ラストバトル−2
この世界は、俺が生まれる前に、一度滅びかけたと云う。
全てを呪い滅する存在によって、世界は壊れかけたのだと。
しかしその時、一人の聖者が現れて、その存在は赤子へと転生させられ、世界は事なきを得た。
そこまでが、一般によく知られる話だった。
だが、赤子はどうなったのか。
俺は、その答えを知っていた。
「撃ってええ!」
額から血を流し、膝をついた彼女が、叫んでいた。
既に多くの仲間は、地に伏し、動く事もままならない。
ただ俺だけが、きりりと弓を、引いていた。
目の前には、世界を2度目の危機に陥れた、宿敵。
世界を滅ぼす事はなく、しかしその支配下に置こうとした、憎い相手。
直ぐにでも倒すべき相手を前に、しかし俺の手は震えていた。
知っていたからだ。
「いいのか、人間よ、私が死ねば、その女も死ぬ!」
言われるまでもない!
宿敵の呪いによって、彼女の命が握られている事など、とうに知っていた。
何故ならばこの眼に、何よりも呪いはよく映るのだから。
宿敵を倒した瞬間、彼女の心臓は握りつぶされるであろう。
ここまではっきりと宣言されながら、それでも彼女は叫ぶのだ。
「撃って!!」
それを俺に言うのか!!
他の誰でもない、俺にこそ、お前を殺せというのか。
両腕が震えて、狙いはつけられなかった。
宿敵の狂気を孕んだ笑い声が響く。
「撃ってぇ!」
その身を血に染めながら、地に縛られながら、それでも彼女の眼差しは誇り高く、ゆるぎなく。
まっすぐに俺を見つめて叫んでいた。
敵を倒せと。
美しい世界を、取り戻すために。
俺は、唇を引き結んだ。
そうして弦を張る右手に凝る、力。
まっすぐに見据えた。
仲間たちが、苦闘の末に力を削いだ、宿敵。
息を呑む気配が伝わる。
「お前は女を殺すのかッ」
彼女が微笑む気配がした。
『うん、約束』
「呪いあれ!」
右手に凝った力を弓を介し、俺は放った。
力の矢は、ひゅぃんと白い弧を描き、宿敵の額へと吸い込まれていった。
「うぐあああああああああ」
額を押さえ絶叫を放つ人型の獣。
やがてその身は、内側から弾けて塵と消えた。
白い光が残り、ひらひらと雪のようの舞い落ちる。
その下に、彼女は倒れ伏していた。
生きて帰れたら、結婚。
しかし彼女の命が、この戦いに縛られている事など、俺はとうに、知っていたのだ。