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哀しいって、どんなものだった

「おかえりなさい」


 ありえない声がした。

 

 仕事を終え、家に戻ると何故かあの忌々しい女が飯の支度をしている。

「なんでてめぇが居る?」

 リリムはどこだ。

 何故この女がここに居る。

 理解できん。

「リリムは温泉旅行に行ってもらったの」

「は?」

 温泉旅行?

「たまには翅を伸ばさないといくら【壊れない】からって疲れるじゃない?」

 目の前の女は笑う。

「私が一日家事を代わってあげるからいってらっしゃいって言ったら、「ルシファー様には悪いけど、お言葉に甘えさせていただきます」って可愛く笑っていたわ。そう、お土産も買ってきてくれるって」

 目の前の女はくすくす笑いながら呑気に皿を並べている。

「何しに来た。朔夜」

「だから、リリムの代わりにルシファー様のお世話をしにきたの」

 壊したい。

 今すぐ目の前の女を壊したいが、これもまた壊せない女だ。

「女神の手下はとっとと帰れ」

 女神の加護なんて厄介なものを持っている女。

「ダメよ。だって、リリムにお饅頭を買ってきてもらう約束をしてしまったもの。しっかり働かないと」

 この女は間違いなく馬鹿だ。

「いらねぇ、帰れ」

 大体どうやってこの家に入ったんだ? 

 俺は魔力で弾き返せるが大抵の奴らは術に嵌って砕け散る罠を張っていたはずだ。

「信仰心は身を救うのよ?」

 結局女神の加護か。

「それにしても、貴方、もっと大事にしないと本当にリリムに振られるわよ?」

「あ゛?」

 こいつは何を言っている。

「リリムの体質で得するのは貴方だけね。全く。どうしてリリムはこんな人を選んだのかしら」

 文句を言いながらも目の前の女は針仕事を始める。

「俺はお前に来てくれと頼んだ覚えは無い」

「リリムに頼まれたのよ。あの子、年中再生しっぱなしだから疲れているはずよ? 貴方の癇癪が直撃してるんだもの」

「だからリリムは俺の嫁なんだよ」

 うざってぇ女。

 壊したい。

「黒焦げにしたくても出来ないから?」

「壊しても壊しても壊れない。大人しく従順。てめぇとは違う」

 自分の亭主だって人に誇れる性格はしてねぇだろ。そう言ってやりたいがこれ以上小言を貰いたくもない。

 今は一刻も早くこの女を敷地から追い出すことを考えるべきだ。

「リリムの記憶が消えるのは貴方のストレスのせいじゃないかしら?」

「うるせぇ」

 会いたくない顔。

 うるさい小言。

 お前は俺の母親かと言いたくなるほど口煩い女。

「あーあ、リリムが可哀想」

 本当に、態とだろう。

 俺を怒らせて遊びたいとしか思えない。

 何でこんな女が女神の加護を受けているか理解できない。

 リリムこそがその加護を受けるにふさわしい女だろうに、女神は何を考えているんだ。

「リリムは本当に可哀想な子。自分さえ理解できていないの」

「は?」

「嬉しいとか哀しいとか、そう言うことが理解できていないのよ。あの子は」

 リリムは良く笑う女だ。

 笑うか泣くしかしない。

 そして目が覚めれば何があったのかを全く覚えていない。

 そう、覚えていられない。

「朔夜、てめぇリリムに何をした?」 

 あいつが土産の約束なんか覚えていられるはずが無い。

「ふふっ、今日はセシリオのお世話を代わってもらったの。だって、うざかったもの」

 本性を現しやがった。

「自分の亭主をそんな扱いしていいのか?」

「いいのよ」

 さては夫婦喧嘩でもしたのだろう。

「……迷惑な女だ」

 リリムはなぜ承諾したんだ?

 そう思ったとき電話が鳴る。


「あら、意外と持ったわね」

「何?」

「出てあげないと、大変よ?」

 目の前の女にいやな予感しかしない。


『朔夜! 何とかして下さい! 部屋の中を刃物が飛んでいます!』


 朔夜が居ると信じきったリリムの声。

 あの女が叫ぶ声を初めて聴いた気もする。

「……世話の焼ける奴だ」

 仕方ない。

 連れ戻しに行くか。

「てめぇはとっとと家に帰れ」

「嫌よ。今日はセシリオの顔なんか見たくないもの」

「だったら大聖堂で篭城してろ」

 この迷惑夫婦はいつか壊す。

 それより今はリリムだ。

 俺意外に壊されることが無いとは言い切れない。




 心配などしていない。

 ただ、俺のものを他人に取られるのが気に入らない。

 それだけだ。


 よそで笑っているあいつを見たくない。

 それだけだ。

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