痛みを伴う
出逢いとは必ず離別を伴うものであり、希望があれば絶望があり、喜びがあれば悲しみがあるのが世の常である。
「シルバ、見て。ちゃんと一人で殺せたよ」
血まみれの玻璃が嬉しそうに標的の首を抱きしめて掛けてくる。
これはこれで複雑な心境だ。
先輩として、師として、同僚としていや、全て暗殺者としての視点からすれば大変喜ばしいことであると同時にはしゃいで回りに見つかる恐れがあることを叱るべきだろう。
だが、身内として、彼女の兄代わりと言う奇妙な立場からすれば、大切な妹分に手を汚させたくないと言う妙な想いが生まれる。
「よくやったね」
迷った結果出た言葉と一緒に頭を撫でてやれば玻璃は嬉しそうに目を細める。
「汚いから捨てておいで。玻璃には似合わない。それに大きすぎる」
まだ八つの玻璃にしてみれば大人の男の生首は重かろうに、彼女は幸せそうにそれを抱えている。
「平気。マスターに見せなきゃ」
「いいよ。玻璃が頑張ったことは俺がマスターに言っておくから」
この幼い少女にあまり長くそう言ったものを持たせたくない。いや、玻璃がそんな穢れたものを持つ姿を見たくない。
けれどもこの子は将来とても優秀な暗殺者になるだろう。
ナイフの使い方はマスターに通じるものがある。
何より殺すことに対する躊躇いが無い。それが何より大きい。
「玻璃は凄いよ」
「本当?」
「ああ」
さっきの標的は誰かの親で誰かの息子で誰かの夫で誰かにとってはとても大切な相手だった。
けれども我々にとってはどうでもいい。全くの他人。
玻璃も私もあの男に怨みなんてちっとも無い。殺す理由は金。それと玻璃の場合は大人からの評価。
それ以外は何も無い。
けれどもあの男は殺される。自分が何故殺されるのかも分からないまま死んで行った。
それも幼い少女の手によって。
「玻璃は凄い」
もう一度言ってやれば本当に嬉しそうに笑う。
無邪気な子供。
何れこの子は死神と呼ばれるだろう。
かつてセシリオ・アゲロが赤い死神と呼ばれたように。そうして、この子こそが次の恐怖の代名詞になる。
そうして歴史が作られていく。
「銀の剣士が活躍できなくなりそうだ」
「え?」
「俺の出番が無いほど玻璃は頑張ってるってことだよ」
結局甘い。
あの他人の死なんて気にならないのは私も同じだ。
ただ、妹のような、娘のようなこの子が愛おしい。
そうして、いつまでもこの成長を見たいと思ってしまう。
たとえ、未来に私の居場所が無くとも、愛しい少女が死神になり、やがて恐怖そのものになるときを望むのだろう。