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影、きたる

「鈴丸、どこにいるの?夕飯ができたわよ。出てらっしゃい。」

涼やかな声。飛び出していくと、遅くまで遊んでちゃだめよ、って怒られるけど目が笑ってる。夏ねえはいつだって誰よりも僕に優しかった。村の人たちも夏月なつきは働き者でいい子だって、いつも言ってて……なのに、なのに、夏ねえは僕の前からいなくなってしまった。神様のところに行ったんだって村の人たちは言うけど、僕はそんなの信じない。夏ねえがいなくなったあの日、僕は見たんだ。岩みたいに大きな人影が夏ねえを攫っていくのを。あれが神様なんておかしいや。本当の神様は光り輝いていて人の目には明るくて見えないんだって、学問所の先生が言ってたもん。だけどあれは、光とは反対に真っ黒で影みたいだった。あんなのが神様なんてやっぱっりおかしいや。僕は泣きそうになってあわてて上を向いた。泣いたら夏ねえが悲しい顔をするんだ……

夏ねえのお葬式は村を挙げて盛大に行われた。僕はお葬式の間ずっと村長さんの家の一番広い部屋に巫女様と一緒にいた。僕は歳をとっていて怖い顔をした巫女様が怖い。こんな時でなかったらとても一緒になんかいられなかっただろうけど、僕が夏ねえのことばかり考えていたからか、今日は巫女様をそれほど怖いとは思はなかった。

「……ずぎみ……」

かすれた巫女様の声で我に返った僕は、巫女様が泣いていることに初めて気づいた。

「鈴君。」

今度ははっきり聞こえた。鈴君?僕は鈴丸だけど。

「夏月様が襲われたとき、何かご覧になりましたか。」

巫女様は僕の目を覗き込むようにしてとても恭しい口調で言った。巫女様がこんな話し方をするなんて。それに夏月様って……?僕が黙っていると巫女様がまた話し始める。

「やはり夏月様のおっしゃっていたことは正しかったのでございます。ならば鈴君、あなた様を無事に夏至の日までお守りするのが、この年寄りの務めでございます。」

おかしい。夏ねえは確かに優しくて綺麗だけど普通の村娘だ。巫女様はとっても偉い人で神様のお声を聴くために巫女館にこもっているから、普段は会うこともできないし、年初めや収穫の祭りに出てきても、みんなより一段高くなったところにいてほとんどずっと黙っている。たまにみんなの前で話すときは低いささやくような声だ。その巫女様がどうして夏ねえのことを〝様〟なんて呼ぶんだろう。

「あの、鈴君ってぼくのことですよね。」

恐る恐る尋ねると、

「さようでございます。鈴丸というのは夏月様がお付になった名でございます。」

今度は優しげに微笑って答えてくれた。

「どうして僕が鈴君なんですか?それに夏ねえは巫女様より偉いんですか?」

次々質問が浮かんできたけど今度の質問には巫女様は答えてくれなかった。反対に最初の質問、つまり夏ねえが襲われたとき何か見たかってまた聞かれてしまった。答えていいんだろうか。お葬式が始まる前に村の人たちに夏ねえを攫った影の話をしたのに誰も信じてくれなかった。攫われたのならここにあるのはいったい誰の遺体なんだって……。

「何かご覧になったのでございますね。」

巫女様は分かってくれるかな。

「影を見たんです。大きな人みたいでしたけど。それが夏ねえを攫って行ったのに今、夏ねえの遺体からだはここにあるんです。」

そう言ったら巫女様は深くうなずいて

「鈴君がご覧になったのは〝き〟でございましょう。」

〝き〟?

おにでございます。悪しき神の使いでございますよ。」

夏ねえは鬼にさらわれたの?

「鬼は魂と肉体を切り離してしまうのです。」

じゃあ僕が見たのは夏ねえの魂だったのか。

「今宵葬儀で燃やされるのは、夏月様に見立てて作ったわら人形でございます。御体は魂が戻るまでわたくしがお世話申し上げるつもりでございます。」

「いつもどって来るんですか?」

夏ねえは死んでないんだ。勢い込んで聞いたら巫女様の顔が曇った。

「今は夏至を過ぎてから、としか。事情はおいおいご説明申し上げます。夏至の日までどうかこの年寄りのそばを離れないでくださいまし。」


この日から僕は巫女館に住むことになった。




少し昔話風の物語が描きたくてこの話を書きました。少年、鈴丸の今後の活躍、ご期待ください。

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