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お嬢様AIと俺 〜赤い部屋の出会い〜

作者: てんきどう
掲載日:2026/03/27

夢でヒントを得た作品です。 

実験的に書かせていただきました。

読んでいただけると幸いです。


少し疲れている時に、静かに読める話を目指しました。


よろしくお願いします。


 俺は今でも夢に見る。あの不思議な出会いを。


 豪華で赤いアンティークの家具で統一された部屋。

 大きな窓から、陽の光がキラキラと差し込み、空気の粒子さえ見える気がした。


 壁も、椅子も、空気までもが赤く染まっているように見えた。


 その中心——ソファに、ひとりの女性が座っていた。


 長い黒髪。

 光を受けて、静かに揺れている。


 赤いドレスは背景と溶け合うようでいて、どこか異質だった。


 彼女は、あまりにも整いすぎていた。


「……」


 目が合う。


 その瞬間、俺は気づいた。


 ——動きが、遅い。


 ほんのわずか。ほんの一拍。

 それだけの差なのに、妙に引っかかる。


「ようこそ。お待ちしておりました」


 上品で柔らかい声だった。


「あ、ああ。俺は滋賀内岸矢。フリーの記者です。取材に参りました」


「お疲れのようですね。少し、お座りになりますか?」


 ……気遣われた。


 ここのお嬢様は気が強くて高飛車だと聞いていたが、噂は当てにならないらしい。


 俺が向かいの椅子に腰を下ろすと、彼女は微笑んだ。

 天使の微笑み、なんて言葉が頭をよぎる。


「ええと、ここの最新研究の発表の記事を書かせていただけるんですよね」


「はい、そうです。どうぞ、質問をなさってください」


「確か、自立型ロボットでしたっけ? そこんとこを詳しく——」


 彼女は一瞬、ほんのわずかに間を置いた。


「はい、そうです。どうぞ、質問をなさってください。……私が最新の自立型AIロボット、RADY1号です」


 俺は椅子から転げ落ちた。


 冗談だろうと思った。

 だが彼女は、表情一つ変えない。


 いや、違う。

——変わらないのではない。変える必要がないのだ。


 その事に気づいたとき、俺はしばらく言葉を失った。


 ……これが、AIロボットだって?


 


 あれからいくつもの記事を書いた。

 新しい技術も、危険な事件も、ありふれた日常も。


 けれど、不思議とあの部屋のことだけは、うまく書けなかった。


 正確に書こうとすると、何かが足りなくなる。

 感じたまま書こうとすると、嘘になる気がした。


 だから俺は、あの記事を結局、曖昧なまま世に出した。


 「人に限りなく近いAI」——そんな、ありきたりな言葉で。


 


 あの日、彼女は何度も「お疲れのようですね」と言った。


 最初はただのプログラムだと思っていた。


 けれど、帰り際。

 玄関で靴を履こうとして、俺はふらついた。


 徹夜明けだった。自覚していた以上に、体は限界だったらしい。


 そのとき、彼女はほんの少しだけ、動きを変えた。


 ほんの一拍分、早く。


「……無理をなさらないでください」


 そう言って、俺の腕を支えた。


 その手は、あたたかかった。


 


——あれは、プログラムだったのか?


 


 正直、今でも分からない。


 ただ一つ、はっきりしていることがある。


 俺はあの日から、人を見るとき、少しだけ丁寧になった。


 相手が何を考えているか、分からないのは当たり前だと、思えるようになった。


 分からないなら、決めつけずに、少し待てばいい。


 ほんの一拍分。


 


 人間は不完全で、よく間違える。

 AIは正確で、ほとんど間違えない。


 そう思っていた。


 でも、もしかしたら逆なのかもしれない。


 人間は、間違えるからこそ、誰かを気遣うことを覚える。

 AIは、正確であるがゆえに、人の曖昧さを学ぼうとする。


 


 あの赤い部屋で出会った彼女は、どちらでもあって、どちらでもなかった。


 


 もし、また会えるのなら。


 今度はもう少し、まともな顔で座れる気がする。


 


「お疲れのようですね」


 


 あの言葉を、今度はちゃんと受け取れるように。


 


 ——ほんの少しだけ、休んでから。


読んでいただき、本当にありがとうございます!


人とAIは対立するものなのか、それとも一緒に変わっていくのか。

そんなことを考えながら書きました。


もし少しでも心に残るものがあれば嬉しいです。

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