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触れられるものは棘しかなく


 それは革命だった。

 玻璃と二人飢えて凍えていた私達の頭を優しく撫でて、「大丈夫?」と言ったのは朔夜だった。

 朔夜はスリが上手かった。

 大人から金や食い物を取って私達に分けてくれた。

 大人は汚いものを見る目で私達を見たけれど、朔夜だけは違った。

 いや、今思うと朔夜もその汚いものに含まれていただけだ。


 二度目の革命はマスターだ。

 突然捕まえられて何事かと思ったら、「丁度いいですね」と謎の言葉と共に私達三人をいきなり今のアジトに押し込んで、それから丁度今私が使っている部屋に押し込んで鍵を掛けた。

 いや、今もその部屋を使わされている私はやっぱり部屋に戻りたくなくなる。

 けれどマスターはあの変な目で私達を見なかった。

 そりゃあいきなり水を掛けられたい「汚いから脱ぎなさい」と服を奪われたりと良く分からないというか今なら切りかかっているような理不尽なことも沢山されたけれどとりあえず食べ物と寝床は提供してくれた。

 まぁ、その後に殺しても気が済まないほどとんでもないことは沢山されたが。




「瑠璃ちゃん」

「んー?」

「セシリオが呼んでいるわ」

「へいへい」


 もう直ぐか。

 次席が決まる。

 まぁ誰になるかは予想できるが。

 マスターの、伝説の暗殺者の右腕が決まる。

 ずっと空席だったあの席が埋まる。


「誰が選ばれるのかしら?」

「私じゃないことだけは確かだよ」

「え? 僕は瑠璃様だと思います! だって一番足が速いのは瑠璃様です」

 アンバーは理解していないくせにそう言う。

 まぁ、悪気も策略も何も無いただの馬鹿だから仕方がない。

「お馬鹿さん、瑠璃様ではない。玻璃様こそがこの組織の頂点に立つにふさわしいに決まっているだろう」

「お前も馬鹿だよ。頂点に立つってことはマスターの地位を奪うってことだろ」

 ジャスパーは完全な玻璃信者。

 崇拝してる。

 こいつが今幹部に居る方が私は不思議だ。

「ってか玻璃は?」

「遊びに行っちゃったわ。こんな大事な日なのに」

「まぁあいつは話し合いとか寝てるからな。居てもいなくても事後報告だけで満足するだろ。ってかマスターがそもそも召集する気が無い」

「まぁね」

 でも、マスターの右腕は玻璃だろう。 

 あいつはマスターに次ぐ実力だ。

 補佐になるならあいつしか居ない。


 けれど。




 三度目の革命は鋭く刺さった。


「は? 朔夜?」

「ええ、まぁ、当然です。人を纏めることに慣れていますからね。朔夜は。何より僕の妻です。当然でしょう?」

 マスターはあっさりと言った。

 信じていた者を砕かれた。

「何故玻璃様ではないのですか!」

 ジャスパーが吼える。

「玻璃は、組織に縛られない方が伸びます。あの子は何れ死神の名を手にする」

 マスターは窓の外を見る。

「おや、噂をすれば、ですね」

「ただいま」

「お帰りなさい」

「朔夜おめでとう」

 玻璃はまるで最初から知っていたかのように朔夜を見る。

「玻璃、お前はそれでいいのか?」

「うん。だって今までと何も変わらないもの」

 玻璃は満足そうに言う。

 

 初めてだった。

 玻璃と私の意見がずれた。

 まるで片割れに突き放されたような気分だ。


「ジャスパー、お絵かきしよう」

「はい。玻璃様のお心のままに」


 ジャスパーは玻璃の信者で従順で馬鹿。

 アンバーは人懐っこく単純な馬鹿。

 系統こそ違えど似たような部下を持って、同じような鍛錬と仕事量だったはずなのにいつの間にか玻璃との距離が広がっている。

 何故だ?

 玻璃は私の片割れなのに。


 痛い。

 何かに刺されたみたい。

 けれどもそれは見えない。

 ただ、目の前に、いつもと変わらない賑やかな光景が広がっているだけだ。




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