焼け付くような
私は昔から写真が好きだった。
一番良い位置で、誰よりも目立ちたかった。
私は、いつか大女優になってハリウッドで活躍する、はずだった。
「薫」
「何? 望姉さん」
「なんでアタシ、ここにいるのかしら?」
「そりゃ、姉さんがお椀一杯の塩入れた湯船に潜って108数えたから、でしょ?」
「ねー、あれってさ、悪い夢見ないお呪いだって聞いたんだけど」
ひりひりして痛かったけどと言えば薫は呆れた顔で私を見る。
「望姉さんってさ、呪いとかそーゆーの嫌いじゃなかったっけ?」
「迷信とか? 嫌いって言えば嫌いだけど、なーんかやってみたくなるんだよね。なんか、こう、好奇心を刺激されるって言うか」
アンテナ高くなきゃ芸術家にはなれないんだい! 叫んでも薫の反応は薄い。
「あんたって可愛くないよね」
「ありがとー。うれしーな」
「褒めてないって。あんた、アンテナ低そうだし」
「うっさい。私は望姉さんと違ってサイボーグじゃないからアンテナ無いの」
「誰がサイボーグだこら」
軽く小突けばコンっと良い音が鳴る。
「何をしているんですか?」
不機嫌そうに屋敷の主が起き上がる。
そう、我々は主様の部屋で寝顔を眺めながらこの下らないやり取りをしていたのだ。
「不機嫌そうだね、ご主人様」
「うるさい……僕はまだ眠い」
「どうぞお休みなさいませ。じゃ、あたしそろそろ戻るわ」
「ね、何しに来たの?」
呆れ顔の薫。
そりゃ決まってるじゃない。
「あんたのその顔見に来たのよ」
なんてね。
知り合いが少なくて寂しいの。
みんなばらばらなんだから。
薫はこの屋敷のに、宙は赤毛の彼の家に、武は銀の彼の家に。
そう広くも無く狭くも無い王都の端に薫は居て、あとの二人は大聖堂付近だ。
そういう私は王宮付近。
会いたいと思えば会えるけれど、偶然会う確率はそう高くは無い。
だからこそ、こうやって目に焼き付けたい。
「望姉さん、寂しいの?」
「え?」
「あ、いや、なんかそう思っただけ」
「別に。私には私のご主人様が居るから寂しくはないよ」
首輪つきなの。私。
そう言うと薫は微かに笑った。
「似合いすぎ」
「そりゃどうも」
「褒めてないよ」
中華風の広い屋敷を出れば、猫が居る。
まーおと鳴く猫は随分と凛々しく見えるものだ。
「帰ろうか、満腹」
猫はめんどくさそうに返事して、私より先に歩き出す。
ああ、猫にまで裏切られるのか。
そう思うと少しばかり寂しかった。