【コミカライズ】あなたは私の「推し」ではないので。
「君を好きになることはない」
婚約の顔合わせの場で放たれたアルト王子の言葉によって、リリア・ラリベル公爵令嬢は前世の記憶を思い出し、自分が異世界からの転生者であることを理解した。
リリアは前世でプレイしていた乙女ゲーム「メロウハート~秘密の恋をあなたと~」に登場する悪役令嬢だ。攻略対象であるアルト王子の婚約者でありながら、ヒロインに嫌がらせをしたり、他の攻略キャラのトラウマになったりする、お手軽な悪役キャラ。
それがリリアだ。
「はい。そうですね」
「僕は真実の愛で結ばれた相手と、一生を共にしたいと思っている。それは君ではないと思う」
「はい。そう思います」
リリアはまるでゲームに出てくる村人キャラの様に、アルトに対して無機質な返事を繰り返した。
アルトはこの通り、王子でありながら少し夢見がちで、思い込んだら一直線で、美しい言い方をすれば二股をかけることができない人間だ。
前世の記憶を取り戻した今となっては、リリアにとってアルトの決意などどうでもよかった。ゲームの開始まではまだ八年ある。先回りして破滅のバッドエンドを回避して、あとは悠々自適な生活を送る。異世界転生者だ、それぐらいは可能だろうとリリアは考える。
今、リリアの頭の中では、アルト王子との婚約より大事な情報がぐるぐると回っている。それはリリアの「推し」であるエリク・ラリベルのこと。
──そうとなったら、顔合わせはさっさと済ませて、エリクを眺めたい!
「だから、君を愛することはない」
「……はい。わかりました。それでは、お互い真実の愛を見つけるまでのつなぎの婚約者ということでよいですね?」
「あ、ああ」
特に驚きもせず、にっこりと微笑んだリリアにアルトは少し面食らったようだが、早く帰りたくてたまらないリリアの勢いに押されるように頷いた。
「それでは今後はビジネスライクに、必要最低限だけ付き合いましょう。二週間に一度の『面談』でお互いの近況を報告……ということでよろしいでしょうか?」
「……ああ」
リリアの一方的な提案に、アルトは曖昧に答えるしかなかった。
「それでは、二週間後に。ごきげんよう、アルト様」
リリアは優雅なカーテシーをしてから一目散に馬車に向かって駆け出した。リリアにはアルトどころではない、家に急いで帰らねばならない理由があった。
──私がリリアということは!
──家に! 私の推しが待っている!
リリアはアルトの婚約者であり、別の攻略キャラ、エリク・ラリベルの腹違いの姉でもあるのだ。
ゲームではリリアの腹違いの弟であるエリクは愛人の子として差別されて、リリアにいじめ抜かれる存在だ。
もともとリリアは乙女ゲームをどこか俯瞰した気分──夢女子というよりは、神の視点で推しを幸せにする、の感覚でプレイしていた。
姉であるならば、心変わりも身分差も、なにも関係ない。彼を愛で、育て、一生をかけて溺愛するというのがリリアの新たな人生の目標になったのだ。
「少なくともゲーム開始までは、エリクを独占できるっ……!」
リリアは馬車の中で、ぐっと拳を握りしめた。なぜならばリリアが婚約を結んだその日、ひっそりとエリクが引きとられ、屋根裏部屋に居候を始めるのだ。
「まあ……! あなたがエリクね!」
「は……はい、リリアお嬢様……」
帰宅直後、目を輝かせて駆け寄ってくるリリアに、エリクは怯えた表情を浮かべて後ずさった。
すでに正妻である公爵夫人からさんざんなじられ、ご機嫌斜めで帰ってきた姉にさらにいじめられる。そんな未来を予想していたエリクにとって、目をギラつかせ、頬を紅潮させながらにじりよってくるリリアは、想像よりも異質で恐ろしい存在に映ったのだ。
「リリアお姉様と呼んでちょうだい! これから姉としてあなたを全力で守るわ。一人前になるまで、何があっても私がついているから、恐れないでいいのよ!」
まるでヒーローがヒロインに誓うようなリリアの力強い言葉に、エリクに対して冷ややかだった周囲は静まり返った。父やエリクははもちろん、使用人たちさえ目を丸くする。
「え……?」
