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夢見た令嬢の愚かな幸せ(前編)

 

 お前は将来王太子妃となって、王妃になるんだ。



 それが父の口癖だった。

 数多ある貴族の中でも、王子妃となるにはそれなりの家柄が必要で、我が家はそのそれなりの家柄だった。


 王子妃とくに王太子妃はいずれ、この国の王妃となり文字通り国のトップになる。

 貴族の家に生まれた娘なら、一度は王子様との結婚を夢見る。

 そして、娘をもった高位貴族は、娘が生まれ出たその瞬間から、己の権力のために計算をする。


 娘が王太子妃になれば、王家の外縁として貴族院での発言力は大きくなり、なにより子供が、世継ぎの王子が生まれれば、将来の国王の祖父という立場になれるのだ。


 夢見ないほうがおかしい。



 だから、伯爵家以上の高位貴族たちは、我が家から王太子妃を出そうと、王家に王子が生まれた瞬間から、自分たちも妻や妾に子供を産ませる。

 特に見目麗しい妻や妾を娶り、孕ませて子を持つのだ。



 最初は年齢でふるいにかれられる。

 そして、次に娘の容姿。

 中身が大切というが、やはり見目麗しいことは好まれる。

 着飾るドレスに負けてしまう容姿では、侮られることもある。

 勿論、中身も重要な要素だが、それはおいおい判断していけばいいのだ。


 貴族の娘は大抵、7才前後で王室で王妃主催の茶会デビューが行われる。

 ここで2回目のふるいがある。


 私の父はそして祖父は権力志向がとても強い。

 とにかく、次期国王の外戚となり、将来の国王の祖父として君臨したいと常日頃から願う人だった。


 この国には、国王の子供が代替わりの際に臣下に降り授かる王族爵位としての公爵位の他に、名門・格式・伝統が揃った公爵家が8家存在していて、たいていの貴族はその8家の門下でもある。

 公爵家は婚姻関係などにより王族と近い。

 その8家公爵とは別に存在する侯爵家(20侯家)や伯爵家(10伯家)、軍閥爵や辺境伯(5辺境)などですら、生粋の「貴族階級」である。

 ただし、公爵8家のような門下はないので、婚姻に関してはかなり自由であると同時に、貴族院の構成はになうが国内での権力の中枢でという意味合いでは弱い。



 父はもともとは、その公爵8家に連なる伯爵家の生まれだが、生みの母が平民であったため、長男であつたにも関わらず伯爵位は継ぐことが出来なかった。

 爵位は子爵令嬢だった祖父の妾が生んだ異父弟が継いだ。


 自分よりもはるかに劣る弟が、産みの母親が子爵令嬢だっただけで爵位を継いだことがとても屈辱だったのだ。

 父は自分より劣ると称した伯父は爵位を継いだものの、領地経営で失敗をし取り返そうと詐欺に遇った。

 泣きついてきた異母弟を軽蔑しながらも、一度は助けたが、身の丈にあわない浪費を続け、結局破産した。


 王家から管財人が派遣された際、伯父は何を血迷ったのか「平民の子供が生んだ兄が侯爵になっている。兄は自分のためになら金を出すから兄を呼んでくれ」と叫んだらしい。


 当然、父は無視をした。

 管財人にそんなに言い分も通るわけがない。


「兄の母は平民だった。俺は子爵令嬢が母親だ。爵位だって俺が継いだんた」と言いつのったが、「その兄は現在は侯爵だ。理解できるか? 侯爵は伯爵より上だ」と管財人に切り捨てられた。

