焦土の校庭、真紅の空
リオンの視界に映るのは、校庭に広がる地獄絵図だった。撃墜されたヘリコプターの残骸が燃え上がり、無数の死体が灰の中で朽ちていく。爆発に巻き込まれた生徒たちの叫びが耳をつんざく。荒れ狂う火の手に囲まれ、リオンは恐怖と怒りの狭間で叫んだ。
「うああああ!!!」
コックピット内で操縦桿を握りしめたリオンの叫びをかき消すように、通信が入る。
「聞こえるか、ヴィマナのパイロット」
冷たい声がスピーカーから響き渡る。どこか貴族的な威圧感を帯びたその声に、リオンは咄嗟に顔を上げた。
「私は、ヴェルデ共和国軍大佐ユリウス・ヴァレンティン。これより返答次第で攻撃を開始する」
その言葉で、リオンはわずかながら正気を取り戻した。震える手で通信のスイッチを押し返す。
「ヴェルデ共和国……?」
「そうだ」相手の声が続く。「目の前の赤い戦闘機にいるパイロットが私だ……その声、随分若いな」
通信を通して聞き取れるリオンの声に、ユリウスは冷酷な笑みを浮かべる。
「アンタが、これをやったのか?」
「そうだ」
ユリウスの返答は淡々としていた。
「だが、これは必然だ。この場にいる者たちは皆、背負わされた運命がある。改造人間……すなわちネオ・ヒューマン。いてはいけない存在なのだよ」
「俺たちが改造人間……だと?」
リオンの声が震えた。その衝撃的な事実を受け止めきれず、頭が真っ白になる。
ユリウスの声は冷酷さを増していく。
「君は此処の生徒か!?どうやら知らなかったようだな。悪かった……だが、これが現実。運命を受け入ろ」
その瞬間、ユリウスの赤い戦闘機から放たれたレーザーがヴィマナに直撃する。しかし、ヴィマナはまるで何事もなかったかのようにその攻撃を弾いた。反射されたレーザーがフリーデン市街を直撃し、次々と建物を破壊していく。
「レーザーを弾くだと!?」
「やめろ……やめろよ!!」
リオンは怒りと恐怖に駆られ、操縦桿を力任せに引きユリウスの機体へと突撃する。
赤い戦闘機とヴィマナの間でミサイル、フレア、レーザーが交錯する。復興の象徴だった街並みが次々と崩れ落ち、人々の悲鳴が戦火にかき消されていく。リオンの心は引き裂かれた。自分の行動がさらなる悲劇を生んでいる。だが、戦わなければならない──そんな矛盾が彼の胸を締め付ける。
「いいのかな?」
ユリウスの声が通信越しに響く。
「このまま続ければ君の大切な者たちが危険に晒されるが。」
「何だと!?」
リオンは驚愕し、コックピットのスクリーンに目を向ける。
そこには、校庭で漆黒のコートを纏った黒髪の男が拳銃をカミラに向けている映像が映し出されていた。
「卑怯だ!!」リオンは怒りに震えた。
「これが戦争だ」ユリウスの声は冷酷だった。
「何て汚い……それが大人のすることか!!」
「綺麗事では何も変わらない」
リオンは操縦桿を静かに放した。戦闘を続けるわけにはいかない。彼はコックピットを開け、両手を挙げて地上に降り立つ。
地上では、ヴェルデ共和国の援軍が到着し、アジアン・コモンウェルス連合国の兵士たちも次々に降伏していった。
真紅の戦闘機が校庭に着陸し、そのコックピットから一人の男が降りてきた。金髪碧眼の長身の男──ユリウス・ヴァレンティン。その完璧に整った容姿に、冷酷さと威厳が滲み出ている。
「ユリウス・ヴァレンティン!」リオンは男を睨みつけた。
それを見て、ユリウスは冷笑を浮かべる。その横には先程カミラを脅していた黒髪の男が歩み寄る。
「やはり、この高校は改造人間を教育する施設だったようですね」男──カイルが呟く。
「ティアティラの遺産は見つかったか?」ユリウスが問いかける。
「それはまだ捜査中です。」カイルは淡々と答える。
リオンは怒りと悲しみで握り拳を震わせながら、再び叫ぶ。
「お前の名前は覚えておくぞ!!」