国際議会の混乱
ニューヨークにそびえる国際連合本部の巨大な議会ホール。ここで、若手政治家アナスタシア・グレイフは演壇に立ち、熱意を込めて演説をしていた。彼女は肩までのプラチナブロンドの髪を揺らしながら、透き通るような青い瞳で議員たちを見渡す。その声には若さ特有の力強さがあり、それでいて論理的な冷静さも併せ持っている。
「我々が目を背けている間に、IRO(国際復興機構)は軍備拡張を続け、各国間の緊張を引き起こしています。それが何を意味するか、皆さんにご理解いただきたいのです。これは、過去の過ちを繰り返す第一歩に他なりません!」
ホール内の議員たちは互いに小声でささやき合い、表情を曇らせている。その一方で、耳打ちをする秘書や随行者たちが次々と現れ始めた。しばらくして、各国代表たちが一人、また一人と席を立ち始める。
「アナスタシア議員、申し訳ないが、急ぎの用件が入ったので退出させてもらうよ」
「また後日議論しよう。失礼する」
アナスタシアは一瞬困惑した表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻し、彼らの背中を見送った。
彼女の胸中には、再び大国間の不穏な動きが始まっているという不安が膨らんでいた。
一方その頃、復興都市フリーデンの近海では、アジアン・コモンウェルス連合国家とヴェルデ共和国の艦隊が激しく睨み合っていた。
ヴェルデ共和国の空母「ヴァルハラ」では、甲板を歩くユリウス・ヴァレンティンの姿があった。金髪碧眼の彼は、高身長で筋骨隆々とした体躯を持ち、その背筋には確固たる威厳が宿っている。
「ユリウス様、どうか危険な場所に出られるのはお控えください!」
若い軍人が懇願するが、彼は手を軽く振るだけで応じない。
「此処までの航海、感謝する。カイル、準備はいいか?」
彼の傍らには、カイルが控えていた。カイルは尊敬の念を込めた声で応じる。
「もちろんです、ユリウス様」
二人はそれぞれの戦闘機に乗り込む。赤い戦闘機のユリウスと、黒い戦闘機のカイル。そのエンジン音が低く唸りを上げ、彼らの後を追うように数機の戦闘機が飛び立つ。
フリーデン国際高等学校では、体育の授業中だった。校庭ではサッカーに興じる生徒たちが歓声を上げている。その中にリオン・アーケインの姿があった。茶髪を揺らしながら駆け回る彼の姿は、どこか穏やかで平和そのものだった。
だが、その平和は突然の異変によって打ち破られる。頭上を覆う影、轟音を立てて降り立つアジアン・コモンウェルス連合国の軍用ヘリコプター。その後部ドアが開き、武装した兵士たちがぞろぞろと校庭に降り立った。
「アンタ達は、一体!?」
屈強な体育教師が彼らの前に立ちはだかる。
しかし、軍司令官と思しき人物は冷徹な声で言い放った。
「此処は包囲された。おとなしくしていろ」
その言葉を聞き、生徒たちが一斉に怯えた表情を浮かべる。カミラ・フレッドはリオンの背中に隠れるように震えた。
「リオン、怖い……」
「大丈夫だよ」
リオンは彼女の手を握り、静かに言った。
「もし殺しが目的なら、もっと違うやり方をしているはずだ」
しかし、事態はさらに緊迫する。遠方から響く鋭い音。空に突如現れた赤い戦闘機が、連合軍のヘリコプターを正確に捉えた。
コックピット内で、ユリウスは冷笑を浮かべながらトリガーを引いた。
「荒事は嫌いなんだが、どうも避けられんようだな」
閃光と共に放たれたレーザーがヘリコプターを貫き、爆発が校庭全体を震わせる。爆風に驚き、リオンはカミラを守るように抱きしめ、地面に伏せた。
「一体何が……」
リオンの瞳に映るのは、荒れ狂う空と、迫り来る戦火の影だった。