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ラストバトル  作者:
3/6

ラストバトル−2

この世界は、俺が生まれる前に、一度滅びかけたと云う。

全てを呪い滅する存在によって、世界は壊れかけたのだと。

しかしその時、一人の聖者が現れて、その存在は赤子へと転生させられ、世界は事なきを得た。

そこまでが、一般によく知られる話だった。

だが、赤子はどうなったのか。

俺は、その答えを知っていた。


「撃ってええ!」

額から血を流し、膝をついた彼女が、叫んでいた。

既に多くの仲間は、地に伏し、動く事もままならない。

ただ俺だけが、きりりと弓を、引いていた。

目の前には、世界を2度目の危機に陥れた、宿敵。

世界を滅ぼす事はなく、しかしその支配下に置こうとした、憎い相手。

直ぐにでも倒すべき相手を前に、しかし俺の手は震えていた。

知っていたからだ。

「いいのか、人間よ、私が死ねば、その女も死ぬ!」

言われるまでもない!

宿敵の呪いによって、彼女の命が握られている事など、とうに知っていた。

何故ならばこの眼に、何よりも呪いはよく映るのだから。

宿敵を倒した瞬間、彼女の心臓は握りつぶされるであろう。

ここまではっきりと宣言されながら、それでも彼女は叫ぶのだ。

「撃って!!」

それを俺に言うのか!!

他の誰でもない、俺にこそ、お前を殺せというのか。

両腕が震えて、狙いはつけられなかった。

宿敵の狂気を孕んだ笑い声が響く。

「撃ってぇ!」

その身を血に染めながら、地に縛られながら、それでも彼女の眼差しは誇り高く、ゆるぎなく。

まっすぐに俺を見つめて叫んでいた。

敵を倒せと。

美しい世界を、取り戻すために。

俺は、唇を引き結んだ。

そうして弦を張る右手に凝る、力。

まっすぐに見据えた。

仲間たちが、苦闘の末に力を削いだ、宿敵。

息を呑む気配が伝わる。

「お前は女を殺すのかッ」

彼女が微笑む気配がした。


   『うん、約束』


「呪いあれ!」

右手に凝った力を弓を介し、俺は放った。

力の矢は、ひゅぃんと白い弧を描き、宿敵の額へと吸い込まれていった。

「うぐあああああああああ」

額を押さえ絶叫を放つ人型の獣。

やがてその身は、内側から弾けて塵と消えた。

白い光が残り、ひらひらと雪のようの舞い落ちる。

その下に、彼女は倒れ伏していた。


生きて帰れたら、結婚。

しかし彼女の命が、この戦いに縛られている事など、俺はとうに、知っていたのだ。

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