この手に委ねられた、君の命
油断しすぎだ。
俺の主は俺の目の前で眠っている。
きっとこの方は喉元にナイフがあっても起きない。
俺がこの人を殺さないことをこの人は良く知っている。
それだけじゃない。
生まれ持った呪詛が守っている。
恐ろしい方だ。
「玻璃様、食事の時間です」
一応声は掛けるけれど、眠ったまま。
いや、食事の世話をさせてくださるということは完全に俺を信頼してくださっている証だ。
もし、俺が毒を盛ればいくら玻璃様とは言え命を落とすこともあるだろう。
もっと悪くすれば死ねずにひたすら苦しむことになる。
それでも玻璃様は俺に全てを任せてくださっている。
肉料理を作ったときはいやそうな顔で俺の方に皿を押し付けることもあるけれど。
「玻璃様、本日のドルチェはティラミスですよ」
その言葉に僅かに耳を動かすいつまでも幼い主。
可愛い。
思わず撫でたい衝動に駆られるが、僕の身分でそんなことは許されまい。
「玻璃様、起きられないのでしたらドルチェは瑠璃様の胃袋に納まりますよ」
「ダメ!」
飛び起きた。
子供だ。
本当に。
「ドルチェは姉にも譲れないと?」
「むぅっ、だってジャスパーのドルチェは何食べても美味しいの」
完全に信頼した上での言葉。
もし、俺が毒を盛ったらこの人はどうするのだろう?
気付かずにそのまま食べてしまうだろうか?
それとも、気付いて尚、知らぬ不利をして食べるだろうか?
そう、結局この人は食べるだろう。
全てを受け入れてしまう。
「ジャスパー、ココアが欲しい」
「はい」
絶対的な信頼。
俺の不安なんて気にしない。
この人はそう言う人だ。
俺はこの方の命を預かっている。
この方の生きる源を管理している。
だからこそ。
俺は自信を持って言える。
この方をお守するのはこの俺、「ジャスパー」だと。