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刻まれた痛み

 罪人を奴に受け渡す時、ほんの一瞬とは言え緊張する。

 私は奴を畏れているのかもしれない。


「ウリエル」

「ああ」

「あとは貴様に任せるのだったな」

「ああ、任せろ。皮剥ぎだったな」

「ああ」

 妙な男だ。処刑が決まれば生き生きとする。 

 この男は殺しと拷問を何よりも好む。 

 気味が悪い。

「罪状は何だったろうか?」

「……おい、それを忘れて刑を決めたのではなかろうな?」

「刑など全員死刑だ。方法は私のその日の気分で決まる」

「陛下のご意思は?」

 其処が最優先だろうが。

「陛下は常に「首を刎ねよ」の一言だ。痛めつけた後に首を刎ねれば陛下はそれで満足なさる。私も満足だ」

 これ以上良いことは無いといわんばかりの態度に溜息が出る。

「まぁいい。貴様には期待していない」

「ああ、私に人間的な何かを期待するのは間違っている。同期のお前が良く知っているだろうよ」

 ウリエルは浅黒い腕に刻まれた刺青を見る。

 罪人の証。

 罪人であるこの男は罪人を裁く。

 おかしな話だ。

「そう言えば、私はその刺青の意味を知らん。どういう意味があるんだ?」

「これか?」

 おかしそうにウリエルは翼のようなその紋を見せる。

「これは、陛下の暗殺を企てた者に刻まれる。暗殺を企て、失敗し、陛下に情けを掛けられた証だ」

「は?」

 まさか。

 ありえん。

 陛下のお傍には常にラファエラが居るのだから。

「私は陛下がお小さい頃、まだ、先王の時代に陛下の暗殺を企てた」

「まさか」

「いや、事実だ。だが、殺せなかった。あの方の目を見たら、失くした妹を思い出した」

 そういえば、幾分前に妹の墓参りがどうこうと言っていたのを思い出す。

 尤も、この男がそんなことを気にしているということに驚いただけであまり感想は持たなかったが。

「これはな、私の忠誠の証だ」

「刺青が?」

「ああ、陛下を裏切れない。陛下を裏切れば私は死ぬ。そう言う呪いだよ。刺青と共に身体に刻まれる」

 だからこそ理不尽なことにも従わなければならないとウリエルは言う。

「私は陛下と共に朽ちる。だから陛下を護る。罪人どもを見せしめにし、罪を犯すものを減らすのもそのためだ」

 いや、残虐な処刑は貴様の趣味だろう。

 そう言いたいが、自分に酔っている状態のこの男にそんなことを言っても無駄なのは分かっている。

「今となっては陛下は私の全てだ」

「それは騎士団全体に言えることだ。陛下の為に尽くすのが我々、そうであろう?」

「まぁな」

 

 いつからかは既に思い出せない。

 ただ、最早我々の全ては陛下のためだけに奉げられる。

「ああ、そうだ。カァーネ」

「何だ?」

「陛下が帽子を所望だ」

「職人に作らせるのだろう?」

「いや、前にラファエラが被っていたお前の手製の物と色違いが欲しいと先程おっしゃっていたぞ」

「……色違い……陛下はラファエラをご自分の姉か母のようにお思いなのか?」

「さぁな。ただ、あの上に付いた丸い飾りを随分気にしていらっしゃった。あの飾りが欲しいのではないか?」

 どうやら嫌がらせのつもりで作ったアレを陛下はお気に召されたらしい。

 困ったものだ。

「貴様が作ればよかろう。貴様が」

 どうせ同じ試験で通っている。

 やって出来ないことは無かろうに。

「生憎編み物は不得手だ。私はどちらかというと刺繍の方が得意でな」

「そうか」

 そういえば前に地図という大作を作って会議室に飾っていたか。

 気の長い男だ。

「どうせ暇なのだろう?」

「貴様と違って私は忙しい。罪人どもを見張っていなければいけない」

「そうか、私は暇だ。もう少し位話し相手になってくれ」

「……部下はどうした、部下は」

「奴らは仕事の時以外私と口を利きたくないらしい」

「私だって嫌だ」

 そう、この男とはあまり会話をしたくない。

「私の仕事は少ないからな」

「ならこっちを手伝え」

「まぁ、それも悪くは無い」

 ウリエルは呑気に言う。

 掴めない。

 やはり私はこのウリエル・アスピデという男を畏れているらしい。


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