君の純粋さ、それは何よりも
この子は鬼子とされていたのだろうか。
鬼子、その表現は遠い海の向こう。この子の生まれ故郷の表現だ。
一心不乱に標的を切り刻む姿はまさに悪魔。
鬼はその同義語と聞く。
この子は悪魔。つまり鬼なのだろう。
「玻璃、もうそのくらいで良いよ」
「うん」
返り血を浴びた私の妹分。
血に染まるその姿は恐ろしくも美しい。
私はこの子に畏れを感じる。
「マスター、褒めてくれるかな?」
「ああ、きっと。玻璃は優秀だからね。俺も負けてられないな」
初仕事の時から思ったが、この子がいると俺の出番なんて殆ど無い。
たまに援護が要ることがあるくらいで、標的までの案内と脱出の指示。それ以外の主に殺しに関する部分はこのこの方が優秀なくらいだ。
「あれ? ナイフ新しくなった?」
「うん。この前の報酬でね、マスターと一緒に選びに行ったの。前のより投げやすいの」
投げやすいナイフで突き刺して殺すとは、この子の戦闘能力が恐ろしい。
投げナイフの殺傷能力は低いはずなのにもかかわらず、この子は的確に急所を突く。
教えたわけではない。
本能で嗅ぎ取っている。
「玻璃は凄いな。もうマスターに武器を選んでもらえるのか」
「え?」
「下っ端のぺーぺーはとりあえず兄貴分に武器を選んでもらって、それから自分で使いやすいのを探していくんだよ。マスターに選んでもらえるってことはすごい期待されてるって証だ」
玻璃の頭を撫でてやれば気持ちよさそうに目を細める。
「本当? マスターの役に立てる?」
「ああ、もう、すごく役に立ってるよ」
この子はマスターが拾ってきた子供。
期待されている。
生き残っている。
それ故に、盲信している。
この子にとってあの赤い死神こそが全てなんだ。
「ハデスの下っ端見つけたら殺せってマスター言ってたけど、何人殺せば喜んでくれるかな?」
無邪気に笑いながら玻璃が言う。
「そうだね、二、三人で十分じゃないかな?」
あまりむやみに殺させては情報を入手できなくなる。
下っ端は口が軽い。
重要な情報は持っていないけど、微かな情報でも欲しいのは事実だ。
「それより、今日は朔夜がタルト作るって張り切ってたよ。急いで帰らないと全部瑠璃の胃袋に納まる」
「ダメ! 早く帰らないと」
「じゃあ、競争だ」
無邪気な子供。
必死になって走ろうとする姿は滑稽だけども愛らしい。
純粋で、純粋だからこそ恐ろしい子供。
この子は鬼子だ。
悪魔の子だ。
呪われた子だ。
きっとこの子は世界を支配する。
マスターのように。
恐ろしい。
けれども誇らしい。
私が育てたこの子は、やがて恐怖の代名詞となる。
それが何よりも誇らしいと思うのだ。