 それでも「本当なら俺が平民の血なんかはいっていない俺が侯爵だった」と喚いたが、「前侯爵もお前はお断りだと言っていた」と言われて脱力した。


 この頃の父は侯爵家に養子に入り、男爵の異母弟より爵位は上だったのに、いつも爵位を継いだのは自分だという概念から抜け出せない人だった。


 祖父が見ていないところでは、長男のくせに爵位を継げない平民とバカにしていたようで、父は冷酷に弟を追い込んだ。


 一時の金をあてがわれても、あいつは感謝をしないから、どうせすぐに身を崩す。

 父が笑いながら確実に伯父を追い詰めていった。

 なぜ、伯父は伯爵位より侯爵の方が爵位は上だと理解しつつ、父を下に見ていたのか。

 伯父という人は結局のところ、愚か者だったのだ。

 伯父が返上した伯爵位はいま、父が預かる形になっており、随分と領地の経営は持ち直しているそうだ。

 父は権力志向が強いが、一方で経営手腕も持ち合わせている。



 自信家だが、実力はあるのだ。


 伯父は爵位を返上した後、平民として、父の紹介した商会で仕事をしながら暮らしたが、良く働く平民の女性と結婚した。

 3人の子持ちになったが、数年前、はやり病にかかり、あっけなく他界した。

 亡骸は伯爵家の霊廟に収めることは許されたが、墓石に名を刻むことは許されなかった。


 祖父の妾ではあるが子爵令嬢でであることが自慢だった伯父の母も最期は平民として他界した。

 平民に堕ちたことが屈辱で、息子の妻となった女性を苛めたが、よく働き逞しかった嫁に反撃され、一人で生きていけないおばあちゃんとバカにされたらしい。


 嫁を虐めていたので、孫たちからは嫌われ、息子が亡くなると、嫁に家から出ていけと追い出された。  

 最後は身寄りのない人間を引き受ける修道院で息を引き取った。

 父はしぶしぶだが、伯爵家の領地にある共同墓地に埋葬した。


 私の両親の婚姻は、祖父の命令だった。

 美しさは高位貴族の令嬢も裸足で逃げ出すと王都でも評判だった私の母は、田舎の落ちぶれた伯爵家の娘だった。

 貴族とは名ばかりで日々の生活費にも事欠くありさまで、爵位を売ることを考えていた。

 貴族らしい生活をほぼしたことのない母だったが、家族の愛には恵まれた人だった。


 あるとき、地方視察に赴いた祖父は、孤児院で働く母を一目見て気に入り息子の嫁にと考えた。

 父祖は妾が生んだ出来の悪い次男より、上昇志向が強く何事もそつなくこなし、自分に良く似た父を溺愛していた。

 そしてなにより裕福な商家の娘だが身分としては平民でしかない、自分が一番愛した女が唯一産んだ子供がかわいかった。


 政略的な意味で仕方なく子爵令嬢を妾にしたが、愛情の殆どを妻に向けていた。

 恐らく祖父も父も、そして私も偏狂的に人を愛する性質なのだろうと思う。


 裕福であっても貴族としての身分は伯爵でしかない祖父は、とにかくもっと上の、上位貴族に食い込む方法をずっと考えていた。

 妻や妾が女の子を産んでいれば、婚姻によって伯爵家を狙うことも出来たが、実際には息子が2人いるだけだ。


 祖父にひとつの話が舞い込んだ。


 8公につながる侯爵家が継ぐ者がおらず、養子を探していたのだ。

 田舎の侯爵家で名門とは言えないまでも、8公につながる侯爵家だ。

 領地はそれほど広くはないが、交通の要所としてほととほどに栄えていたものの、近年では盗賊などが多く出るようになり、迂回ルートを使う人間が増えたため、通行料などの収益がおち、困窮している侯爵家だった。