エリクの困惑した顔すら可愛いとリリアは思う。
「お姉ちゃん、でもいいわよ! むしろそう呼んで欲しいわ!」
「お、お姉ちゃん……?」
「そうよ、私とあなたは家族。二人で力を合わせて、明るいトゥルーエンドへ一直線よ!」
「は、はい、頑張ります」
リリアの圧力に、エリクは頷くしかなかった。
その日から、リリアのエリク溺愛生活が始まった。彼が読みたがりそうな本を先回りして買い、領地やパーティーに連れ出し、風邪を引けば甲斐甲斐しく看病し、怪我をしたら病院へ付き添う。周囲から見れば明らかに過保護だったが、リリアにとっては願ったり叶ったりの、まるで夢のような生活が続いた。
高慢ちきだったリリアが弟に対して愛情を注ぐさまに屋敷の人間は懐柔されてゆき、やがてエリクはどこに出しても恥ずかしくない公爵令息に、そしてリリアは慈愛の心に満ちあふれた公爵令嬢として、王都で名を馳せていった。……その過程で、リリアの傍らには大体「面談中」のアルトが居たのだが、リリアはあまり気に留めることがなかった、なぜならば「推し活」に忙しかったので。
「この前、エリクが討論大会で優勝しましたのよ。殿下もお聞きになりました?」
「聞いたよ。立派だったそうだね」
八年が過ぎても、リリアとアルトの「ビジネス婚約関係」は続いていた。二週間に一度の「面談」という名のお茶会では、リリアがエリクの自慢話を語るのが恒例だった。
アルトは苦笑しながらも、リリアの話に相鎚を打つ。顔合わせの最初の時にお互いに本音をぶちまけたのが良かったのか、リリアの精神年齢の高さ故か、周囲が驚くほどに二人は穏やかな友人関係を築いていた。
アルトはリリアと一緒にいる時だけ、王子の仮面を脱いで素の状態になれるのだと言ってはばからない。
そんな感想を述べられてもリリアからすれば「まあ、初対面で『君を愛することはない』って口にするような人ですから、それは最初からそうですよねえ」という身も蓋もない返事になってしまうのだが。
とにもかくにも、リリアは現状に満足していて、このまま日々が過ぎていくのを願うばかりだった。
──アルト様も時間稼ぎにつきあってくれたし、あとはヒロインが誰を選ぶか見極めて、私は姉エンドに突入する……。
リリアの笑顔に応じるアルトの目には、どこか複雑な光が宿っていることにリリアは気が付かない。
「……君は本当に、エリクのことが好きなんだな」
「ええ、もちろんです!」
リリアはより一層、花が咲くような笑顔を見せた。
「家族に対する愛情は、何ものにも代えられませんから!」
うっとりと語るリリアの顔を見て、アルトは胸がチクリと痛んだ。
リリアの元に義弟のエリクがやってきたのは、婚約を結んだ日と同時だと聞いている。婚約相手に愛するつもりはないと言い放たれて、屋敷に戻ると父が愛人に産ませた子がいて、実母が嘆き悲しんでいる。
その話を人づてに聞いて、頑固で融通がきかないことを自負しているアルトは、自分だったらとても家庭の空気に耐えられないだろうと思った。けれどリリアは弟を受け入れて、エリクが不当な扱いを受けることがないように、自ら矢面に立ったのだという。
アルトはそんなリリアを尊敬している。だから彼女と良き友人になることができたのだが──それはそれとして、リリアとエリクのことを昔はいい話だ、美しい姉弟愛だと思っていたのに、リリアが弟について熱く語るのを聞くと、最近はなぜだか無性に腹が立つのだった。
「そうか……」
アルトの生返事に、リリアは何かを思い出したようだった。
「ああ、そうだ。私、次の面談でアルト様にお話したいことがあったんです」
「なんだい」
リリアがアルトに話したいことがある。それはアルトにとって、リリアの意識がこちらに向けられていると認識出来る数少ない機会だった。
「私達の婚約、そろそろ破棄すべき時が近づいていると思うのですが」
「ええっ!?」
アルトが勢いよく立ち上がった拍子に、椅子が倒れた。
「エリクに留学話が持ち上がっていまして、私、それについていこうかと!」
リリアの言葉に、アルトは呆然とした。
──婚約を、破棄……?
