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夕暮れの墓場に一人佇む



「「あ」」


 声を発したのは二人同時だった。

 まさかこんなところで会うとは思わなかった。


「墓参りか?」

「うん」

 俺が用のあった墓には既に紫の薔薇が添えられている。

 玻璃の仕業だ。

「シルバ、か?」

「うん」

 でも、これで最後と玻璃は言う。

「最後?」

「うん。もうここには来ない」

「何故だ?」

「だって、ここにシルバは居ないもん」

 地獄に居るのと何時だか玻璃が言っていたのを思い出す。

「地獄に行ったらあえるから、ここに来なくてもいいの」

「ほぅ」

 地獄というのが嫌な響きだ。

 そういえば、冥府、黄泉とか言う冥界を、玻璃の居るディアーナの連中は忌み嫌う。

「私は女神様の所にはいけないから、きっと地獄に行くの」

「そうか」

「うん」

「リリアンは、どうだろうな」

 思わず口に出してしまった。

「リリアンはいい子だった?」

「ああ。たまに悪戯はしたが、まぁ、いい子だったな。この国じゃ珍しい。一人も殺さずに死んでいったよ」

「ふぅん。じゃあ、きっとカンガルーか何かに生まれ変わる」

「は?」

「うん。カンガルーがいいな。ぴょんぴょん跳んでカッコいい」

 お前は人の妹を何だと思ってるんだよと言いたいが、玻璃自身、本気でカッコいいとか、自分が生まれ変わったらそれになりたいとか考えているだろうから無駄だ。

「俺はどうだろうな?」

「死んだ後?」

「ああ」

「心配なの?」

「まぁ、そうなるか?」

 不安がないと言えば嘘だ。

 死んだ後のことなんて分からない。

 死んだら停止して土に還る。そうかもしれない。

 そこで思考もぷっつり切れて何も無かったことになるかもしれない。

 けれども、死んだ後にもしそう言った迷信的な世界があるなら俺はどうなるのだろう?

 死んでみなければ分からない。

「だったら連れて行ってあげる」

「は?」

「一緒に地獄に連れて行ってあげる」

「地獄かよ」

「二人一緒なら怖くない、でしょ?」

 子供っぽい考えだ。

 けれども、なんとも玻璃らしい。

「んじゃあ、玻璃、俺より長生きするなよ」

「え?」

「じゃなきゃお前が死ぬまで待たなきゃいけねぇだろ」

「ああ、じゃあ、アラストルが死んだら私も死んであげる」

 発想が子供だ。

 純粋で愚か。

 けれども、少しばかり嬉しくも思う。

「ばーか、死ぬなよ。生きろ。お前はひたすら生きろ。リリアンの分も」

「じゃあ、アラストルも生きなきゃ」

 玻璃は笑う。

 本当に、近頃は良く笑うようになった。

「あ、行かなきゃ」

「ん?」

「仕事。今日ね、壁におっきな絵を描くの」

 玻璃は嬉しそうに言う。

「何を描くんだ?」

「龍。おっきな龍。一度描いてみたかったの」

 本当に嬉しそうだ。

 俺は龍を見たことが無いが、もしかすると玻璃は見たのかもしれない。

「どこの壁だ?」

「王都の外れの森羅風のお屋敷」

「ほぅ」

 聞かなきゃよかった。

 もしかしなくても嫌な予感がする。

「依頼主はその屋敷の主か?」

「ううん。代理人」

「そうか。まぁ頑張れよ」

「うん。じゃあ、またね」

 玻璃は急いで走る。

 転ばないかなんて心配をする必要はない。

「シルバはここに居ない、か。無駄足だったな」

 玻璃のことは俺に任せてくれ、と頼むつもりだったが、もう、それは叶わないらしい。

「妹を手放したくないのはみんな一緒かぁ?」

 あいつにとって玻璃は妹のような存在だったのだろう。

 だったら考えることは同じはずだ。


 お前なんかに渡したくない。


 俺も同じ気持ちだよ。

 そう、告げたくても言う相手が居ない。

 二つ目の太陽が沈む。

 帰るか。

 そう思った瞬間、白い花が目に留まる。

 俺と玻璃の他にも誰かがここを訪れているのだ。

 大きく、それでも上品な白い花と、まだつぼみの小さな花。

 二種類の花束が添えられている。

 ここに来た誰かはシルバだけではなくリリアンにまで花を持ってきた。

 一体誰だ?

 辺りを見回しても姿は無い。

「誰だか知らねぇけどありがとな」

 言わずには居られなかった。

 

 一瞬、木の陰から赤毛が見えた気がしたけれど、直ぐに見えなくなる。

 

 ただ、誰かがそこに居たことだけは確かだった。

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