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砕け散ってしまった



 硬い。

 夜にはまだ柔らかくてふわふわしていたのに、硬い。

 昨日はもっと温かかったのに、冷たくなっていく。


「ジャスパー、大変!」

 思わず叫んでジャスパーを呼ぶ。

「どうしました?」

 慌てる様子は無いけれど、ジャスパーはすぐに部屋に入ってきた。

「冷たくなってきた」

「え?」

 ジャスパーは驚いて私を見る。

 そして、視線はだんだんと下へ。

 私の手のほうを見る。

「また、ですか?」

「……うん」

「……ですから、一緒に寝てはいけないとあれほど……」

 ジャスパーは深い溜息を吐く。

「また、玻璃が猫を殺しましたか?」

 呆れたようにマスターが入ってくる。

「ええ」

「今度はどんな名前でした?」

「ぽち33号」

「……三十三匹目?」

「いえ、五十二匹目です」

 二人とももう慣れたといわんばかりにただ呆れた顔で、猫の死などなんとも思わないようだ。

「玻璃、寝ぼけて呪詛をばら撒くのですから猫と寝てはいけないといつも言っているでしょう?」

「人間は殺さなくなったから大丈夫かなって」

「……人間は逃げたり正当防衛を取るので、大丈夫なのでしょうが、猫にはソレができませんからねぇ」

 マスターはただ、困ったように笑う。

「よく、朔夜は貴女と暮らして生き延びれたと感心しますよ」

「瑠璃を盾にすることを忘れなかったからね。朔夜は」

 瑠璃は私の呪詛が全く効かないから盾には有効だと思う。

 猫も瑠璃を盾にしてくれればいいのに。

「みんな先に逝っちゃう。私を置いていくの」

「玻璃がこっそり寝床に連れて行かなければこの猫はもう少し長生きできました」

 マスターはそれ以上何も言わない。

「玻璃様、動物は我々と比べて繊細です。扱いには気をつけて下さい」

「……うん」

「好きなのは分かります。離れがたいのも理解できます。ですが、そろそろ我慢というものを覚えて下さい」

「……ごめんなさい」

 どうしてこんなに弱いの?

 どうしてこんなに脆いの?

「ジャスパー」

「はい?」

「ジャスパーは脆くないよね?」

「ええ、私は既に……いえ、玻璃様に拾われた身ですから」

 ジャスパーが柔らかく笑う。

 強くて丈夫で私を置いていかないものが欲しい。

 壊したくても壊せなくて、ううん。壊すより護りたいものが欲しい。

「ジャスパー」

「はい」

「この子にお墓作ってあげないと」

「ああ、そうでしたね。また、庭に?」

「うん。あそこなら朔夜もお花をくれるから」

 脆い。儚い。弱い。

 命ってそういうもの?

 私だけが残されていくの?

 一人は嫌。怖い。

 けど、今は。

 この子が居る。

「ねぇ」

「はい」

「呼ばれるの」

「え?」

「黄泉の声に。亡者たちが私を呼ぶの。暗くて寂しくて苦しいって。たくさん居るのに満たされないんだって」

 今の私と一緒だ。

「申し訳ございません。俺には黄泉はわかりません。俺は黄泉に拒絶された身なので」

 そう、ジャスパーは不死身。ううん。死に嫌われた人間。

 死神のブラックリストに載るなんて凄い変な子。

「ジャスパーはずっと私の傍に居てくれる?」

「勿論です。玻璃様が俺を不要と言うまでは絶対」

「うん。約束」

 

 猫は人形のようにぴくりとも動かない。

 硬くて冷たい。

 人形みたいな私と違う。

 動かなくて冷たいのに、ふわふわした毛が妙につややかで、息を吹きかければ動き出しそうで。

 死んでいるくせに私より生き生きしているように思えた。

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