言葉の代わりに、君に刃を
この連載は全てお題を元に作った短編集です。
極力お題の順番どおりに表示できるように割り込み投稿等もありますが、どこから読んでも読みきりになるように努力します。
歪んだあなたへの100題
配布元
http://farfalle.x0.to/
追憶の苑
「カトラスA、君を逮捕する」
凛とした声と同時に振りかざされる刃。
「ハハン、出来るものならしてみなさい」
生意気な宮廷騎士団長は鋭い目で僕を見る。
それがなんとも滑稽だ。
「本当に、さっさとくたばれよ」
目つきだけではなく、口まで悪いこの宮廷騎士団長はいつだって僕の首を狙っている。
「随分嫌われたものですね」
「僕の感情なんてどうでもいい。陛下のお言葉こそが全て」
若き宮廷騎士団長ユリウスは言葉とは裏腹に斬撃で憎悪と殺意を顕にする。
「僕は、貴方が嫌いではありませんがねぇ。若くして騎士団長。強く優秀で何よりも生意気だ。壊したくなりますよ」
短剣で斬撃を防げば舌打ちが聞こえる。
充満する殺気。
「罪状は不敬罪、王族詐欺罪、公務執行妨害そして、僕の部下を誑かした」
「誑かされる方が悪いでしょう?」
どうせあの白い番犬のことだ。
彼女はとても気高く優秀だが、少しばかり生真面目すぎる。
「気でも狂いましたか?」
中々洗脳は出来なくとも、発狂くらいならさせれるかもしれない。
「すっかり腑抜けになって今頃病室でレースでも編んでいるよ」
再び斬撃。
それを流せば今度は手錠が飛んでくる。
「君は公開処刑って決まってるからね。厄介なことに」
「ハハン、それは興味深い。ですが、今日は貴方の相手をする時間はありませんよ」
蓮香の香に幻術を混ぜる。
忌々しい兄の術だが姿くらましにこれほど使いやすい術も無い。
「また会いましょう。ユリウス。今度はゆっくり決着を」
「待て!」
飛んでくる鎖を杖で弾く。
濃霧に紛れ込めば、最早ユリウスの姿さえも見えない。
「少しは楽しめましたよ」
言葉と同時にナイフを投げれば弾き飛ばす音がする。
そして、それきり。
相手の気配さえ感じ取れないほど遠くの人混みに紛れてしまえば。
もう、幼い騎士団長の溜息さえも聞こえることはない。