「アルト様は、真実の愛は見つかりました?」
何気なく尋ねるリリアに、アルトはぎくりとした。彼女は昔の約束をまだ、覚えているのだった。
「い、いや……まだだ」
アルトは咄嗟に答えを濁し、手元のクッキーを口に運んだ。
「……このクッキー、変わった風味がするな」
「ああ、それは私が作ったものです」
リリアの何気ない言葉に、アルトは仰天した。
「君が!?」
アルトは甘い物が好きだった。真実の愛を探すかたわらで「好きな女子から手作りの菓子を貰う」というシチュエーションに憧れていたが、王子である自分にはそんなことは起きないと理解してもいた。
「ええ、エリクの誕生日に贈ろうと思って練習しているのです」
リリアが微笑むと、アルトの心臓が妙に跳ねた。自分と同じような立場であるはずのリリアは、手作りの贈り物のやりとりを、いとも簡単にこなしている。
「エリクのために……」
「ええ、最近は勉強に熱中していて、食事にも顔を出さないことがあって。クッキーなら勉強中でもつまめるでしょう?」
「僕は君から手作りの菓子なんて、もらったことがないな」
リリアが心のこもった贈り物をする相手は自分ではない。そう気が付いたアルトが苦しげに呟くと、リリアはきょとんとして答える。
「殿下に贈るなら、きちんとした既製品を送りますわ。──エリクは、特別です」
アルトはその言葉にショックを受けて固まった。さらに追い打ちをかけるようにリリアが続ける。
「殿下には完璧なものをお届けするべきだと考えています。私の練習作品では失礼ですから」
「……君は、僕を婚約者だとは思っていないんだな」
思わず零れたアルトの言葉に、リリアは首を傾げる。
「もちろん婚約者だと思っていますわ。ただ、それは形式的な関係でございますし」
リリアの無邪気な笑顔が、アルトにはどうしようもなく冷たく感じられた。
「君にとっては、エリクへの愛が真実の愛?」
アルトは今までになく、真剣な目でリリアを見つめた。そんなにも熱っぽい視線でアルトがリリアを見つめてくるのは初めてのことだ。
「アルト様……?」
「……帰るよ、公務があるから。じゃあまた、舞踏会で……」
「? はい。それでは。馬車までお送りしますね」
「いいよ。君は忙しいだろうから」
とぼとぼと歩くアルトの背中を見送って、リリアは首をかしげた。
「変な人……」
推しキャラの姉としての人生を満喫していたリリアは自分がゲームの世界の人間関係に割って入ることなど到底できないと考えていて、アルトの微妙な心の変化に気が付くことはなかった。
豪奢なシャンデリアが輝き、音楽の旋律が流れる舞踏会の会場では、華やかなドレスを身に纏った令嬢達が蝶のように舞い、そこかしこでキン、とシャンパンのグラスの乾杯の音が鳴り響いていた。
リリアはアルトに伴われ、舞踏会へとやってきていた。アルトとお揃いの濃い紫の衣装を身に纏ったリリアは、まさしく高貴な令嬢といったところだ。
リリアは華やかな場の雰囲気に溶け込むように、仕事用の微笑みを顔に貼り付けて、アルトに寄り添っていた。アルトがリリアの腰に手を回すのはいつものことだから、リリアは彼の距離がいつもより近くても、特に気にすることはなかった。
「……あれっ?」
普段ならば、形式的な挨拶を済ませた後、二人はそれぞれの社交へと向かう。だが今日は様子が違った。
アルトがいつまでもリリアの腰に手を添えたまま離れようとしなかったのだ。
──ああ、エリクがきちんとパーティーに馴染めているか、確認しないといけないのにっ!
