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とてもささやかな苦しみを

 死ねばいいのに。


 消えちゃえばいいのに。


 凄く痛くて苦しい思いをして、誰の記憶からも消えちゃえばいいのに。



 


 こういうことを言っちゃダメとマスターは言う。

 玻璃わたしの言葉は呪詛げんじつになるからって。


 瑠璃が「大丈夫」とか「なんとかなる」とかそう言うと本当にそうなって、私が「死んじゃえ」とか「苦しめばいいのに」って言うとそうなる。

 

 言葉には力があるの。

 でも、マスターとか、スペード・J・Aとかには通用しない。

 多分、元の力のバランスの問題なんだと思う。




「ねぇ、アラストル」

「ん?」

「不幸なことって何?」

 偶然噴水前で会ったアラストルに訊いてみる。

 私の言葉は不幸なことにしか使えない。

 だから「生き返って」とか「会いたい」とか願っても使えない。

「お前、ほんっと、不吉と縁が深い奴だな」

「別に。アラストルなんかルシファーに思いっきり葡萄酒掛けられれば良いんだ。樽ごと」

「おい……お前……今俺を呪っただろ!!」

「別に」

 きっと今夜アラストルの部屋に行ったら葡萄酒臭くなってるんだ。

「お前、俺に怨みでもあるのか?」

「別に。三十路に何を言われても関係ないわ」

「三十路言うな。ガキ」

「で? 不幸なこと、何か無いの?」

「……先に聞いておく。標的は?」

「ウラーノ・ナルチーゾ」

「げっ……伯爵じゃねぇかよ」

「昨日、私が朔夜の膝を独占できる日だったのに、あの人が来たから、ずっと朔夜忙しくて膝枕してもらえなかった」

「そーかー。そんなことでいちいち怨まれたら伯爵も身体がもたねぇだろ」

 アラストルは呆れたようにい言う。

「ウラーノ・ナルチーゾなんて禿げれば良いんだ。あのうっとおしい金髪、綺麗さっぱり消えれば良い」

「……陰湿だな。ってか、それって成立するのか?」

「無理だと思う。スペード・J・Aの呪いであの頭髪は護られているから」

「……そうか」

 本当に、前に三日間金貨大に禿ろって念じたのに全く通じなかった。

「もう少し些細なことを積み重ねて精神的に追い詰めるとか?」

「些細なこと?」

「毎日の食事に嫌いなものしか出てこない、とか、出勤したら誰もいない、とか」

「それ、アラストルだけ……あ……そうだ。ウラーノ・ナルチーゾの晩御飯、毎日人参になれば良い」

「人参?」

「うん」

「……お前、人参嫌いなのか?」

「別に。でも人型の、そのまま食卓に上がった時のウラーノ・ナルチーゾを見てみたい」

 そうだ良い事思いついた。

「ウラーノ・ナルチーゾが女王陛下に会うときに両方の靴下の柄が違ったら良い。さらに靴も間違えて履いていたら良いのに」

「……陰湿だろ」

 もう少しでかいことしろとアラストルは言うけれど、どうでもいい。

 ウラーノ・ナルチーゾのナルチーゾな性格を利用すればいいんだ。

「帰る」

「お、おい……」

 アラストルを残してさっさとアジトに戻る。


 また、あのうっとおしい金髪が居た。



「やあ、玻璃」

「……ウラーノ・ナルチーゾなんて、マスターにダーツボードの代わりにされればいいのに」

 そう、ウラーノ・ナルチーゾに言えば一瞬固まる。

「玻璃、それは私に死ねと言っているのかな?」

「死ねとか汚い言葉使っちゃダメってマスターいつも言ってる。どうせ言うなら「くたばれ」って言うから安心して」

「そっちの方が汚いと思うのだけどねぇ」

 呆れたようなウラーノ・ナルチーゾ。

 それと同時に、マスターが戻ってきたようだから、慌てて部屋に戻る。


「ウラーノ・ナルチーゾなんて悪魔に攫われれば良いのに」


 どうやって不幸をあげようか。

 そう考えるだけ。

 考えるだけのその時間が楽しい。

 だって、結局あの化け物には私の呪詛は利かないもの。

 私の呪詛が通じるのはアラストルみたいな人間が相手のときだけ。

 

 今頃葡萄酒まみれになっているだろうアラストルを思い浮かべると、からかいに行きたくなって、こっそりとアジトを飛び出すことにした。 

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