 そのため、現侯爵は爵位の返上まで考えていたらしい。


 病気で4人の息子を亡くし、自分も病気を患いどうしたらよいかと8公に相談を持ち掛けていた。

 その話を祖父は懇意にしていた侯爵から聞き、すぐに老侯爵に面会に行った。


 養子の話はすんなりまとまり、半年後に父は侯爵となった。

 本来なら、一族に連なる者、遠縁などを頼るが、この時ばかりは老侯爵にも時間的余裕はなかった。

 なにより、よくできた人間を養子にする話はよくあることだ。


 祖父はある程度の持参金を持たせて、父に領地経営を任せた。

 自分の息子の手腕をよく理解していたからだ。

 父が若き侯爵として、領地経営に乗り出し、王都でも頭角を現したころ、縁談の話が舞い込むようになった。

 祖父はその縁談にも慎重だった。


 今後爵位を継ぐ予定の次男には、子爵家の令嬢をあてがったが、侯爵になった息子の嫁には慎重になった。

 祖父は、この美しい伯爵令嬢を父にあてがうことにしたのだ。

 この頃の父と祖父の悲願は政権に食い込むことで、手っ取り早いのが「王子妃」を生み出す事だった。

 田舎貴族ではあるが、8家につながる侯爵家で、資格は十分にある。

 しかも落ちぶれてるとはいえ、母は伯爵家の令嬢。


 祖父は歓喜した。


 つい最近、王太子が妃を迎えていた。

 いずれ世継ぎが生まれるだろうから、まさにチャンス到来だった。

 祖父は落ちぶれた伯爵家の爵位を母ごと買い取り、渋る両親からなかば強引に母を侯爵家に連れてきた。

 息子の妻にするために。

 母の「美しさ」に目をつけた祖父が「将来の王太子妃」候補となりえる娘を産ませるために。


 祖父は自分の野望を父に託したのだ。

 しがない伯爵家の祖父ではなしえないことを。

 だから、祖父は息子の嫁に興味があったが、自分の妾にとは思わなかった。

 