「アルト様?」
リリアは控えめに小声で囁いた。
「なぜ離してくださらないのです?」
アルトはリリアをちらりと見た後、意図的に周囲を見渡すように目を走らせる。
「別に……もう少し、一緒にいてもいいだろう」
アルトの言葉に、リリアは驚きのあまり目を瞬かせた。
「ですが、アルト様には社交のお仕事がありますから、私が側にいると……」
「僕の知り合いは君の知り合いでもあるのだから、まとめて挨拶したほうが向こうも楽だろう。君こそ、婚約者の僕を差し置いて他の男性と話すほうが楽しいのか?」
アルトは軽く笑みを浮かべながらも、どこか本気とも取れる視線をリリアに向ける。
「いえ、そんなことはありません。ただ私は……エリクに群がる令嬢達に目を光らせるという非常に重要な使命が……」
──どっちみち、婚約破棄される身ですから王太子妃になることもないですしね? とはさすがのリリアも口には出せない。
「……先に時間をくれないか。少しだけ、君と二人きりで話したい」
アルトはリリアの腰を引いて、バルコニーへと向かった。バルコニーは薄暗いが親密な仲の婚約者同士のこと、咎めるものはいない。
「アルト様……?」
「ここなら静かだ。他人の視線を気にせずに話せる」
「……何をお話しされるつもりで?」
どうやら婚約破棄話の続きではなさそうだわとリリアが困惑する中、アルトは小さく深呼吸をしてから口を開いた。
「婚約破棄、したくない」
思いもよらなかった展開に、リリアは一瞬言葉を失った。驚きのあまり、すぐには返事が出てこない。
「……アルト様は真実の愛を探しておられたのでは?」
なんとか緊迫した場を和ませようと、冗談めかして言ってみた。しかしアルトは軽く首を振り、まっすぐリリアを見つめる。
──あ、まだ時間を稼ぎたいってことかしら。
「僕は……もう、真実の愛を見つけたんだ」
「なら、破棄してもいいのでは? 私、アルト様のことを応援します。長く一緒にいましたから、あなたが素敵な人だというのは分かっておりますし」
リリアはアルトの手を取って微笑んだ。アルトはその笑顔を見て、胸が苦しくなる。
「僕が間違っていたんだ。愚かな僕は、今、過去の自分を呪っている」
「……どうされたのです、アルト様」
「婚約破棄、したくないんだ……」
「わかりました、アルト様のお心が落ち着くまで待ちます」
「そういう意味じゃなくて!」
アルトがやっとの思いで出した声はかすれた。
「……君だよ、リリア。僕にとって君が真実の愛……」
その瞬間、リリアは世界が止まったような気さえした。ぽかんと口を開け、信じられないという表情でアルトを見つめる。
「……それ、本気でおっしゃっているのですか?」
リリアが恐る恐る問うと、アルトは真剣な顔のまま頷いた。
「そうだ。君の笑顔を見ると、どんなに忙しい日も心が軽くなる。僕にとって、君の存在は特別なんだ。たとえ僕が弟以下の存在だとしても婚約破棄したくないし、留学にも行かないでほしい……」
「……殿下、それは気の迷いです。真実の愛というのはもっとこう……熱烈で、互いに惹かれ合うもののはずです」
リリアは冷静さを保とうと必死だった。だって、自分は悪役令嬢なのだ。アルトといてどんなに楽しかったとしても、自分と結ばれることはない。
──だから、私たちはつなぎの婚約者だったはずなのに。
「人の気持ちは変わるものだろ」
アルトは一歩踏み出し、リリアの手をさらにしっかりと握りしめた。
「リリア、僕は君にそばにいてほしい。エリクには渡したくない」
「えっ、エリクは私の……弟ですよ?」
リリアは思わずツッコんだが、アルトは真顔で頷いた。
「でも、いつも君はエリクのことばかりだろう。君が彼に優しい笑顔を向けるのを、僕は隣でずっと見ていた。もう、それが我慢ならないんだ」
「アルト様、とにかく深呼吸をしてください。少し落ち着きましょう。もしかしたら、最近のご多忙が原因で、何か勘違いをされているのかもしれません」
