアーノルドの目が同時に見開かれた。


「・・・陛下、御冗談を」


 クラウスの目は半目になっていた。彼は呆れてものも言えない心情を抱く。


「いや、冗談ではないぞ。何故か余は確信を持っておる」


 自信満々に言い切る赤竜王に、クラウスは嘆息した。


「惚れたかどうかは分かりませんが、殿下がスズラン殿を気に入っているのは事実でしょう。しかし、本当に良いのですか?このまま彼女を殿下の傍に置いておいて・・・」


 王子であるイグネイシャスの下に、素性が定かでない彼女を置いて、果たして大丈夫なのか。

 側近としてはあまり良くは思わない。だが赤竜王はそのような心配事一切無いようで、さらにとんでもない発言をする。


「うむ、一層のことあ奴の妃にでも迎えたいところだ」


 流石のこれにはクラウスの眦が吊りあがる。アーノルドも苦笑いした。


「陛下、お戯れが過ぎます」


「いや、これは本気だぞ。あ奴ももう二十一だ。そろそろ妃を迎えても良い歳。だがせっかく用意した後宮に通いはするものの、一向に寵妃の噂は聞かぬ。それに竜という生き物は一途だからな、生涯の妻は一人。あれだけ後宮に高貴で美しい妃候補を集めたと言うのに、あ奴はなびく気配が無い。となれば、傍に置こうとするスズランが現時点で最も妃に成りえる可能性が高いと思わぬか?」


「・・・確かに、他の女性と接する時とはどこか違うように感じましたけど」


 アーノルドはそう言って首を捻る。

 そうだ、殿下は今日の今さっきスズランと初めて出会ったばかり。会ってまだ数十分、お互いの事を知るにはその時間はあまりに短すぎる。なのに、だ。殿下は半ば強引に彼女を自分の傍に置こうとした。それはある意味独占とも感ぜられた。


「それにしても、アレも余に似て偏った趣味をしておる。高貴で容姿の優れた女など後宮に腐るほどいると言うのに、異世界の年端も行かぬ少女を選ぶとは。だが見る目がある、スズランは幼くとも自分と言う者をしっかり持っておる。誰に媚びるで無く、与えられるだけを良しとしない。自ら道を切り開こうとする意志。あの黒曜石の様な瞳には強さが滲み出ておる。さらには容姿もこの世界には珍しく又、神秘的とも言える。文句の付けどころが無い。まるで亡き我が妻の様である」


 しみじみと語る赤竜王は何処か遠くを見つめている。


「――つまり、陛下がスズラン殿を気に入ったと言いたいのですね」


 クラウスがそう問うと赤竜王は、


「うむ、まあそれもある。だがアレとて満更でもないだろう。何といっても血の繋がった息子だ。きっと好みも似るだろう。何より余はスズランを娘に欲しい。その為にはアレの嫁になった方が手っ取り早いではないか」


 と、口角を上げて笑う。


「本音はそれですか」


 クラウスはもう何度目かの溜息を惜しげも無く吐いた。


「俺は陛下のお考えに異論は無いですよ。スズランのことは俺も気に入りましたし、彼女なら殿下の傍にいて欲しいとさえ思う。面白いですからね、彼女。先程も殿下のこと変態呼ばわり・・・」


 肩を震わせてアーノルドは笑った。


「ですが、殿下は本当にスズラン殿を恋愛対象として見れますかね。いささか幼過ぎる気がしますが・・・」


 クラウスの言葉に赤竜王は眉根を下げる。


「確かにな、あと五年・・・は時間が必要か?」


 二人の会話に、先程から伝えようとしていた事を思い出し、アーノルドが話す。


「あ、勘違いされているようですが、スズランは現在十七歳ですよ」


「――何とっ!?」


 赤竜王は椅子から身を乗り出して驚く。クラウスも目を瞬かせていた。


 彼らの反応に、アーノルドは苦笑する。

 まあ、驚くのも無理は無い。最初俺も子供とばかり思っていたからな。スズランも訂正しようとしていた様だが、それを言う前に殿下に連れて行かれちまったしな。


「ふむ、では何の問題も無いな」


 椅子に深く腰を掛け直して赤竜王は髭を弄ぶ。彼の双眸は怪しい光を放っていた。

 クラウスは次に発せられる言葉に嫌な予感しか感じなかった。


「我が息子の恋の行方を全力で応援しつつ、暖かく見守ろうではないか」


 赤竜王はまるで、悪戯を思いついた子供のようにニヤリッと笑った。





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