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希望と絶望の境目
異界へ旅するということは誰もが一度は夢を見、誰もが一度は怯えることだろう。
「……ほんっと、見た目だけなら日本人なのに」
目の前の黒髪の少女は真っ赤な瞳でただ見つめてくる。
時々何かを歌うけれどもそれが何を言いたいのか全く分からない。
この少女からは感情を読めない。ただ、規則的な音階。旋律。
「君、どこから来たの?」
訊ねても返事は無い。
ただ、不思議そうに首を傾げられる。
「ここはどこなんだ?」
訊ねても訊ねても返事は無く、いや、返事をしてくれてはいるのだろう。
歌が聞こえ、そうして首を傾げられる。
人に会えた時は少しだけ安心した。
歳の近い少女。外見も日本人っぽい。
そして何より俺に武器を構えなかった。
けれども、少女の口から零れたのは日本語ではなく、知らない言葉の知らない歌。
そう、この世界の人間は歌を言葉にしている。
「音楽って人を元気にするものだってあの音楽教師は言ってたけどなぁ……」
あれは絶対嘘だ。
音楽は俺に絶望しか与えてくれなかった。