傷つけて、傷ついて
僕は生まれつき欠陥品だったのかもしれない。
欲すれば欲するほど、愛すれば愛するほどに壊したくなる。
「……もう、終わりですか?」
床で赤く染まっていく彼女に声を掛ける。
ヒューっと呼吸する音がするだけで、彼女は何も答えない。
「ずっと僕の傍にいてくれるのではなかったのですか?」
普通の人間なら、こういったときにどんな反応をするのだろう。
もしかしたら泣くのかもしれないし、怒るのかもしれない。
醜く縋るのかもしれない。
けれども僕は何も感じない。
ただ、彼女を見据えて、終わりを待っている。
「死ぬのですか?」
怯えたような目が僕を見る。
けれども、彼女は何も言わず、ただ呼吸するだけ。
そうして赤く染まっていく。
「答えたくないのですか? それとも、答えられないのですか?」
分からない。
その感覚が理解できない。
僕は決して死ぬことのない化け物。けれども彼女は普通の人間だった。
「もう、聞こえていないのですか?」
その問いにさえ、返事は無く、弱りきった呼吸音が止まる。
「サラス?」
そっと彼女に近づいて、胸元に耳をあて心音を確認する。
音は無い。
さっきまでの苦しそうな呼吸音も、聞こえるはずの心音も何も無い。
ただ、赤が広がって、僕自身もその色に染まりつつある。
「終わり、ですね」
やはり僕は欠陥品だ。
人間と言うのは、大切なものが傷ついたり弱ったりしたら悲しんだり怒ったりするようだけれども、僕にはそれが無い。
「理解できませんでした。貴女を失っても」
愛していたはずだ。彼女を。
将来を誓い合ったはずの女性。
けれども僕は壊したかった。
愛しいはずの彼女を。
壊せば理解できるはずだった。
けれども。
「何もありません。もう、何も」
全て終わってしまった。
退屈しのぎの夢も、未来も。
そうして、僕には再び退屈が訪れるだけだ。