 屋敷に強引に連れてこられた母を見た父は、14才も年下の母に一目で恋をした。

 今までどんな異性も適当にあしらい、色ごとに興味も示さなかった父の執着はここから始まった。


 恋ではない。

 愛ではない。


 当時14歳だった母は、すぐに純潔を奪われることはなかったが、邸に監禁され、地獄の日々が始まった。

 今まで自由に生きてきたのに貴族の令嬢教育を押し付けられる日々。

 その後、16歳を迎え婚姻の出来る年齢に達したその日に父と結婚した。

 そこに母の意志は一かけらもなかった。

 けれど、父は暴力を奮うわけでも、冷たいわけでもなく、夫としてはとても「良い」人だったことから母も心を開いていった。


 身に余る贅沢と、夫の深い愛情。

 母は愛情と執着の区別をつけるのには幼かった。

 社交デビューをしたとき、その美しさから注目を浴びた。

 母も今まで経験したことのない世界に、怖じ気づいたが、いつも夫がいることで安心していた。


 ただ、田舎で自由に育った母には、社交界は窮屈だった。

 だから、婚姻後、すぐに妊娠したときは安堵した。

 これで社交の場に出なくて済むと。


 最初の子は男の子だった。

 一見すれば跡取りなのだから、父は喜ぶはずだと思ったけれど、それほど喜ばなかった。

 このあたりから両親の間にはすれ違いが生じていたのだが、父はとにかく「娘」を欲しいと、嫌がる母を強引に組みひいては抱きつぶすようになった。


 母が体調を崩したため、父は周囲の助言を聞き入れて妾を持つことになった。

 母は、妾の存在には複雑な心境だったが、父の執着から逃れられることや、繰り返される行為に疲弊もしていたので、妾の存在に心を乱されることはなかった。


 4年近く次の子を妊娠をせず、月のさわり以外はほぼ毎夜、行為を強制された母は、次第に父への愛情は薄れ毎日逃げ出すことを考えるようになった。

 愛のない行為はただの苦痛で拷問だと何度も訴えたが、父は聞き入れなかった。


 そのうち、父は「娘を産んで自由になる以外はみとめない」と告げた。

 父の冷酷さを垣間見た母は、その後、逆らうことも出来ず、父に抱かれ続けた。

 この頃、母は父に抱かれることが精神的苦痛になった。


 そして、やっと私を妊娠した。


 兄が湖に堕ちて亡くなったが、母がショックから流産するのを恐れて、誰もそのことを伝えなかった。

 父の妾が自分の子供を侯爵位につけたくて起こしたことだった。


 父は人並みの愛情というものは持ち合わせていなくても、母には執着していたので、妾の起こした事件に腹を立て、年老いた自分の父親に妾をくれてしまった。

 祖父は年老いて物忘れの病気を患い、そのせいで暴力的になった。

 徘徊して手当たり次第に若い女性を連れ帰り、取りつかれたように性行為にふけり、時には被虐的に女性を嬲るようになった。


 そのため、使用人は全員男ばかり。


 祖父にあてがわれた妾は生き抜くために必死で取り入り、祖父も随分と気に入ったようで、妾がいると不思議と穏やかな年寄になった。

 父はそれを喜んだ。

 そのうち、妾は祖父とのあいだに3人もの子供を産んだが、子供はすべて養子に出された。


 祖父は私が10才のころに息を引き取ったが、記憶の中の祖父は、記憶の病気は患っていたがとても穏やかな人だった。

 妾は祖父と暮らしていく中で、つきものが落ちたかのよに従順に、最後まで祖父に寄り添っていた。


 父と妾の間に生まれた異母兄は継承権を持たない庶子として、侯爵家で暮らしている。

 とても穏やかで毒気のない人だといえば聞こえはいいが、目の前で自分の母親が異母兄を沈めるのをみたトラウマから兄は言葉を話せない。

 日々を邸うちの与えられた別邸で、好きな絵をかいて生活している。


 私が生まれたとき、父は歓喜した。

 母にそっくりな美しい容姿の子供だった。

「待望の娘」しかも、王太子となる予定の王子と2才差。


 父は母に「自由にしていい」と告げた。


 母は間を置かず離縁を願い出た。

 父は自由にしてもいいといったが、離縁する気はなく、母に執着していたので手放す気もなかった。

 離縁を何度も口にする母を部屋に監禁して何度も抱き、子を孕めばいいと行為を続けた。

 そのうち、母は少しづつ衰弱し、とうとう自分では立てなくなった。


 3才を迎えた私は言葉を覚え、父に懐いた。

 父の執着と愛情は一挙に、母から私に向いた。

 母は今を逃したら自分は終わると思い、離縁を申し出た。

 今度はすんなり認められて、ある程度の財産も分与されて、自由になった。


 母はどういう経緯かは知らないが、別の国で商人と再婚し別の家庭を持っている。

 会ったこともない弟と妹がいるらしいが、特段、会いたいとは思わない。

 母も、父の血を半分ひいた私には逢いたいとは思わないだう。


 自由になるまでの10年間。

 父の度を越した執着で疲弊した母の気持ちを考えれば、会いたくない事は当然だ。

 生まれてから母親がいない貴族の子供は沢山いる。

 そもそも、実の母の手で育つ高位貴族の娘はほとんどいないのだ。


 大体は乳母や教育係に傅かれて育つ。

 だから、私も母のいない事は悲しい事でなかった。


