ラストバトル−3
世界を滅ぼすほどの力を持った、呪いの主がどうして聖者に封じられたのか。
疑問に思った事があった。
だけど今はわかる気がしていた。
全てを呪い滅するほどの相手の前に、たった一人立った聖なる乙女。
きっと彼は、聖女に惚れたのだ。
俺以外の仲間たちは、皆重症を負っていて、残らずベッドに沈んでいた。
俺は寝込むほどの傷は負っていなかったから、そのうち一つのベッドの横に、ずっとついていた。
そうしてベッドの主の、血の気を無くした白い頬を、落ちた目蓋を見つめていた。
彼女が目覚める事を、願って。
俺は神に祈る事は許されていなかったから、ただ彼女に祈っていた。
目覚めてくれと、そして謝罪させて欲しい・・・。
俯く俺の視線の先で、彼女の長い睫が、僅かに震えた。
立ち上がる俺の勢いに、椅子が倒れてがたりと鳴った。
しかしそんな事、気にならなかった。
彼女が、目を開いていた。
「な、んで?」
もらされた小さな呟き。
「気がついたのか!?」
身を起こそうとしてふらついた彼女の、その身を咄嗟に支える。
「なんで・・・?」
彼女のいつも誇り高くまっすぐな瞳が、揺れていた。
宿敵と共に死んでいる筈では、と訴えていた。
その視線に耐え切れなくて、思わず、目を逸らしていた。
「ごめん」
俺の腕を掴む彼女の手に、かすかに力が入った。
「ごめん、俺は、お前を呪った」
それは敵と同じ事だ。
だけどそうせずにはいられなかった。
「俺と、命を同じくするように」
彼女を失わないために。
そうしてでも、失えなかった!
「俺とお前は、一つの命で生きている
俺が死ねばお前も死ぬ」
彼女に視線を戻して一息に言った俺を、じっと彼女は何も言わず、見つめていた。
そうしてぽつりと聞いた。
「私が死んだら・・・?」
「俺も死ぬ」
彼女の肩が、瞳が揺れて、一瞬後にはその細い体は、俺の胸に倒れこんできた。
大声を上げて泣き出した彼女を、どうして良いかわからずに、俺は強く抱きしめた。
「好きだ」
強く掴まれた腕に、胸に、彼女から、その想いが伝わってきて、俺は始めてそう告げていた。
「好きだ」
咽び泣く彼女がやがて落ち着いた時、すっかり赤くなってしまった顔をあげ、彼女が言った。
その手は、俺を強く掴んだままだった。
「笑って。私、あんたの笑った顔が好き」
ふ、と笑みは自然に漏れた。
「可愛い」
予想外の言葉に何を言うのかと思いながら、二人顔を寄せ合って笑いあった。
そうしてどちらともなく、唇を寄せた。
生きて帰れたら、結婚。
式は彼女の期待通り、皆を呼んで盛大にやろう。
騒ぐのは苦手だけど、彼女が笑うなら、俺も笑える。
共に生きていこう。
二人で年を重ねて、髪が白くなるまで。
HAPPY END