そう言ってそっと手を引こうとしたリリアはアルトの手が震えているのに気が付いた。
──アルト様、本気なのね。
「情けないことに、君がいなくなるかもと考えただけで、僕はこんなに震えている」
──本当に。まるで雨の日に捨てられそうになっている子犬みたいだわ。
「君がいない人生なんて、僕にはもう考えられない。リリア、僕にチャンスをくれないか?」
アルトのまっすぐな視線に、リリアは頭が真っ白になった。最推しではないと言っても、別のアルトのことが嫌いなわけではない。
──でもでも、私は悪役令嬢で……けれどこの感じのアルト様がここから不誠実なことをするとは考えにくいし、ヒロインが現れたとしても別ルートだったとしたらアルト様は余ってしまうわけだし……。
「私……あの……」
リリアはなんとか言葉を紡ぎ出そうとするが、急な心が定まらない。
「僕を拒絶しても構わない。でも、それでも僕は君を想い続ける。だから、少しだけ僕に期待してほしい。僕も……君の家族になれるように努力する」
──『アルト王子』は私の推しじゃない……推しじゃないはずなのに……!
──なんか、かわいいかも。
子犬のような目ですがられると、リリアの「年下男子萌え」の心が疼いて、どんどんアルトが可愛く見えてくる。
「リリア……」
「け、けけけ、検討します……!」
リリアはそれだけ言って、すがってくるアルトを置き去りにして屋敷に逃げ帰った。速攻でドレスを脱ぎ捨てて布団に潜り込み、火照った頬をシーツで冷やす。
──アルト様が、私を好き? これからどうしよう……!
「や、やあ……リリア。本日も良いお日柄で……」
次の『面談』の日、リリアは少し緊張していたのだが、やってきたアルトが今までに見たこともないほどにガチガチだったので、爆笑して緊張が吹き飛んでしまった。
「どうしたのです、アルト様。あなたらしくもない。もっと堂々となさったら?」
「う……何か、こう、態度を改めるべきかと思って」
どうやら、アルトは今までのぞんざいな友達同士のような態度をあらためて、リリアに『推し』てもらえるように、エリクのように丁寧に振る舞うようにしたらしい。
──アルト様も結構、いじらしいところがあるのよねー。
自分の気持ちを自覚してオロオロと動揺しているアルトをよそに、リリアは落ち着き払って紅茶を飲んでいる。布団の中で散々考えた結果、自分は貴族令嬢なのだからなるようにしかならないのだと開き直ったからだ。
「この……このクッキーは、リリアが作ったのかい」
アルトは落ち着きなく、指でつまんだクッキーを表にしたり、裏にしたりとくるくると回している。
「ええ。この前、お気に召したようでしたので」
「エリクの残りではなく?」
「私にだって、婚約者に気を遣うぐらいの分別はあります」
「そうか……ありがとう」
アルトは納得したのか、神妙な面持ちでクッキーをかじり始めた。
「……ところでリリア。今後、面談の回数を増やしたいのだけれど」
「それではご公務が滞ってしまいませんか?」
「では、これから一緒に公務に参加するというのはどうかな」
「構いませんけれど……」
今まで適切な距離を保っていた二人が、一緒に公務を行う。それは婚約破棄ではなく、リリアとアルトがが婚約のその先に進む決意を固めたことになる。
リリアはアルトの性格をよく分かっている。目標を定めたら、そこまで一直線。
──彼の目標は、私に絞られてしまったということ。
リリアは承諾を得て嬉しそうに語り出すアルトへの返事に困りつつも、つい笑みを浮かべてしまった。
「真実の愛かはわかりませんが……アルト様も、これからの私に期待してくださって、よろしいですよ」
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