 父は私が物心がつく前から徹底的な英才教育を始めた。

 与えられるものを疑いもせずに受取り、吸収していく私に父は、これならば王太子妃を狙えると満足した。


 いかにして、政権に食い込み、他家を蹴落として、自分が宰相となるかを日々、考えるような人だ。

 周囲からみれば、権力と欲にまみれた俗物だが、私には愛すべき父親だった。

 マナーや勉強さえしていれば欲しいものを与えて、したいことをさせてくれる。


 私はそれほど物欲が強い方ではない。

 ドレスにそれほど興味はないし、着飾る事も殆ど興味がない。

 ただ、好きな書物に囲まれて、美しい絵画や美しいものを見るのが好きだ。

 だから、私は一目見て王子様を気に入った。

 始めて訪れた王城の茶会で一目見て、恋をした。


 太陽の光を集めたような黄金の色の髪。

 私の瞳よりもっと深い青の瞳。

 高い鼻梁に、整った顔だち。

 次期国王ではと呼び声の高い王子は、まさに夢見る王子様だった。


 淡い金の髪、空を映した青い瞳、すらりとした手足に、白いきめ細かな肌を持つ私だって、誰が見ても美しい娘だった。

 周囲の人間もほめたたえたし、父も可愛いとずっと言っていた。

 侯爵家の一人娘として、最高級の教育を施されて、最高級のドレス。

 着飾れば着飾るほどに美しさをます私にかなう人なんていない。


 幼いながらも私は初めて自分の美しい容姿を誇りに思った。

 父も祖父も、王太子妃は私で間違いがないと言っていた。

 王太子妃の位に私自身はほとんど興味はない。

 王妃になる事にも興味はない。

 ただ、ただ、王子が好きなだけ。


 だから、

 幼い頃から思いを寄せている王子様は絶対に私を選んでくれる。

 だって、いつも私を大切にしてくれるもの。

 そう信じて疑いもしなかったのに、デビュー直前の貴族の子女があつまるお茶会で、わたしは一番最初の劣等感を味わった。



 王家に連なる公爵家の令嬢で私より1才年上。

 圧倒的な美しさをもった少女だった。

 金色の髪は同じなのに、光を放つほどの艶やかな美しい髪。

 同じ蒼い瞳なのに、鮮やかな色彩。

 白い肌は青白いではなく、乳白色。

 自分を劣っているとは思っていなかったけど、初めて敗北を感じたのだ。

 王子とも幼馴染で、とても仲良く話している。


 だめよ。そこは私の居場所のはずよ。

 だけど、声は出ない。

 だから、睨んでしまった。

 その後、悔しくて悔しくて、もっと美しくなろうと思った。


 彼女とはその後のデビューも一緒だった。

 そのせいで、私は霞んでしまった気がする。

 すべては彼女のせいだと思った。


 父も、彼女がいたのでは、私は王子妃になれないと心配していた。

 私を愛してくれた父を悲しませるわけにはいかない。

 だから、必死に美しく装い、王子の目に留まるために努力もした。

 けれど彼女は、さらりと私を超えていく。


 どうしたら、勝てるのか。

 どうしたらいいのか。

 悶々と悩んでいたら、ある日、彼女は王太子の側近である公爵家の子息と婚約した。


 まるで王子妃の地位など必要ない、そんなものはいらないと突き付けられた気がしてとても傷ついた。

 わたしがこんなににも必死に欲しいと思っているものをあっけなく手放せる。

 だけど、これで王子妃を狙う人がいないくなったと私は安心していた。

 父も、手を汚さなくてよわったとさえ思った。


 そのうち、私も18になり、父はなりふり構わず、周囲に根回しをして、王太子妃に私を推していた。

 国内では私に勝るような貴族の令嬢はいない。

 8家に所属する令嬢の数人はすでに、婚姻が決まっているか、父が裏から手をまわしている。

 私は父のしたことには目をつぶり、堂々としていればいい。


 王太子が正式に次期国王として、立太子した。

 そのころから正妃への駆け引きも強くなった。

 家の力側良くて正妃は無理でも、第二妃や公妾などを狙う家もある。


 父も連日、自身の派閥や中立系の貴族たちとの忙しそうにしている。

 暴力行為などはないが、足の引っ張り合いは日常だった。

 夜会に出れば、令嬢同士も足を引っ張りあう。


 公爵夫人となった先の令嬢が「あさましいこと」とばから笑っていたが、私はそれを負け犬の遠吠えだと逆にあざ笑ってやった。

 この頃の社交界では、私は王子妃の第一候補だったし、そのおこぼれにあずかろうと、多数の令嬢を従える立場にいた。


 ただの公爵夫人となった彼女は私のて敵ではなかった。

 けれど、彼女は艶やかに「己を知らないことはある意味では幸せね」と笑った。

 まるで自分の敵ではないというその態度が、とても癪に障る。


 そんな彼女はいつも、王家の貴婦人と呼ばれる現王の妹と一緒にいた。

 私から言わせれば、ただの行き遅れだと思う。

 結婚もせずに王妹殿下として君臨なんて、ただの行き遅れ。


 そう言って、私は自分の取り巻きたちと笑った。

 けれど、それは王家の厳格なルールだったのだ。

 今の私にはそれがわかる。


 そんな時。

 私を打ちのめす一報がもたらされた。




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