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異世界で騎士をはじめました。  作者: ダージリン
第一章 異世界
10/26

赤竜王に御対面

少し更新が遅れました。

読んでくださっている読者様、ありがとうございます。

更新は不定期ですが、読み続けて下さると嬉しいです。



 私、如月鈴蘭は只今緊張しております。

 あまりそう見えない?何をおっしゃいます、そこの貴方。


 しっかり緊張していますとも、何と言ったって今からお会いするお方はこの大陸の支配者で在らせます赤竜王様でございますよ?緊張しないはずがあーりませんわっ!ほほほほほほっ――




 ――失礼、戯れが過ぎました。


 でも緊張しているのは本当です。

 私は一般ピーポーですからね、こちらでもあちらでも。これからお会いする方とは天と地の差の存在なのです。日本で例えるならば、これから自分が天皇陛下にお会いするようなもの。そりゃ、緊張の一つもしましょうよ。


 そして今目の前に固く閉じられた扉、この先に赤竜王様が・・・。


 はて?赤竜王というからにはやはり竜ですよね?アグニアスのようにその体躯は大層大きいことでしょう。しかしですね、どうも何度目を凝らしてみても目前の扉は人間サイズ。

 まあ、こちらの人間は皆背が高いようなので私からすれば十分な程大きいのですが、とても竜が入れる大きさではありません。

 

 そしてもう一つ疑問、確か私の隣にいるこの変態、じゃなかった。殿下様は赤竜王のお子さんなのですよね?何故に人間?どゆことですか・・・

 竜とか言っときながら実は人間なのでしょうか?

 

 ――はてはてはて・・・・?


 思考爆発です。もう考えるの疲れたので消去です、デリートです。私の常識が通用しないと判断したのでこれからは見たものをそのまま受け入れ信じます。

 百聞は一見に如かず、ですよ。やあ、確かに。こんなデタラメな世界のことなんて何回聞いても納得するもんかい。

 一度見れば「はい、そうですか」と受け入れます。というか、受け入れざるを得ないでしょう。


 私はスぅーハァーと深く深呼吸し、幼く見られがちなその大きな瞳をカッ開いた。


 さて、心の準備は整ったっ!


 いざ、出陣っ!!



 重々しい音を鳴らして複雑な模様が掘られた両開きの扉が、扉番の騎士によって開かれる。アーノルドの後に続き中に入ると、真っ赤な絨毯を辿った先には立派な王座とそこに座る・・・・座る?

 赤竜王様・・・人間?がいらっしゃいました。


 私は心の中で舌打ちをしました。あ、ご心配なく。今度は本当に心の中でですよ。

 赤龍王に向かって舌打ちなど、斬首刑です。きっと。


 しかし、もう四度目です。イケメンに遭遇するのは。流石に飽きました。まあ、あの殿下にこの赤竜王?という感じで、当然の如く整い過ぎた顔立ちに殿下同様の赤い髪、目の色は群青色。きめ細かい肌には歳を感じさせる皺とついでに顎に髭。イケメンダンディおじさん。とでも言っときましょうか。


 群青色のその双眸は、赤竜王の名に相応しく鋭く何もかも見透かすような、とりあえず一言。怖いです、そのお目目。

 その恐ろしい目で私を見ないでください。縮みます。縮み込んでしまいます、無い身長が。

 同じ人間の姿だというのに、竜のアグニアスと対峙するより余程恐ろしいです。


「よく参った。余がこの赤の大陸を治める赤竜王、ライアン・リード・ネヴィルである。スズラン、と申したか。経緯はそこのアーノルドから聞いておる。彼の話によるとどうやら其方、異世界とやらから来たようだな。信じ難いが、その漆黒の瞳と髪の色、この世界には無いものだ。詳しく話を聞きたい、話してくれるか?」


