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たった一つ、遺されたもの



 噂には聞いていたがまさか自分がそれを目にするとは思わなかった。


 - 自分探しの旅に出ます。探さないで下さい -


 一瞬夢だと思った。

 それ以前にくだらない冗談かと。

 が、部屋を見ればいない。


「アンバー、あの馬鹿娘を連れ戻してきなさい」

「は、はいっ」

 うちの馬鹿娘。瑠璃は典型的な家出をしてくれた。

 いや、本当に馬鹿でしょう。

 何が自分探しの旅だ。

 ありえない。

 人生は常に路頭に迷う勢いでしょうに。

 本当に馬鹿娘だ。

「玻璃」

「何?」

「あの馬鹿娘を見ませんでしたか?」

「馬鹿娘?」

 玻璃は不思議そうに首を傾げる。

「瑠璃です。瑠璃。あの馬鹿娘はこの大掃除を放り出してどこに行ったのだか」

 ああ、苛々する。

 朔夜も玻璃もいい子だから積極的に手伝ってくれているというのに。

 まぁ、玻璃は本体ではなく呪詛が床掃除をしているので家の中が常に危険に晒されているのだが。

 正直この子は遊んでいてくれた方が助かるがまぁ、手伝うという気持ちがあるだけ良い。

「死んでないから平気」

 玻璃の答えは簡潔だ。

 どういうわけか二人は謎の電波で繋がっているらしく、命の危機が分かるらしい。

 瑠璃曰く「愛の力」らしいが疑わしい。

「玻璃、掃除はいいので瑠璃を連れ戻してください」

「嫌。朔夜のお手伝いしたい」

「……瑠璃を連れ戻すことが最大のお手伝いです」

 祭りの買出しに行かせようと思ったのにどこで遊んでいるのやら。

 都合が悪くなると直ぐに姿を消す。

「マスター、すみません、手伝ってください」

「どうしました?」

「ジャスパーに屋根裏の掃除を頼んでしまったので、棚の上に届く人が居ないの」

「……それは僕に対する挑戦ですか?」

 僕と朔夜はさほど身長が変わらない。

 あの子は育ちすぎてしまった。

「マスターなら、届かなくても拭く方法があると思ったのだけど、無理かしら?」

「僕はそこまで化け物ではないつもりです」

 踏み台は少し前に瑠璃が暴れて壊してしまった。

「ジャスパー待ちですね」

「仕方ないわ。待ちましょう。それより新年のお祭りなんだから、少し良いお酒も用意しましょうか?」

「是非」

 朔夜は気が利く。

 何故この朔夜に育てられた瑠璃はあんな風に育ってしまったのだろう。

「お料理は何が良いかしら?」

「玻璃の好物を用意してあげてください」

「ええ」

「瑠璃には何も用意しなくて良いです。あの馬鹿娘は」

「マスター、落ち着いてください。瑠璃ちゃんはいつものことでしょう?」

 駄目だ。

 朔夜は慣れすぎて問題視していない。

「僕だってただいなくなるだけなら何も文句は言いません。いつものことですから。ですが、あのふざけた書置きは何ですか!」

 思わず大声を出してしまった。

「仕方ないでしょう。マスター。あの人はそう言う人なんですから」

 屋根裏掃除を終えたジャスパーが降りてくる。

「直ぐに玻璃様が連れ戻しますよ。ほら」

 彼の言葉と同時に、足元から呪詛が現れる。

「玻璃! こいつら何とかしろ!」

 見事に黒い頭に足や腕を噛まれた瑠璃がいる。

 これは、大丈夫なのだろうか?

「瑠璃にはこの呪詛は感染しないのでしょうか?」

「平気。直ぐ治すから」

 玻璃は冷静だ。

「朔夜のお手伝いになった?」

「え、ええ……でも、放してあげて?」

 朔夜も驚いているらしくいつもより反応が鈍い。

「アンバーは?」

「チーズを買いに行ってもらったの。お祭りでしょう? いつもより美味しいの」

 玻璃は祭りを美味しいものが食べられる日くらいにしか思っていないのかもしれない。

 が、買出しの手間が省けた。

「ありがとうございます。では、戻った瑠璃には説教をするとして、玻璃、花を買ってきてくれますか?」

「うん」

 玻璃は家の中に置いてはいけない。掃除が終わるまで。

「朔夜、ジャスパー、掃除は頼みました。瑠璃、地下に来なさい。話があります」

 そう告げれば既に呪詛から立ち直っていた瑠璃の顔は青くなるがそんなことは知らない。

 悪い子には説教を。

 部下の、いや、娘の教育は徹底しなくてはいけない。

 おそらく今までが甘すぎたのだ。

「瑠璃、これからは僕も心を鬼にして徹底的に躾けるよう努力します」

「いい! もういい! アンタ最初っから鬼だから!」

「ほぅ、僕は鬼ですか。では、地獄を見せてあげましょう」



 地下でどのくらい二人で過ごしたかは分からないが、居間に戻った頃には月が昇っていた。

 瑠璃だけではなく、何故か朔夜とジャスパーまで顔が青かったことが不思議でならなかった。

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