あなたの心を切り取って
「また来たの?」
呆れた人。
女なんか興味ないくせに、この男は毎夜のようにここに来る。
「金は払っている。文句を言われる理由がありませんよ」
本当に、この男の頭の中を覗いてみたい。
「それこそ無駄遣いって奴だ」
この男ほど金があれば私はこんな場所にはいない。
祖国の家族のもとに帰って不自由なく生活できる。
けれど、この男はありすぎる金を弄んでいる。
「私にはアンタが理解できないよ」
「理解されたいとは思いません」
そう言って、男は私を押し倒し、ただ、枕のように扱う。
「……私はヴィオーラ伯のウサギじゃないんだよ」
幼い子供の象徴。幼い伯爵のウサギの人形。自分を護るための物。執着の対象。
「何です? この僕が子供だとでも」
「ああ、その通りさ。私はアンタの母親でも安心人形でもない」
そう、娼婦と客。この男とはそう言った関係のはずだ。
なのに。
この男は大金を積んで私を買い、ただ、人形のように扱う。
この男は眠るためにこの空間を買うのだ。
「嫌な男」
「黙りなさい」
「アンタ、恋人いないわけ?」
「必要ありません」
「恋人でなくてもいいわ。早く嫁でも貰ったら?」
こういうのは私の役目じゃない。
分かっている。
「必要ありません。何故貴女にそんなことを言われなくてはいけないのです?」
不満そうに言って、男は目を閉じる。
「さぁね」
大嫌い。
こんな男。
「ただ、アンタの目に私が映っていないって事は、つまり私にとって屈辱ってことだよ」
そう、娼婦への侮辱。
そうとしか思えない。
「アンタ、最低だ」
「良い響きです」
男はそれだけ言って眠り始める。
今日もこの男は大金を積んで安眠を買うのだ。
「全く、憎たらしい憐れな男だね」
本当に、心の中を見てみたい。
けれども、それは誰にも許されないことだ。