 体に響く低い声、アーノルドよりさらに低音のその声は威厳はあれど、何処か優しい口調であった。緊張と恐れで固まっていた体と頭がいくらか和らぐのを鈴蘭は感じた。


「はい、私の話せる範囲でなら」


 鈴蘭はゆっくりと頷いて赤竜王に視線を合わせた。


「まず、どのようにしてこちらに来たのだ?」


 赤竜王の問いに、鈴蘭は眉根を寄せる。


「どのように、と言われましても・・・家の襖、いえ、扉を開けたらこちらの世界にいました」


 彼女の回答に赤竜王他、三人の男達も目を見開きつつ首を傾げた。まあ、当然の反応だ。言っている本人ですら首を傾げたいのだから。

 私だって、未だに信じられない。だって、座敷の襖開けて気を失って気付いたら異世界、何故。と問いたいのはこちらの方だ。


「――また珍妙な・・・扉を開けたらとは。アーノルドと会ったのはキートンという町だそうだな。初めからそこにおったのか?」


「いえ、私が異世界に来てしまった時初めにいた場所はアルスの森という所です」


 私の言葉に赤竜王、アーノルド、クラウスは又もや目を見開いた。只一人、イグネイシャスだけ表情に変化が見られなかった。


「何と、あのアルスの森とはっ!あそこはこの大陸の中で最も魔物の生息数が多く、また凶暴な奴も多い。よく無事生き存えたな」


 赤竜王の言葉に、私は頷いた。


「確かに、私一人なら一晩で食い殺されていたかもしれません。でも、この子。グレンに助けてもらいました」


 鈴蘭は右足に寄り添う小さな獣に柔らかい視線を送った。


「其方の足元におるその珍獣か?」


 赤竜王の発言に、鈴蘭は少しの怒りを覚えた。


「珍獣じゃありません。グレンです」


 流石に赤竜王に対して怒りを露わにしては不味いので、笑顔でそう返すと逆に通じてしまったのか、赤竜王は瞠目した。


「ああ、済まなんだ。グレンだな。しかし、そのような姿形の魔物は初めて見る」


 奇妙な物を見つめるように、赤竜王はまじまじとグレンを見つめる。

 私は何となく、胸を反らせて言った。


「今のグレンは節約モードなんです。元の姿はとっても大きいんですよ。格好良いです」


「ほう、今は魔力を抑えた姿というわけか。少し元の姿に戻ってはもらえぬか?」


 赤竜王の申し出に、私はそれは彼次第です。と返し、足元に視線をやる。


「グレン、元の姿に戻ってほしいんだって」


 首を傾げて問う私をちらりと見て小さく嘆息すると、グレンは身体から紅の炎を放つ。その炎は範囲を広げ、徐々に形を成していく。現われたのは、身体を灼熱の炎で覆ったファイヤーウルフだった。

 目の前に突如現れた存在に、赤竜王他二名は驚愕の表情をする。


「何とっ・・・!?」


「――そんな馬鹿なっ!?」


 赤竜王とアーノルドが声を漏らし、クラウスが瞠目する中、イグネイシャスは眉間に力を入れた。

 ――やはり、アイツか・・・


「これは驚いた・・・まさか、あのファイヤーウルフだったとは・・・余も長く生きてきたが、目にしたのは一度か二度程。このように間近で見たのは初めてである。そもそもファイヤーウルフは誇り高く且つ凶暴。仲間同士ですら馴れ合わない。そんな彼とよく打ち解けられたものよ」


 ファイヤーウルフ本来の性質を初めて知った鈴蘭は一瞬目を見張ったが、直ぐにくしゃりと苦笑いをした。


「私も初めは驚いたし怖かったです。でもグレンが話しかけてくれて、実はとっても優しい子なんだって分かったら、仲良くなれて今では大切なお友達です」


「話しかけるとは・・・?」


 鈴蘭の不思議な発言に、赤竜王並びにクラウス、イグネイシャスも訝しんだ。そんな彼らに話を始めたのはアーノルドだった。


「陛下、どうやらスズランは人外と会話が出来るようです。私と出会った時は、乗り手を失い暴れ狂う竜を鎮めました。その時確かに竜に言葉で語りかけているのをこの目で見ました」


「ほう・・・暴れる竜を鎮めるか。それは素晴らしい」


 赤竜王は驚愕した後、賞賛の言葉を鈴蘭に贈った。


「ええ、彼女があの場にいなければおそらく、多くの犠牲が出ていた事でしょう。我々とキートンの町はスズランによって救われました」


 アーノルドの強面で精悍な顔に爽やかな笑みが浮かぶ。諸そんな表情を向けられた鈴蘭は目がチカチカした。

 ――ギャップって怖いわ。この人、怒るとこちらが死にたくなるほど怖いんだろうけど、微笑んでも破壊力は抜群だ、きっと。わりと男への意識が薄い私ですらつい、見入ってしまうのだからこの世界の女性達は卒倒間違い無しだ、うん。


 私がアーノルドを見て「うんうん」と頷いている光景を、イグネイシャスは何処か苛立たしげに眺めていた。


「うむ、どうやらスズランには随分助けてもらったようだな。褒美・・・礼として土地と家、当分の資金も与えよう。その他に何か願いはあるか?」


 私は目ん玉をぽろっと落としそうになり、つい瞼を手で押さえてしまった。そりゃ驚くよ。

 何言ってるんだこのおじさんは。そんなホイホイ土地や家をあげちゃっていいわけ?私、ただ竜と話しただけだよ?これが偉業を成したとは到底思えない。汗水流して働いてもいない奴がそんなご褒美貰えませんよ。


「い・・・いえ、そんな大した事もしていないのにそこまで凄過ぎる褒美は頂けません」


 というか、そんな至れり尽くせりな礼は受け取るのがかえって怖い。恐縮して断れば、赤竜王が眉根を下げる。


「しかし、住む場所はおろか手持ちは一銭もなのだろう?それでは生きては行けまい」


 確かに、彼の言うとおりだ。今の私はこの城を出たら住む場所も金も無い。だが、他人の優しさに甘えてばかりではいけない。自立をしなければ。その為には職を探す必要がある。

 現段階ではもとの世界に戻れるかは不明。というか、どうせもとの世界に戻っても一人。あちらでアルバイト先を探すつもりだったから予定を変更してこちらで職を探せばいい。どの道一人で生きていかなければならないのだ。

 

 因みに、私は既に就職先を決めている。

 そう、こちらの世界でしか出来ない仕事。長年憧れた、私の夢。


 私は漆黒のやや大きめな瞳で赤竜王の威厳ある群青の双眸を見据えた。


「――やはり、褒美は要りません。ですが私の願いを一つ、聞いて頂きたいのです」


「良かろう、で?何が望だ」


 真摯な瞳で見つめ返してくる赤竜王に、鈴蘭は深呼吸して言葉を発した。


「私を、騎士団に入れて頂きたいのです」


 鈴蘭の決意に満ちた声音が響く。

 床に大理石の敷き詰められた広い間に、静寂が訪れた。





 

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